第六話 : 思惑と出発
「まぁ、本当に倒してくれたの!?」
「えっ...」
村長の家に帰るなりメロがそう言い、四人は目を丸くした。
「えーーーっ!!!冗談だったのかよ!!」
「嘘ですよ〜嘘!!倒してくださってありがとうございます。
おじいちゃんも喜んでますよ。」
「...おー生ハムとオレンジジュースあんがと〜」
「そっちかよ!!!」
「...で、例の本の場所はどこなんだ?」
「あぁ、そうでした。」
メロは地図を取り出し、机の上に広げてみせた。
「えーっとですね...レヴェリア王国という国の図書館にあると思われます。」
「レヴェリア王国?」
「この村の東にある大国だね。芸術の都と呼ばれていて、美しい街並が有名なんだ。」
「あ、セイン!!おかえり!」
いつの間にか四人の後ろに立っていたセインにユーリンが駈け寄った。
「へー、詳しいな、セイン!
大国だったらおいしい物とかいっぱいあるんだろうなぁ〜」
「そうだね。特産はパイナップルだったかな?」
「かぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」
セインが説明している最中、突然大声で村長が叫び出した。
「お?まさか、またヒントになるようなことを...!?」
「パイナップルは熱帯アメリカ原産のパイナップル科の多年草であり、パインと略されることもある。また、果実だけをパイナップルと呼び、植物としてはアナナスと呼ぶこともあり、本来は松の果実で...」
「なんでパインの知識は豊富なんだよ!!?」
パイナップルの説明をひととおり終えると、村長は再びしゃべらなくなった。
「とにかく、その国の図書館に行けば、魔界に関する本が手に入るんだな?」
「はい。たぶん。」
「たぶん!?」
あまりの衝撃発言に、四人はメロに詰め寄った。
「本当にあってんの、その言い方!!」
「やだなー冗談ですよ冗談!本当ですってばーちゃんと調べましたし〜。」
「そんなあやふやな情報信じられるか!!」
「"たぶん"とは推量の意では相通じて用いられ、過去の推量にも用いられる。なお、類義語は“おそらく”“どうやら”であり...」
「村長が今度は“たぶん”の説明してきたー!!」
とにかく5人は曖昧ながらもメロの話を信じてレヴェリア王国を目指すことにした。
「ーーーシャロン」
「ん?なに?クラウド。」
クラウドに呼び止められて振り向いたシャロン。
「身体は...大丈夫か?」
「...へ?」
「スライムの毒、受けただろ?」
「え?あ、うん!ユーリンが治癒魔法もかけて薬草もくれたからもうすっかり平気!」
「そっか。よかった。」
「...クラウド、ごめんね。私を守ってたせいでこんな傷だらけになっちゃってーーー」
「いや…いいんだ」
シャロンの言葉をクラウドは強く遮った
「俺は大丈夫だ。シャロンが無事なら問題ないから」
「ーーーっ...」
そう言ってクラウドは穏やかに目を細めて笑った。
いつもは厳しい顔ばかりしているクラウドが見せたその優しい笑顔にシャロンはーーー
「クラウドオオオオオオオ!!!」
「んぐっ!?」
何の遠慮もなしにクラウドの背中に突進してきて激突したのはもちろんアーサーだ。何やらたくさんの薬を手に持っている。
「もう傷は大丈夫かっ!?身体がまだ痺れてツライんじゃないかっ!?アーサー助けてー!って言いながら泣いてたって話は本当かっ!!?」
「言ってないし、泣いてない!!適当なことを言うな!」
「...クラウド、身体まだ...」
シャロンの申し訳なさそうな視線を感じたクラウドは、アーサーをぶん投げて彼女に向き直る。
「いや、本当に大丈夫だから。心配しないでくれ。」
「...うん、でも今日はもう休もうか。私も部屋に戻るね。」
「え、シャロン...」
「おう!また明日な、シャロン!」
「うん、おやすみアーサー、クラウド!」
