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第三話 : 変化の夜


「隣の村、近ぇー!」

「レーボン村って小さかったもんね!」


歩いて数時間。隣の村に到着した。


「ここは最古の村、エルダ村だよ。」

「へぇー!ここはさっきの村よりは大きそうね。」

「じゃ、早速村長の所へ!!

行くぞーーーっ!!」

「「おーっ!!」」


アーサーが盛り上げてみたものの、やはりクラウドは不機嫌だった。


険悪な雰囲気のまま村を歩いていると、突然悲鳴が聞こえてきた。


「きゃああ!!助けてっ!!誰かーーーっ!!!」


声のした方へ向かうと、一人の女の子がモンスターに襲われている!!ドロドロしたスライムみたいなモンスターだが、スライムほど弱くはなさそうだ。


「待ってろ!今助けるっ!!」


アーサーは剣を抜き、振り上げた。

ーーが、直後。アーサーの右腕に激痛が走った。


「いっ…ーーーー!!」

「アーサー…っ!?」


レーボン村での戦闘の傷が、思ったよりも深かったようだ。シャロンがあわてて弓を構え、矢を射る。

見事命中!…したが、モンスターはまだ倒れない。


「私に任せてっ!」


ユーリンが両手をモンスターに突きつけて、呪文を唱えた。

すると、モンスターは炎に包まれ、うめき声を上げて灰に変わった。


「やった…!!」

「ナイス!ユーリン!!シャロンもっ!!」


アーサーはにっこり微笑んだ。


一方、同じくレーボン村での傷で戦闘に加われなかったクラウドは、笑顔でその様子を見つめていただけのセインをにらんだ。


「お前、何故戦闘に加わらないんだ?」

「そうだなぁ。僕が出るまでも無いと思ってね。」

「ーーーっ!」


クラウドが再びにらみつけたが、セインは平然と微笑んでいる。

ーーー余計に腹が立つ。


「あのっ…ありがとうございました!!助かりました!!」

「いいのよ!このくらいっ!!」


ユーリンは得意気に腕を組んだ。

アーサーはクラウドをなだめつつ、女の子に尋ねた。


「君、この村の娘?」

「はい!そうです。」

「だったら、村長ってどこに居るか分かるか?」

「村長?それなら、私の家に来てください。ご案内します!」

「えっ?」


女の子に言われるがままに、五人は女の子の後を追った。






「着きました。ここが私の家です。」


五人は家に通されて、とある部屋まで案内された。広いわりに物があまりない様子を見る限り、どうやら客間のようだ。


「どうぞ、ご自由にくつろいでいてください。」


そう言って、女の子は部屋を出て行った。


「ふー…じゃあ、遠慮なく…」


アーサーはどさっとその場に座って息を吐いた。


レーボン村を出発してずっと歩き続けてきたので、体の疲労は相当なものだった。


「私もすわろっと。シャロンも座ったら?」

「うん。」

「クラウドも座れば?」

「俺はいい。」


そっけない返事のクラウド。相変わらず不機嫌なままのようだ。


「どうしたのよクラウド。そんなに気を張らなくてもいいじゃない。」

「まぁ…そうなんだが…」


クラウドはチラッとセインの方を見た。


セインは相変わらずの笑顔で部屋に飾ってある絵や花に見入っているようだ。


「そうだぞ、クラウド。ほら、疲れてるだろ?俺が腰揉んでやるよ!」

「断る!俺は腰に傷を負ったんだよ!」

「そっか。じゃあ俺の肩を揉んでくれ!」

「お前も肩を負傷してるだろ!?」


アーサーとクラウドは、そのまま口げんかを始めてしまった。


「うふふ。」


二人の様子を眺めていたシャロンが突然笑い出した。


「どうしたの、シャロン。」

「ううん。…やっぱりアーサーとクラウドは、仲良しだなぁって…。クラウドが一番おしゃべりになる相手って…アーサーだもん。

私としゃべる時は、あんまり目を見てくれないもんなぁ…。」

「…照れてるだけよ。」

「え…?」

「…何でもないわ。」


「すいません、お待たせしました!

