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番外編:クラウドside <2>



「それじゃ、始めようか」



縄を切られたクラウドは、目の前に置かれた剣を取り、立ち上がる。


久しぶりの剣の感触に、震える手をなんとか抑えて、構えた。



「抜きなよ?」


「何?」


「ハンデだよ。震えているようだし、ね?」


「…はっ、お断りだな。ただの武者震い、だ!」



クラウドの表情が変わる。


その表情に、セインはぞくりと背筋に高揚したような感覚が走る。



「……後悔するなよ?」



ニヤリと笑ったセインに、思わずクラウドは柄を握る手に力が入る。



「行くよーーー」



セインはその言葉を言い終えると同時に地面を蹴り、一気に間合いを詰めると、クラウドを目掛けて剣を振り下ろす。


「ーーっ!!」


クラウドは剣を鞘から抜く暇もなく、すんでのところで鞘ごとセインの剣を受け止めた。


そのままセインは連続で斬り込み、鞘を抜く少しの隙すら与えない。


「ほらほら、どうしたんだい?!」

「〜〜っ!!」


クラウドはまたも振り下ろされた剣を、今度は受け止める直前で思い切り弾き返し、そのまま柄の部分でセインの脇腹を突く。


セインはしなやかな動きでそれをかわすが、その隙に背後に回ったクラウドは、鞘から剣を引き抜きざまに、反対側の脇腹から腕狙って剣を振り上げた。


「おっと…」


セインはすぐに体勢を変え、剣でそれを受け止める。


「…これは、久しぶりに楽しめそうだ。ねぇ、少しだけ、本気を出していいかい?」

「なっーーー」


不敵に笑ったセインは、直後、クラウドの視界から消え、右後方の方から攻撃を仕掛ける。


それをなんとか防いだクラウドだったが、またも視界から消え、今度は左斜め前方の方から仕掛ける。


クラウドは様々な角度から仕掛けられる攻撃を、ギリギリのところで防いでいたが、まだ残る身体の痛みに少し動きが鈍り、徐々に押され始めていた。


セインの剣が度々、クラウドの腕や肩を掠めていく。


防戦一方のままのクラウドは、なんとか隙を見つけて剣を振るうが…

何度やってもひらりとかわされるか、軽く受け流され、セインには一切傷を負わせることが出来なかった。


「…くそっ……!」

「君の実力はこんなものかい?」


直後、セインの剣がクラウドの頬を掠めた。


不覚にも、一瞬そちらに気を取られたクラウドは、再び迫る攻撃への反応が、ほんの少しだけ遅れる。


ーー避けきれない!!


左脇腹に激痛が走る。


「…うっあ……」

「咄嗟に致命傷は避けたね。さすがだよ」

「…どう…すればーーー」


技術もスピードも、圧倒的。


今のクラウドでは防ぐのが精一杯だった。


隙も全く見当たらない。


…いや、正確には、攻撃で防御をカバーして隙を見せないようにしている?



ーーそうか、それなら。



セインはクラウドが剣を構え直すのを確認すると、再び斬りかかった。


しかし…


今度はその攻撃を一切防ぐことなく、セインの攻撃に合わせて思いっ切り斬りかかってゆく。


「なっ…?!」



ひるむな!


攻めろ!


突破口は、これしかないーー!


クラウドの傷はますます増えていくが、同時にセインにも少しずつ剣が掠り始める。


クラウドは攻めながらも、セインの隙を伺っていた。


このままでは終わらせないーー



せめて、一太刀。



その時、このままではまずいと判断したのか、セインは一旦間合いを取るために攻撃を止め、後方に退こうとした。


ーーここだっ!!


