はいいろせかい
あるところに女の子がいました。
女の子は、おばあさんと暮らしていました。
けれどある冬、おばあさんは春をまたずに病気で亡くなってしまいました。
なげきかなしんだ女の子は、おばあさんを庭に埋めました。
春がきて鳥がうたい。
夏がきて蝉がさけび。
秋がきて山々がこがねに染まり。
冬がきて世界がまっしろになっても。
女の子の涙はかれることなく、やがてあたりの色をとかし、すべてをはいいろに変えていきました。
ある時、女の子の家に旅人がやってきました。
「ひと晩、とめてはもらえませんか」
女の子はこころよく受けいれ、はいいろの家で、はいいろの食事で、はいいろの布団で旅人をもてなしました。
翌朝、はいいろの女の子へむけ、旅人はいいます。
「お礼に、この種をあげましょう」
女の子は種をおばあさんのお墓のそばに埋め、たいせつにそだてました。
春はみどりの芽がのぞき。
夏はこげちゃの枝を伸べて。
秋はまっかな葉をちらし。
冬はまっしろな世界に、ただ、たたずんで。
つぎの春、りっぱに成長した木は、みごとな花をさかせました。
庭はいちめんの、さくらいろ。
みあげる女の子の頬や唇にもいろがさし、いつしか、なみだはとまっていました。
数日後、女の子の家に旅人がやってきました。
まえにであった、あの旅人です。
なないろの庭と、いろをとりもどした女の子へ手をのべ、いいました。
「世界は、もうずいぶんとはいいろにつつまれてしまいました。けれどあなたは、あなたのいろをとりもどすことができた。どうか、私といっしょにきてくれませんか」
女の子はよろこんで、旅人の手をとりました。
さくらいろの女の子は、旅人となり。
なないろの庭には、もうだれもいません。
それでも花は、いくどもさきつづけ。
春によろこびをうたい。
夏にいのちをいだき。
秋にときをおしみ。
冬にわかれを、みおくって。
やがて春をまたずに、枯れくちていったそうです。
了