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07F ダンジョン始動

 



 どうしてこうなった。


 ただひたすらにそんなことを考えながら、俺は混沌の坩堝と化した画面から目を逸らす。

 そしてそのまま視線を下に向けると、そこには満面の笑みで腰に抱き着いてきているケモミミ少女の姿があった。


「えへへぇ~! ますたぁ、ますたぁ、ますたぁ~」


 妙に舌足らずな口調で俺を呼ぶ彼女。その様子は無邪気そのもので、見ているだけでもほっこりと心が温まるようである。


 ――――可愛い。


「……じゃないっ! どうすんだこれ!?」


 思わず頭を抱えながら、俺はその場でしゃがみ込む。ダンジョンは託児所じゃないんだぞ!?


 まず間違いなく、俺はヴィントヴォルフを召喚したはずだ。

 それはダンジョンを防衛するための戦力を期待してのことで、決して愛玩用として欲していたわけではない。


 …………いや、まあ、うん。

 まったくその気がなかったと聞かれれば、ちょことだけ違うかもしれないけどさ。


 とにかく、こんな割合で言えば八割以上が人間とそっくりな子供が現れるなんて、想定外もいいところなのである。


 ひとまず、他のダンジョンコアたちに相談して推測できたことは大まかに三つ。


 ・この少女は『特異個体』と呼ばれる魔物である。

 ・召喚の際、一定の確率で初期所持スキル以外のスキルを持つ魔物が召喚できる。

 ・おそらく彼女は、同じく極低確率で召喚できるレアキャラである。


 他にも称号やら色々と気になる点はあるものの、とりあえず彼女が現れたのはダンジョンの不具合ではないことが分かっただけでも朗報だ。

 ダンジョンコアとはつまり俺そのものなので、システムに欠陥があった場合、俺にも何かしらの不都合があるかもしれないからだ。恐ろしいったらありゃしない。


「しかし、やっぱり少し不親切すぎるよな。もう少し神様とやらも、俺たちダンジョンコアを優遇してくれてもいいと思うんだが……」


 ダンジョンを作るため、必要最低限の知識は確かに俺に備わっている。頭の中に辞書を詰め込まれたような感覚で、すぐに必要な項目を引き出せるわけではないのが不便と言えば不便だが。

 けれど、それはやはり『必要最低限』でしかなく、システム面ではまだ把握しきれていないことも多い。


 称号然り、属性然り、系統然り。しばらくはどのダンジョンコアも手探りでの運営が続くだろう。

 問題は、それまでにこちらの方が狩られるかもしれないという事なのだが……。

 そう考えると交流板という形であれ、他者と情報を交換し合える手段がある事が、俺たちにとって一番の幸運なのかもしれなかった。


 既に俺も色々と助けられた身である分、他の人の手助けをしなければなるまい。


「――っと、そうだ。この子のステータスも確かめないと」


 ヴィントヴォルフとしての能力値は召喚時に確認していたが、今も俺に抱き着いてきているこの少女は特異個体らしい。

 通常個体と能力面で差がある事も、十分に考えられる。


 俺は管理画面に新しく出現していた『魔物管理』の項目を開き、彼女の能力に目を通した。



―――――――――――――――

個体名称:未定

種族:ウェアウルフ幼体(モデル・ヴィントヴォルフ)

Lv:1/35


所持スキル:

【未成熟Lv10】【身体能力強化Lv1】【嗅覚強化Lv1】

【爪牙Lv1】【疾走Lv1】【風魔法Lv1】

【咆哮Lv1】【威圧Lv1】【暗視Lv1】


備考:

