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13話




 涼とルナは、不動産屋のロンバースに連れられ、大商人や貴族の住んでいる街の一角へと来ていた。

 迷宮都市は冒険者の街とも呼ばれている為、他の都市に比べて住んでいる貴族が少なく、本来であれば貴族の住む地域は他の地域から線引きされているのだが、貴族が少なく、商人や冒険者で溢れているこの街にはそのようなものは一切なかった。あるのは金持ちが住む高級住宅街だけ。


 「凄いな」


 涼がロンバースに案内された屋敷はその一言に尽きた。

 悪い意味で。


 「おい、確か新築だって言ってなかったか?」

 「はい......」

 「じゃあこれは?」


 涼の視線の先にあるのはボロボロで今にも崩れそうな屋敷の姿だった。

 誰がどう見ても築五十年は経っており、所々に戦闘の痕跡がある。


 「精霊の仕業です。この屋敷は半年前に完成したばかりなのですが、精霊が住み着き、この家を守るように幻覚を見せるのです」

 「精霊ねぇ」


 精霊とは様々な物質に宿った意思から生まれたもので、日本でいう付喪神に近い。

 座敷童も一応付喪神に分類される。座敷童を見た者は幸福になると言われているように精霊は基本的に善の者だ。何か理由でもない限り人間に危害を加えることはない。


 「で、何やったんだ?」

 「追い出そうとして実力行使を......」

 「何でだ?精霊に害はないだろ?」

 

 話を聞くと、この屋敷は元々とある貴族の依頼で建てたものだったのだが、その貴族は魔物や精霊と言った類が嫌いな人だったようで、害はないと分かっていても自分の屋敷にそれがいることが許せなかったらしい。そこで貴族はこれは契約違反だと怒り、クレームをつけてきた。三日以内に精霊を追い出せ、でなければ金を返して、無料で屋敷を作り直せと。

 まぁ横暴に聞こえるかも知れないが、その貴族が魔物や精霊を嫌っていることは有名なのでロンバースにも責任はある。それに質の悪い貴族だった場合、不敬罪で打ち首も有り得たそうなので金を失うだけで済んだのは良い方らしい。


 「それで追い出すのに失敗して、今に至ると」

 「ははは、面目ありません」


 ロンバースの笑みは引き攣っていた。

 

 「んで?その貴族様の屋敷を俺に売ってもいいのか?」

 「既に半年前の話ですので」

 「にしては随分と顔色が悪かった気がするが?」


 てっきり、その貴族のせいで顔色が悪かったのだとばかり思っていたのだが違ったらしい。

 まだ何かあるのか?とロンバースを見つめると、観念したように話し出した。

 

 「この屋敷は呪われている。という噂が立っているのです」

 「確かに半年でこの有様じゃあな」

 

 たった半年で新築が築五十年を超えたおんぼろ屋敷になれば、呪われていると騒がれてもおかしくない。

 

 「街では幽霊の出る屋敷としてちょっとした名所のようになってまして、街の子供たちが面白がって侵入しようとするのです。精霊は子供だろうと誰だろうと自らの敷地に侵入しようとするものに容赦しませんから、その。子供たちが怪我をしてしまいまして、私どもの評判もあまりいいものではなくなってきているのです。危険な屋敷を放置していると」


 とんだとばっちりだな。

 そもそも屋敷に不法侵入しようとした子供が悪い。

 

 「それで顔色が悪かったのか」

 「この噂に便乗してライバル店が根も葉もない噂を流しているようでして」


 商人ってのも大変だな。

 でもそんな問題物件を俺たちに紹介しようとするのは何でだ?

