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キミのタマはボクのモノ 巻の二  作者: しかも・かくの
第一章 由々しき病と麻太智の試練について
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第三回

 馴染みのある声に、麻太智は足を止めて振り返った。

 通用門が大きく開き、飛び出すようにして現れたのは狩衣(かりぎぬ)を着た若い女である。

「せっかく……お越しいただいたというのに……ご無礼を……致しまして……」

 両手を膝に置き、大きく息を切らせている。どうやらここまで走ってきたらしい。

「顕光殿か」

 麻太智は無礼にならないよう用心しつつ相手の様子を観察する。頭に冠は乗せておらず、髪の結い上げが乱れて幾筋か頬に垂れている。普段に比べて少しやつれてもいるようだ。目の下が黒ずんでいるところからすると、十分に眠れていないのかもしれない。

「失敬、どうも立て込んでいるようだ。ご家人(けにん)からもそのように伺いました。そちらの都合の良い時にまた出直すことにします」

 麻太智は辞去しようとしたが、顕光は慌てたように引き留める。

「いえ、どうぞお上がりになってください。実はちょうどご相談させていただきたかったところなのです。どうかこの通りです」

 深々と低頭する。その後ろでは、先程の下人が苦いような困ったような複雑な表情を浮かべていた。具体的なことは分らないが、なかなかに厄介な状況になっていると察せられた。

「顕光殿、頭を上げてください」

 麻太智は意識して語調を和らげた。顕光がすがるような目を向ける。

「もともとこちらが参上したのです。ご迷惑でなければお邪魔させてもらいます」

「ありがとうございます! もう私には頼れる相手があなた様しか……」

 瞳を潤ませた顕光は、麻太智に身を預けようとするかのごとく擦り寄ってきた。麻太智はさすがに鼻白む。だが強いてたしなめるまでもなく、触れる寸前で顕光は我に返ったらしい。半ば仰け反るようにして停止した。

「いや、これはその……」

「では顕光殿、案内を頼みます」

 狼狽した顕光が赤面するのには気付かない振りをして、麻太智は謹直な表情を作り、一歩距離を取った。

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