おじいちゃん、こっちこっち!」


さっきの女の子が白髪の老人を連れて部屋に戻って来た。


「おじいちゃん。この人達がおじいちゃんに会いたいって言ってたのよ。」

「あ、もしかしてこの人が村長さん?」

「はい!私は村長の孫です。メロって呼んでください!ほら、おじいちゃん。」


村長の目は開いているのか閉じているのかも判別できないくらい細い。と言うよりも、起きているのかも怪しい様子だった。


それでも、アーサー達には尋ねなければならないことがある。


「村長さん、こんにちは!俺たちは魔王にさらわれたお姫様を探してるんですよ。」

「…」


村長は全く反応しない。


「あの…もう少し大きな声でお願いします。」

「あの!俺たち!魔王にさらわれたお姫様を探してるんです!!!」

「覇王に触られたおヒゲ様?」

「メチャメチャじゃねぇかよ!」


その後もしばらく村長に話しかけてみるも…


「魔王に!!」

「甘王に?」

「さらわれた!!」

「サワラ得た?」

「お姫様を探してるんです!!」

「オカメ様を剥がしてるんです?」

「うわーーーもう嫌だーーー!!」


結果は散々であった。


「すみません…おじいちゃん、耳が遠くて…。ところで、何を聞きに来たのですか?」

「えっと…魔界に居るという魔王について何か知らないか、と思って…」

「…魔界?」


メロが聞き返した直後、村長が大きく目を見開いた。


「かあああああーーーーー!!」

「えっ!!!?」


全員あわてて村長を見た。


「古く、この地が魔王に支配されし時…四人の勇者が現れ、魔界へ向かい、魔王を封印した…」

「「…??」」

「その封印が解かれし時、再び勇者達はこの地に現れ、書を手にし、魔界へ向かい、世界を平和に導くだろうーーーーー」


そこまで言い終えると、村長は何事もなかったかのように素に戻った。みんなポカンとした様子で村長を見つめる。


「ーーー魔王、歴伝…?」


ふいにシャロンがつぶやいた。


「…シャロン?何、それ?」

「…小さい頃、おばあちゃんから聞いたことがあるの…。”魔王歴伝”っていう本の、冒頭。…今のが、それ…だと思う。」

「本?」

「うん。…でも、その本がどこにあるかは、特定の人しか知らない…って言ってた、気がする。…何の本かは分からない。」

「へぇー…何か参考になるかもな」

「特定の人?じゃあ、もしかして…」


村長とはできる限り会話したくないが、仕方なかった。アーサーが渋々村長に尋ねる。


「村長さん、もしかして、その本の場所をご存知なんですか?」

「…」


またも村長は反応しない。嫌な予感だ。


「あの…村長さん?村長さんっ!」

「…あ。」


メロが村長の顔を覗きこんだ後、苦笑する。


「すみません、おじいちゃん、寝てます…。」

「…嘘だろーーーーーっ!!?