そう言ってシャロンは足早に部屋へと戻って行った。
「...」
気を遣わせてしまっただろうか。
本当にたいしたことないのに。
ーーーシャロンが無事なら。
「う、いてて...」
…だというのに。
「お前が余計なことを言うからなぁ...」
「あ、そうだクラウド!メロにな、薬いっぱいもらったからこれで痺れを治せるぞ!!だからもう泣くな!!!」
「泣いてない!!!薬も不必要だ!!俺よりもユーリンの所に届けてやれ!!!」
「クラウド〜どこ行くんだよ〜大丈夫だ、泣いてるお前もかっこいいからな!!!」
その後一秒と満たない間に、アーサーのみぞおちにクラウドの本気の膝蹴りが入ったのは言うまでもない。
「ううぅ...クラウドのやつ、いくら俺でもファイターの膝蹴りはダメージすごいからな...」
アーサーは腹の辺りを押さえながらトボトボと歩いていた。
するとーーー
「あれ、アーサー君。どうしたの?辛そうな顔して...その薬は?」
セインがこちらに向かって歩いてきた。不思議そうな顔でアーサーの顔と手の中にある薬を交互に見つめている。
「あー...クラウドに蹴られた。あとこの薬はユーリンにあげようと思って...」
「そ、そうなんだ...。あ、薬なら僕がユーリンさんに届けるよーーー」
「ダメだ!!」
セインの伸ばした手を強く払いのけた。
予期せぬ出来事にセインは思わず呆然とアーサーを見つめる。
「俺が届ける!!!俺がユーリンに届けるからなっ!?」
呆気にとられているセインの脇をすり抜けるアーサー。
そのまま行ってしまうかと思いきや、彼は一度セインを振り返り、
「あ、セイン、大丈夫だ!
俺はおまえも好きだからな!!」
「...は?」
「じゃっ!セインも早く休めよ!」
誤解しか招かないような発言を残して走り去って行った。
「...これからはちょっと二人きりになるのはマズそうかな...」
そして案の定、セインには誤解されていたのだった。
次の日の朝。
メロと村長は五人のお見送りをするためにわざわざ早起きしてくれたらしい。
「世話になったな、ありがとう。」
「いえ。お礼を言うのはこちらの方です。スライムまで倒しに行っていただいて...本当にありがとうございます。...これお礼です。」
「え、いいの?もらっちゃって」
「はい、どうぞ!」
メロがくれた箱を開けてみると、中にはーーーーー
「俺らが買ってきた生ハムじゃねーか!!!」
「はい!一番賞味期限が長いものを差し上げます!」
「もっとこう役立つ武器とか...いや、もらっとくけどな。ありがとう...」
「ーーー勇者様」
突然、メロは真剣な面持ちになって言った。
「本当にお気を付けてくださいね、ここからレヴェリアまでの道のりはモンスターがとても多いと聞いていますので...」
「大丈夫よ!心配してくれてありがとね。」
「いえ、心配というよりももしレヴェリアに行くまでにみなさんに何かあったら道を教えた私たちにまで面倒事がふりかかったりしたら嫌だなぁって思いまして」
「メロ、もうしゃべらなくていいわヘコむから。」
「...あら、冗談なのに。
ーーー本当にどうかご無事で。」
「大丈夫!俺たちは勇者だからな!」
アーサーはそう言って自分の胸をトンと叩いてみせた。
そして五人は村長の家を発った。
遠ざかっていく二人に手を振っていると、村長がメロに何かを耳打ちしているのが見えた。
「村長何て言ってるんだろう?」
「ひょっとして俺らにお別れの言葉を言おうとしてるんじゃないのかー?」
そんなことを言っていると、メロは口に手を当ててこちらに向かってーーー
「おじいちゃんが次は焼酎とピスタチオを頼むって言ってますーーー!!!」
「最後までパシる気かよ!?もう買わねーよ!!またな村長、メロ!!」
こうして五人はエルダ村を出発し、次なる目的地、レヴェリア王国を目指すのだった。