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11話


 



 涼は熊の料理亭で朝食を済ますと、ルナを連れ、ある人の元へと向かっていた。

 この街に来て涼が知り合った人間は数少ない。

 その中でも頼れる。基、利用できる人間となれば一人しかいない。


 「ロッセラ呼んでもらえる?」


 幼女ギルドマスターのロッセラだ。

 今日涼が冒険者ギルドを訪れたのは言うまでもなく、迷惑をかけられたことを理由にギルドマスターのコネでいい物件を紹介させる為だ。他にもルナを冒険者登録させるという理由もあったのだが、メインは恐喝、ではなくギルドマスターにお願いをしに来たのだ。

 間違っても第一声で、


 「昨日のこと公にされたくなかったらいい物件紹介しろ」

 

 なんて言うはずがない。

 もし聞こえたならきっとそれは聞き間違い、


 「聞こえなかったのか?昨日のこと公にされたくなかったらいい物件紹介しろ」


 ではなかった。

 ルナとのやり取りのせいで忘れがちだが涼は本来こういう奴だ。

 身内には優しいが敵にはすぐ好戦的、威圧的な態度を取る。まるで餓鬼。

 

 「あのー取りあえず話を聞かせてください」


 それに対して、ロッセラは涼の態度に怒りもせず大人な対応を見せた。

 涼はロッセラの態度に期待はずれだとばかりにため息を零し、態度を改めた。


 「あー悪かった。ちょっとむしゃくしゃしててな」

 「いえいえ、構いませんよ?冒険者には先ほどのリョウさんのような品のない冗談を好む方が多いので慣れています」

 「あーごめん。俺が悪かったです。これ上げるから機嫌直してください」


 涼がそう言って取り出したのは昨日デリルさんの果物屋で買ったレポンの実。

 ロッセラはこれをあげると言われ、何をくれるんだろう?と思わず手を出してしまった数秒前の自分を呪った。


 「あー、間違えました。こっちです」


 涼は不味い雰囲気を感じ、咄嗟の判断でアイテムボックスの中に入っていたダイヤモンドを取り出した。

 それは以前マフィアを殲滅した時に敵のアジトから奪った大量の宝石や貴金属の中の一つで、四カラットほどのブリリアンカットされたものだった。

 

 「な、何ですかこれは」

 

 先ほどまでの怒気が嘘のように消し飛び、目の前のダイヤモンドに夢中になっているロッセラ。

 そして危機を脱する為にとんでもない墓穴を掘った涼。

 この世界の研磨技術はまだまだ発達していない。だが涼が取り出したダイヤモンドは長年に渡る職人の努力の結晶、一つの完成形とも言える美しいカットが施されたものだった。

 だが未だに墓穴を掘ったことに気付かない涼はロッセラの問いに普通に答えてしまう。


 「ダイヤモンドだよ」

 「ダイヤモンド?」

 「金剛石って言えば分かるか?」

 「金剛石!?あの加工が不可能と言われた金剛石ですか!?」

 「えっ」


 気付いた時には既に遅かった。

 ロッセラは一流の職人でさえも不可能だと判断した金剛石の加工方法に興味を持ってしまっていた。

 これがもう少し別の宝石だったら話は違っただろう。だが涼が取り出したのは加工された金剛石だ。


 「......間違えました。返せこの野郎!!」

 「嫌です!もうこれは私のものですー」

 「返せって!!」

 「いーやーでーす」


 このやり取りは騒ぎを聞きつけた職員が駆けつけるまで続いた。

 







 「まぁいい。その代り頼み事聞いてもらうぞ」

 「無理のない範囲なら構いませんよ!」


 結局涼が根負けする形で争いは終結。

 ダイヤモンドを手の上で転がし、満面の笑顔を浮かべている幼女と呆れ顔でそれを見つめている少年がそこにはいた。


 「そんなことよりも、リョウさんって何者なんですか?」

 「は?冒険者だろ」

 「そういうことじゃありません!」


 ぷんぷんっと頬を膨らませるロッセラを見て涼が抱いたのは殺意。

 あざとさがうざったい。

 涼は死ぬほどぶりっ子が嫌いだった。


 「エルフの秘薬と同じ名前のオリジナルの治癒魔法といい、Sランク冒険者三人を相手にしても無傷で勝ってしまう戦闘力といい。最低でも大金貨一枚以上はする魔法鞄(マジックバッグ)を持っていることといい。この綺麗にカットされた金剛石といい。本当に何者なんですか?」


