第十九話:葛藤
嵐の夜が明け、彼らは再び闇の中で船を進めていた。
夜が明けたといっても、相変わらず空も海も闇色に染まっているため、決して明るくはない。
それでもーーー
「おおおおおいいいい!!トーマ!!あれピラニアじゃねーの!?食える!?食える!?」
「この辺にピラニアはいねーよバカじゃねーの落ちて食われろよ。」
「酷い!さすがに酷い!」
「あ、アーサー泣かないで...トーマ君もほどほどに...」
それでも確かに夜が明けたと実感できるのは、昨日と同じなようで同じじゃない彼らのせいかもしれない。
いつもならアーサーの馬鹿している所に真っ先に加わるユーリンだったが、今日は珍しく遠巻きにその姿を眺めていた。
夜が明けたはずなのに、気持ちが晴れないのは、どうしてだろう。
「ピラニアぁぁぁ!食うか食われるかの真剣勝負!いざ尋常にいいいい!!!」
「きゃああ!?アーサー何飛び込んでるの!?」
「どうせまたすぐに上がってくるでしょう、あの人なら。心配するだけ無駄ですよ、シャロンさん」
アーサーを見ると少し気持ちが晴れる気がする。だけど、なぜかすぐにモヤがかかる。
昨夜、トーマが魔王の手下であることが発覚した。トーマはシャロンを薬で眠らせた隙に殺そうとし、アーサーを嵐の海へたたき落とそうとした。
トーマの企みは失敗に終わったが、アーサー達を危険に晒し、殺そうとしたことには変わりない。
だというのに、アーサーは
『俺たちが華麗に魔王をやっつけて、お前も一緒に元の世界へ連れて帰ってやるからな!』
トーマの行いを笑って許した上に、彼を救うことを約束したのだ。
やっぱり、アーサーはすごい。
彼の強さは剣士としてだけではなく、彼の心のあり方だとユーリンは強く思う。
彼に救われた人物は多い。
トーマはもちろんユーリンもその1人。
ここには居ない彼もきっとそうだと思う。
そしてーーーーー
「ユーリン、大丈夫??」
さっきまで反対側の甲板にいたはずのシャロンが、いつの間にやらユーリンの隣にいた。
心配そうにこちらの顔色を伺っている。
「あ、ごめんごめん。ちょっとボーッとしてた。元気よシャロン」
「そっか...よかった」
ユーリンの返事にシャロンは安堵の表情を浮かべた。
ーーーそう、このシャロンもアーサーに救われてきたのだ。
いつもなら嬉しいはずのシャロンの笑顔だったが、なぜか今はシャロンのその純粋な表情に、イラついていた。
シャロンが本気で自分を心配していることは、分かってる。
気にかけて声をかけてくれたのだということも、分かってるのに。
「そういえばアーサーね、ピラニアと勝負しに海に飛び込んだんだけどーーーーー」
励まそうとしたのか、シャロンは先ほどのアーサーのバカ話を楽しそうに話し出した。
今は、聞きたくないんだけど。
引っ込み思案のシャロンは何でもかんでも心に仕舞い込んでしまう。そんなシャロンの心をアーサーはあの底抜けの明るさで何度も照らしてきた。
昨日はずっと虚ろな目をしていたシャロンだったが、気持ちに一区切りついたのだろう。
吹っ切れたシャロンは笑顔を取り戻し、楽しそうにアーサーのことを語ってくれる。
そのことが本当に嬉しい。
本当に本当に、嬉しい。
ーーーーーはずなのに。
どうしてこんなに、イライラするの。
「ねぇ、ユーリン聞いてる?」
「あっう、うん、なんだっけ?」
「ほんとに、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫よ!本当に…」
シャロンは再び不安げな表情を浮かべた。
アーサーのことは尊敬している。彼は一緒にいたいと、守りたいと言ってくれた。自分のことが好きだということも、彼なりの言葉で伝えてくれた。
私も、彼のことをもっと知りたいと思っている。もっと、一緒にいたいと思っている。
でも私はまだそれを、彼にちゃんと伝えられてはいないのだ。
つまり、気持ちは変わるかもしれない。
「あ、アーサー…なかなか帰ってこないね。大丈夫かな」
シャロンが再び口にしたアーサーという言葉に、ユーリンの心はモヤッとする。
そんなにアーサーの事、気にかけなくてもいいのに。
それは、私の役目なのにーー。
アーサーは誰にでも優しいから。
アーサーはみんなに好かれるタイプだから。
アーサーが私に告白したと知った時の、シャロンの表情がふと浮かぶ。
そうだ。きっとーーシャロンもアーサーが好きなのだろう。
アーサーを取られてしまったら、どうしよう
「ユーリンさん、シャロンさん!!
港が見えてきましたよー!!」
「えー!ホントに!?トーマ君!」
突然、トーマの声が頭の中に響いて、ユーリンはハッと我に返った。
「魔王の住処に着いたってこと...!?」
「はい!こっちに来たら港が見えますよー!」
シャロンとトーマのやりとりも聞こえているのに、まだ意識はモヤがかかったかのように霞んでいる。
昨夜、アーサーはどうしてシャロンと話していたんだろう?
私の知らない所の、知らない会話…
自分だけが、どこかに取り残された気分だった
「ユーリン?港が見えるって!」
「あ…うん…」
アーサーは私の事が気になってるんじゃなかったの?シャロンも、アーサーの気持ちを知っているはずなのに。
なんで?
どうして?
「…せっかく港が見えたのに、アーサーったらどこに行っちゃったのかな。ね、ユーリン」
「…そう…ね」
お願いだから、彼の名前を口にしないで…
「ユーリン?顔色悪いよ…?」
「え……」
アーサーを、取られたくない。
シャロンには渡したくない。
まだ私は、アーサーに何も伝えてないのに
このまま…なんてーー
絶対に、嫌ーーー!
「ね!ほらあっちに行って確認しよう、ユーリーーー」
バシッ
そこでようやく、ユーリンの意識はハッキリと覚醒した。
トーマのところに行こうと腕を引いて促したシャロンの手を、ユーリンが乱暴にふりほどいた事に気付いたのも、その全てが終わった後だった。
「...あ」
「ーーーユー...リン??」
シャロンがジッとこちらを見つめる気配がする。自分がした事なのに、頭が混乱してユーリンはシャロンの目を見れそうになかった。
シャロンが元気になってくれて本当に嬉しいのに。
夜明け前の甲板で見たアーサーとシャロンが
シャロンが 一瞬だけ見せたアーサーへの想いが
心を通わせあったような2人の様子が
頭から、離れてくれなかった。
「...ユーリン...」
「シャロン...私...私は...」
「ーーーーー2人とも!!伏せて!!!」
「ーーーっ!?」
次の瞬間、2人の頭を何かが掠めた。
お久しぶりです、由豆流です!
メリークリスマスとあけましておめでとうとハッピーバレンタインを通り過ぎての更新となりました。
今回はめちゃくちゃ不穏な空気になりました。女って複雑ですねえ。
今後はギャグももちろんがんばりますが、シリアスも力入れていきます!鳳月が。よろしくです!




