表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

番外編:セインの記憶 <1>



アーサー達への挑発を終え、魔王城まで帰還したセインは何か険しい表情をしていた。



「あの時のアーサー君……彼が本気を出したら一体どれほど…」


…まぁ今はそんな事を考えていても仕方ないか。

とにかくクラウド君の件はこちらにとっても大きかった。このまま上手く立ち回って勇者共を退けねば。魔王様の一番の部下として、何としても先の失敗を取り戻さねばならない。


セインがそんな事をぐるぐると考えていると、一体の獣型モンスターが彼の元へとやって来た。


「ぐるるふ…ガウッバウバウ、ウッフッ!!」

「君…いつまで僕の事をガキ呼ばわりするつもりだい?いい加減…」

「ガウッ!バフバウ…ガウ!」

「あぁわかったわかった。それで、魔王様が呼んでるって?すぐ行くよ」

「ウッフ!」


セインは平然と奇妙な会話を終えると、魔王の元へと向かった。




魔王の部屋の前。


「魔王様、セインです。入りますよ」


セインは返事を待たずに部屋の扉を開いた。


「魔王様?ああもう、魔王様!魔王様!!」

「んっ?うおっ?!セイン!!?おめぇいつの間にッ…乙女の部屋にノック無しとはいい度胸しとるなぁ?!」

「誰が乙女だ」


うわー、今日魔王様やたら機嫌良いなぁ…。めんどくさ……ゴホンッ


これが魔王だ。

一見人間のような姿をしているが、頭には二本の角、後ろには尻尾が生えている。

この姿はセインを見た魔王が人間の姿を羨ましがり、かつて試しに変身してみた姿らしい。それを本人はえらく気に入ったため今でもこの姿だそうだ。

ちなみに人間の言葉も現在絶賛練習中である。


「それに、声は掛けましたからね。呼んだのは魔王様でしょう?」

「わっはっはー!冗談冗談だ!して、勇者共はどうなったのだ?」

「あぁ…先の作戦は成功しましたよ。勇者パーティは現在一人が離脱、一人が戦意喪失状態にあります」

「そうかそうか!でかしたぞセイン!これで俺様の勝ちは見えたな!」

「そうだと良いのですがね…」


魔王は満足気に笑っている。しかしセインは思いつめた様子で少し俯いた。


「…何としてもこのまま、ここで僕の失態を取り戻さねば…」

「む?失態とは、魔王歴伝の件か?それについてはあれほど気にするなと言ったはずだろう、セイン」

「…しかし、失態は失態。落ち度は僕にある。」

「てめぇは本当にクソ真面目だなぁ。もうちっと肩の力抜きやがれ、な」

「…誰がクソだ」

「そこだけ拾うんじゃねぇよバカヤロウ」


そう言って魔王は笑い、グシャグシャとセインの頭を乱暴に撫でた。

セインはムッとした顔で髪を整える。


ここがセインにとっては唯一自然体でいられる場所で、魔王が自分などを気にかけてくれることは何より嬉しかった。セインはふいっと魔王から視線を逸らした。


「そうだセイン!そういえば今回の勇者共はどうなのだ?」

「あぁ…どう、でしょうね…一言で言うなら、とても個性的、ですかね。」

「ほう?」

「しかしまぁ、欠点だらけの未完成パーティでしたよ」

「未完成か!そりゃあこの俺様の敵じゃあないな!はははーーっ!!」


高笑いする魔王にセインは苦笑した。

確かに欠点だらけだった。だけど…


「…とても、良いパーティでしたよ。眩しすぎるくらいに純粋な、ね」

「珍しいな、セイン?」

「そんな事ないですよ」


セインは微笑んだ。


…不覚にも、ほんの少しだけ羨ましいと思ってしまったんだ。

信頼できる仲間に楽しい旅路に、恋。

僕だって本当はそんな旅をしたかった。…いや、するはずだったのにーー。


「…意外にも、ああいう人達が魔王様を倒してしまうかもしれませんよ?」

「はは!馬鹿言うな!俺様は最強だ!!俺様は誰にも負けないぞ!!お前も居ることだしな!」

「…そうですね。」

「あ!そうだ、すまんが俺様はこれから少し出るぞ。まぁまた、たまには顔出しに来いな、セイン!」

「気が向いたら来ますよ」

「魔王寂しい」

「ほら、馬鹿言ってないで。」

「うむ。行ってくる。そちらは引き続き任せたぞ!」

「仰せのままに。」

「よし!」


魔王は再びセインの頭を乱暴にかき乱すと、満足気に高笑いをしながら部屋を出て行った。


「まったく…あの人は……」


セインは呆れ顔のまま再び髪を整える。


しかし、まぁ…


「……任せた、か。」


ふと、魔王の言った言葉を呟いてみた。


ーー信頼されているというのは、嬉しいものだ。


セインは静まり返った部屋の真ん中で、近くの柱にもたれかかって座り込んだ。そのまま天井を見上げる。


幸せだなぁ…。


今が一番幸せだった。

悪役にはなった。だがそれでも今が一番だった。


ーーまさか、こんな事になるだなんてね。


あの頃は思いもしなかった。


勇者だった、あの頃は。






セインはとある名家の長男として生まれた。

幼い頃から剣を学び、才能のあったセインはどんどん上達し、いつの間にか周りに敵うものは居なくなった。