狼型の魔物の特異個体、ウェアウルフの幼体。

より人間に近い姿を持つに至った魔物であり、人間が作った道具すら扱う知能を持つ。

狼型の長所であった索敵・追跡能力はそのままに、より獰猛に獲物を攻め立てる攻撃性を獲得した。

しかし、その代償として同族間の連携能力を失っている。

元となった種族によって個体間の能力には若干の差異がある。

―――――――――――――――



「……うわ幼女強い」


 思わず画面を二度見してから呟いた。


 おかしい。何がおかしいって、こんな可愛らしい姿なのにスキル所持数が明らかに元となったヴィントヴォルフを上回っていることだ。レベル上限も上昇している。

 しかも、これで幼体だというのだ。成長して成体になれば、当然これ以上の能力を獲得するだろう。


 惜しむべきは、ヴィントヴォルフが有していた【連携】と【統率】が消えている事だろうか。まあ、プラマイで言えば間違いなくプラスだろうが。

 きっと彼女は将来、頼もしい守護者(ガーディアン)としてダンジョンに君臨してくれるだろう。


 俺が期待を込めつつウェアウルフの少女に視線を送ると、彼女も見られていることに気づいたのだろう。俺の顔を見返しながら、にぱぁっと向日葵のように笑う。


 ――――可愛い。


 衝動的にその笑顔をスクショで保存しつつ、ついでに先程のステータス画面の記録と一緒に交流板へと載せておいた。

 結果、何だか今まで以上にスレが阿鼻叫喚の模様を醸し出し始めたが、俺の知ったことではない。


 可愛いは正義。これは絶対不変の理なのだ。


「とは言え、この子だけにダンジョンの防衛を任せるわけにはいかないからな……」


 いくら高い能力を有していようとも、たった一体の魔物に……それもまだ完全に成長しきっていない幼体に頼り切りになるわけにはいかない。


 俺は改めて召喚画面を呼び出し、ウルフとホークを五十体ずつ、モールを二十体、そして新たにヴィントヴォルフを二体召喚する。


《【要求確認】合計で3500ポイントの魔力を消費、残りは2800ポイントになります》


 相変わらずのどこか無機質な人工音声が響いた後、今度は俺の目の前とは言わず、周囲一帯で眩い光が溢れだす。

 それが収まった時、俺の視界は多くの魔獣型の魔物で溢れかえっていた。


「っ、ますたぁ! ますたぁ!」


 その光景を目にした途端、ウェアウルフの少女の瞳が輝きだす。何かをせがむように俺の服を掴み、ピョンピョンとその場で飛び跳ねた。可愛い。

 大方、自分と同じ魔獣型の仲間が出来てはしゃいでいるのだろう。


 俺が背中を押すようにして魔物の集団に送り出すと、彼女は脇目もふらずに駆け出し……って、予想以上に速ぇっ!?

 やはりあのような見た目でも、その本質は魔物という事か。

 地球の陸上選手(アスリート)顔負けな速度で同じ狼型の魔物と戯れ始めた少女に、俺は内心でかなり驚愕しつつ、同時にホークとモールの能力を確認する。



―――――――――――――――

名称:ホーク

Lv:―/10

召喚魔力:20P


初期所持スキル:

【奇襲Lv―】【遠視Lv―】


備考:

鷲型の魔物で、魔獣種の中では最下位に属する。

高い視力を有し、空中位置からの索敵と強襲を得意とする。ただし暗視能力は持ち合わせていないので、夜間時の探索能力は半減。

基本的な能力値は、他の下位の魔物の中でも低い方である。打たれ弱い。

―――――――――――――――



―――――――――――――――

名称:モール

Lv:―/10

召喚魔力:25P


初期所持スキル:

【掘削Lv―】【振動探知Lv―】


備考:

モグラ型の魔物で、魔獣種の中では最下位に属する。

全長は約五十センチほどで、前足に生えた鋭い爪で地面の中を掘り進む。

視力は退化しており、地中を伝わる振動で周囲の状況を把握する。

他の魔物ではできない運用法が期待できるが、反面で個体としての能力値は低い。

―――――――――――――――



「……ふむ。やっぱり能力的には、ヴィントヴォルフとウェアウルフが飛び抜けてるみたいだな」


 ウルフ、ホーク、モールの画面と、別枠で開いたヴィントヴォルフらの画面を交互に見比べながら、俺は顎に指を添えながら考える。

 召喚に必要な魔力が飛び抜けているだけはある、という事だろうか。

 スキル所持数も、レベル上限も、そしておそらくは数値化されていない全体的な能力値も、前の三種を大きく引き離しているいると見るべきだ。


 なお、可能性だけは考えたのだが、一度召喚に成功したからと言って、ウェアウルフは召喚の選択肢に反映されていなかった。

 やはりアレは偶発的なものと考えるのが自然だろう。今回は一度に百匹以上召喚してみたが、特異個体は混じっていないようだし。

 それほど甘い話はないという事だ。


「えーと、他にも必要なのは……ああ、俺が住む家だな」


 基本的に、ダンジョンコアは人間と同じ姿をしているが、その中身は全くの別物だ。

 無理に食事をとる必要はないし、何日だって眠らず活動できる。病気にもかからないらしい。あくまで俺の中での知識によると、だが。


 ただし、それは別に食事や睡眠が不要なわけではない。

 むしろ肉体(そとがわ)が変化しようと精神(なかみ)は同じなので、人間と同じような生活をしていた方が精神衛生的には好ましいとさえ言える。


 加えて、ダンジョンコアや支配下の魔物たちの食事や睡眠時間が不足した場合、体調を維持するために魔力が自動で消費される。

 いくら何でも不眠不休で活動できるほど、魔物もダンジョンコアも生物の枠組みから逸脱していないという事だろう。

 衣食住は生きるための基本なのです。


 自分の体躯よりも遥かに大きなヴィントヴォルフと、それにじゃれつくようにして遊んでいるウェアウルフの少女。

 事情を知らない者が見れば失神してしまいそうな光景を傍目に、俺はメニューの構造変更から建造物の一覧を呼び出した。

 それらをざっと流し読みしてから、俺は800ポイントで小さな一軒のログハウスを購入、この場に設置する。


《【要求承認】魔力を800ポイント消費、残りは2000ポイントになります》


 直後、魔物を召喚する際と似たような発光と共に、ズンッと重々しい音が辺りに響く。

 僅かに舞い上がった土煙が晴れると、そこには手品か何かのように丸太を組み合わせて建てられた小屋が出来上がっていた。


「まっ、最初はこの辺りからで十分だろ」


 ログハウスに近寄り、コンコンと拳で強度を確かめるように壁を叩きながら、俺は満足げに一つ頷く。

 実を言えば購入したのは建物だけで、中はまだ空っぽなわけだが……そちらは追々揃えていけばいい。


 ようやく『らしくなってきた』ダンジョン作りに、俺は気づけば口端を持ち上げているのだった。



 

 

 コハクの消費魔力一覧

・ダンジョン領域拡張――3000P

・ウェアウルフ召喚――500P

・ヴィントヴォルフ召喚×2――1000P

・ウルフ召喚×50――1000P

・ホーク召喚×50――1000P

・モール召喚×20――500P

・ログハウス購入――800P

・その他様々な生活雑貨購入――750P




・少女向け衣服購入(ウェアウルフの少女用)――200P

 

計――8750P

残量――1250P


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