このタイミングでかよっ!!」


アーサーは大きくため息をついた。


「おじいちゃん、一度寝ちゃうとしばらくは起きないんですよー。

…すいません、また明日にでも、もう一度改めていらっしゃってください。」

「分かったよ、ありがとな。」


仕方なくアーサー達は村長の家を後にした。








五人はメロが教えてくれた宿に泊まることにした。


そして、出発してから彼らは初めてまともな食事をしていた。


「お、クラウド、お前いつの間にピーマン食べられるようになったんだ?」

「はっ!?ど、どうでもいいだろそんな事!!」

「よしよし。そんな立派になったクラウドには俺がこのプリンをアーンしてやるよ。嬉しいだろ?さ、口を開けてクラウド。」

「やめろ気持ち悪い!!!」

「ぐばぅっはぁっ!!?殴ることないだろ...」

「はー、やれやれ。シャロン、何かデザート食べよ!」

「うん。…聞いたことない名前のお菓子がいっぱいあって、迷うなぁ〜」

「ユーリン!!プリンにワサビと醤油とチョコソースかけて持ってこい!!」

「だからやめろって!!おい待て!ユーリンも本当にかけるな!!」


セインは大勢で食事をするのは苦手だそうで、先に夕食を済ませてさっさと部屋に戻っていた。


四人はこの時だけは戦いのことを忘れて、和気あいあいと豪華な食事を充分に満喫した。



そして、その夜。

皆よほど疲れ切っていたのか、早々に部屋へと戻り寝入ってしまった。


ただ一人、ユーリンを除いて。


身体は当然疲れており、休息を求めている。が、なかなか寝付けずにいたユーリンは宿の外に出て、ただボーッと夜空の星を眺めていた。


旅に出てまだ一日も経っていないというのに、すでにニスリル国での暮らしを懐かしく感じていた。


騒がしくも優しい日々。

そう、さっきのようなーーーーー


「ーーー…ユーリンさん?」

「えっ!?あ、セ、セイン!?」


いつの間にかそこにいたのか。

セインはユーリンのほぼ真後ろに立っていた。


「ごめんね、びっくりさせて。考え事でもしてた?」


セインはすっとユーリンの横に立った。たったそれだけの事だが、何故かユーリンは少しドキッとしてしまった。


「考え事ってほどじゃないわ。晩ご飯の時のことを思い出してただけ。

何か...ニスリルにいた頃もあんな感じだったなぁって。」

「そうなの?」

「うん。出会った時からそうだった。アーサーがクラウドにちょっかいばかりかけてね。いっつもクラウドを怒らせるのよ。」

「へー。」

「あ、でもクラウドがあんなによくしゃべるのはアーサーぐらいなの。クラウドは普段はもっと無口だから、けっこう冷たい印象を持たれることもあるんだけど、本当は優しーーーーー」

「ん?どうしたの?」


ふと、セインがまじまじとこちらを見つめていることにユーリンは気が付いた。


まっすぐなその瞳にユーリンは思わず言葉を詰まらせた。


「…ユーリンさん?」

「いや、あ、えっと…何か、すっごい見てる、ね…。」

「あぁ、ごめん。クラウドくんのことを話している時のユーリンさん、すごく可愛い顔してるなぁって。」

「…んなっ!?」


不意打ちすぎるセインの言葉にユーリンは不覚にも赤面してしまった。


そんなユーリンもお構いなしにセインは笑って言葉を続ける。


「あ、照れたんだ、ますます可愛い顔になってる。」

「ちょっ...!!な、何言ってんのよ...!!」


あまりの恥ずかしさに耐えられず、ユーリンはセインに背を向け、一度顔の火照りを抑えようとした。が、全く顔の熱は引かない。



「好きなんだね?クラウド君のこと。」

「...だったら、何。」

「いや。ユーリンさんみたいに可愛らしい女の子に好きになってもらえるなんて、クラウド君は幸せ者だなぁって思ってね。」

「...お世辞はやめてよ。」

「本当にそう思うけど?」

「だからやめてったら!!」


振り向いてセインを睨みつけるユーリン。


セインに悪気はない。これが嫌味じゃないことぐらいは分かってる。

だけど、だからこそユーリンは腹を立てていた。


「何も、何も私たちのこと知らないくせに...!!勝手なこと言わないでよ!クラウドは私なんかに好かれるよりも、シャロンの方がーーー」

「…シャロンさん?」

「ーーーーーあ」


そこで我に返ったユーリンは口をつぐんだ。


「…ごめん、忘れて!おやすみ!」


再びユーリンはセインに背を向け、宿へと歩き出す。


(クラウド、ごめん…。こんなんじゃ…好きになってもらえないのも当然よね…)


心の中でクラウドの気持ちをバラしてしまったことを詫びながら、ドアノブに手をかけた。


その時ーーーーー


「え…?」


ドアノブを掴むはずだったユーリンの手はセインに握られていた。


「ちょ、ちょっと…!?」

「もし…」


握っているセインの手に力がこもる。


「もしも…僕がユーリンさんのことを好きだって言ったら…どうする?」

「ーーーえっ」

「クラウド君のことなんて忘れて僕のことだけを見てくれる?」

「…っ!?」


セインの黄金の瞳はユーリンを捉えたまま逃がさない。

星空を反射し、よりいっそう輝きを放つその瞳にユーリンは思わず息を呑んだ。


長いような短い沈黙が二人の間に流れた。


「…セ、イン…」

「ーーーあ、ごめん。」


名前を呼ばれて思い出したかのように、セインはゆっくりとユーリンから手を離した。


「じゃあ、また明日。」

「あーーーー」


セインはそのまま一度も振り返ることなく、ドアを開けて自分の部屋へと帰って行った。


満天の星空の中に一人取り残されたユーリンは、いつまでも彼の遠ざかっていく足音を呆然と聞いていた。





こんにちは、Alliesの由豆流です!

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。


ギャグ担当という肩書きのくせにユーリンとセインのシーンは私が書いたのですが、終始恥ずかしすぎて顔を覆っていました。

慣れないことはするもんじゃないですねー。どうでもいいですね!ごめんなさい!


まだまだ続きますので、ぜひお付き合いくださいませ!



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