10.5話
短いです。
熊の料理亭の料理は宿の名前に入るだけあって、どれも美味しかった。
と言っても食文化の進んだ日本からやってきた涼が満足したかと言われれば答えはノーだ。
「私、こんなに美味しい料理食べたの初めてです」
ルナは感激していたが俺は釈然としなかった。
夕食の内容はこうだ。
硬くないパン、トマトと魔物のスープ、しゃきしゃき魔菜のサラダ、魔物のステーキ。鑑定した結果出た料理名がこれなんだが、この名前のせいで全く食欲が湧かなかったのだ。
まぁ名前はともかくとして味はまぁまぁだった。
硬くないパンはその名の通り硬くなく、柔らかくもないコッペパンに似たパンでこれ自体に味はなかったのでスープに付けて食べた。トマトと魔物のスープはトマトベースのスープの中にベーコンと少しの野菜が入ったもので普通に美味かった。恐らくベーコンが何らかの魔物の肉を使ったものなんだろう。しゃきしゃき魔菜のサラダはもやしに似た野菜に柑橘系のドレッシングがかかっていて、それがもやしに似た何かにとても合っていた。最後に魔物のステーキだが、これはもうただの牛肉のステーキだった。肉を塩と胡椒で焼いただけのもの。一番シンプルで一番美味しい食べ方だ。ただ、そこまで柔らかくなく、適度に噛みごたえがあったのがマイナスだ。
別にそこまで食にうるさいわけじゃないが、料理が自慢と言われればどうしてもハードルが上がってしまうわけで、ルナの反応を見る限りこれでもかなり豪華で美味らしいが、やはり日本の食事を知っているせいか納得は出来なかった。
食後、昼間に買ったボボンの実をルナと一緒に食べたのだが、正直これが一番美味かった。
おばちゃん万歳。
異世界初日、既に結構濃い体験をしてるよなと今日一日を振り返りながら、涼はルナに体を拭いてもらっていた。
決して美少女に体を拭いてもらって恥ずかしいとか緊張しているとかそんな理由で突然一日を振り返り始めたわけではない。そう、これは日課だ。地球に居た頃からの日課なのだ!と涼は自分に言い聞かせ、起立したがる愚息を理性で抑え込んでいた。
「ご主人様、気持ちいいですか?」
「お、おう」
理性って何だろう?
涼の意識は哲学の領域へと足を運んでいた。
理性は自分を戒める最後の砦、これを失ってしまえば、本能のままに行動する獣と一緒だ。俺は獣じゃない、俺は獣じゃない。「気持ちいいですか?」なんて聞かれて理性を失ってしまうような獣じゃない。
「私、ご主人様に買ってもらえてよかったです。リョウ様は先ほど私が嫌がったって連れていくと仰ってくれましたが、私は妹に会いたいです。だから嫌がるなんてありえません。だから私を連れて行ってください。お願いします」
「あぁ、よろしくな」
あっぶねー。
ルナが真面目な話しなかったらもうちょっとで襲ってた。間違いなく獣になってた。
「あの、それともう一つ」
「ん?なんだ?」
「私、ご主人様になら何をされても嫌じゃありませんから......」
もう一度言おう。
理性って何だろう?
この日、俺は大人になった。
曇りガラスから差し込んだ光が荒れたシーツの上で絡み合う男女の意識を現実へと引き戻す。
男は優しく女の頬に触れ、女は男の全てを受け入れるかのような笑みを零す。
それは甘美な二人きりの世界。
「ご主人様ぁ」
「ルナ」
お互いの名前を呼びながら熱い口付けを交わした二人は再び、互いを求め合い、
「あっさですよー、起きてくださいー。ていうかもうやらないでくださいー。丸聞こえですからー」
宿屋の娘に容赦なく邪魔された。
二人の意識は急激に冷め、顔を真っ赤に染めた。
「いいですか?別にやめろとは言いません!ですが周りのことも少しは考えてください!幸い昨日宿泊していたお客様はリョウさん達だけでしたけど。私は宿にいますからね?おかげで昨日は寝れなかったじゃないですかぁ」
「「はい、すみませんでした」」
「分かればいいんです。分かれば!次からはもう少し声を抑えてくださいね?」
部屋から出た後、鬼の形相のミアに捕まった涼とルナは説教を受けていた。
涼は自分の理性が飛んでしまっていたせいだと素直に反省し、ルナは遠回しに声が大きいと言われたことで耳の先まで真っ赤になっていた。
「じゃあ早く朝ごはん食べてください!片付かないんで」
涼とルナは言われるがままに朝食を食べたが、不思議なことに何を食べたのか全く記憶になかった。




