プロローグ そんなこんなで村人Aとして異世界転生することになりました
*ご用法の注意*
この作品は異世界もののファンタジーです。
ですが世界には剣も魔法もありますが、あまり要素としては関係ありません。
(日常な世界でもありませんが)
なんちゃって転生ものを書いてみたくて書いてみたライトなファンタジーです。
こちらのご用法でも大丈夫なようでしたら良かったら読んでみて下さい。
「ちょっと村人Aとしていっぱい子供作って暮らしてくれない?」
「は?」
乗っていた自転車が飛び出して来たトラックにぶつかった時、空を飛びながらこれは死んだな。と思った。
実際身体にすごい衝撃を感じて、痛みを実感するまでもなく空を舞った時に意識が真っ白になって、そして気がついたらここにいた。
間違いなく俺、黒井彩斗高校2年生16歳は、その時死んだ。死んだ筈だ。
死んで来たところなら、ここは三途の川の向こうの地獄なのか?天国なのか?
天国なのか地獄なのかは知らないけれど、そこは真っ白で何もない空間だった。
空間、としか言いようのない見渡す限り何もない場所。天井も壁も何もない。目には何も映ってはいないが、ただ何となく立っている感覚があるから地面というか足の踏み場があって。それ以外は光しか感じられない。一歩踏み出した先に足場があるのか、それさえも全然わからずにいる。
そんな果てのない空間に気付くとポツンと立っていて、そして目の前にはいかにも天使なのか女神なのか、な多分女性だと思われる人物?神物?がいた。
なんで多分かというと、顔が全然見えなかったのだ。上からの光か後ろからの光か。降り注ぐ世界を占める光に照らされて輪郭さえもかすんで見える。
判別できたのは、白いギリシャ神話を連想させるズルズルとしたローブに、内側から光を発しているかのような長すぎる輝く金髪。
髪は足元まであって、その先までは見えなかった。
髪は広がっているのか下におあるのか。光が反射して何も見えないな。どのくらい長いんだろう。
そこまで認識した時にかけられた声?が最初の一言だった。
それは声と言ったらいいのか直接頭に響く、これまたなんと形容したらいいのかわからない艶を帯びた声で。頭の中に反響するその響きの余韻にひたってから、やっと言われた内容に思い至り、出た言葉が
「は?」
の一言だった。
「だからある世界が今まさに滅びの危機に瀕していてな。若い男性の魂を至急急募しておるのだ」
だからお前もその世界に転生して、村人Aになってくれないか。
「はあ?危機に面しているのなら、必要なのは勇者とかじゃないんですか?」
アニメとか小説にあるよくある話で。呼ばれて他の世界に行くのは勇者だろう。
と、その目の前の神物?の言葉を理解できないまま反射で返す。
「ああ、もちろん勇者は必要だ。このまま魔王を放っておいてはあの世界が滅びるのは確実だからな。でもお前の魂の強さでは、勇者にするには弱すぎるのだ」
「はあ・・・」
まあそれこそサラリーマンの父親、専業主婦の母親、そして兄と妹、というどこにでもいる『普通』といわれる家庭で育って、運動も勉強も普通。可もなく不可もなく。平々凡々で普通の平均レベルの普通科の高校に通っていた自分では、いきなり勇者と言われても逆に困るか・・・。
とまだフリーズした思考の中でも思う。
「あの世界では今、男が魔王討伐の戦闘に駆り出された末にほぼ全滅。男で残ったのは年寄と子供。それこそ十代初めの男も戦場へ駆り出されてな・・・。今すぐ子供を作れる世代の人口がほぼいないのだ」
「それで村人A、ですか?」
「そうだ。本当はそなたの魂も転生するときは赤ん坊として産まれ直すのが本来なのだが、それでは間に合わん。そこで世界を渡ってそのまま転生出来るだけの強さの魂を持つ、年若い男を今応急処置でそのままの年齢で村人として村へと送り込んでいるのだ」
え?つまりこのまま続きの人生を、その滅亡に瀕している世界で送って欲しい、ということか?