 聞き覚えのない言葉が出たと思うが魔法鞄というのは涼が普段使っているマジックボックスの劣化版で見た目より大量の物を入れることが出来る|魔道具<マジックアイテム>だ。魔法鞄はマジックボックスと違い、時間が経てば劣化し、鞄内の温度も外気と一緒で、重量制限がある。

 涼は予め女神からそのことを聞いており、アイテムボックス持ちだとバレると国に終われると言われていたので緊急時以外、人前で物を出すときには普通の鞄から取り出しているように見せていた。

 普通の人間ならまず気付くことはないし、もし気付かれたとしても魔法鞄だと言い張れる。

 

 「何者って、ただの人間だけど」


 正確には涼は人間ではなく、八百万の神に愛されて半分神になってしまった半神で、異世界に転移したことにより特殊能力が開花し、千を超える世界を管理する女神にスカウトされるような化け物だったりするのだが、涼は別に神様になったわけではないのでそれらを自ら口にすることはしない。


 「まぁ別に言ってもいいけどさ、後悔しない?殺される覚悟があるなら言ってくれ。いつでも殺してやるからさ」

 「いや、それはおかしいです!そこはいつでも話してやるから。じゃないんですか!」 

 「はぁ?殺される覚悟があって聞くんだから殺されてろよ」

 「もういいです。つまり話す気はないと?」

 

 ロッセラはジト目を向けるが涼は一切動じない。

 最早言葉を交わす必要もない程、涼の答えは態度に出ていた。


 「仕方ないです。そこまで言いたくないのなら無理には聞きません。ですがこれだけは確認させてください。リョウさんは私の、この街の敵ですか?味方ですか?」

 

 先程までの質問は個人的な興味本位によるものだった。だがこれはこの街を任されているギルドマスターとしての質問。最低限聞いておかなければいけない質問だった。


 「今の所は敵じゃないし、こっちから敵対することも有り得ない。だが俺や俺の身内に危害が加えられた場合は別だ。積極的に敵対するし、例え相手がこの街や国だとしても俺は潰す」

 「それは今後、敵対する可能性があるということですか?」

 「危害が加えられたらな?そうだ、一つ良いことを教えてやる。俺が何者か分かるヒントだ」

 

 ロッセラはごくりと喉を鳴らし、涼の言葉を待った。


 「俺が初めて倒した魔物はグラトニーコングっていう金色のゴリラだった」


 それは女神に警告された金色ゴリラの名前。

 たった一匹で幾つもの国を滅ぼしたとされる伝説の魔物、暴食の王グラトニーコング。

 十メートルを超える巨体に魔法に対する耐性の高さ、そして何よりも恐ろしいのが背中に生えた六本の他種の腕だ。グラトニーコングは食した生物からその生物の特製を得ることが出来、特性を得た生物の腕が背中から生えるのだ。龍を食べたグラトニーコングは炎のブレスを吐き、背中からはドラゴンの腕が生え、人間を食べれば知性が芽生え、武具を自作し、扱うようになる。当然背中には人間の腕が生える。

 食べれば食べるほど強くなる暴食の王。数百年前に突如現れ、人類を壊滅させた伝説の魔物。


 涼の口から出た思いもしない名に、ロッセラは微笑んでいた。

 さすがにそれは嘘だろうと。

 だが涼の顔は真剣そのものだった。


 「別に信じなくていいけどな」


 困惑するロッセラに涼はそう言い残すと部屋を後にし、別室で冒険者登録をしていたルナと合流した。

 ルナに「いい物件ありました?」と聞かれ、本来の目的を思い出した涼が慌てて社長秘書さんにお勧めの不動産屋を紹介してもらい、涼は一秒でも早く家を購入する為に、ルナの手を引き駆け足で不動産屋へと向かった。

家を買う→妹探しの旅に出る→その道中趣味を見つける→妹を見つける→帰宅、家を魔改造→趣味→趣味......となる予定。

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