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第十四話 : 欠けた心


「ウソ…だろ…?クラウド…シャロン…」


崖の上に取り残されたアーサーとユーリンは、二人が落ちていった暗闇を呆然と見つめていた。


そこが見えないことから、ここがかなりの高さであることが窺える。


二人は一体どこまで落ちたんだろうか…

こんな所から落ちて、二人とも無事だろうか…


まさか、もうーー


「アーサー!後ろ後ろ…!」

「ん?あぁ…」


振り返ると残っていた全てのゾンビがアーサーとユーリンを囲んでおり、逃げ道を塞いでいた。


「確かにクラウドとシャロンは心配だけど…こっちを片付けるのが先のようね。」

「そうだな…。よし!ユーリン!

ゾンビをペットにしようぜ!」

「ちょっと、こんな時に何言ってーー」

「行くぞー!覚悟しろー!!おー!」

「アーサー!?」



アーサーは剣を無邪気に振り回しながら敵陣の中へと飛び込み、戦闘を開始した。

ユーリンも後に続き、アーサーの援護に回る。


二人だけになったにも関わらず、次々と順調にゾンビ達をなぎ倒していくーーが。


「アーサー!!危ない!」

「え?」


ユーリンはアーサーの背中を狙っていたゾンビを炎の魔法で焼き尽くした。


「おー!ありがとう、ユーリン!!危なかったよ。次は気をつけるよ!でないと今度は俺がユーリンに火をつけられちゃうかもね!!」


ーーおかしい。

いつものアーサーならゾンビなんかに背後をとられることはまずありえない。

ましてやそれに全く気付かないなんて…


「ようやく半分ちょいぐらいになったなー。ユーリンはどのゾンビ飼いたい?

俺はさっきいいなーって思ったやつがいたんだけど、つい勢いで斬っちゃった!残念だったなー。あははは…。

さぁ残りも倒すぞー!!」


ユーリンは知っていた。

アーサーは落ち込めば落ち込むほど口数が多くなる。


それは、周りに心配をかけないようにするため。そして、アーサー自身の気持ちを誤魔化すためだろう。


自分の気持ちを押さえ込んでいる状態での戦闘は危険すぎる。

何とかして、アーサーの気持ちを一回整理させないと…。


そんなことを考えながらふとアーサーの方を見ると、再び一体のゾンビが彼の背後に回っていた。


「アーサー後ろ!よけて!!」

「えーーうわっ!!」


アーサーは体を左にひねり間一髪、ゾンビの攻撃を背中に浴びることはなかった。


しかし攻撃は剣を握っていたアーサーの右手に命中し、アーサーはうっかり剣を手離してしまった。


激しい金属音をたてて、剣が地面に転がる。


「アーサー!!」

「!?しまった…!!」


アーサーは急いで剣を拾いに向かう。

剣を拾おうと手を伸ばした瞬間、剣と彼の間にゾンビが立ちはだかり、アーサーの手を遮った。


「なっーー!?」

「アーサーーーーッ!!!!」


攻撃魔法は間に合わないとユーリンは判断した。仕方がない。

もうこれしか方法がないーーー!


「スケイプ・ゴートーーーー!」


ユーリンがそう叫んだと同時に、ゾンビはアーサーに襲いかかってきた。


ダメだ。避けられない…。


アーサーはそう悟り、固く目を閉じた。


しかし…。


「…??」


ゾンビはいつまでたっても攻撃してこない。

…いや、攻撃してこないというよりも、目の前にあったゾンビの気配が完全に消えていた。


アーサーは不思議に思い、恐る恐る目を開けるとーーー


「あれ?俺、なんでーー!?

