一話 村人A・・・なハズです
気がついたら倒れてました。
転生、ということがどういうことか。
はい。勿論体験したのは初めてで。最初がどうなるかとかの説明は前述の通りに全然なくて。
ぼんやりと戻る意識で思い出していたのは、たぶん神と思われる人との会話と内容。
そして白い世界から落ちたこと。
あー、なんか覚えてるもんだな・・・。転生っていうからには前の記憶は消されるのが普通なんじゃ?
だって自分が日本という国に住んでいて、トラックにはねられて死んだ。そんなことも産んでくれた両親のことも、多分家族が今も暮らしているだろう自宅のことも。すべて覚えている。
ただその記憶は遠く、思い出せば思い出される、という感じだった。それはどうせ覚えていても戻れるわけでもないからだろう。ましてやあの世界が同じ時間軸にいるとも限らないのだから。
思わずしんみりしかけて思考を、現実の方へと向ける。
とりあえず、起き上がらないと。
目を開けてまずみえたのは、青々とした草。多分雑草だと思われる。そして土。
起き上がって見えたのは、生い茂る木々と広がる草原と、そして遠くに見える屋根だった。
ここは・・・。林、かな。向こうに見えてるのは人が住んでる家だよ、な?
あとは見上げた空は青空で、そこには太陽が輝いていて。空が赤だったり緑だったり、そんな世界じゃないことにちょっとほっとする。
視界に見え隠れする家と思われる建物はいかにもいうなればログハウスって感じの木の色で。
立ち上がって見渡せばその建物は5,6件まとまってあり、その周りには畑と思われる耕された土地が広がっていた。
ここが村人Aの舞台、か・・・。
これからここで暮らしていくのか、と実感もないまま思いつつ、ふっと気が付いて自分を見下ろす。
身にまとっていたのは、ザラっとした肌触りの悪いチュニック風の簡易な服と、上よりは生地が薄そうだけれどやはりザラっとした肌触りのズボンだけ。袖は肘くらいまであり、裾は腿の途中まであり、ウエストを布で結んであった。足元はやはり上着の生地を2重にした布製の靴だった。
機械、なんてものはまったくなさそうだな。多分中世のころくらいか?
学校で少しは習った気もするヨーローッパのどこかの国だった気がする産業革命のころを思い出す。
ここで村人Aとして農業をやりながら暮らすのか。
そう思っても実感もまだ湧いてくるはずもなく。
とりあえずあそこの家の方まで行ってみるか。
言葉は分かるようにしておくって言ってたし。
そう思いつつこの世界での一歩を踏み出し、何歩か歩いて気づく。
そういえば視界が前より少し低い、か?
「そうだ!美形にしてくれってお願いしたんだった!!」
慌てて自分の体を見回しても、わかったのは肌の色は少し色が薄くなったくらい。チラっと見えた髪の毛は、淡い金だった!そして身長がどうやらちょっとだけ低くなって、そして少し骨格が細くなっているようにも思えた。
「顔、顔が見たい!」
でも身体を探ってみたところで鏡なんてもっている訳もなく。ちなみに調べてみたところ、上着の袂にこの国の通貨なのか10円玉の色の小さなコインが少しだけ入った布袋が入っていたのみで、他には何も持っていなかった。
「水、水もない、か?」
そもそもこの世界に鏡が存在するのかさえもわからない。なら自分の顔を映すもの、と思った時に水に思い当たる。
そういえば喉もかわいてきたし・・・
「川なんて都合よくあるわけないよな・・・。よ、よし。とりあえずあそこに行くか」
人と会わなければ何も始まらない。
そう村人Aになる為に自分はここにいるのだから。
そう決心をつけて、ゆっくりと見える家の方へと歩き出した。
そこは、どこか寂れた廃村を連想させた。
簡単に木の杭で回りを囲われた集落には、6件の家があった。
木で作られたあまり広くない家。多分3部屋くらいしかないんじゃないかと思われた。そしてどの家も地震が来たら倒れそうな感じでどこかいびつに斜めになってたり、穴があいたりしていた。
「寂れている、のか?」
この世界のことが何もわからないから、その判断させも出来ずに人気がまったくない集落の真ん中まで歩く。そこは少し開けた広場みたいになっていて、真ん中に井戸があった。
「あれ、井戸だよな」
そしたら水がある!
