第一話 : 新たなる旅立ち
【ニスリル国】。
ここはとても平和で豊かな国である。
人々は皆この国で幸せに暮らしていた。
しかしある日、そんな国に大事件が起こってしまったのである。
「…と、いうわけで、魔王にさらわれた姫を助けに行って欲しいんじゃ」
床一面には紅い絨毯、豪華絢爛な装飾品に彩られた部屋の中心で集められたその四人の若者は玉座を見上げていた。
「王様...なぜそのような大切な任務を我々なんかに任せるのでしょうか。」
若者の中の一人が恭しい言葉で王に問うた。
「いやいや、君達だから任せたいんじゃよ。私の耳にも届いているぞ、君達の優秀さは。
師も持たず我流のみで剣術を極めた若き天才剣士、アーサー。
ファイターとなって比較的日は浅いながらも、すでに大会でも名を馳せている錬鉄の戦士、クラウド。
全属性の魔法を使いこなすことができる最高峰の魔術師、ユーリン。
予測不可能な矢の軌跡は魔弾のように確実に獲物を仕留める随一の女ハンター、シャロン。
ほら、この任務を任せるには申し分ないパーティーだとは思わんかね、クラウド君?」
「そうですがーーー」
「いっやぁ〜ははは。そこまで言われると照れちゃうよなぁ〜!!王様褒めるの上手ー!!」
アーサーは照れながら金髪の頭をがしがしと掻いた。その言動といい、美しい碧眼から滲み出る馴れ馴れしさといい、王様を前にしては常人ならなかなか出来ない行動である。
王様は余程寛大な心の持ち主なのか、アーサーの言動にも全く苛立つ素振りも見せないが。
「...そりゃあ、戦力面では全く不満はないが...」
アーサーとは全く違った心情でクラウドは頭を掻いた。
黒い前髪から覗くその蒼色の瞳はアーサーとは対照的にクールで大人びた印象を与える。
「不満はないが...内面的なものも心配だな。」
クラウドはちらりとユーリンを横目で見た。
「ちょっ...!?何でこっち見たのよ!!」
「いや...シャロンのこといじめたりすんなよ、ユーリン。」
「なっ!?そんなことしないわよ!私たちとっても仲が良いんだから!ねぇ、シャロン!?」
ユーリンは黒いローブと茶髪の長い髪をなびかせながら振り返り、燃えるような紅い眼で必死にシャロンに訴えかけた。
ユーリンの必死さにシャロンはエメラルドの瞳に少しばかり戸惑いの色を浮かべた。
彼女の優しげなオーラと軽くウェーブがかかった亜麻色の髪もあって戦士とは程遠い存在に思えるが、彼女の背負う弓矢は彼女が紛れもなく狩人であることを物語っている。
「あの、クラウド。ユーリンとは友達だから、あんまり悪く言わないで...?」
弱々しい声音でシャロンにそう言われたクラウドは「ごめん」と小声で言葉を返し、そっぽを向いてしまった。
その背中をユーリンは少し悲しげに見つめる。
「おいおいクラウド!!ユーリンはそんな奴じゃないだろー?そういうこと言ってると好きな女の子に嫌われちゃうぞー?」
「ば、馬鹿かお前はっ!」
ただ戦力面のみを考慮して勇者に選ばれたこの四人。どうやら元々面識があったらしい。
「早くお姫様を助けに行こうぜ!!必ず無事に連れて帰りますからね、王様!」
「あぁ、頼んだぞーーーーー」
ほんの少しギスギスしかけた雰囲気を見事ぶち壊したアーサーは三人を連れて部屋を後にした。
しばらくすると、アーサー達が出て行ったのとは別のドアから一人の兵士が現れ、王様の前へと跪いた。
「王様、その...お耳に入れておきたい情報があるのですが...」
「構わん、述べよ。」
「…はい、実はっ…ーーーーーー」
「ーーー!!?」
王様は真剣な表情で兵士を見つめた。
一方、アーサーの方はというと、町のはずれまで到達していた。国を出ようと、早速城からここまで歩いてきたのだった。
「いよいよ出発だなっ!!がんばろーぜ!!」
アーサーは右手で拳を作って、前に突き出した。
しかし、クラウドは少し不安げな表情を浮かべていた。
「...それで、これからどうするんだ?」
「...あ、えーーーーーっと...」
アーサーは困った様子で苦笑する。
見かねたシャロンはアーサーに何かを耳打ちした。
「あっ...あー、そうそう。
とりあえずは情報集め?...だよな!」
「全く...先が思いやられるな。」
「んな細かいことは気にすんなって!」
クラウドは小さくため息をついた。
「サンキューな、シャロン」
アーサーは小声でそう呟いた後、にっこりと笑ってみせた。
シャロンはそれを見て嬉しそうに微笑んだ。
少し不機嫌そうな顔をしていたクラウドの元へユーリンが駆け寄り、笑顔をつくる。
「他の国だったら、何か知ってる人がいるかもしれないわね!私、他の国なんてほとんど行ったこと無いから楽しみだわ!!」
「...そう、だな」
クラウドはユーリンの方を見ずに答えた。ユーリンは拗ねたような表情になる。
「まずは隣国からだなっ!
