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05F 初召喚は混沌に

 



 さて。

 今更ではあるが、この辺りで俺たちダンジョンコアが滅ぼすべき世界について振り返っておこうと思う。


 この世界の識別名は、第13307番世界。まあ、これは管理者である神視点での名称なので、現地の住人には『テュランディーグ』と呼ばれている。うん、言い辛いな。

 識別名からも察せられるように、万を軽々と超える数がある世界群の中では比較的オーソドックスらしく、剣と魔法が主流のファンタジー風味溢れる世界……らしい。


 もっとも、俺たちダンジョンコアが送られてきたことからもわかる通り、この世界では何千年も前から文化や技術の発展が停滞している。

 大方、繰り返される国家間の戦争や、便利な魔法という裏技が存在することが原因なのだろう。ご愁傷さまとだけ言っておく。


 なお、このテュランディーグは驚くべきことに、俺が生前に学んできた『世界には宇宙があって~惑星があって~』という構造をしていない。

 何という事か、テュランディーグの海と大地は巨大なお盆の上に乗っており、世界の端と言うものが存在しているのだ。


 ほら、あれだ。大昔の地球でもあった、大陸は巨大な亀と象に支えられているとかいう世界観が、この世界ではそのまま現実に適応されているのである。

 ちなみに、世界の端は巨大な滝になっており、その下には虚無が広がっている。

 そこから落ちた物は問答無用で分解消滅し、魔力となって世界内で循環しているようだ。何というファンタジー設定……あ、ここファンタジー世界でしたね。うっかり。


「まあ、それはともかく。どこにダンジョンを構えるかなー」


 俺は仮想ディスプレイにテュランディーグの世界地図を表示させながら、条件の良さそうな土地を探していく。


 ダンジョンを設置するにあたって、まず気にしなければならないのは『獲物(ヒト)がどれほど訪れるか』という一点である。

 俺たちの使命が魔力を回収することであり、そのためには生命の殺害が最も効率的な以上、ダンジョンへの侵入者の数はそのまま結果に直結する。


 かと言って、じゃあ大都市の真下にダンジョンを作ればいいのかと聞かれれば、そういう訳にもいかないだろう。

 そんな場所にダンジョンを作りでもしたら、当日の内に大軍が押し寄せてきて詰むのは目に見えている。


 ほどよく人が多く訪れて、なるべく強い者がいなさそうなで、かつ召喚できる魔物たちの能力が生かせる立地……。

 うん。普通に難しいぞ、これ。

 かといって、なるべく妥協はしたくない。中途半端な場所にダンジョンを作って、来世が昆虫以下なんて後悔してもしきれないからな。


 表示された地図を拡大したり縮小したりしながら、ああでもないこうでもないと俺は画面と睨めっこを続ける。

 時折、中々に好条件な場所も見つかるのだが、大抵は既に他のダンジョンコアによって押さえられていた。


 行動が早いと言うか、手が早いと言うか。どうやら俺が交流板を覗いていた間に、何名かのダンジョンコアは先んじて土地の方を確保していたようだ。

 『巧遅は拙速に如かず』とはよく言うが、この場合は『拙遅は巧速に如かず』とでも表現すべきかもしれない。


 ちなみに何故か一名、海のど真ん中に『庭園型』のダンジョンを作っていた人もいたのだが……訳が分からないよ。

 そんな人の訪れなさそうな場所に拠点を構えて、一体どうしたいのだろうか。ちょっと理解できませんねぇ。






「――……うん、この辺りが良いかな」


 そんなわけで、それからおおよそ一時間ほど難題と格闘した後。

 ようやく満足のいく土地を見つけた俺は、ダンジョンの管理画面から操作を行う。


《【要求承認】ダンジョンの設置場所を決定します》

《【警告】ダンジョン設置場所は一度決定した場合、二度と変更が出来ません》

《【確認】ダンジョン設置場所を決定しますか?》


 最初こそ違和感があったものの、早くも慣れ始めた人工音声を聞き流しながら、俺は警告画面を飛ばして確定操作を続行した。

 途端、俺以外は何も存在しなかった純白の大部屋はグニャリと歪み、景観を変え――

 次の瞬間、俺は鬱蒼と広がる森林地帯に立っていた。


「おー……頭ではわかっていても、こうして体験してみるとまた違った感慨があるな」


 思わず俺は感嘆の声をあげながら、大人が二人がかりでも囲いきれないほどの太さの幹を誇る樹々が乱立する周囲を見渡す。

 どうやら、無事にダンジョン空間と世界の同調が完了したようである。


 ここはこの世界に三つある内、やや南寄りに位置する大陸の更に南端に位置する樹海だ。現地の人には『クレビュート森林』と呼ばれている。

 東は山脈、南は海岸、西は平原、北は中規模の街に四方を囲まれており、面積だけで判断すればもっと大きな森は世界と言わず、同じ大陸中にいくらでもあった。


 ならば何故、俺がここをダンジョンとして選んだのか。

 それはこの森では年中温暖な気候ゆえか、貴重な傷薬の原料となる薬草が自生しているからである。

 ゆえに北の街からは、薬草目当てに人が定期的に訪れてくる。

 というより、元々は薬草目当てに集まった薬師や商人が定住し、時間と共に大きくなったのが(くだん)の街である、と表現した方が正確だろう。


 今では専門の採集職人の集団まであり、彼らが森から採ってきた薬草から作られた傷薬が、街の収入の大部分を占めるまでになっているようだ。

 当然、俺の狙いは彼ら採集職人である。

 いくら危険のある森に分け入るとはいえ、彼らは戦闘を本職としている者ではない。最低限の護身術は心得ているだろうが、国に仕える騎士やらなんやらを相手取るよりははるかにマシだ。