そう思って足早に近づいて、多分水をくみ出す用においてあるんだろう木製の桶に手をかける。
「おい、そこのあんたっ!何してんだいっ」
一瞬かけられた言葉に、ちゃんと言葉の意味を理解出来ることに安堵を覚えた。
それから声をかけてきた相手の方へと向き直る。
髪は赤みが強い茶色、肌は陽に焼けた小麦色で、目は髪と同じ赤茶色、今自分が着ているものと同じような生地の服を着た女の人が立っていた。年のころは今までの世界の方の考え方だと、ちょうど30代初めくらいに見えた。
良かった。普通に人間だ・・・。
髪が青かったりピンクだったりするのは多分驚きはしても受け入れることは出来る。でも緑の肌だったり、目が二つだったりしてたら逃げ出さないでいたか自信はなかった。
これなら村人Aとしてでも、なんとか出来そうだ。
「あ、いや、水を・・・」
『こんにちわ』と言おうとして、こちらでの挨拶として通じるか分からないことに気が付いて、とりあえず要件だけを口にした。
「なんだってっ!水?水だって今じゃここいらじゃ貴重品だってこと知らない訳じゃあないんだろうねっ!」
「えっ、いや、そのっ」
「あんたよそ者かい?よそ者って言ったって許されるわけじゃあないんだよっ。しかもなんだってこんな時にこんな場所によそ者なんて・・・」
「あ、あ、ご、ごめんなさい。水が貴重だなんて、俺、知らなくてっ」
まくしたてられて、言葉の内容よりも謝らなくては!という危機感でいっぱいになる。
だって今まで普通に学生しかやってこられなかったから、こうやって面と向かって直接怒鳴られる、なんて経験さえなかったと、今になって気づく。
「え?俺?・・・もしかしてあんたっ、男かいっ?」
ガバっと。それはもうガバっという音が聞こえてきた勢いで、前で合わせていた上着を開かれた。
「えっ、ちょっ」
「うわっ、本当にあんた男かいっ!ちょっとみんな、来ておくれっ!男がいるよっ」
何を言う暇もなく、服をつかまれて揺さぶられて何も考えられなくなる。
「なんだいカリィ、男って。そんなキレーな髪の色した子が男だって?」
「なんだいなんだい、男だって?どこにいるんだい?その子がかい?」
「男なんてみんな魔王城へ行っちまっただろ」
固まっているうちに、家の中から、そして多分来る時に見えた畑の方から、何人もの女の人が集まってきた。あっという間に取り囲まれ、見動きが出来なくなる。何人もの手が、最初のカリィと呼ばれた人に開かれた裸の胸に、肩に、腰にと触られ、はたかれ、捕まれる。
「ホラ、見なよ。男だろ」
「ああ、本当だ。どれ」
「うわああああぁっ」
そしてその無遠慮な手が、ついに服の上から下半身、つまり男の証明であるそこをポンポンと叩いてきた。
「本当だ。一応ついてるから男だねぇ。しっかし顔みりゃ街のお貴族様かどこかのご令嬢かって感じで、それでこの反応ってことは今じゃありえないねぇ」
「本当だ。こんなくらいで縮み上がってるよ。この子童貞かねぇ。もしかして」
!!な、なんてことをっ!