ちょうどその頃、当時各地で好き放題していた魔王やモンスターを国ぐるみで討伐しようと、国は勇者パーティに参加する若者を募っていた。


その街きっての天才剣士だったセインは周りからの推薦を受け、勇者候補の選考会へ参加することになった。


はるばる城へ参上したセインは、選考会を見事にトップ通過し、晴れて勇者として、またパーティをまとめるリーダー役として任命され、国王から正式に魔王討伐の依頼を受けたのだった。


セインのパーティメンバーはセインを入れて5人だった。

リーダーである剣士のセインに、もう一人の剣士、女剣士のベル。様々な魔術を使いこなす男、リックに女ファイターのアイリス。そして冷徹な男、ガンナーのユーリ。この5人のパーティだった。



しかし何よりこのメンバーが最悪だったのだ。



旅立って間もない、とある戦闘でのこと。


「ファイアーボーール!!」

「わっ!あっつ!!ちょっとリック!あたしにまで当てないでよ!」

「お前がそんなとこに居るのが悪いんだろ〜?」

「何ですって?!!」


…と、このような調子でいつも魔術使いリックとファイターアイリスがケンカを始める。

そこにベルが止めに入るのだが…


「もう!二人とも、やめなさいよ…!」

「「あんた(お前)には関係ないでしょ(だろ)!!」」

「きゃっ…?!」


止めに入ったベルは突き飛ばされ、ケンカはさらにヒートアップする。

これがいつものお決まりパターンだった。


その上ガンナーのユーリに至っては戦闘にすら参加しないのだ。


「…ねぇユーリ。君も一緒に戦ってくれないかな?やっぱり4人よりは5人の方がーー」

「なんで俺がそんなザコ相手にしなけりゃならないんだ。ただでさえこの騒がしいパーティに入れられてウンザリしてるってのに」

「はは…」


苦笑するしか無かった。


しかしこんな時いつも助けてくれるのは女剣士、ベルだった。


「その言い方は酷いわよ、ユーくん。せっかくセインくんが頑張ってくれてるのに…」

「知るか。」


ユーリとベルは幼馴染らしく、ベルは事あるごとにユーリに構っていたが、彼はいつも全く相手にしていなかった。


「ユーくん!お願い…ちゃんと協力ーー」

「うるさいな…ほんとお前は昔っから俺に構うのが好きだな」

「なっ…!あんたは…!!」

「ベル、落ち着いて。もういいよ、大丈夫だから。ありがとう」

「駄目よ!だって…!」

「あーお前らうるさいから。言い合いするなら向こうでやってくれ。迷惑だ」

「…ごめん。」


そして何も解決しないまま会話は終わる。いつもこうだった。


リーダーであるセインのストレスは日々積み重なり、限界を迎えていた。

しかしそんな時でも唯一励ましてくれたのがベルだった。


「ごめんね、ユーくん昔からああで…才能はあるのにもったいないわよね。ちゃんと言っておくから」

「ううん、ありがとうベル。」

「大丈夫、今度はきっと分かってくれるわよ!一緒に頑張ろうね、セインくん。」

「そうだね。君がいてくれて良かったよ。本当にありがとう、ベル。」

「こちらこそ。」


ベルはふわっと微笑んだ。


ベルは強かった。何があっても、どれだけ辛くても、いつもセインを励まし、そばに居てくれた。


戦闘においてもベルはとても強かった。セインに劣らず、鮮やかな剣さばきで次々と敵を切り倒し、いつもセインを助けてくれた。


彼女がいてくれたから、こんなパーティでも頑張れた。



しかし…最悪の事件は起こってしまった。



魔界への道だと言われるレヴェリア王国に入ってすぐの事だった。

いつものようにリックとアイリスがケンカを始めた。


「お前、本当になんなの。いつもいつも俺に突っかかってきやがって」

「はぁ!?突っかかってくるのはあんたの方でしょ!なんなの、あたしに気でもあるわけ?!」

「あるわけねぇだろお前みたいなブス自惚れるなよ」

「黙れこのチンパンジーが!」

「何だと!」

「ちょっと落ち着いて二人とも!せっかくここまで来たんだから…!」

「「あんた(お前)は黙ってて(ろ)!」」


突き飛ばされたベルをセインが受け止める。

そのまま二人のケンカはいつにも増してヒートアップした。

そして最終的に……


「こんな頭の悪いサルがいるパーティなんてもう御免だわ!」

「俺の方こそこんなメスゴリラもうウンザリだっての」

「悪いけど抜けさせてもらうわ」

「俺も抜けるぜ、悪く思うなよ、セイン。」

「ちょっと待って!二人とも…!」


セインの制止もむなしく、リックとアイリスの二人はパーティを去った。


「丁度良い、だったら俺もここでおさらばだ」

「ユーくん!待って、お願い!!」

「これ以上俺に関わるな。ウザいんだよ、お前」

「……っ!」


こうしてユーリも便乗し、パーティを抜けてしまったのだった。


残ったのはセインとベルの2人だけで、実質的に勇者パーティは崩壊した。


しかしベルはまだ諦めてはいなかった。


「…大丈夫だよ、セインくん!私たち二人だけでもきっと、魔界への道を見つけられるよ!だから…頑張ろう?ね?」


セインはベルの励ましにハッとした。


ベルはまだ諦めてはいない。ここで諦めてどうする?

