メイローグ学園
この世には神の力を受け継ぐレウィシアと呼ばれる人間が複数存在する。わかりやすく説明すれば、レウィシアとは『超能力者』ってことだ。
俺、レンヴィル・グリフィアもそのうちの一人。俺はよりによって闇黒神の力を受け継ぐ闇のレウィシアだ。なんでも、光の女神ティアーナを筆頭とした天界の神サマ達を、人間に力を与えなければならない状況まで追い込んだ張本人であり、凶悪な神なんだと…。
おかげで力を受け継いだだけの俺も、心の狭い奴らから睨まれたり、遠回しな嫌がらせを受けることもしばしばだ。
でも、この力のおかげで助かったこともたくさんある。例えば今日の復学試験の時、俺は最後の一振りに闇の力を使った。
闇の力は死の力を秘めている。死の力というと恐ろしい響きを孕んでいるけど、言い換えれば、それは攻撃力を高める力だ。俺の力を纏った剣は、通常よりも広範囲に大ダメージを与えることが出来る。
おまけに闇の神は俺たち人間に力を分け与えた時、天界で光の女神に次ぐ第二位の力の強さを誇る強い神だったらしい。その力の優劣は受け継いだ俺たちにも適応され、他のレウィシア達と戦う場合でも、大概の場合、俺は勝つことができる。
攻撃力強化以外にも闇の力の使い方はあるのだが…それはいずれわかることだから今は置いておこう。
もちろん力を使用する際にはそれなりの代価が伴う。それは力によって多少異なるみたいだが、ほとんどの場合は体力の消耗だ。どんなに便利な力を持っていても限界は必ず来る。戦いにおいては、どのタイミングで力を使うかも大事な要素となるのだ。
ここまでレウィシアが普通に暮らし、存在しているように説明してきたけど、実は世間一般にレウィシアのことは知られていない。超能力者は本やマンガの世界でのみ生きる存在だ。誰でも一度は不思議な力を使ってみたい、と思うもの。だけど、それは子供の幻想で、現実を見つめれば科学の進歩が著しいこの世の中で、その努力を水泡へと帰すような超能力者は不必要であり、卑しい存在となってしまう。
もし現代で「自分が超能力者だ」などと言えばたちまち周囲の人間から冷えきった視線を浴びさせられることだろう。
レウィシアが世間に認知されていない理由はもう一つある。
それは、レウィシア達の力があまりにも強大で恐ろしいものだったからだ。
力にもよるが、子供のレウィシア一人の強さは、平均して武装した大人兵士の約二十人分ほどにもなるらしい。それほどの強さを持ってしまったレウィシアを、ほとんどの国では忌避し、ひどいところでは戦争に駆り出したり、奴隷として使うところもあるらしい。俺は幸いそのようなことは無かったが、初めてこの事実を知った時は、しばらく鳥肌がおさまらなかったものだ。
そんなレウィシア達を救い、社会に溶け込ませようとするべく、世界を裏から支え、動かしている世界意志決定機関『ルシウス』によって作り出されたのが、今回俺が過去最高成績で復学試験に合格した、このメイローグ学園というわけだ。
メイローグ学園はリアトリスという大都市から数キロ離れた、人だかりのほとんどない丘の上に建てられている。この学園のすごいところは、何と言ってもその広大な敷地と、それを多い囲む空間遮断結界だ。
この結界は外からの侵入を阻むだけでなく、その内部のものを外側の人間から視覚できないようにしている。そして、その広大な敷地の中には校舎はもちろん、寮や試合を行うコロシアムや訓練場まで備わっており、さらにそれらが全て最新式とくるから、結界内に行動範囲が絞られるとはいえ、俺たちは快適な生活をおくることが出来る。
これほどまでメイローグ学園の設備が整えられ、快適な生活を追求しているのには、ある理由がある。それはレウィシアがストレスを限界まで抱え込んでしまうと、力を暴走させてしまうからだ。レウィシア達の間ではこれを『闇黒化』と呼んでいる。
そもそも闇黒神が人間に力を与えたのは、その力で人間を不幸にさせるためだった。闇黒神は不幸の気持ちをエネルギーとしていて、それを溜めて光の女神達を倒すつもりだったらしい。
現在闇黒神は世界のどこかにあるとされる闇の神殿に封印されているらしいが、そこから闇黒神はストレスの溜まった…つまり不幸な気持ちを抱えこんだレウィシア達の存在を感知しては、それに力を流し込み、闇のレウィシアへと変化させる。それが闇黒化の原理だ。
闇黒化したレウィシアは闇黒神の操り人形となって限界まで周りの人間に危害を及ぼし続ける。闇黒化の厄介なところは、自身の命をエネルギーとして力を振るうため、その力が通常よりも倍近く強くなってしまうということだ。普通のレウィシア一人では止められないし、力を使いはたせば闇黒化したレウィシアは死んでしまう。
だけど、メイローグ学園が創立されてからはその効果もあり、学園内ではもちろん、まだ学園の存在を知らないレウィシアが存在する外部でも、この百年間一度も闇黒化は起こっていないらしい。
そんな素晴らしい実績と信頼性を持つメイローグ学園に、今日俺は復学する。
ここで俺はもっともっと強くなる。
もう、あの過去を繰り返さないために…