クラウドはその一瞬の隙を逃さず、一気に間合いを詰めると、渾身の力を込め、大きく剣を振り下ろした。


「うっ…わーーー?!」

「もらったぁぁぁっ!!!!」


咄嗟に体をひねったセインだったが、クラウドの振り下ろした剣はセインの右肩を直撃。

セインはその痛みに思わず表情を歪め、身体をよろめかせた。


「やったーーー」


クラウドの顔が思わず綻ぶ。


そうしていたのも束の間、顔を上げたセインは、意味深な笑みを浮かべていた。


「……は、はは。こんな傷を負わされるのはいつ振りかなぁ…。君、本当にすごいよ。…どうやら僕は、君を見くびっていたらしいーー」


ふっ、と笑みを消したセインの表情に、クラウドは背筋が凍りつくような恐ろしい殺気を感じ取る。


一切の声も、発せないーーー。



「ーーここからは、本気で行かせてもらうよ」



「ーーーーっ!!!!」


その言葉を最後に、次の瞬間にはもう、クラウドの目の前に剣が迫っていた。


「まっーーーー?!!」


先程までとは比べ物にならない程のスピード。


何とか咄嗟の対応力でカバーしたものの、あまりの勢いに耐えきれず、そのまま後方へ吹っ飛ばされる。


体勢を立て直すが、一瞬ひるんだクラウドが向き直った頃には、すでに目の前でセインが剣を振り下ろす所だった。


咄嗟に突き出したクラウドの剣はあっさりと弾き飛ばされ、その反動でクラウドはその場に尻餅をついた。


次に顔を上げた頃にはーーー


目の前に剣先が突きつけられ、セインは普段通りの笑みを取り戻していた。



ほんの、一瞬の出来事だった。



「……勝負、あったねーー」


「……。」


クラウドは悔しげな表情を浮かべ、静かに両手をあげた。


「……俺の負けだ」


「ありがとう、楽しかったよ。」


セインは突きつけていた剣を下ろし、鞘に納めた。


「…にしても、かなりの腕前なんだね。正直想定外だったよ。」

「……。」

「今からでも剣士を目指したらどうだい?アーサー君に負けたのも、彼が異常すぎるだけだとーー」

「…っ黙れ…っ!!お前に何が分かる!?」


クラウドは右手で作った拳を強く握りしめ、思いっ切り床へと振り下ろした。


「くそ…っ!くっそ…!!っ何で、勝てないんだよ…っ!!!」


再度右手の拳で、先程よりも強く床を打つ。


「っ俺が…!勝ってさえ、いればーー」


…あいつらをこれ以上危険な目に合わせることも、迷惑をかけることも、無かったというのに。


どうしてこんなに、俺は無力なんだ…。


床を打った右手は血が滲み、じんじんと痛みが伝わってくる。



もうすでに、身も心も限界だった。



「…はぁ、まだ分からないんだね。」

「……何?」

「君の才能も、能力も、思考力も、確かに素晴らしい。でも、それじゃあまるで、君一人で戦ってるみたいだよ」

「黙っーーー!!!」

「それが、君の弱さだって言ってるんだよ」

「………っ」



クラウドは返す言葉もなく、ただ唇を噛み締めた。


ーーその時。




「いやぁ、君、すごいなぁ。」




突如響いたその声にクラウドは顔を上げ、声の主を睨みつけた。


「ああ、魔王様。御覧になってらっしゃったのですか。」

「魔王……?」

「あぁ…クラウド君、紹介するよ。こちらが魔ーーー」

「はっはっはー!!当たり前だろう!何と言ってもこの俺様の手下になるかもしれない人間なんだからな!俺様の目で確かめなきゃな!」

「はいはい、そうですね。クラウド君、こちらが魔王だよ」


部屋の奥から現れたのは、一見魔王には見えない普通の男だった。


人間っぽい容姿をしているが、よく見れば頭には二本の角、長い耳に長い爪、そして黒い尻尾のようなものが生えている。


どうやら本物らしい。


「…それで、魔王様。実際御覧になっていかがでした?」

「そうだなー。そいつの、正しい事をビシッと決められる所とか、後は何事にも動じない所とか、なかなか良かったぞ!それに何より強いよなぁ!さすがにセインには敵わなかったが、それでも十分だ!気に入ったぞ〜!」

