表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

第九話 : 離脱と追行


本の絨毯に乗ってから出口に来るまで、本当にあっという間だった。


「クッソ〜まさか本当に角の上に座らせるなんて...」

「乗せてもらっただけありがたいと思いなさいよー。」

「へいへい、じゃあさっさと出るぞ」


アーサー出口のボタンを押した。

とびらは音を立てて開き始め、外の光が差し込んできた。

ーーー直後。


「アーサー!!!!来るなああーーーっっ!!!!」

「えーーーーーっ」


突然のクラウドの叫びに対応できず、彼の言葉の意味を理解した時にはもう遅かった。


その隙にセインはアーサーの横をすり抜け、シャロンが手にしていた本を奪い取った。


そして、三人が状況を把握した頃には、もうすでにセインは逃走を始めていて、三人からは少し離れた場所でいつものように微笑んでいる。


「おっ...おい、セイン。

これは一体どういう事だよっ!?本を返せ!」

「それは悪いけどできないね。」

「セインっ...貴様ぁーーー!!!」


クラウドはセインに近づこうと一歩踏み出したが、シャロンがそれを引き止め、何とか踏みとどまる。


「まあまあ皆さん。そんなに恐い顔しないで。君達には悪いけど、僕には僕の使命があるんでね。」

「使命?だってセインは確か、"魔王の調査"をしているってーーー」


アーサーが尋ねた所、セインは可笑しそうに腹を抱えて笑い出した。アーサーの表情は少し険しくなる。


「あはは...ああ、すまないね。

そんなの本気で信じていたんだと思うと可笑しくて...。」

「何ぃっ!!?」

「いや、しかし。本当にクラウド君以外は気付いてなかったらしいね。全く、期待はずれだったよ。

クラウド君、君も大変だねぇ?」

「黙れっ!!!」


クラウドの怒りはそろそろ限界だ。

アーサーも頭の整理がつかず、混乱していた。


「お前は、一体ーーーーー」

「ああ、申し遅れたね。

僕は魔王様直属の一番の部下。

そして他の弱い手下共の司令塔である、セインと申します。」

「なっーーー!!?」


セインの言葉によってその場は凍りついた。


「まっ...魔王の、部下…!!?」

「そう。僕は魔王さまの命により、勇者と言われる貴方たち四人を見張るついでに試していたんだよ。

そして、最優先すべき指令が、"魔王歴伝を手に入れろ"。

この本は魔王様にとっては脅威になりかねないからね。こちらで処分させて頂くよ。」

「!!!」


クラウドを除いた他の三人は、未だに状況を受け入れ難い様子だ。...特にユーリンは。


ずっと黙って呆然と彼を見つめていたユーリンは、ようやく口を開いた。


「じゃあ...ずっと私達の事...騙して...ーーーーー?」

「そういう事だね。じゃあついでに僕から見た君達の評価を教えようか。


まずは...アーサー君。

君の剣の腕は素晴らしい!そこは僕も認めるよ。...しかし、鈍感な上に隙だらけ。そしてさらにお人好し。それじゃあ騙されて当然だね?」

「なっ...!!」


「次はシャロンさん。

君は人見知りのせいで一番探りにくかったよ。そうだなあ...君は、見ているようで見ていない。そんな所かな。何かに熱中すればその事しか見えなくなって、周りは全く見ていない。もちろんそれじゃあ気づかないよね。」