…っ!?ユーリン!!」


アーサーはどういうわけか、先程までユーリンがいた位置にいつの間にか移動していた。


そして同じように、アーサーがいた位置にはユーリンがいた。


つまり、ゾンビの攻撃はーーーユーリンがアーサーの代わりに受けていた。


「ユーリンっ!!!」


アーサーはゾンビの背後に落ちていた自分の剣を拾い、そのままゾンビを斬り倒した。


「ユーリン!ごめんな、俺のせいでっ…!!大丈夫か!?」


ユーリンを抱きかかえながらアーサーは必死で声をかけた。

ユーリンはうっすらと目を開けたが、その瞳はしっかりとアーサーを捉えていた。


「アー…サー…」

「よかったぁ!ユーリン、ごめんな…大丈夫か?」

「アーサーこそ…大丈夫…?」

「えーー?」

「アーサー…大丈夫…?何だか、アーサーらしくないよ…?何があったって馬鹿言って笑ってるのがアーサーでしょ?」

「…!?」


アーサーは衝撃を受けた。アーサーとしては、いつも通り笑って、超面白いことを言っているように振る舞えていると信じていたからだ。


「…っごめん、ユーリン…」

「謝らないで…。ちゃんと言って?今のアーサーの気持ち…。」


ユーリンの手がアーサーの頬に触れた。そして、ユーリンはそっとアーサーに微笑む。


「笑って?作った笑顔なんかじゃなくて、いつものアーサーの笑顔を見せてよ?」

「…ユーリン…」


アーサーは自分の頬に当てられているユーリンの手を取った。


「俺は今…ものすごくクラウドとシャロンが心配だ…。」

「うん…。」

「ひょっとしたら、もう…とか思っちゃうんだ。ヒドイよな…」

「そんな事ない!信じよう?大丈夫、きっと生きてる。」

「そうか…そうだよな!!俺のクラウドだ!うん、大丈夫だ!クラウドはきっとシャロンを守ってくれてるだろうし…!おお!何か元気でできたぞ、俺!!」

「よかった…」


アーサーの目はすっかり輝きを取り戻していた。


「二人が生きていると決まれば、このゾンビ達はみんな倒しとかないとな!!ユーリン、休んどいていいよ。」

「ううん。大丈夫!一緒に戦う!」

「そっか!無理すんなよ!

よし!じゃあ、行っくぞーー!!!」


二人は再びゾンビ軍団の中へと踏み込んでいった。


「よっしゃあーー!何でもこーい!!ユーリン、俺今なら残ってる全部のゾンビをペットにできそう!」

「意味分かんないしそれはカンベンだわ…。」

「信じる力ってすげぇな!"俺は勉強ができる!"って信じれば本当に成績上がるかもな!」

「それは思い込みってやつだから違うと思うわ…。」

「ユーリン!!」

「…何?」

「ーーありがとな!」

「うん…!」


こうして二人は順調にゾンビの数を減らしていった。


「おっしゃー!覚悟しろー!ゾンビー!必ず飼い慣らしてやるからなー!!」

「飼わなくていいって言ってるでしょ!全部倒すわよ!」

「確かに…。もう残ってるのはハゲてたり、前歯が折れたりしてる魅力のない奴らばかりだ…。もういらん!

よしっ!全員倒すぞ!!」

「基準がわからないわ…」


アーサー達はそんな会話をしながらも、とうとう最後のハゲたゾンビを斬り倒した。


そして見事ゾンビ軍団を撃破した二人は、しばらくその場でクラウド達の帰りを待つ事にしたのだった。








「あーーおっそいなぁ〜〜」


あれからしばらくして、そろそろアーサーが待ちくたびれてきた頃だった。


「やっぱり何かあったんじゃ…」

「そんなことないわよ!もうちょっと待ってみましょ?ね?」

「こうなったら俺も崖から飛び降りて!!」

「やめなさい!!…あっ…!ほら見てアーサー!」


ユーリンが指をさした方角には確かにこちらに向かってくる人影が見えた。


「アレは…シャロン!?よかった!やっぱり信じる力ってすげぇ!!」

「もうっ調子良いんだから…良かったわね!……あれ?でも…ーー」


何か様子がおかしい…?


その人影は確かにシャロンであったが、彼女はフラフラと今にも倒れそうな様子である。


そのまま頼りない足取りで二人の元までたどり着くと、彼女はその場にへたり込んでしまった。


「大丈夫かっ!?シャロン!!」

「……めん……私…の…」

「シャロン!しっかりして!!何があったの?!ねぇ、シャロンったら!!」

「…や……いや……!!」


シャロンは頭を抱えて首を横に振る。アーサーとユーリンの声は届いていないらしい。


「あれ?そういえば俺のクラウドはどこだー!?」

「っ…!!!」


アーサーの言葉にシャロンはビクリと反応し、そこでようやくちゃんと二人の顔を見る。


「…アーサー…ユーリン……私……っ私……はっ……」


それ以上の言葉は続かないらしく、シャロンは俯いて泣き始めてしまった。

アーサーとユーリンは困惑した様子で顔を見合わせる。


「…クラウドに、何かあったのかな…」


不意にユーリンが発したその言葉に、アーサーは不自然な笑みを浮かべたまま慌てて答える。


「なっ…そ、そんなわけないだろ!?な、シャロン?!!なんたって俺のクラウドだぞ、俺の(・・)!!第一あいつはーーー」

「…アーサー。」

「っ…!」


その場に重い沈黙が流れる。


すると。



「はい、そこまでー。」

「!!?」


突然パンパンッと手を叩く音が響き、全員の注目がそちらに向けられた。


セインである。


「…お前」


アーサーが軽く睨みつけるが、彼はにこやかに微笑んでいる。


「やぁ、皆さん。ようこそ魔界へ!

