第十話 : 繋ぐ絆
「うわぁぁぁぁ!!
道が分かれてるぅぅぅぅ!!」
森に入り、少し進んだところで、道は二手に分かれていた。
「クラウドはどっちに行ったのかなあ?」
「左だな左」
「え…?なんで分かるの…?」
「勘」
「え、いや、待っーーー」
シャロンの制止を無視して、アーサーは左の道を駆けていく。
「あ、ユーリン。左になったけど...行こう?」
「...」
「ユーリン!」
「...え?あ、う、うん...」
シャロンとユーリンはアーサーを追って左の道に進んだ。
しかし、しばらく歩いたところで再び分かれ道が現れた。
「うわぁぁぁぁ!!!また道が分かれてるぅぅぅぅ!!!」
「...どうする?」
「今度はどっちだと思う?アーサー」
「右だな」
「…理由は?」
「勘」
「待っーーー」
またもやアーサーは己の勘のみを信じて右の道へと突き進んで行く。
シャロンはすっかり呆れ顔で渋々アーサーの後を追った。
そして再びーーー
「うわぁぁぁぁ!!またまた道が分かれてるぅぅぅぅ!!って何回俺にこのセリフ言わせたら気が済むんだよこの森はー!!!」
「...ねえ、次はどっち行ーーー」
シャロンがアーサーの顔を覗き込むと、彼は腕を組み、微笑を浮かべたまま虚ろな目で遠くを見つめていた。
「ひょっとしてどっちかわかったの?」
「分からん!勘が死んだ!
あっはっはっはっ...」
「あっはっはって...」
アーサーの力ない笑いにその場は静まり返ってしまった。
ーーーその時。
「ーーークラウドッ!?」
「シャロン?」
「今、確かにクラウドの声が聞こえた......こっちだわ!!」
「シャロン!おい!」
シャロンは言うや否や右の道へと走り出してしまった。
ユーリンもそれを見てシャロンを追いかけようとしたが、ふいに足元に転がっていた石につまずいて転倒ーーーーする前に何とか体勢を立て直した。
今だ不安定なその身体で走りだそうとした時、突然アーサーに腕を掴まれ引きとめられた。
「待てよ。おまえ...本当に大丈夫なのか?」
「なっ...何言ってんの。大丈夫に決まってるじゃない。早く行かないと置いていかれるわよ。」
「分かってる。」
ユーリンの腕を掴むアーサーの手に力がこもる。
「けど、おまえにどうしても言いたかったことがあるんだ」
「私にはあんたと話すことなんてないわ。...手を離して。痛いから。」
「俺にはあるんだよ!
だから...少しでいいから聞いてくれよ...」
「...分かったわよ」
アーサーがユーリンから手を離すと、ユーリンは渋々アーサーの方に向き直った。
「...ユーリン。ごめんなっ!!本当に悪かった!!さっきは俺のせいでお前を傷つけたよな。だけど、俺は...お前のことが心配だったんだ。」
「...アーサー...」
「俺、俺は...ーーーお前を見てると爆発しそうだっっ!!!!」
「...はあ?」
「あ、あれ?分からないか?えーと...つまり、そう、心臓が痛いんだ!お前が別の人と居る所を見ていたら苦しくなるんだよ。でもお前のそばに居たら苦しくなくなる。
...あと、俺が居ないと危なっかしい!!うん!」
「つまり...何が言いたいのよ?」
「だから、その…俺は、お前のそばにいたい。
...お前を守りたいんだーーー!!」
「...!?」
ユーリンは赤面し、片手で顔を抑えながらアーサーから視線を逸らした。
「えっ...え...何ーーーそれって...ええ!?つまり...私のことが好き...って事?」
「えええっ!?何で分かったんだ!?」
「え...だって今の、告白でしょ?」
「告白?そんなのまだまだ先だよ!今はただ自分の気持ちを伝えただけだ!!」
「...そう」
ユーリンはアーサーに背を向け、大きく深呼吸をした後、
「もう...アーサーの馬鹿っ...」
微笑みながらそんな言葉を口にした。
「え?何か言ったか?」
「何でもないから。ほら、早くシャロンを追いかけるわよ!」
「お、おう...」
「アーサー!!」
背中越しのまま、ユーリンは顔だけをこちらに向けた。
「...ありがとう」
「...おう」
その笑顔はもういつも通りのユーリンだった。
二人はシャロンを追いかけるため、再び森の奥へと進んでいった。
「お、シャロンだ!追いついた!
