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第四話 : 波紋の朝


次の日の朝。


「遅いぞーユーリン!!」

「ごっ…ごめんっ!!」


ユーリンが自分の部屋を出ると、みんなはもう集まっていた。

ユーリンはちらりとセインの方を見る。


「おはよう、ユーリンさん!」

「あっ…うーーー」


セインは何事もなかったかのように微笑んだ。ユーリンは堪えられず、顔を真っ赤にしてそっぽを向く。


「…ユーリン?」

「なっ…何でもないわっ!!」

「ねぇ、早く行こうよ?」


セインはそう言うと、ユーリンの手を握った。


「ちょっ…ちょっとーーー!!?」


そのままその場を立ち去る二人を残りの三人はぼんやりと見つめた。


「…何だ?あの二人ーーー」

「さぁ…?何かあった…のかな?」


クラウド達がそんな会話をしている中、珍しくアーサーは無言だった。


「何なんだ?この気持ちはーーー」

「ん?どうした、アーサー」

「あ…いや。俺達も早く行こーぜっ!!」

「?ああ。」


アーサーは苦笑して二人の後を追った。シャロンはそんなアーサーを少し悲しそうに見つめていた。


そして朝食。

ユーリンは相変わらず横で微笑むセインに照れまくっていた。

アーサーはそれをぼんやりと眺めている。


「…アーサー?」

「…えっ?あっ…あぁ…ごめん、シャロン。どうした?」

「…」


シャロンはそんなアーサーを心配そうに見つめ、声をかけた。

アーサーは返事はしたものの、ほとんど上の空だった。


「…大丈夫?」

「…え…何がーーー?」

「ぼーっとしてるから…どうしたのかなって…」

「ああ…その…。

なぁシャロン。ちょっと俺の話聞いてくれないか?」

「うん!もちろんだよ」


朝食が終わると二人はアーサーの部屋に向かった。クラウドはそれを少し不機嫌な様子で見ていた。





アーサーの部屋。


「…それで、どうしたの?」

「…それが、心臓が痛いんだ」

「…はい?」


きょとんするシャロン。


「びょっ…病気ってこと!?」

「!!?かもしれん!!」

「たた、大変!どうしよ…。

どういう時に痛むの?」


アーサーは自分の胸に手を当てて真剣な面持ちのまま答えた。


「うん…朝食食べる前ぐらいから…何かセインとユーリンが一緒にいるのを見るとこう…ぎゅう〜と痛むんだよ…」

「えーーー」


シャロンは再びきょとんとした表情になる。


「それだけじゃないんだ。今もあの光景を思い出すと…うっ!!ぐあっ!い、痛い痛い痛い!!」


胸を抑えて転がりだすアーサー。ふざけているようだが、アーサーはこれでも至って真面目なのだ。


彼の背中をさすりながら、シャロンは沈んだ声で言った。


「…アーサー。それはね…“恋”って言うの。」

「…恋?」

「そう。」


シャロンは言うかどうか少し迷ったが、苦笑した後、言った。


「アーサー、ユーリンの事…好きなんだよ」

「そりゃあもちろん好きだ!!仲間なんだからな!シャロンもクラウドも俺は好きだ。」

「や、そうじゃなくて…」


アーサーの底抜けの鈍感さにシャロンは少し困った様子を見せた。


「じゃあ…さ…。ユーリンじゃなくて私がセイン君といたら…どうかな?」


そう言われて、アーサーは頭の中でシャロンとセインが仲良く話している場面を思い描いてみた。


「…うーん。別に痛くならないなー。何でだろ?」


アーサーは不思議そうに首をかしげた。シャロンは一瞬悲しげな表情を浮かべてから、少し俯きぎみに言う。


「…つまり、ね。それは…私よりもユーリンの方が…アーサーは好きってことなの。アーサーはユーリンに、恋してるのよ」

「恋してる…恋…恋…?」


アーサーが少し赤くなっているのを見たシャロンは自分の想いを自分の中だけに留めておくことに決めた。


「…そう。“恋”、だよ」

「そうか…これが恋か…でも、ユーリンはセインに恋してるんだよな…え、じゃ、じゃあ俺の恋はどうなるんだ!?」

「大丈夫だよ。アーサーならきっと両想いになれる…。…私、アーサーの恋、応援してるからねーーー」

「ありがとう!俺、頑張るからな、シャロン!!」


そう言ってアーサーはダッシュで部屋を出て行った。


シャロンがその場に立ち尽くしていると、しばらくしてクラウドが部屋に入ってきた。


「…シャロン、もう話は終わったのか?」

