0話
何でも屋は簡単なようで意外と難しい仕事だ。
猫探しから浮気調査、ストーカーを捕まえたり、企業スパイをしたり、マフィアを壊滅させたり、戦争を止めたりと依頼の難易度は様々。最も、後半の依頼は普通の何でも屋じゃ受け付けない。
何でも屋には表と裏が存在する。表は猫探し、家掃除など雑務が主で、裏はスパイや戦闘、暗殺を主としており、その存在は国家レベルで秘匿されている。
「これは何のつもりだ?」
裏専門の何でも屋にして現役高校生、九重涼は現在、警察に囲まれていた。
その数は優に百を超えており、当然のことながら全員が拳銃を持っていた。
歓迎というムードではないし、依頼を持ってきたというわけでもなさそうだ。
となれば可能性は一つ。
「へぇ?俺と戦争するの?となると新しい総理の命令かな?」
「大人しく着いて来れば危害は」
その瞬間、拡声器を手にしていた警官の首が宙を舞った。
「ご近所迷惑だろうが、話すなら静かに話せ」
「なっ!?」
九重涼はその場から一歩も動いてはいなかった。いや、一ミリも体を動かしてはいなかった。にも関わらず、突然警官の首が飛んだのだ。それは平和な日本でぬくぬくと育った警官に動揺を生み、鍛えられたはずの特殊部隊ですらも息を飲んだ。
「んじゃ、もう一回聞くぞ。新しい総理は俺と戦争をするつもりなんだな?」
その問いに答えられるものはいなかった。
答えてしまえば次に首が飛ぶのは自分達だと分かっていたからだ。
だが、無言は肯定を意味する。つまり、
「おっけー、今日で日本は終了だ」
答えなくても結果は一緒。
その瞬間、半径一キロ圏内にいた警官全ての首が飛び、九重涼は姿を消した。
「というわけで、貴方には異世界へと旅立ってもらいます!」
九重涼は警官を瞬殺した後、永田町を消し炭にするために転移を行おうとしたのだが、どういうわけか転移した先は慣れ親しんだ自分の家だった。再度転移を行おうとするが、どういうわけか魔法が一切使用できなくなっていた。とそこに自らを神と名乗る少女が現れ、『お前危険だから異世界行ってこいや』的なことを言われ今に至る。
「拒否権は?」
「ありません!」
「理由は?」
「貴方がこの世界にとってイレギュラーな存在だからです!なんで魔法が使えない世界で魔法使えるんですか!」
そう、九重涼は魔法使いだ。
身動き一つ取らずに警官の首を刎ねたのも風魔法の一つ、鎌鼬によるものだった。見えない刃というのはそれだけで脅威だ。それに加え、全ての刃が涼の指示一つで自由自在に動くのだから増々恐ろしい。
確かに九重涼は魔法使いだが、何故使えるのかは分からない。幼い頃に見たお邪魔なドレミを見て覚醒したのは間違いないのだが、何故使えるようになったのかと聞かれれば、テレビを見て使えるようになったとしか言い様がない。あの時は大変だった。男なのに気が付けば魔法少女のような恰好になっており、ステッキを振るうと小さな爆発が起こるのだ。家が半壊し、恐怖したのは今でも記憶に新しい。
「テレビっ子の力だな」
「意味が分からないです!そもそも中級とは言えあの数のウィンドカッターを操作するなんて普通じゃないです!どっち道この世界に居させるわけにはいきません!」
「居させるわけにはいかないってどうするつもりだよ。俺殺されるのか?死ぬの嫌だぞ?」
「大丈夫です!他の世界に行ってもらうだけなので!ってよりも予想以上に落ち着いてますね!さっきまで国を滅ぼそうとしていた人とは思えないです!てっきり居させるわけにはいかないと言った私を殺しに来るものだと思っていました」
涼はその発言に心外だとばかりにため息を吐いた。
「俺をなんだと思ってんだお前は、あいつらが銃を向けて来たから対応しただけだ。恩を仇で返して戦争をふっかけてきたから応戦しただけだ。国を滅ぼすつもりはないさ、ただ国のトップを一人残らず殲滅するだけ......」
「ダメじゃないですか!!十分国が滅びます!」
「いやいや、滅ばないって。でも一気に国を支える人間がいなくなったら滅ぶのか?んー、なんとかなるんじゃね?いいや」
「良くない!国が滅んだら一体幾つの神が路頭に迷うと思っているんですか!ただでさえこの世界は神の人数が異常なくらいに多いのに!もういいです!こんな人はさっさと異世界へ送っちゃうことにします」
少女が手を挙げると涼の足元に魔法陣が描かれ、涼の身体は光に包まれた。
「貴方には異世界の言語と、私と連絡が出来る女神チャンネル、貴方が心から望んでいるであろう力を授けました。たまに私がお願いをすると思うんでありがたく受けてくださいね!ではでは、サヨウナラ~」
涼は咄嗟に抗おうとするが、抵抗空しく光に包まれ消えてしまう。
こうして何でも屋は異世界へと旅立った。