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DEAD LINE~悪魔の刻限~  作者: 深井陽介
第一章 長く長い誘拐の軌跡
8/47

その8 ダークサイドPART.2

※作者注

このセクションでは、一部に粗暴な発言が含まれています。読者に悪影響を与えないよう慎重を期して執筆していますが、少しでも描写に不快感を抱かれた場合は、読み飛ばして構いません。なお、このセクションの内容は、犯罪及び反社会的行為を推奨するものではありません。予めご了承ください。

 <8>


 SEINUタワーマンションのその一室は、夕方の時間帯であるにも関わらず、薄暗い闇に包まれていた。窓が全て木材で覆われ、外光が遮断されているせいだ。これはとりもなおさず、どこからも部屋の内部を見られないようにするためだ。

 ソファーに横たえられている少女は、すでに拘束を解かれていた。意識が混濁し、抵抗するだけの体力を失っていたからだ。それでも声だけは出す恐れがあるため、猿轡だけは外されなかった。

 この場所に監禁されてから一日近くが経つ。少女の頬は蒼白くこけていて、薄く開かれた目から生気は見て取れない。現在までに幾度となく吐き気を催した。見張り役の男たちはその吐き気を押さえなかった。むしろ、背中を叩いてでも吐き出させた。最後の一回はほとんど胃液のみで、吐瀉(としゃ)された直後に酸の臭いが漂った。嘔吐(おうと)の跡は入念に拭き取られたが、通常必要な事後措置は取らなかった。

 体温の低下は留まる事を知らなかった。毛布で包んでいることで辛うじて保たれているだけの、極めて脆弱(ぜいじゃく)な状態が続く。

 意識の混濁は、覚醒の度に無理やり吸入させるイソフルランによるところも大きい。意識が途切れることが続くと、自分の意思に反した行動が起きやすく、失禁も度々発生していた。その時は下半身の衣服を全て剥ぎ取り、水で(すす)いで汚物を簡単に取り除き、乾くまでの間はタオルだけで膝から上を覆い隠すことにしていた。

 そうした面倒な手順が行われているのは、見張り役の一人に厄介な性質の男がいるからだ。この状況でも微塵も自重する気配を見せることなく、少女の胸部や下半身を下衆な目で見ているのだ。

 この時も、その男は薄気味の悪い笑みを浮かべながら少女の太腿に触れようとしたが、部屋に戻って来た別の男に寸前で止められた。

「おい、余計な事はするなと言われているだろうが」

「へいへい、分かったよ。ちっ、抵抗しないうちが華だろうに」

「花はお前の頭頂(とうちょう)にでも咲かせればどうだ」

「なんだと?」

 男は凄みを利かせたが、同業者に通用するはずもなかった。

「大体、その我欲(がよく)のままに行動する悪癖のせいで、お前は何度失態を演じてきたと思っている。ボスがお前に信を置かないのも当然だ」

「テメェのその口汚さもいい加減にしろよ。俺はちゃんと儲けを出してるぜ」

「ボスたちが気づいてねぇとでも思ってるのか? お前が損失分の穴埋めのためにやっていること、全部彼らはお見通しだぞ」

 男は反論せず、毒虫を見るような目で睨み返した。

「まあ、そんな面倒も今回限りだと思え。くれぐれも、俺の顔に泥を塗るような真似だけはするなよ」

「フン、偉そうに」男は罵るように吐き捨てた。「そもそも、この計画を提供した奴がこれっぽっちも関与しないとはどういう料簡(りょうけん)だ? しかも、報酬の取り分が俺らだけで山分けっていうのも、いかにも怪しいって雰囲気じゃねぇか?」

「そこは心配いらん。何度検証しても欠陥はなかった。計画は完璧だ」

「あんたの場合、おつむだけは信用できるからな」

 男の明らかな挑発にも、引っ掛かる気配はなかった。

「……すでに証拠潰しを始めている。抜かりはないさ」

「だといいがな。それで? この嬢ちゃんはいつまでこんな状態にすんだよ」

「決まっているだろう」別の男は口元を緩めた。「……死ぬまでさ」

 すでにカウントダウンは始まっていた。あらゆる運命の歯車が狂わされ、一つの終焉を迎えるその時が、着実に迫りつつあった……。

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