「?その世界は今までの世界とはまた違ったとこですよね」
「ああ。世界は並列でそれこそ数えきれない程あるのだが、あの世界はその世界の分岐になる世界でな。そうそう滅ぼす訳にはいかんのだ。勿論普通の転生を望むのなら無理にとは言わないが、どうだ?」
どうだ?と言われて思い出す。ただ普通に暮らして普通に学校に行って、そして死んだ自分の人生を。
そうか・・・。何もやらずに死んじゃったんだもんな。
何かそれこそ歴史に残ることなんか自分に出来るとは思ってなかった。でも、今までの自分を思い返しても何も浮かばない人生で終わり、というのも寂しいだろうか。
「わかりました。お受けします」
「おお、受けてくれるか。それでは現地の生活に困らないように最低限のことは保障しよう。向こうの常識と農民としての知識と・・・」
「現地にはこのままの姿でしか転生できないんですか?」
「いや現地では黒髪黒目という人間はほとんどいない。だから外見も変えることにはなるが」
外見も変える。その言葉を聞いたときには反射で叫んでいた。
「では、美形にお願いします!!」
「・・・村人Aだが?」
「どうせなら美形がいいんです!」
日本人の例にもれず普通の黒髪黒目。そして中肉中背で身長も平均。顔は不細工ではないけれどどこにでもいそうな顔で特徴をあげろと言われても自分でも困る顔。
だから今まで学校の中でもどこにでもいる級友以上には意識されることもなく。ちょっといいなと思ったクラスメイトにも、勿論意識さえ向けられたこともなかった。
卒業して何年かして同窓会があったら、卒業写真を見て、そういえばこんなヤツもいたっけな。というそれまでは忘れ去られている、そんな人。
自分という特徴をあげてみろ、と言われるとそう答えるしかなかったくらいに平々凡々だった自分。
だから。子供をいっぱい作れ、と言われてもどうとっかかっていいかもわからない。
「・・・あの世界は今本当に男がいなくてな?どんな姿だろうとモテモテだぞ?」
「それでも!どうせなら顔がいい方がいいです!」
モテモテって言葉は神でも使うのか?そんが疑問が一瞬浮かんだけれど。
普通でもモテモテ。そう言われても、想像することさえ出来ない。それこそ三つ下の妹にでさえ男としての存在感がまったくないと言われる程の身としては。
「うーん。そうすると基本的なことを入れる魂のリソースが足りなくなるぞ?現地の言葉まではなんとかなるが、知識が入らなくなるが」
「それでもいいので美形にしてください!」
だって。平々凡々な同じ両親から産まれたはずの兄と妹は、顔立ちがはっきりしたいわゆるクラスには一人二人はいる顔がいい部類に入る顔だった。そのせいで自分には友人と言っていいだけの友達さえ何人かしかいないのに、いつも人に囲まれていたのをずっと見てきたから。
どうせ生まれ変わるなら、望んでも手に入らなかったその立ち位置を一度でいいから体験してみたい、と思ってしまったのだ。
「・・・まあいいか。それが本人の希望ならな。予定とは違うが子供を増やす、という条件に合うことは違いないだろうからな」
「え?」
「では顔の変化と読み書きと・・・残りはまとめて祝福にしてみるか」
「あ、あの?」
なんだかそんなに美形と望むのが悪かったのか?だって別に勇者みたいにこう人類最強兵器と呼ばれるくらいに剣を強くしてくれ、とか。最強魔法を使えるようにしてくれ、とか。こう特殊な技能を望んだわけでもないのに?
「では、な。宜しく頼むぞ。子供をいっぱい作って人口減少を少しでも防いでくれ」
「ええっ、ちょっ」
なんかイヤな予感にやっぱり普通でいいです。という言葉を言う機会が訪れることはなく。
気が付いたら確かにあった筈の足場の感覚が無くなっていた。
「うわあああああああぁっ」
光しかない世界の中をおちる。落ちても落ちても底もなくただ白い世界を。
「ちょっとっ、これ、どこまでっ」
どのくらい落ちたのか、もう下も上も感覚さえ無くなって、そして世界はまたまた白く暗転した。
で、目が覚めるとそこは異世界だった。
そこではすべてが生まれ変わって。新しい今までとは違う、それでも多分『普通』の日々を送ることになる。それこそ村人Aとして。
・・・はずだった。そうなるはず、だった!
のに何故か俺は、全力で逃げる生活を送ることになったのだ。