 自分で言うのも何だが、金に糸目は付けない上客だと思うんだが。


 「で、なんで俺にこの物件を?この街で一番取り扱い物件の数が多いんだろ?態々問題のある物件を紹介しなくても他に幾らでもあるんじゃないか?」

 「確かにリョウ様の提示した予算であれば、他に幾らでもお勧めの物件はございます。勿論この物件が気に入らなければそちらを紹介させて頂きます。ですが他の物件をご覧にいれる前にこの屋敷を見て頂きたかったのです。ただの勘でしかありませんが、リョウ様なら精霊を落ち着かせることが出来るかと」

 

 俺の何を買ってくれているのかは分からないが、別に悪気があったわけではなさそうだし、面白い物が見れたので気にしていない。だが無料(タダ)で手伝うような真似をするつもりはない。


 「じゃあ、もしそれが出来たらこの屋敷は「無料でお譲り致します」へぇ」


 半値まで値切ろうと思ったのだが、まさかの無料と来た。

 それほどこの物件を手放したいのだろうか?


 「呪われた家などと噂が立ってしまっては買い手などつきませんから。今後とも御贔屓にして頂ければ」

 

 疑問が顔に出ていたのかロンバースが答える。

 呪いだなんて馬鹿げているが、こっちの世界じゃ本当にあるんだろうな、呪い。

 俺は特能のおかげで無効化出来るらしいが、ルナがもしも呪われてしまったら、そう考えると確かに呪われた家なんて買いたいとは思わない。などと物思いに耽っていると懐かしい声が頭に響いた。

 

 『何言ってるんです?呪いなんて涼さんが触れるだけでぶっとんじゃいますよ!』

 『突然話しかけてくんな』

 『ひどいっ!態々自分の力を理解していない、お・バ・カな涼さんの為に退屈な仕事を部下に丸投げして念話したっていうのに!!』

 

 つまりはサボりたかったと。

 さすが駄女神、女神らしさの欠片も感じない。

 というかまた時間が止まってるのか。地味に凄いよなこれ。


 『あれですね、童貞じゃなくなった涼さんなんて弄ったって楽しくないです』

 『だ・ま・れ』

 『ふぅ、冗談はこの辺にして本題に移りましょう!涼さん、貴方には勇者として魔王を討伐してもらいます!拒否は認めません。前金替わりの報酬はルナさんの妹さんの保護、成功報酬は妹さんの情報です』

 『お前、それは俺を脅すって受け取っていいのか?』

 

 涼が殺気立つと女神は慌てて否定する。


 『違いますよ!涼さんがルナさんの妹さんを探しに旅立つっていうから、なら異世界に旅立ってもらって私が妹さんを保護して情報を渡してあげれば一石二鳥なんじゃないかなって思っただけです!それに私は何処かの誰かさんと違って人質を取って脅すなんて野蛮な手は使いません!』

 『いや、俺もしないからな』


 一体こいつは俺のことを何だと思ってるんだ。


 『乙女の弱みに漬け込んで処女を奪う悪代か『殺すぞ?』ん。すみませんでした』

 『じゃあ幾つか質問いいか?』

 『私の初体験の話ですか?もう、涼さんのえっち!」

 『死ね』

 『ちなみに私は処女です!!』

 『聞いてねえよ』


 涼が再び殺気立つと女神はわざとらしく「こほんっ」と咳をした。

 

 『はぁ、質問その一、異世界に行くのは俺一人なのか?』

 『はい。涼さんのみになります。ですがご安心してください!こっちの世界とあちらの世界は時間の流れが違う設定になってますから!涼さんには今晩旅立ってもらえれば朝にはこっちの世界に戻ってこれると思いますよ?ちなみにこちらの一時間が向こうでは一年になります。ですからルナさんの心配はいりません!安心して虐殺に励んでください』


 それなら俺がいない間のことを心配する必要はないな。

 女神にしては気が利いている。


 『質問その二、魔王を倒せばこっちの世界に戻れるのか?』

 『はい!どの世界のどんな場所にいても女神チャンネルが繋がっている涼さんであれば私と念話することが出来ますから、魔王を倒した後、お好きなタイミングで声をかけてくれればこちらに戻しますよ!』

 