いやー驚いたよ。あの数のゾンビをほとんど二人で全滅させるなんてね。流石だね、アーサー君」

「今はそんな事どうでも良い…

クラウドはどうした」


アーサーは普段のアホ面からは考えられないくらいの鋭い表情を浮かべている。しかしセインにひるむ様子は無い。


「クラウド君?あぁ、気になるならそこに居るシャロンさんに聞いてみればいいんじゃないかな?ね、シャロンさん?」

「っ……」


俯いたシャロンの手は震えている。

ユーリンは見かねた様子でセインに怒鳴りつけた。


「あんたねぇ…!少しは空気読みなさいよ、このKY!!」

「KY?」


セインは少し小首を傾げると、シャロンを見下ろしてふっと笑みを浮かべる。


「あぁ、そうだったね。まぁあんな事があったんだから、そうもなるか。

でも彼は君のために命を賭して君を守ったんだ。喜ぶべき所じゃないのかい?」

「……っ!」


セインの言葉にシャロンは弾かれたように顔を上げ、愕然とした表情のまま冷笑を浮かべるセインを見つめた。


「あれ、何か違ったかい?

それとも君は自分だけ助かって満足なのかな?」

「ーーー!!」


シャロンはぎゅっと目を瞑り、そのまま俯いてしまった。

その様子に黙って聞いていたアーサーも限界を迎えた。


「てめぇ…!」

「やめてっ……アーサー!」


身を乗り出したアーサーをシャロンが制止する。


「…やめ…て、アーサー…ユーリン。

…いいの、全部…全部私の…せいだから……」

「…。」


シャロンの苦しげな表情にアーサーは黙り込んでしまった。


一方のセインは何事も無かったのように平然と話を続ける。


「そういえば君たちもお気の毒だったね。

大切なクラウド君を失ってしまって…」

「…!!」


アーサーとユーリンは無言のまま暫く呆然とセインの顔を見つめていた。

シャロンは俯いたままである。


「あれ、信じられないって顔だね。そんなにショックかい?」

「…黙れ」

「そうか、君たち今までずっとクラウド君に頼りっぱなしだったからね。彼がいないと魔王様を倒すなんてとてもーーー」

「だまれええええっ!!!!」


今までには無いアーサーの剣幕に、セインは恐ろしい殺気を感じとって言葉を切った。

ユーリンとシャロンも驚いた表情でアーサーを見る。


「…君、」

「まだ何か言うつもりならーー」

「わ、わかった…!それじゃあ僕はこれで。

…まぁせいぜい頑張りなよ」


最後にセインはニヤリと笑い、ひらひらと手を振りながら去っていった。


暫くの静寂の後、


「くそっ…!!」


アーサーは握りしめた拳を思いっきり地面へと打ち付けた。


「痛ってええええ!!!」

「もう…何やってるのよ馬鹿ね」

「何だt」

「シャロン、大丈夫…?」

「…うん、大丈夫。大丈夫だよ…?」


アーサーは無視したユーリンへの抗議の言葉を飲み込み、無理に笑うシャロンを見つめた。胸が締め付けられる。


「シャロンっ…」

「本当に大丈夫だよ、ユーリン。

心配してくれてありがとう。」

「...俺と一緒だぞ、シャロン!!!」

「ーーーえ?」

「さっきの俺と一緒だ。笑いたくないくらい落ち込んでるのに、必死で笑おうとがんばってる。


でもなーーー笑わなくていいんだぞ?」

「っ...!!」


アーサーの言葉に促されたように、シャロンの瞳からは大粒の涙が溢れ出した。


「うわっ!ど、どど、どうしよユーリン!俺シャロンのこと泣かせてしまった...!!」

「ひっく...ち、違うよ...アーサーのせいじゃないよ...

ーーーありがとう、アーサー...」

「おっ...おう...!!」


しばらくして、シャロンは涙を拭い二人に尋ねた。


「ねえ、もちろん元の世界には戻らないよね?」

「当たり前だ!あいつの言った通りになんかするか!!」

「でもどこに行けばいいのかしら?」


思い返せば魔界に来て早々、敵に襲われたのだ。魔王がどこにいるのかも知らない上にもちろん地図も持っていない。


「うーん...とにかく歩くしかないのかしら」

「そうだな。ここにずっといても仕方ないし。よし、行くか!!」

「うん...」

「シャロン。信じような!信じる力ってすごいからな!」


依然として沈んだ表情のシャロンの頭に手を乗せ、アーサーは笑いかけた。


「うん...!」


シャロンは弱々しくもはっきりとうなずいた。


こうして魔王を倒すべく、三人の魔界の旅が始まった。


とっっってもお久しぶりすぎてガッツリ年齢が変わりました由豆流です!

更新遅くなり申し訳ございませんでした!


クラウドくんがパーティーから欠け、戦力が欠け、シャロンちゃんの心が欠け、何か色々減ってしまいました。

それでも彼らは前に進んでいくのです!(?)

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