おーい!!!」
「アーサー、ユーリン!!よかった!」
アーサーとユーリンはようやくシャロンに追いつき、合流することができた。
「ごめんね、置いていっちゃって...夢中で...」
「謝らないでいいのよ、それよりも早くクラウドとセインを見つけましょう!」
「うん、でもね...」
シャロンは申し訳なさそうに道の先を指差す。そちらに目を向けると、何と道は五本に分かれていた。
「うわあ...」
「たぶん近づいてはいるとは思うんだけど...」
「ああ。近づいてるよ。」
「え、アーサー?」
アーサーはそう言うた、迷いなく真ん中の道を進んでいく。
「ちょっとアーサー!?本当にあってんの!?」
「大丈夫!今、俺のクラウドセンサーは絶好調だ!!間違うはずがない!行っくぜーい!!!」
アーサーはそのまま真ん中の道を突っ走っていく。
シャロンとユーリンもはぐれないようにアーサーの後を追う。
「もう、アーサーは本当に考えなしの馬鹿なんだから...」
そう呟いたユーリンだが、その言葉はどこかアーサーに対する愛おしさを含んでいた。
そしてシャロンもそれに気が付いた。
「ユーリン、何かさっきと比べて元気になったね!」
「え?あ、そう...かな?」
「うん、...アーサーも何だかさっきより元気...」
「...言いたいこと言ってスッキリしたんじゃないの?」
「えーーーーーー」
ユーリンの方を見ると、シャロンはユーリンの顔が少し赤くなっていることに気が付いた。
「...もしかしてユーリン、アーサーに何か言われたの?」
「えっ!?あ、いや、そ、その、ええと...」
ユーリンは目をそらしながらも顔はますます赤くなっていく。
それだけで、シャロンには彼女たちの間に何が起こったのかを悟った。
「...何て返事、したの?」
「返事も何も。アーサーは、そういう気はなかったみたい。...ホント馬鹿。」
「でもそれって...すごく、アーサーらしいね。」
「そうね...うん、嬉しかった」
「私も、ユーリンが元気になってくれて嬉しいよ。」
「ーーーありがとう」
シャロンは声が震えそうになるのを必死に堪えながらユーリンに笑いかけた。
「...シャロン、もしかしてーーー」
「おーい!!早くしろよ!!
あと467m先にクラウドがいるぞー!!」
「本気で言ってるのかしら...」
「...行こっか」
シャロンは暗くなっていく気持ちを振り払い、セインの本を取り戻すことだけを考えることにした 。
一方、...一人セインを追っていたクラウドは、モンスター共の言った通り、森を抜けた所の丘でセインを発見し、相対していた。
「...逃げられると思うな。あまり俺たちを甘く見ない方がいい。」
「そうみたいだね。
こんなに早く追いつかれるなんて想定外だよ。...でも、残りの三人はどうしたんだい?」
「...あいつらもじきにここに来る。
ーーーさあ、本を返せ!!!」
「じきに、ね」
クラウドはあの分かれ道だらけの森を、アーサー達が抜けられるかどうか少しばかり不安に思っていた。
それを察したセインはにやりと笑みを浮かべる。
「...やっぱり君たちの中で一番厄介なのは君のようだね、クラウド君」
「黙れ。」
「そうだ、君。僕と一緒に魔界へ行かないかい?君ほどの者なら、魔王様もさぞお喜びにーーーーー」
「黙れと言っている!いい加減にしろっ!!さっさと本を渡せ!!」
クラウドの怒鳴り声は辺りに響き渡った。
しかし、それだけの大声にもセインは動じず、ただ苦笑を浮かべている。
今のクラウドには、彼の全ての言動、全ての表情が癪に触った。
今まで抑え込んできた怒りはとうに限界を越え、そしてとうとう爆発してしまった。
「元々貴様は気に食わなかったんだよっ!!ここではっきり決着を着けてやる!!!
貴様なんかには負けない...
ーーー消えろっ!!!」
クラウドは正面から殴りかかった。
が、当然セインは軽くかわし、剣を抜いた。
「落ち着きなよ。...どうしても、と言うのなら相手になるけど。先に断っておく、今の君じゃ僕には勝てない。」
「余計なお世話だ!!俺は負けないっ!!」
「だから無理だよ。
普段の君ですら勝つのはほぼ不可能だっていうのに、今の冷静さを失っている君じゃなおさらだ。」
「〜〜〜っ!!!」
クラウドの怒りはさらに増し、真っ正面から次々とセインに殴りかかる。
だが、何度やってもひらりとかわされ、返り討ちにあう。
クラウドの傷は増えていく一方だった。
「いい加減諦めなよ」
「誰がっ!!」
「はっきり言うけど...今の君、普段のアーサー君よりも隙だらけだよ。ーーーーー死にたいのかい?」
「ーーーっ!!!?」
その言葉に、思わずクラウドは動きを止めた。
そして困惑した表情を浮かべる。
「...っ冗談じゃない。まさか。俺が?...俺がーーーアーサーよりも隙だらけ、だとっ!!!?」
「おーいーっ!!クラウドっ!!
