番外編:クラウドside <1>
真っ暗な闇、静まり返ったその部屋でクラウドは目を覚ました。
ーーどこだ、ここは。俺は一体…?
ひどい頭痛を堪えながらも、クラウドは自身の朧げな記憶を辿る。
あの時……。
「…やーーーっいやあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
シャロンの悲痛な叫び声を聞きながらも、クラウドは激痛に身体を動かすことが出来なかった。
その悔しさに血が滲むほど唇を噛み締めた。
「やれやれ…やっと行ったか。本当に手間をかけさせる…」
(こ、の、野郎………っーー!!!!!)
「う……ぁ……」
涼しい顔で隣に立つ男に、煮え返るほどの怒りを抑え切れず声を上げるが、放った声はただの唸り声に終わった。
「セっ…セイン様……!」
「判ってる。さて、どうするかな…」
こちらを見下ろしたセインと目が合う。クラウドは怒りを込めた瞳でセインを睨みあげるが、なお身体を走る激痛に意識はくらむ。
(死ぬのか、ここでーーー)
目の端に映る赤、耐え切れぬ激痛を最後に、クラウドの意識はそこで途切れた。
「シャ、ロン……」
生きていたのか、と実感するよりも先に、クラウドの口からは愛おしい者の名が溢れた。
無事にアーサー達の元へ戻れただろうか。…俺のせいで、悲しませているだろうか。
ーーーいや、今はそれよりも。
クラウドは様々な不安を振り払い、目を開けてゆっくりと辺りを見回す。
…だが、そこにあるのはただの暗闇だけだった。
一先ず身体を動かそうとするも、手首に何かが食い込むような感覚のみで、動かそうとした腕は動かなかった。
…どうやら、縛られているらしい。
クラウドは小さくため息をつき、為すすべがないと、もう一度ゆっくりと目を閉じた。
ーーその時。
「やぁ、やっと気がついたんだね?」
「ーーー!!!」
パチンッと指を鳴らす音が響くと、その部屋の両側の壁沿いに並んでいた松明が、次々と点灯していく。
明るくなった視界に目を細めつつ、クラウドは目の前に立つ人物を確認する。
「……セインーーーーっ!!!お、まぇーーーーーっう、痛…」
「まだ動かない方がいいよ。致命傷は避けたけど、弾は貫通してるからね。」
「っ〜〜〜!!!」
彼は笑みを浮かべながらゆっくりとクラウドに近づいた。
「良かった。あまりにも目を覚まさないから、僕の手元が狂ったのかと思ったよ。気分はどうだい?」
「……っこれで、良いように見えるのか。」
クラウドは動かない腕をセインに見せると、セインはわざとらしく肩をすくめて見せた。
「あはは、そうだったね。でも、突然暴れられても困るからね?」
クラウドは抗議の言葉を飲み込むと、そっと目を閉じて記憶を整理する。
ようやく頭が回り始めると、負った傷の痛みをより強く感じ、少しだけ表情を歪めた。
「何にせよ、まだ生きてて良かったね、クラウド君?何か聞きたい事は?」
「…………。シャロンは、あいつらは、無事か。」
「そんな状態で、一番に仲間の心配とはね。君らしいなぁ。」
「答えろ」
「そうだね…。」
セインは笑みを崩さないまま、続ける。
「アーサー君達は無事だよ。もちろん、シャロンさんも。」
「……」
「…まぁ、君の事で随分と沈んでいたみたいだけどね。特に、シャロンさんは」
「…何を言った」
「僕は何も言ってないさ。何もね」
…つまり、俺が生きている事を、あいつらは知らない…?
