04F ダンジョン形式決定
「おぅ……何という事だ」
自分が特別なのかと密かに優越感に浸っていたら、まさかの後出しでトンデモナイ奴が来たでござる。
「いや、まあ。別に自慢しようとか思ってたわけじゃないんだけどさ」
ポリポリと頬を指で掻きながら、俺は気分を切り替えるように息を吐く。
ひとまず、他のダンジョンコアと最低限の交流は持てたというべきだろう。いくつか有用な情報も入手できたし、当初の予定通りだ。何の問題もない。
「とりあえず、ボチボチ殺風景なこの場所から変えていくべきか」
グッと背筋を伸ばしながら、俺は管理メニューから構造変化の画面を呼び出す。
現在、俺がいるこの真っ白な空間は、初期ダンジョンのデフォルト状態だ。
これに様々な要素を付け加えていって、自分だけのオリジナルの迷宮を作り上げることが、ダンジョンマスターとして俺に与えられた力の一部である。
なお、現段階でこのダンジョンは外界……つまりは俺が滅ぼすべき世界と接続されていない。いわば一種の小さな亜空間になっている。
しかるべき準備を整えた後、ダンジョンコアである俺の許可を得て初めて、このダンジョンという名の災厄の種は世界に芽吹くのだ。
「ふむ……それじゃあ、まずはダンジョン形式の決定からかな?」
《【要求承認】ダンジョン形式の設定を行います》
《【警告】ダンジョン形式は一度設定した場合、二度と変更できません》
俺が要望を口にすると同時に、脳内で人工音声のナビゲートが入る。
また、自動で目の前に浮かべていたディスプレイが切り替わり、幾つかの選択肢が表示された。
「えーっと、ダンジョンの形式は四つあるのか」
選択肢に表示されたのは、『洞窟型』、『庭園型』、『塔型』、『亜空間型』の四つである。
説明欄を読むと、『洞窟型』とは主に地下へと階層を掘り下げていくタイプのダンジョンで、逆に『塔型』は真上へと階層を積み上げていくダンジョン。
『庭園型』は支配領域を水平方向に拡張するダンジョンで、これら三つは方向性こそ違えど既存の環境を元に作り上げる点では同じだ。
まあ、それぞれ『下』と『上』と『横』に広がりやすいダンジョンだと考えればいいだろう。
少々特殊なのは『亜空間型』で、これはダンジョンの入り口だけを世界に設置し、本体は亜空間の中に構築するという変わった性質を持つ。
これは前者三つと比べ、ダンジョン構築の自由度が比較にならないほど大きくなるが、同時にダンジョンの維持に魔力を消費するというデメリットを抱えているようだ。
また、一からダンジョンを作り上げなければならない分、消費する魔力も馬鹿にならなくなる。
ああ、そうそう。
いくらダンジョンコアとは言え、無制限にダンジョンを作り変えられるわけではない。
ダンジョンとはいわば、『世界を侵食する小世界』なのである。……うん? これだと更にわかりにくいかな?
つまり、ダンジョンは滅ぼすべき世界に癒着し、そこに内包された魔力を使って自身の領域を拡張する新たな世界だ。まるでガン細胞である。
そして最終的には世界すべてを飲み込んでから自壊し、魔力へと変換された後で神の元へと送られるのだった。
あまりイメージは良くないのだが、寄生虫と言い換えてもいいかもしれない。
とにもかくにも、だ。
ダンジョンを拡張したり魔物を召喚するには魔力が必要である、という事だけ覚えておけばよい。
初期にダンジョンコアが保有している魔力量は、一律で10000ポイント。
これを上手く活用して、ダンジョンコアは自分の身を守りつつ世界を滅ぼすダンジョンを作らなければならない。
もっとも、俺の場合だと選べる形式はほとんど限られているだろうが。
先の掲示板を覗いていた際に確認したが、俺が召喚できるのは魔獣種と呼ばれる実在の動物をモチーフとした魔物たちである。
ホークなどの空中位置の魔物は特にだが、魔獣種はその特性上、より広い場所の方が能力を発揮しやすいだろう。
ゆえに閉鎖空間である『洞窟型』と『塔型』は真っ先に候補から外れる。序盤の魔力維持が厳しい『亜空間型』も遠慮したいところだ。
「ダンジョン形式を『庭園型』に指定。同時に3000ポイントを消費して領域拡張」
《【要求承認】ダンジョン形式を『庭園型』に設定しました。ダンジョンの設置場所を選択してください》
《【要求承認】魔力を消費し、ダンジョン領域を拡張しました》
俺の要望に、先程と同じように人工音声が脳内で響いた。
同時に六畳ほどの広さしかなかった部屋が一気に広がり、壁が見えないほどの広大な空間へと生まれ変わる。
この様子だと端から端まで、ゆうに一キロ以上はあるのではないだろうか。
俺は庭園型にダンジョン形式を決定したので、これからダンジョンを設置する場所を選ばなければならない。
俺が滅ぼさなければならない世界を映しだしたディスプレイと睨めっこしつつ、なるべく魔獣種の魔物が活躍できる地形を探すのだった。