そこじゃねーだろっ!!俺には隙なんて無い!」
「うん...アーサー。そこも違うよ」
まさかのタイミングでアーサー達がその場に乱入する。
「あ...アーサー。シャロンとユーリンも。案外早かったな。」
「あったりまえだろ!?クラウドの居場所なんて俺にはお見通しだ!なんたって俺とクラウドは、心で結ばれてるからな!!」
「...やめろっ!そういう言い方はよせ!
気持ち悪いーーーっ!!!」
「照れるなってー!ホントは嬉しいんだろ?なっ?」
「全くもって嬉しくない!いいから少し黙れ!」
先ほどまでブチ切れて冷静さを失っていたクラウドだったが、すっかりアーサーのペースに飲み込まれ、冷静さを取り戻していた。
「はぁ...。
先ほどはつい取り乱してしまったが、もう大丈夫だ。...今度こそ、俺は負けない!!」
黙って二人の会話を聴いていたセインは、何かに納得したように大きく一つ頷いた。
「なるほど...。
冷静さを失ったクラウド君をアーサー君が引き止めて、冷静さを取り戻させる。そして、無計画に突っ走るアーサー君をクラウド君が引き止め、リードする。
最高のコンビなんだね、君達は。」
セインにとっては、そんな二人が少しうらやましく思えた。
「さあーっ!本を返せ、セイン!!」
「...仕方ないな。
今の君達には勝てる気がしないからね。」
「え...」
セインは渋々本をアーサーに手渡した。
「いやー、こんなにあっさり戻ってくるとはなー。良かった良かった!じゃ、帰ろーぜ!!」
「じゃ、僕もこれで。」
そう言うと、セインは足早にその場を立ち去ろうとする。
が...ーーーーー。
「ちょっと待て」
「えっ...」
「アーサー、その本をシャロンに」
「え?ああ、ほら、シャロン」
シャロンは本を受け取ると、表紙をまじまじ見つめたり、パラパラとページをめくってみたり、色々と観察した後、首を横に振った。
「違う...これ。
さっき図書館で見つけた本じゃないよ。」
「え...えーーーっ!?」
「やはりな。」
クラウドはセインを睨み付けた。
セインは苦笑する。
「抜け目のない奴だ。危なかったな。」
「全く...さすがだね。君には敵わないよ」
「おおお!!!すげー!!
さすが俺のクラウドだっ!!!」
「だから...その言い方はやめろとーーー」
クラウドは大きくため息をついた後、セインを見た。
「本物を渡してもらおうか。」
「はいはい...。
もう、また魔王様に叱られる...」
セインはクラウドに本物と思われる本を手渡した。
受け取ったクラウドはすぐにシャロンにそれを渡す。
シャロンは先ほどと同じように本をよく観察し始めた。
そして本を開くと、難しい顔をしてうなり始める。
「どうした、シャロン。まさか、それもーーーーー」
「まっ...ま、待って。
それは本当に本物だよ...っ!!」
「...。うーん...たぶん、本物...だと思う。でもね、文字が難しくて...読めないの。」
「...それは困ったな」
「もういいかな?僕は行かせてもらうよ。」
セインはそう言うと、丘の向こう側へ向かって走り出す。
「ああ、そうだ。」
直後、彼はふいに立ち止まり、四人の方を振り返った。
「これだけは言っておくよ。
ーーー魔界には来ない方がいい。」
「何故だ?」
「...そりゃあ、魔王様は世界一...
ーーーおっと、これ以上は言えないかな。」
「なっ...」
「とにかく、来ない方が身のためだよ。」
「...」
「じゃあ。...もし次会った時は、本気で君達を倒すから、覚悟しておくといい。」
セインはそう言い捨て、丘の向こうへと姿を消した。
四人はしばらくそのまま無言で立ち尽くしていた。
四人はセインから取り返した本を手に、宿に戻った。
「みんな、すまん......」
「ど、どうしたの、アーサー?
謝ることなんて一つもないじゃない」
「本当にごめんな...俺...この本読めないんだっ!!」
「大丈夫だ、安心しろ。誰も期待してねえから。
...ところで、シャロン。お前でも読めないのか?」
「あー...うん...多分、時間をかけたら何とかなると思うんだけど」
そう言ってシャロンは適当なページを開き、目を落とした。
「だったら、図書館に行ってみるか。 何か参考になるものがあるかもしれない。」
「そうね!今日はもう遅いし、明日にでも行ってみましょ!」
「よっしゃー!やってやるぜー!」
その日の夜。
四人は各部屋に戻ると、すぐさま眠りに落ちた。
明日、本の解読が出来れば魔界へ向かう。
恐らく、まともな休息を取れる時はもう来ないだろうと、誰もが理解していた。