「……何故、あの時俺を撃った。よくも話の途中でーーー」
「むしろ、感謝して欲しいくらいだよ。」
「何ーー」
「ああでもしなきゃ、あの時シャロンさんは絶対にあの場を離れなかったよ?…きっと、君と心中してでもね?」
「………そう、だな…。だけどーー」
結果、自分のせいであいつらを悲しませている。迷惑を、かけているーーー。
そう思うだけで、クラウドにとっては何よりも苦痛だった。
…こんな事になるなら、いっそあの時ーー
「どうして……っ」
「うん?」
「…っどうして!あの時……いや、今まで、俺を殺さなかったーーー」
「はは、それは愚問だなぁ。本気で訊いてるのかい?」
セインは可笑しそうに笑うと、目の前に転がるクラウドに冷たい視線を向けた。
……いや、答えはもう分かっている。
「…あえて言うなら、君にはまだ利用価値があるから。だよ」
「……。」
「さて、そろそろ本題に入ろうか。」
セインはパン、と手を叩くと、どこからか、鞘に納められた一本の剣を取り出す。
そして、その剣を床に転がるクラウドの目の前に置いた。
「…どういうつもりだ。」
「僕と賭けをしないかい?」
「賭け…だと?」
「そう。互いの望みを賭けての、真剣勝負。君が今一番望んでいる事は何だい?」
「望んでいること…」
答えはすぐに出た。
勇者としての使命、そして自身の願い。
自らの無事を願わないクラウドにとっての、最善の答え。
「仲間の安全と、姫様の解放ーー。」
「君ならそう言うと思っていたよ。…どんな状況だって君は、仲間を選ぶんだね」
「……。」
怖い。怖いに決まっている。
でも…。それでも。
「…シャロンは、ユーリンはーーー、アーサーは、俺に全てをくれた…。」
「へぇ?」
「……あいつらがいなければ、俺はここには居ないから。俺にとっての、大切な存在だから」
クラウドは笑みを浮かべるセインの目を、真っ直ぐに見据えた。
「だから俺は、命を賭けてでも、あいつらを守るーーー!!」
「…いい表情だね」
セインは笑顔を崩さない。
「安心しなよ?君が負けても殺しはしないよ。……君が、僕の要求を飲んでくれるのであれば、ね…。」
「……お前の望みは何だ?」
「そうだね…僕が勝てば、君には魔王様の駒として、動いてもらうよ」
「……」
当然の要求。
…そもそも勝算など、はなから1ミリたりとも無いのだが。
例え万全の状態であっても、勝てる可能性は限りなく低い相手。
その上負傷しているこの状況で。
…いや、問題は何よりーーー
「……俺は剣士では無いんだが」
「剣での勝負が不満、と?…冗談はよしなよ。むしろ君にとっては好都合じゃないのかい?」
「何をーー」
クラウドの瞳がほんの一瞬揺らいだのを、セインは見逃さない。
「だって君、元々は剣士、だよね」
「ーーーっ」
セインの全てを見透かしたような瞳に、クラウドは思わず言葉を失った。
「…これはただの僕の推測だけど。君は、元々剣士を目指していたんじゃ無いのかな。それもかなりの腕前で。」
「………」
「それでも剣士を諦めた理由は……大方、アーサー君に負けて、自信を失った。…なんて所かな?」
「〜〜〜っどうして…!」
俯いたクラウドは、顔を上げられない。
「僕も一応、剣士の端くれだからね。…見てて、分かるんだよ。君の戦闘の時の構えが、剣士のものに似ている、ってね。」
「っ……」
確、かに。
ファイターに転身する際に参考にしたのは、剣士の頃の構え。
そこから我流のファイター技を編み出していたのだが。
まさか、それを見抜かれるなんて。
それも、よりにもよって、コイツに。
ーーー悔しい。
洞察力、推測力、思考力……
そしてきっと、剣の腕でさえも。
敵わない……。
全ての面において、セインの方が一枚上手のようだった。
「………わ、かった。その勝負、受けてやる…」
「それは良かった」
ーーこの勝負、受けても受けなくても、きっと結果は同じだから。
せめて、後悔しないように。
これは俺の、最期の悪あがきだ。
鳳月でございます!!
とうとう…!とうとう……!!念願のクラウド再登場ですっ!!!生きていました!!
実はこのお話、かなり前から出来上がっておりまして。お話の都合上うずうずしながら長期眠らせていたのですが!ようやく掲載に至りました!!テンション高めでお送りしています!
皆様久しぶりのクラウド君を、温かく見守って頂ければと思います!
次回も、クラウドside続きます!
誤字脱字の指摘、感想のコメント等々いつでもお待ちしております!!




