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12話




 ロンバース不動産は迷宮都市一の取り扱い物件数を誇っており、客層も平民から貴族と幅広いことで知られている。今まで様々な要望に出来るだけ答えてきたロンバース不動産はちょっとした危機に瀕していた。

 と言うのも、先日この店で屋敷を購入した来た貴族がクレームをつけてきたのだ。それも質の悪いことに嫌がらせなどではない本物のクレーム。

 嫌がらせであれば伝手を頼ればどうにかなった。だが本物のクレームばかりはどうしようもない。完璧にこちらに非がある。更に相手は貴族だ。状況は最悪と言ってもいい。 賠償を要求されるか、屋敷代を無料にしろと言われるか、またはそのどちらもか、どう転んだとしても被害は避けられない。


 「伯爵様からの言伝を申し上げます。三日の猶予を与える。三日以内に問題を解決すれば今回のことは不問とする。猶予までに問題を解決出来なかった場合は屋敷の代金を全額返済し、新たな屋敷を無料で建築すること、以上となります」


 貴族の使いの者が告げた言伝は最悪のものだった。

 三日以内に問題を解決しなければいけない。それは奇跡でも起こらない限り不可能。となると新しい屋敷を一から作らなければいけなくなる。それも無料で、だ。

 

 「はぁ」


 ロンバース不動産には重たい空気が流れていた。








 社長秘書さんに紹介されたのはロンバース不動産という数多くの物件を取り扱っているという迷宮都市きっての不動産屋だった。看板には屋敷が描かれており、一目で不動産屋だと分かる。


 「いらっしゃいませ」


 覇気のない挨拶で迎えてくれたのは顔色の悪い中年の男だった。

 一人だけ着ている服が貴族の着るようなものだったのでこの男がこの店の店主で間違いないだろう。

 

「本日はどのようなご用件で」

 「家を買いに来た」

 「ではこちらに」


 男は体調でも悪いのか、一向に顔色が優れない様子だったが、体調が悪いなりに必死に接客をしているので悪い気はしなかった。ただ、なるべく早く病院に行くことをお勧めしたい。

 

 案内された部屋は今まで見た中で一番豪華だった。部屋の細部に至るまで細かな金の装飾が施され、ソファ一つ取っても質感からして違った。貴族の一室と言われても違和感のない造りだった。

 涼はそのままソファへと腰をかけ、ルナは奴隷という立場なので涼の後ろに立っていた。

 

 「もし問題がなければ奴隷をソファに座らせたいんだが」

 

 涼は身内に甘々だった。

 奴隷がどういう扱いなのかは昨日ルナから聞いたので理解しているつもりだったが、実際前にするとあまり気持ちのいいものではなかった。

 奴隷は所有物であり、人間ではない。寝る場所も床で十分、飯も必要最低限のもの、着るものはぼろ雑巾のような布切れのみ。雑な扱いをしても誰も咎めることはない。

 最も、実際には奴隷を人扱いする者も少なくなく、この国に関しては比較的奴隷に対する扱いは良い。


 「問題ありませんよ」


 涼のように奴隷を奴隷として扱っていない者も多い為、男が断ることはなかった。

 それに加えてルナが奴隷とは思えない程に清潔で、着ているものも高級なものだと分かったからだ。これがもし、薄汚れた布切れを纏った奴隷だったなら躊躇なく断っていただろう。

 男は奴隷がソファに座るのを確認してから、口を開いた。


 「改めまして、ようこそロンバース不動産へ、私はこの店の店主をしておりますロンバースと申します」

  

 ロンバースと名乗った男は涼の思っていた通りこの店の店主だった。

 涼も被っていたフードを取ると簡単な挨拶をする。


 「俺はリョウ、冒険者をやっている。今日はよろしく頼む」


 ロンバースはリョウと名乗った少年を見て素直に驚いていた。

 顔が整い過ぎている。同性ですら見惚れてしまう程の整った顔立ち、何処かの国の王子だと言われても疑うことはないだろう。むしろ納得してしまうような何処か神秘的、カリスマのようなものを感じる。

 貴族よりも貴族らしい、堂々たる振る舞い、横に座る奴隷にしても大事にされているのが一目で分かる。

 

 「本日はどのような物件をお探しで?」

 

 先程まで貴族の屋敷の処理をどうするかで悩み、ストレスのせいか顔色が悪くなっていた中年男の姿はそこにはなく、リョウという不思議な少年に興味を抱き、いつものように接客する店主の姿があった。


 「部屋数が多く、庭も広ければ広いほどいい」

 「そうなりますと、家というよりも屋敷になりますが」

 「そうか、そうだな。屋敷でいいかも知れない」


 元より涼がイメージしていた家は屋敷に近いものだったので異論はなかった。

 だがこれにルナが反応した。


 「ご主人様、失礼ですが予算はどれほどあるのでしょうか」


 ふとした疑問。

 涼の素顔をふと見た時、何処かの貴族だと思った。

 だから自分を買った時も、普通の人間のように宿に泊められた時も、今朝冒険者ギルドに向かう道中、服を買おう!と新品の服を何枚も買ってもらった時も貴族だからと無理矢理納得していた。だが幾ら貴族の子供だろうと屋敷を買えるほどのお金を持っているはずがない。

 

 「予算か、予算は大白金貨二枚ってところかな」

 

 大白金貨二枚、およそ四億円。

 ルナの表情が固まった。

 ロンバースの顔色が悪くなった。


 「し、失礼ですが、貴族様でいらっしゃいますか?」

 「いいや、冒険者だって言ったろ?」

 「さ、左様でございますか。ではギルドランクを教えて頂けますでしょうか」

 「Dだな」


 ロンバースが困惑した。

 ルナは未だに固まっている。

 

 「で、予算は足りるか?まだまだ余裕はあるからな。倍は出せるぞ」


 涼は何処までもマイペースだった。




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