「...っ!」

「そしてクラウド君。君の観察力や直感には脱帽だよ。他の誰よりも頼りになるだろうね。

しかし、気が短い所と他人を頼ろうとしない所が残念だね。もしもっと仲間を頼っていれば、もっと早く僕の正体を暴けたかもしれないのにね。せっかくの力が台無しだよ。」

「きっ...様っーーー言わせておけばっ...」

「クラウドっ!!」


再び一歩踏み出そうとしたクラウドをシャロンがなだめる。


しかし、正直三人が言われた事は大半が図星で、三人はかなり動揺していた。そしてーーーーー


「最後に...ユーリンさん。そうだね...君は...ーーー単純で、一番扱い易かったよ。」

「ーーー!!!」

「君のおかげで物事が僕の思い通りに運んだんだ。感謝するよ。」

「う...嘘...ねぇ、嘘でしょ!?だって...だってセイン...言ってくれたじゃない...!!私の事がーーーーー」

「ちょっ...と待って。まさか...あれを本気にしてた、だなんて...言わないよね?」

「え...ーーーーー」

「あれが本気?...まさか。嘘、に決まってるじゃないか。

僕が、君を?ありえないね。」

「あっ...」


気付けばユーリンの目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

そしてその涙はせきを切ったように次々と溢れ出す。


それを見たアーサーは俯き、そのままセインの方を向いた。


「...くもーーー...ンを...せたなーー」

「ん?何だって?」

「よくも...よくもユーリンを泣かせたなっっ!!!!」


アーサーは珍しいほど怒っていた。

彼はセインを思いっきり睨みつけるが、セインの表情に変化はない。


「これは失礼。君はユーリンさんのことが好きだったのかな。」

「なぁっ!!?」


そう言われたアーサーは思わずひるんでしまい、赤面する。

しかしユーリンはまだ俯いたままである。


それを見かねたアーサーは、不意にユーリンの頭にぽん、と手を乗せた。


「...ユーリン、もう泣くな。

ーーーお前には、俺たちがいるだろ。」

「...えっ?」


ユーリンが顔を上げた時には、アーサーはすでにユーリンに背を向け、セインの方へ歩き出していた。


「...アーサー。ありがとう...」


ユーリンは聞こえるか聞こえないかくらいの大きさでそう呟き、精一杯微笑んでみせた。


一方、アーサーは真剣な表情でセインを見つめていた。


「セイン。もういいだろ?本を返せ!!」

「それはできないね。」

「だったら...俺と勝負だっ!!」

「面白そうだね。...でも、今は遠慮させてもらうよ。悪いけど、急いでるんでね。」


セインはそう言い捨てると、アーサー達に背を向けて去って行ってしまった。


「待てっ!!セインーーーっ!!」


四人はセインを追うために、図書館の外に出た。

ーーーーーが、


「なっ...なんだよこれ...!!」


図書館は無数のモンスターによって包囲されていた。


「くそっ...セインのしわざか...!」

「つくづく抜かりのない奴だな...」


モンスター達が目をギラつかせながら一斉にアーサー達に襲いかかってきた。


それを合図に戦闘は開始された。


数はあるが、一体一体はたいしたことはない。アーサー達は着々と敵の数を減らしていった。

しかし、ユーリンはセインの言葉がよほどショックだったのか、応戦しながらもどこか上の空だった。


「ーーーおいっユーリン!!!」

「えーーー」


そんなユーリンを狙って、数体のモンスターが彼女の頭上をめがけてとびかかる。


「きゃっーーー!?」

「ユーリン!!」


アーサーはユーリンを後ろに突き飛ばし、モンスター達を斬り捨てた。


そのまま弱々しく尻もちをついていたユーリン。


「あ、アーサー、ありが」

「何してんだ!!状況わかってんのか?!しっかりしろよ!!」


振り返ったアーサーは、厳しい口調でユーリンにそう言い放った。


「あ...」


アーサーは自分を見上げるユーリンの瞳が今にも泣きそうになっているのに気づいた。


「...っあ...」

「そうね...言う通りだわ...ごめんね、アーサー。」


ユーリンは立ち上がり、俯いたままアーサーの脇をすり抜けていった。


アーサーが何か言おうと振り向いた頃にはもうユーリンはモンスター達と対峙していた。


一瞬、アーサーは目を伏せたが、すぐに顔を上げ戦闘に加わった。











「くそっ!思ったよりも時間を食っちまったな...」


しばらくした頃、周りを包囲していたモンスターのほとんどが四人の手によって灰に変えられており、モンスターは残り数体となっていた。


「さぁどうする?まだ戦うか?」

「うぐぅ...」


クラウドの挑発的な言葉にモンスター達は後ずさる。


「助かりたいなら質問に答えろ。

セインはどこへ行った?」

「それは......っ」

「答えられないのか?

だったらお前らもーーーーー」


クラウドはモンスターを睨みつけながらゆっくりと彼らに近づく。


「ひっ...ひいぃっ!!!

いっ、言います言います!!!

言いますから許してくださぁぁぁいっ!!!」

「...よし」

「セイン様は、その...たぶん魔界の入り口に向かったのではないか...と」

「魔界の入り口?どこなんだ、それは。」

「それは...あの森を抜けたところにある丘です。」


モンスターが指差した先は深い森があり、そっちは確かにセインが向かって行った方向だった。


「そこに奴はいるんだな?」

「はっ...はい!たぶんーーー」

「...分かった。アーサー、そいつらは任せた。ーーー俺は先に行く」

「えっ!?ちょっ...クラウド!?」


引き止めるアーサーに構わず、クラウドは走り去ってしまった。


「おまえらだけでもここで消し去ってやるーーー!!!」


モンスター達が三人の背後に襲いかかる。


だが、アーサーは振り返りざまに剣を抜き、そのままモンスター達を一気に斬り払う。先ほどまで三人に襲いかかっていたモンスターたちは一瞬で全て灰に変わってしまった。


「俺たちも急ぐぞ!!」

「うん!!」


三人はクラウドの後を追うために 、そして本を奪い返すため森へ向かった。





お久しぶりです、由豆流です!

約2ヶ月ぶりの更新となってしまいました...

何と何と、セイン君まさかの(でもないか?笑)裏切り!!そして怒るクラウド!!失恋のユーリン!!奪われた本は無事に取り返せるのでしょうか?次回もお楽しみに!

(次はもう少し早く更新します〜)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