 至れり尽くせりだな。

 これなら魔王を倒した後に宝物庫から金銀財宝を奪うことも出来る。

 まぁそれが出来なかったとしても魔王を倒す前に宝物庫から奪うだけだが。


 『質問その三、異世界間を移動させるのは大変だったとか言ってトイレットペーパー断ったくせに俺を異世界には送れるんだな?』

 『なっ、何のことでしょうか』

 『正直に言えば怒らないから言ってみろ』

 『も、もうすでに怒ってるじゃないですかぁ』


 何故昨日は気付くことが出来なかったのか、魔王退治の話が出た時に気付くべきだった。

 時間の無駄なので殺気を送って無理矢理話させる。


 『こっちの世界で別の世界の技術を再現することはいいですけど。こっちの世界に別の世界の物を持ち込まれるのは困るんです!技術がないのに物があるというのはそれだけで争いが起きますよ?涼さんはあのちんちくりんなギルドマスターにダイヤモンドを渡しましたよね?この世界にはあれほどの研磨技術は存在しませんし、それが出来るようになるのはもっと後の事なんです。その技術をこちらで再現出来れば問題はありませんが、技術がないのに物があるという状況は混乱と争いを生みます。この世に一つしかない。再現出来ないものというのは争うだけの価値があるものなんです。実際、あの指輪を隣国の女王が見れば兵隊を出しますよ?涼さんのことですからまだアイテムボックスの中にダイヤモンドは腐るほどあるし、そうなればばら撒けばいいやとか思ってるかもしれませんけどね!そうなれば今度困るのはこの世界の研磨師、宝石職人達ですよ?王族や貴族に再現しろと無理難題を押し付けられること間違いなしです。そして再現することが出来なければ能なしの烙印と共に打ち首です。もしそうなればこの世界の発展が妨げられることになります。優秀な職人がこぞって処刑されてしまうのですからね。トイレットペーパーがどうこうと言う話ではなく、異世界の物全体の話です』

 『はい......』

 

 つまり、技術を持ち込むのは構わないが、技術を伴わない物は持ち込まれると困るということらしい。こんなことになるならトイレットペーパーの作り方を学んでおくべきだった。大統領の元でいらない知識ばかり学んでないでもっと生活に身近なものを学んでおけばよかった。レアメタルの作り方なんて日常生活に全く必要ない。


 『分かりましたか?分かったなら話戻しますけど大丈夫ですか?』

 『おっおう』

 『涼さんが調子に乗ってちんちくりんに上げたダイヤモンドはこちらで回収しておきました。それと涼さんのアイテムボックスの中にある元の世界から持ち込んだ物は刀を除いて回収します。この世界でほしいものが出来た際は私に言ってくださいね。回収した分はきっちり返しますから』

 『おう』


 女神の気迫に押され、涼は成すがままだった。

 

 『あーそれと、涼さんの特能完全なる身体(パーフェクトボディ)の力、毒無効化、病無効化、精神異常無効化、呪い無効化は対象に触れることで自分以外にも効果をもたらします。説明にもあったように、 あらゆる状態異常を受け付けない。万人を癒し、何者にも汚されず、何者にも屈することのない最強の肉体を得る。ですから、毒、病、精神異常、呪いなどは涼さんが触れるだけで消滅します。まぁそれを涼さんが望めば、という制限がありますけどね!』

 『そうなのか』

 『こんな事自分のステータスを表示した状態で鑑定を使えば分かることなんですけど!一晩中盛ってたんじゃそんな時間もなかったんでしょうけど!!』

 

 それを言われると痛い。

 自分でも出会って数時間で襲ってしまうのはどうかと思う。

 まぁ後悔はしてないのだが。


 『はぁ、取り敢えずそういうことですから!!精霊の状態異常を直してあげてくださいね』

 『あぁそういうことね』


 態々教えてくれたのは精霊を救う為だったのだろう。

 涼は無意識の内に口にしていた。

 

 「ありがとう」


 異世界二日目、涼さんがデレました。ちょろい、チョロインです!

 女神が後に記した日記にはそう書かれていた。




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