さぁっ!!出発だー!!!」
ユーリンがクラウドに文句を言うよりも先にアーサーがそう言い、歩き出す。シャロンとクラウドもその後に続く。
「...クラウドの馬鹿ッ」
ユーリンは誰にも聞こえないようにそう呟き、小走りで三人の後を追った。
...そんな様子を一人の若者が後ろから眺めていた。彼は笑みを浮かべているが、その目には悪意のようなものが感じられる。
そんな事は全く知らず、四人は隣国へと向かって旅立った。
ーーー五時間後
「いや、隣国遠いわーーーー!!」
さすがのアーサーもついにつっこんでしまった。
二スリル国は栄えてはいたが、国の周辺には森、砂漠、海しかなく自然の真っ只中に位置していたため、隣国と言ってもかなりの距離がある。
とりあえず砂漠を越えようということになりここまで歩いてきたが、一向に国...どころか人すらも見当たらない。
さすがにみんな疲れ果ててしまっていた。
「…どうしよう。このままじゃ着く前に日が暮れてしまうわね。」
「つか、ユーリン。魔法で隣国までテレポートできねぇの?」
「一度行った場所じゃないと出来ないわ。国のイメージをしないとテレポートは発動しないから。」
ユーリンの一言でアーサーは「ちぇっ」と言ってまた歩き出した。
「…あれ?」
「どうしたんだ?シャロン。」
「空に…なんだか大きな鳥が不自然に飛ん…えっ」
突然、頭上の大鳥がシャロンめがけて急降下してきた。
「きゃあああっ!!」
「あぶなーーーー」
「あっぶなぁぁぁああああいぃ!」
クラウドが助けにいくよりも速く、アーサーが剣を鳥に向けて投げ、右羽に見事命中させた。
「キェェエエエエエッ!!」
「お前なぁ、もぅ少し考えろよ!!シャロンに剣が当たってたらどうするんだ!!」
「なんだよークラウド。俺の腕を信じてないのか。」
「そういう話じゃない!」
「キェェ!!お前ら俺様を無視してんじゃねぇ!!おい勇者ども!!魔王様の所には行かせねーぞ!!あ、キェ、いて、いてて...」
何やら流暢に人語を操る不思議な鳥は、血まみれの右羽をバタつかせながら言った。
「キェー!!飛んでるのすげぇ痛い!!おい!俺様の自慢の羽を治しやがれ!!」
「そんなことするわけないだろ...いや、待てよ。」
クラウドは何か思いついたような素振りを見せた。
「よし。ユーリンの治癒魔法でその怪我を治してやる。その代わり、俺たちを隣国へ連れて行け。それか魔王の情報をよこせ。」
「キェーーー!!そんな条件のめるわけねぇだろっ!やなこった!!」
余程頭にきたのか、鳥は余計に翼を大きくはためかせた。
「そうか。残念だ。じゃあユーリンの炎でお前を焼き鳥にするしかないな。」
「キェェエエエエエ!!!やめろぉっ!!隣国には連れてってやるから!!」
「よし。みんな、すぐに隣国へ行けるぞ...ん?」
クラウドのちょっぴり最低なやり口に少しだけひいてしまった三人であった。
取引成立ということで、鳥の傷を治してやり、四人は鳥の背に乗って隣国へと向かった。
お読みいただきありがとうございます!
Alliesです。
記念すべき初投稿です!
この作品は実際1年程前までリレー小説として二人で書いていたものを加筆&修正したものになります。
更新スピードは気まぐれですが、気が向いた時にでもまた覗きに来てくださいね
誤字脱字の指摘、感想などお待ちしております!