まだやれることはあるはずだ。せめて自分たちだけは、勇者として、最後まで頑張るべきじゃないのか。

そう思った。とても勇気づけられた。だから。


「…そうだね。うん、頑張ろう」


きっと自分たちだけでも魔王を倒し、本物の勇者になってやるのだと心に決めたのだった。




それから2人は必死に街中で魔王に関する情報をかき集めた。


勇者として、リーダーとしてここであっさりと任務を投げ出すわけにはいかなかった。


何より、こんなに必死なベルを見て、自分が頑張らないわけにはいかない。


意地とプライドだけが、彼を突き動かしていた。


そしてやっとの思いで2人は魔界への行き方を見つけ出すことに成功したのだった。




とうとう魔界へ行く前日の夜。

セインは一人部屋のベッドを抜け出した。


判っていた。たった2人じゃ魔王に敵うはずがないと。


ベルを無駄死にさせるわけにはいかない。

ベルは大切な人なんだ。

ベルにだけは幸せになってほしい。


セインは既に一人で魔界へ行く決意を固めていたのだ。


セインは隣ですやすやと寝息を立てるベルの頭を、そっと一度だけ撫でた。


「…ありがとう。君がいてくれたから頑張れたんだ。ベル。ごめん…大好きだったよーーー」


ベルはいつでもセインの味方でいてくれた。いつも励ましてくれた。

とても大切な人だった。


だからこそ、連れては行けない。

いけないのだ。


セインは単身で魔界へと乗り込んだ。




魔界。

着いたのは幸運にも魔王城のすぐそばだった。


覚悟を決め、魔王城に乗り込もうと一歩踏み出した時。


ポケットの中で何かがカサリと音を立てた。

探ってみると、ポケットからは何やら入れた覚えのない四つ折りの紙が出てくる。


「これはーー」


開いてみると、そこには丁寧な文字でたった一文だけが記されていた。


『たとえこの先どんな事が起ころうと、貴方が幸せでありますように。』


…と。


彼女はーーベルは、初めから気づいていたのだ。セインが一人で魔界へ行こうとしていたことに。


ーーありがとう、ベル。


涙は見せなかった。


セインはその紙をぎゅっと握りしめると、魔王城へと向かった。


そして…

魔王と戦った。




結果ーーー惨敗。




手も足も出ないまま打ちのめされてしまった。


「はっはっはーー!!!残念だったなぁ勇者とやら!やっぱ俺様強い!最強!!」

「くっ……!」

「しかしまぁ、人間にしてはよく戦った方だなぁ?」

「…勝たなきゃ…勝たなきゃ何の意味も無いんだよ!くそっ…!」


セインは一度、拳を思いっきり地面に叩きつけた。

そして腹を決めた様子で目の前に立つ魔王を見上げて言った。


「…早く、殺しなよ」

「殺す?」

「敗北した勇者を前にして、それ以外の選択肢があるかい?」

「ほぉう?いい度胸だなぁ」


魔王はにやりと笑った。

そしてーーー


「もちろんあるとも!!お前、俺様の仲間になれ!」


魔王は大声でそう言い放った。


「………えっ」


セインは呆然と魔王を見つめる。


「ははは!なんで俺様がお前を殺さなきゃならないんだ?まさに!お前みたいな人間を待っていたんだ!その才能と度胸、俺様が買ってやる!仲間になれ!!」

「はぁ……!?」


突然の勧誘に、死まで覚悟していたセインは拍子抜けしてしまった。


いやいやいや、魔王の仲間になるなんて、ありえないよね。


だけど断ったらどうなる?


役に立たないと分かった途端手の平を返すかもしれない。

…いや、きっとそうに違いない。


とにかくここでこのまま死ぬよりは賢明だろうか。


それに、仲間になるフリをして、上手くいけば隙を見て魔王を倒せるかもしれない。


初めはそんな甘い考えから、セインはほんの軽い気持ちで魔王の申し出を承諾したのだった。







どうも、鳳月でございます。

本編アーサーの方も気になるところですが、今回はちょっと逸れてセインの過去編でした。セインもああ見えて苦労人です。


鳳月はギャグ苦手ですので、鳳月パートにギャグがございましたら生暖かく見守ってやってください。すみません。


セイン編、次回に続きます


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