「うん…。…クラウド、私…私ーーーーーー」


シャロンの目はいつの間にか涙であふれていた。クラウドは少し困惑する。


「おっ…おい…どうしたんだよ…?」

「ーーーーーっ」


シャロンはクラウドの胸に飛び込んだ。クラウドはワケが分からず赤面しつつも、シャロンの背中をさすった。


その後、五人は宿を後にし、村長の家へと向かった。


その間もユーリンとセインは二人でずっとしゃべっており、後の三人は終始無言であった。







村長の家に着いて扉を叩くと、すぐにメロが出てきた。


「おはようございます、みなさん!さぁ、入ってください。」


部屋に入ると、すでに村長が椅子に座って待機していた。相変わらず起きているのか眠っているのか分からないが。


「何か…分かったことはあるか?」

「一晩調べてみたんですけど、ある図書館に魔王歴伝が保管されているという情報を掴みました。」

「え?その図書館ってどこ!?」

「え〜?」


メロは質問に答えようとせず、妙にもったいぶった態度をとっている。


「…メロ?何で教えてくれないのよ?」

「いっやぁ〜。ちょっと貴方がたにお願いがありまして。」

「お願い?」


メロは笑顔で頷くと、懐から地図を取り出して広げ、ある場所を指差した。


「この村の南にある洞窟なんですが、実は最近、スライムがここに大量発生していまして…。よく村の住人達が襲われていて困ってるんですよ。

だから、倒しにいってくれません?」


地図を見る限り、さほど距離はない。しかし、あまり寄り道もしてはいられない。


「えっと…私たち、急いでて…」

「そうですか…。それじゃあ、図書館の場所も教えてあげることはできませんね、残念。」


メロは大げさに肩を落として、地図をせっせと片付け始める。


「ちょっ…!!本当に本の在り処を教えてくれるんだよな!?」

「ええ、もちろんです。スライム討伐が先ですけどね。」

「…分かった。引き受けよう。」

「そうこなくっちゃ。」


メロはニコリと笑った。


(この子…かなり腹黒いな…)


彼女の笑顔に恐ろしいものを感じずにはいられない五人であった。






「意外と凶暴らしいので、気を付けてくださいね。」

「分かった。任せとけ!」


メロが玄関でお見送りをしていると、部屋の中から村長がやってきた。


「おじいちゃん!どうしたの?」

「…ーーーー…」


アーサー達を指差して何やら口をもごもごと動かしている。


「ひょっとして何かねぎらいの言葉でも送ってくれるのかしら。」

「…をの…む…」

「何て言ったんだ?」


村長の口元に耳を澄まし、メロは言った。


「“帰りにオレンジジュースと生ハムを買ってきて”って言ってます。」

「パシリかよ!!それ言いにわざわざ来たのか!!」


二人に見送られ、五人は洞窟へと向かった。







アーサー達が村を出ようとした時、不意にセインが立ち止まった。


「どうしたの、セイン?」

「うん。僕は洞窟には行かないよ」

「えっ!!?」


全員のセインの方を振り返った。

セインは変わらず笑みを浮かべている。


「村の住人もよく襲われるって言ってたよね。僕達が洞窟に行ったせいでスライム達が刺激されて村を襲うことも考えられなくはないからね。僕はここに残って村に現れるスライムを片付けるよ」

「なるほど!さすがセインね!!」


ユーリンは目を輝かせて言ったが、他のみんなはあまり納得していないようだった。…特に、クラウドは。


「ねぇ、だったら私も一緒に残りたい! 」

「ユーリンっ!!」


アーサーはユーリンを止めようとしたが、ユーリンは聞いていなかった。セインは苦笑してユーリンに歩み寄る。


「ありがとう、ユーリンさん。だけど、ここは僕一人で大丈夫だから。ユーリンさんはみんなと一緒に行きなよ?」

「でも…」


ユーリンは不安気な表情を浮かべた。が、セインはユーリンの頭にぽん、と手を乗せて微笑むと、たちまちユーリンの表情は一変した。


「分かったわ。気をつけてね?」

「ありがとう」


その後、セインはその場を去った。クラウドはその後ろ姿を、何か言いたげに睨みつけていた。


「じゃ、行くかーーー!!」


四人はそれぞれ思いを抱えながらも、再び洞窟へ出発したのだった。





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