第二話 : 謎の協力者
「おらよ。レーボン村だ。魔王様に辿り着く前におめぇらなんて死ねばいいんだよ!!キェッキェッキェーッ!!」
鳥は何やらごちゃごちゃ言いながら大空へと羽ばたいていった。
「...レーボン村?聞いたことないな。」
「まぁまぁ、着いたからいいじゃん!!よっしゃー!情報収集始めるぞー!!」
「...ねぇ、この村...。何だか様子が変じゃない…?」
4人はキョロキョロと周りを見回した。
「確かに、妙だな。...人が居ないーーー?」
「まっ。とりあえず散策してみよーぜ!」
少し違和感を覚えながらも、四人は村の散策を始めた。
ーーー数時間後
日は暮れ、辺りは真っ暗になっていた。
小さい村だったため、その間にぐるっと一周することができたのだが、その途中で出会った人の数は0。
「あれー?おっかしーな...」
「ねぇ...何だか、怖いよ...。」
シャロンはアーサーの腕に抱きつく。クラウドはそれを見て一瞬だけむっとした表情になった。
「ねぇ、どうするの?」
「そーだなぁーとりあえず...寝るか!」
「待てよ。まだ早いだろ?
それに、こんな気味が悪い所で寝てられるか。」
「…ねぇ、ちょっと気になったことがあるんだけど...いい?」
アーサーにしがみついていたシャロンが口を開く。
「…あの鳥、魔王って言ってたよね?私たちの旅の目的を知ってた…って事...?」
「そうなるな。」
「じゃあ…魔王はどうして、私たちの居場所が分かったのかしら...?」
「それは...ーーーーーーっ!!?」
クラウドは言葉を切り、後方をにらみつけた。アーサーも同様に後方をにらんでいる。
「何っ何なの!?」
「しっ...誰か、いる」
「出て来ーーいっ!!!」
アーサーが叫ぶと、家の影や木の後ろから数人の人々が現れた。
「おっ...お待ちください!!勇者様っ...我々はこの村の者なんです。」
「なーんだ。居たのか!」
アーサーはすっかり気を抜き、手を剣の柄から離した。
「失礼致しました。ようこそ、レーボン村へ!ささ、どうぞ、こちらへ…」
村人たちの言うとおりに、アーサー達は村人達の所へ向かおうとした、がーーーーー
「ちょっと待て。何故俺達が勇者だと知っている?」
「!!...それはーーー」
クラウドは一切気を緩めず、先程よりも鋭く彼らを睨みつけた。村人達の表情が一斉に変わる。
アーサーはようやく状況を理解し、再び剣に手をかけたーーーが。
「動くな!それ以上動くと撃つぜ?」
アーサーが剣を抜くよりも先に銃を向けられ、アーサーも他の三人も渋々両手を上げた。
「誰だよ、お前らーーー」
「我々は魔王の手下だ。それに、我々だけではない。」
手下が指を鳴らすと、四方八方から狼のような姿をした二足歩行の獣達が現れる。完全に囲まれてしまったようだ。
「きゃああ!!」
「くそっーーーーー!!」
「…諦めるんだな。貴様らはもう終わりだっ!!勇者は強者揃いと聞いていたから、どんなに強いかと思ったが...大したことないんだな。」
「くっーーー」
手下達は楽しそうに笑い、アーサー達を見下した。
「まぁ、罠だと気付いたのが早かった事だけは褒めてやろう。
ーーーさぁ、殺れーーーー!!!」
司令塔の合図を機に、獣達が一斉に四人に飛びかかってきた。
「数にひるむなよ!いくぞっ!!」
アーサーは即座に剣を抜いて敵の懐に入り、次々と獣達を切り捨てていった。
残る三人も後に続いて攻撃を開始する。
ーーーが、いくら攻撃をしても、敵が倒れる気配はない。
「ど…どうして?確かにダメージは与えているはず…なのに…」
「魔法がかかっているわ。防御力・体力のステータスが上がるタイプのね」
ユーリンはギリっと下唇をかむ。
「その通ーーり!!そんな攻撃力じゃあ、全く倒せないぜ。こいつらが全滅するのが先か、お前らの体力が尽きるのが先か...お手並み拝見だなぁ!」
一向に全滅する気配がない獣の大群。四人の体力は徐々に削られていく。
(くそっ…落ち着け...必ず弱点があるはずだ...)