「……なるほど、つまり判断力に優れていて、度胸もあり、強い所が気に入ったと。」

「そうだ。さすがはセインが煮込んだだけのことはあるよな!」

「煮込んだ……?」


セインは少し考えた後、何かに閃いたように、ああ、と手を打った。


「そうでしょう。何と言ってもこの僕が「見込んだ」男ですからね。彼は本当に〝逸材〝ですよ」

「ああ!さすがだ!彼は俺様の〝いちざい〝だなっ!!」

「……え?あー…はい、そうですね」


セインは、はぁ、と小さく溜息をつくと改めてクラウドに向き直った。


「とにかく、クラウド君。これからは、この魔王様の指示に従ってもらうよ。」

「……っ」



クラウドは、静かに覚悟を決めると、セインを睨みつけて言い放った。



「……っ俺は、従わーーーっ」

「はっはっはーーー!!!」

「「!?」」


クラウドの言いかけた言葉を遮り、魔王は突然盛大に高笑いを上げた。


クラウドとセインはギョッとした様子で魔王に目をやる。


「はっはっは!さぁ、我が軍門に下るがいい、勇者よ!!」

「……いや、だから俺は……っ」

「お?おおっ!?おい、セイン!聞いたかっっ!?今ちゃんと練習通りに言えたよな?言えたよなっっ!!?」

「おい、俺の話を……」

「な、セイン!今の俺様、かっこよかっただろっ?!なっ?なっっ!!?」

「……あー、はいはい。魔界一かっこよかったですよ」

「やっぱりな〜!俺様最高ーー!」


「 ……、断る。」


「……え?」


「えっ 。」


クラウドの思わぬ呟きに、セインと魔王はほぼ同時にクラウドへと視線を戻す。


「クラウド君。今、何て?」


「断る。俺はそんな奴の下になどつかないと言っているんだ」


「なっ……!?おいセイン!!話が違うぞ!?これじゃあ俺様、めちゃくちゃカッコ悪い奴じゃないかっ!どうしてくれるっっ!!」


「……っああ、もう!魔王様!少し黙って!!」


セインは額に手を当て、一度小さく深呼吸すると、いつもの穏やかな表情を浮かべてクラウドに尋ねる。


「何故断るんだい?」

「…元々、お前の要求を飲むつもりなんて無かった。それにーー」


クラウドは少し俯き、答えた。


「……あいつらを裏切るなんて、はなから俺には出来やしない。」


クラウドは、初めからセインに従うつもりなど無かった。

勝てば万事解決、負ければ死。

本気でそれほどの覚悟を決めて勝負に挑んでいたことに、さすがのセインも気付いてはいなかった。


「なるほど。僕を騙した、と」

「貴様が無理やりに仕掛けてきた勝負だろう?約束を守る義理など無い」

「…無理やりだなんて、酷いなぁ。僕はチャンスをあげただけで、乗ってきたのは君の方じゃないか」

「だったらあの時、勝負を受けなければ俺はどうなっていた?……用済みで殺していたんだろう。違うか?」

「……はは、そうだね。」


セインは苦笑すると、どこからか銃を取り出し、銃口をクラウドに向けた。


「……全く、無駄な時間だったようだね。意見を変えるなら今のうちだよ」

「……どうしても気に入らないと言うのなら、そのまま俺を殺せばいい。覚悟の上だ。」

「……。」


クラウドは意を決した様子で真っ直ぐにセインを見つめた。


「だがこの意思だけは、何があろうと揺らぎはしない!絶対に、だ!!」


クラウドはセインにそう言い放つと

今度は魔王に目を向けた。


「そういうことだ。」


「ほう。自分の命よりも仲間を取る、と?……いいじゃないか!その意思の強さ!ますます気に入ったぞ!!」


「魔王様っ!」


「まぁ待て、セイン」


まさに引き金を引こうとしていたセインを、魔王が制止する。


セインは少し不満気な様子で、渋々引き金から指を離した。


「どうしても俺様につく気は無いんだな?」


「ああ。」


「……ならば仕方が無いな。」


魔王はそう呟くと、掌をクラウドに突きつけ、不敵な笑みを浮かべた。


その瞬間、クラウドの身体は金縛りにあったようにぴくりとも動かなくなる。


「悪いがまだ死なせてはやらんぞ。」

「ーーーっ!!?」

「あぁ、焦らなくとも、いずれは俺様に従うことになる。だからそれまではーーーおやすみ、だ。勇者君。」


直後、クラウドの視界はまばゆい光に包まれ、彼の意識はそこで途切れた。











「…すみません、魔王様。」

「構わん。」

「…何故、生かしておくのです?」

「まだお前の考えた作戦は残っているのだろう?セイン、感情に任せた行動は身を滅ぼすぞ」

「心得ております…」

「ひとまずコイツは何処かに拘束しておけ。後の作戦は引き続きお前に任せたぞ、セイン」

「承知しました」

「そうヘコむなセイン!まだチャンスはあるだろう。アイツを使え」

「あ、あれを使うのですか…?」

「ああ。あの森なら好都合だろう。違うか?」

「…………分かり、ました。お任せ下さい」

「うむ!頼んだぞ!」


魔王は満足気にその場を去って行った。




セインは床に横たわるクラウドの姿を一瞥し、すぐに視線を逸らした。


ーー魔王様は、優しすぎる。


一度大きく息を吸い、ふっと短く息を吐く。


「…魔王様も、簡単に言ってくれるよね」


次の作戦の鍵となる人物のことを考え、思わずセインは苦い表情を浮かべていた。




鳳月でございます。

クラウドside、これにて一旦閉幕でございます!彼が次に登場するのはいつになるのでしょう……


次回は本編に戻って、難航を乗り越えた勇者達が新たなステージへ!お楽しみに!


誤字脱字の指摘、感想のコメント等々いつでもお待ちしております!!

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