 ダンジョン形式も決め、拠点とする土地も確定した。

 さて、それでは次は――


「それじゃあいよいよ、魔物の召喚にいっちゃおうかな!」


 やはり樹海と言うだけあって、ムシムシと湿度の高い空気に額の汗を拭いつつも、俺は内心では興奮しながらそう呟いた。

 やはりダンジョンと言えばモンスター。その言葉はいつだって、男心をくすぐるのである。


 はやる心を抑えつつ、いそいそと仮想ディスプレイを召喚画面へと切り替える。

 そこに並んでいるのは交流板を覗いていた時と同じく、ウルフとホーク、そしてモールとヴィントヴォルフの解説文だった。


 試しにウルフの項目を開いてみた結果が、これ。



―――――――――――――――

名称:ウルフ

Lv:―/10

召喚魔力:20P


初期所持スキル:

【連携Lv―】【嗅覚強化Lv―】【爪牙Lv―】


備考:

狼型の魔物であり、魔獣種の中では最下位。

体長は一メートル半ほどで、鋭い牙と爪を有する。

索敵、追跡能力に優れ、同族間での連携にも長けているが、単体での戦闘能力はさほど高くない。

―――――――――――――――



 ……やっぱりゲーム画面じゃないですかー、との指摘は胸の内で留めておく。

 必要なのは、ダンジョンの防衛のための戦力。それを満たしてくれるなら、形式にはこだわらないのが俺と言う男だ。分かりやすければ文句はない。


 課程よりも結果。これ重要な?


 しかし、今回の目玉はウルフではないのだ。

 俺は画面を切り替えて、今度はヴィントヴォルフの召喚画面を開いた。



―――――――――――――――

名称:ヴィントヴォルフ

Lv:―/25

召喚魔力:500P


初期保有スキル:

【連携Lv―】【嗅覚強化Lv―】【爪牙Lv―】

【疾走Lv―】【風魔法Lv―】【咆哮Lv―】【統率Lv―】


備考:

狼型の魔物であり、魔獣種の中では中位に属する。

体長は二~三メートルで、通常のウルフより一回りほど大きい。

その白色の毛皮には愛好家が存在するほど。

風の加護を得たウルフの変異種とも言われ、全体的な能力はウルフと比べて一段か二段上。風属性の魔法を操る知性も併せ持ち、下位の狼型の魔物を統率する能力を有する。

―――――――――――――――



 やはり高い! しかし強い!

 説明欄の文章から察するに、ヴィントヴォルフはウルフの強化種と考えてもいいだろう。

 召喚時の必要魔力は二十五倍とかなり重いが、それだけに戦力としても期待できると言うものだ。

 量産型も素敵で合理的だけど、専用機には夢とロマンがあるのです。異論は認めません。


 くふ、くふふふっ。

 おっと、いけない。思わず変な笑い声が。


「ヴィントヴォルフを召喚、まずは様子見で一体」

《【要求承認】500ポイントの魔力を消費、残りは6500ポイントになります》


 俺の要請に従い、人工音声によるナビゲートが入る。

 同時に俺の目の前の地面に光の線が幾重にも走り、最終的には幾何学的な模様が組み合わさってできた円が浮かび上がった。

 眩いばかりの輝きを放つ召喚陣は、やがてひと際大きな光輝を残し、宙に溶けるように静かに散っていく。


 そして、その後に光の中から現れたのは――






 一糸纏わぬ全裸の少女でした。


「――――……………………へ?」


 ピシリ――ッ、と。

 まるでガラスにヒビが入ったような、硬質な音がどこからか聞こえてきた気がした。

 勿論それは幻聴で、俺の勘違いである。

 だけど、今の俺の胸中をこれほどまで正確に表した表現も他にあるまい。


 空気が、凍りつく。


 多分、歳はまだ一桁台……小学校低学年くらいしかないと思う。

 背丈は俺の胸よりも下で、全体的に華奢で痩躯だ。腕も足も握り込めば折れてしまうほどに細い。

 ただ、それは肉付きが薄いというわけではなく、むしろ引き締まっているような印象を受けた。子供特有の処女雪のように白くて柔らかそうな肌の下には、女豹のようなしなやかさが隠れているように見える。

 腰まで伸びた髪は星屑のような銀色。降り注ぐ木漏れ日を浴びて、宝石を砕いて散りばめたように煌めいている。


 そして何より特徴的だったのは、少女の頭と臀部から飛び出た、髪と同色の獣の耳と尻尾だ。

 形的には、猫よりも犬に近いだろう。その毛並みは、思わず指を絡めたくなるほどに美しい。


 時が止まったかと錯覚するような空間の中で、ゆっくりと、少女は俯けていた顔をあげる。

 その幼い容貌は人形のように整っており、まるで造形物のようだとさえ思った。見開いた瞳は綺麗な琥珀色(アンバー)で、まるで吸い込まれ様なほどに澄んでいる。


 ぽつり、と。彼女は口を開く。

 無垢な瞳で俺を見つめながら、何かを確かめるように舌足らずな口調で、その言葉を呟いた。


「ます、たぁ……?」


 ……これは一体、どういうことだってばよ。





《【報告】特異個体の召喚に成功しました》

《【報告】条件を満たしたことにより、称号【激運】を獲得しました》

《【報告】条件を満たしたことにより、称号【特異個体の召喚者】を獲得しました》



 


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