獣の攻撃をかわしながら、弱点を探り出そうとするクラウド。突如、一匹の獣がクラウドの足を噛みつこうと飛びついてきた。間一髪、クラウドは獣の脳天をひじで決める。
ーーーすると、獣は低いうめき声を上げ、形が崩れ去っていき、灰となった。
「ーーー!?」
クラウドはしばし呆然とし、すぐにハッと思い立った。
「みんなっ!脳天だ!奴らの弱点は脳ーーー」
パァンッ!!!
クラウドの呼びかけは鳴り響いた銃声によって遮られていた。
そして銃弾はクラウドのわき腹をかすめていた。
「っ!!?」
「さては弱点に気付いたな?気付かなかったら死なずにすんだのになぁ」
敵がもう一度引き金を引く。
「クラウドっ!!危ないっ!」
ユーリンがクラウドに駆け寄る。
「やめろっユーリンっ!くるな!」
「死ねっーーーーーー!!」
キィーーーンッ
銃弾が命中する音の代わりに響き渡ったのは鋭い金属音。
その音の主はーーー
「ーーーー…アーサー…」
「よくも俺のクラウドを傷付けたな…!!」
「“俺の”って言うな気色悪い!!」
「え…冗談なのに…ショック…」
「馬鹿なっ…!?剣で銃弾を弾いただと…!?そんなこと…」
「またまたぁ〜。本当は俺の事大好きだろぉ〜?」
「だからっ…そういう言い方はやめろとーーー」
「俺を無視するんじゃねーーーっ!!」
敵は再度銃を撃ったが、またもやアーサーの剣で簡単に弾かれた。
「…アーサー。あの狼たちの弱点は“脳天”だ。上から攻撃しろ。」
「了解!」
アーサーは剣を構えなおし、狼の群れへと一直線に駆けていった。
「よーし、いっくぞーー!!」
「待って…!」
今まで黙々と矢を放ち続けていたシャロンが叫んだ。
…と、ほぼ同時に再び銃声が響く。
「危なっーーー!!!」
銃弾はまっすぐに敵を斬ろうとしていたアーサーの元へ飛んでいったが、アーサーは間一髪のところでそれを弾いた。
「はー、危なかったなー。」
「アーサーが動くと、銃弾が…防げなくなっちゃう…」
「そーか!くっそー!」
アーサーはその場に釘付けになり、次々と放たれる銃弾を防いでいく。
シャロンはそれを確認しながら、矢を上に向けて三本同時に放つ。
見事に三本全てが獣の脳天に刺さり、獣達は灰に変わった。
「シャロン、やっるぅー!!」
アーサーはにっこりと微笑んだ。
一方クラウドは、少し苦しそうにわき腹を抑えながら自分に迫ってくる獣達だけを確実に灰に変えていった。
ユーリンはクラウドの援護をしつつも、度々魔法で雷を放って獣の数を少しずつ減らした。
「悪い、ユーリン」
「大丈夫よ!無理はしないでねっ」
「あぁ、ありがとう。…ところでユーリン。もっと多くの雷を一気に放つことはできないのか?」
「うーん…。できないことはないけど、クラウド達にまで当たっちゃうかもーーー」
ユーリンは苦笑した後、再び雷を放った。
ーーーその少し後…
獣は残り数体になっていたが、四人の体力もそろそろ限界だった。
パァンッ!