あちこち触られまくって頭が真っ白になったところに響く言葉にとどめをさされる。
わずかながらにつっぱねていた手が力を失った隙に、更に下半身へと伸びてくる。
ああ、本当だ。これは童貞かねぇ。
そんか言葉を言いかわしながら・・・。
「・・・や、やめて」
下さい。まで言う気力もなくしゃがみこんで膝を抱え込んで座り込んだ。
なんで異世界まで来て、童貞童貞と敏感な言葉を連発されてんた、俺・・・。
もう体中の力が抜けて、何も考えられなくなっていく。
「しかしこんな辺境の集落の男たちまで全部魔王のとこに行かされたからねぇ。この坊やは一体どうしてこんなとこにいるんだろうね」
「ああ、もしかしてあれかね?いきなり男が湧いて出たってヤツ」
「ああ、そういえばそういう噂を聞いたね。隣の集落にもある日男が現れて、野良仕事をしてるらしいね」
「でもそれだと聞いていた話とは、この子は全然違うねぇ。若いにはいいけど、こんなに華奢じゃ野良仕事なんてできるわけないよ」
「そうそう。顔もそこら辺のお嬢様よりもきれいだろうさ」
ぐったりともう意識を飛ばしてこのまま死んでもいい。とさえ思っていた耳に聞こえた言葉に顔をあげた。
本当だったんだ。村人Aとして転生させてるって。ちゃんと俺以外にもいるんだな。
自分が会えるとはわからないのに、ちょっとだけ心細さが無くなったような気がした。
「どうせ男をくれるなら、畑仕事ができる丈夫な男の方が良かったねぇ」
「まあ仕方ないよ。今は男がいるだけで確かにありがたくはあるしね。今うちの集落は子供がいないからね」
・・・まだ顔を確認出来てないんだけど。これ、俺の顔ってどんな顔なんだ?女の子のよう?きれい?ここの世界の価値観はわからないけどど、そんなに変わらない気もするんだけど・・・。
取り囲んでる10人くらいの女たちをそろっと見回すと、肌の色は色黒から普通に黄色っぽい人、髪の毛は茶色、赤、緑っぽい茶色といった感じだった。そして顔は彫が深い欧米のような感じの人から、東洋系の人みたいな、のっぺりとした印象を受ける人もいて、まちまちな感じだった。
でも顔そのものは向こうの世界的に考えても、髪の色くらいであとは普通の範囲内で、全員見渡しても目が3つとか、そんな異形の人はいなくてホっとする。
「じゃあ産める年代が6人だから、順番に行こうか。さすがに全員いっぺんに妊娠するわけにもいかないからね」
「そうだね、それがいいね。じゃあ最初はどうする?年の上の順からかい?」
「まあすぐに妊娠するかもわからないしね。上から二人ずつにしてみようか」
「ホラ、あんた名前は?いくら細っこくても男なら、最低限の仕事はしてもらうからね。そんで夜はうちとそこのアニザのとこと、交互に来るんだよ」
ぐいっと最初の女の人、カリィに腕を掴まれて立たせられる。そして手を引かれて連れていかれそうになった。
「え、ええっと。ど、どういうこと、ですか?」
「なんだい、この子は。察しも悪いのかい。だから昼間は少しずつでも野良仕事と大工仕事を覚えて貰って、夜はうちとアニザのとこで子作りだよ。子供はいくらいてもいいんだ。労働力になるからね」
「!!ちょ、ちょっと待って下さいっ」
前半はいい。それこそ村人Aの仕事だろう。けど、今後半に不吉なことを言われなかったか?
「え、ええと・・・。あなたと結婚とか、そういう訳じゃあなくて、ですか?」
「はああ?何言ってんだい。確かにうちは亭主を戦場で亡くしはしたがね。結婚とかそういうお上品なこと言ってる事態じゃないだろ。いいかい。この村には今子供を含めて男が一人もいないんだ。このままでは全滅しちゃうだろ。子供がいないと困るんだよ。だからお前さんは子供が埋めるここにいるうちらの全員と寝るんだよ」
お前は要するに種馬さ。選べる程今は贅沢言ってられないからね。ホラさっさとおいで。
そう言って俺に向かって伸ばされた手を、気が付けば必至で振り払っていた。
「す、すいませんっっ!」
ブチっと、何かが頭の中で切れた音がした気がした。
「ちょっと、待ちなっ」
今度は伸ばされた手を見ることもなく、伸ばした腕で囲んでいた女の人を必至でかきわけ、後ろから引き止める手を振り切って駆け出した。
「あんたはここじゃ唯一の男なんだよっ」
「待ってくれよっ」
「うわあああぁあああああっ」
その聞こえてくる声から逃げて、逃げて、逃げて。周りなんか見る余裕なんてなくて。
ただひたすら逃げて、逃げて、逃げた。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれっっ!!
俺は村人Aになる為に転生してっ・・・!神様?にいっぱい子供作れって言われたけど。これって、これって村人Aのすることなのかっ!!
何も知らない世界の中で、何から逃げるのか、逃げたいのか、どうしたいのか、それさえも分からずに走って。
そして気が付けば俺は、そのまま意識が遠のいて、倒れていた。
1話の予約日時を間違えまして・・・。全然書き溜めがありません。なので1話ずつ諦めてあげてみます。頑張ってある程度まで上げますが、週1くらいのペースだと思います。よろしかったらのぞいてやって下さい。