「っあぁ痛ってぇーーー!!!」
ついに防ぎきれなかった弾がアーサーの右腕をかすめた。思わず剣を取り落としてしまう。
「アーサー…!!」
アーサーが剣を拾おうとした時にはもう遅かった。手下達は不適な笑みを浮かべて銃口をアーサーに向けている。
「残念だったな、お前の負けだ。
ーーー死ねっ!!!」
敵が引き金に手をかけた。
ーーーーー瞬間。
「待ちなよ。」
アーサー達の前に一人の青年が現れた。頭髪が雪のように白く優しい色であるのとは対照的に、その瞳は力強い黄金の光を放っている。
どこか人間離れした雰囲気を持ったその青年は微笑を浮かべて手下達を見つめる。
「君達、早く去りな。それとも…またこの前みたいにやられたいかい?」
「くっ...」
手下達は彼を見た途端に顔色を変え、一歩後退った。
「さて…」
青年は剣を抜き、突然走り出したかと思うと、アーサーが気付いた頃にはもうすでに残りの獣たちがすべて灰に変えられていた。かなりの腕前のようだ。
「さて、どうしようか。」
「…くっそ!!覚えてろ!!」
アーサー達が状況を理解する前に手下達は逃げていった。
青年は剣をしまうと四人の方を向き、何事も無かったかのように微笑んだ。
「やぁ。君達、大丈夫だったかい?」
「あっ…えっ…と」
「あ、驚かせちゃったかな?
僕はセイン。君達がニスリル国の勇者だね?」
「…何故俺たちの事を知っている?」
クラウドは怪訝そうな顔をして尋ねた。
しかし、セインは気にせず、涼やかな表情で答える。
「実は僕もニスリル国の者なんだ。だから君達の噂はよく聞いているよ。僕は訳あって姫様がさらわれる前から魔王について調査していてね。何か力になれればと思って後を追ってきたってわけさ。」
「それは助かるわね!ちょうど情報がなくて困ってたの!」
ユーリンは嬉しそうに言った。
しかし、クラウドの表情は晴れない。
シャロンも極度の人見知りが発動し、クラウドの影に隠れてそーっとセインを見つめている。
「じゃ、一緒に来てくれるって事か!?」
「君達さえ良ければ、是非協力させてほしいな。」
「おーー!!こんなに強い人が味方なら安心だな!歓迎するよ!!」
アーサーがそう言うと、クラウドは驚いた顔でアーサーを見る。
「ちょっと待てよ。俺は反対だ。そんな出会ったばかりのヤツを仲間にするなんて。…悪いが、信頼できないな。
…それにーーーーーーッ」
「それは残念だなぁ」
セインがクラウドの言葉を遮る。
クラウドは再び怪訝そうにセインを睨んだ。
「実は僕、魔王の居場所を掴んだんだよ。」
「なっ…ーーー」
「おっと、ファイターさんは出会ったばかりのヤツは信頼出来ないんだったね。じゃあ、教えても意味無いよね?」
「お前ーーーーー」
怪訝に顔を歪めるクラウド。
「ねぇ…クラウド。あんまり…人の事を疑いすぎるのも、よくないと思うよ…?」
クラウドの背中からシャロンが語りかける。クラウドはシャロンの方を一瞥すると、小さく溜息をついた。
「…わかった、好きにしろ。」
納得はいかないものの、セインを仲間に加えることをクラウドは渋々承諾した。
「で?魔王はどこにいるんだ?」
「この世界にはいないよ。」
「…は?」
四人は不思議そうに顔を見合わせた。
「どういうことなの?」
「今言ったとおりだよ。魔王は今僕達がいるこの世界にはいない。つまり、魔王は“魔界”にいるんだよ。」
「魔界…」
アーサー達の表情が曇る。
なるほど、魔王が魔界にいるというのは実に筋が通っている。
しかし、問題はーーー
「そんな所、どうやって行けばいいのよ…」
「まずはこの世界と魔界を繋ぐ必要があるね。残念ながら、僕はその方法までは知らないんだ。」
「ーーー!!」
クラウドがセインに怒りの目を向けた。
「おい、落ち着けってクラウドー。とりあえずこの世界に魔王はいないって分かっただけでも十分じゃん。」
アーサーはクラウドの肩の上に手を置いて彼をなだめた。
「ごめんね、中途半端な情報で。」
セインは頭を深々と下げて詫びた。
しかし、その仕草ですらクラウドの癪に障った。
喉まで出かかった怒声を何とか飲み込み、クラウドはセインから顔を背けた。
「そうだ、隣の村の村長なら何か知っているかもしれない。かなり長生きしてらっしゃるからね、博識なはずだよ。」
「おっし!じゃあまずはその村へ行くとするか!!」
こうしてセインを仲間に加えた五人は次なる目的地へと向かい歩を進め始めた。