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WAYS  作者: ヒヤシンス
3/14

復学試験合格

「すごい…すごいよレンヴィル君!さすがは元首席ね!」


戦いの余韻も冷めない中、決着がついたと判断するや否や、その人物は部屋へと半ば飛び込むように、勢い良く扉を開いた。紅葉の葉を思わせるような長く赤い髪と、同色の目を持ち合わせる美人教師、アカリファ先生だ。普段は毅然とした姿勢を見せる彼女だが、今は珍しくメガネの奥のから覗く目が、興奮したようにキラキラと輝いている。


「あのアークスを倒しちゃうなんて!メイローグ学園、前代未聞の大記録だわ!すごいよ…本当に!これは学長に報告ね!」


まるで自分のことのように喜ぶアカリファ先生に、俺はゆっくりと起き上がりながら答えた。


「いや、そんないいですよ…。俺は自分の記録を抜きたかっただけですから。達成出来たのもアカリファ先生が一年間の校外実習生に俺を推薦してくれたおかげですし…本当に先生には感謝してます。ありがとうございます」


深々と腰を折る俺に、アカリファ先生は静かに首を振った。


「んー…。別に私が推薦しなくても、君が選ばれるのは確実だったわよ。実習がうまくいったみたいで私も嬉しいわ」


アカリファはニコッと微笑んだ。そして思い出したように踵を返すと机の上に置いてあった一枚の紙にサラサラと何かを書き、いつになく真面目な顔で俺に差し出した。


「レンヴィル君。君の力を認め、メイローグ学園への復学を許可します。これからも学園のため…そして未来の自分がなすべきことのために、精一杯励んで下さい」


「…もちろんです、アカリファ先生」


それを聞き遂げるとアカリファはフゥと息をついて肩の力を抜いた。次いでもう一度笑い、俺を見やる。


「さ、堅苦しい儀式は終わり!お疲れ様でした。今日まだ午後の授業が残ってるんだけど…出る?」


移動の支度をしながら、俺は小さく頷いた。


「はい、そうさせてもらいます。久しぶりにあいつらとも会いたいし」


「了解したわ。…と言っても今日の授業は超基本のところの復習だから、レンヴィル君には物足りないかもなー…」


俺はドアへと伸ばしていた足をピタリと止めて先生の方を振り返った。なんだか嫌な予感がした。


「え…な、なんでですか?」


「なんでって…明日がアッサムだからに決まってるじゃない」


キョトンとした顔でアカリファは首を傾げた。だが、それと対極をなすように俺の顔はサーと青ざめていく。


「き、聞いてませんよ!そんな大事なこと…何で言ってくれなかったんですか!」


「…あれ、言ってなかったっけ?でも、レンヴィル君のその実力なら大丈夫でしょ!」


ゴメンゴメンと顔の前で手を合わせながらもその笑みを崩さないアカリファ先生を見て、俺は反論する気も失い、代わりに一つため息をついた。

ガックリと肩を落とす俺の背中を、アカリファ先生はバンバンと叩いて慰める。俺の気持ちをブルーにしたのはアカリファ先生当人なのだが…。


「そんな落ち込まないの!…ほら、いいものあげるから!」


俺の落ち込みようにさすがに罪悪感を覚えたのか、先生はいきなりそう言うなり自身の手を、まるで何かを包み込むように丸めた。俺が何事かと振り返ると、アカリファは再び顔に得意げな笑みを浮かべ、張りのある声でその言葉を口にした。


「我に宿りし植物の力よ。今こそ汝が主にその力を示せ!フローラ・ブルーム!」


瞬間、アカリファの手の中が、突如として出現したまばゆいライトグリーンの光に包まれた。光はアカリファの手のひらから湧き出るように放出され、何筋かの光が指の間から漏れ出し、部屋の壁をまるで森の木漏れ日のように美しく染めた。


しばらくして光がだんだんと弱くなり、そして完全に収縮したタイミングで俺は目をゆっくりと開けた。そこには、先ほどまで影も形もなかった一本の花を愛らしそうに見つめるアカリファ先生がいた。

だがその表情も瞬時に一転し、アカリファ先生は横目で俺を見てふふんと鼻を鳴らすと、それを俺に差し出した。


「はい。これ、レンヴィル君にあげる」


「あの…これは?」


「あら知らない?この学園のシンボル、沈丁花の花よ」


そういうことを聞いたのではないのだが…。しぶしぶそれを受け取った俺に、アカリファ先生はいつになく優しい声音で続ける。


「沈丁花の花言葉は『栄光』。レンヴィル君に栄光が訪れますように…」


俺の手の中の沈丁花が、その言葉に反応したかのようにシャランと揺れた。

その花を見つめていると、ふいにその凛とした花の奥に、白いワンピースの少女の姿がうっすらと見えた。少女はにっこりと笑うと俺の方へと花を差し出した。今、俺が手にしているのと全く同種の沈丁花の花を…。

それは、毎日が楽しく輝いていたあの日の思い出。…だが、俺はどれだけ願ってもあの日へ二度と戻ることはできない。


「…ありがとうございます」


俺は幻想をかき消すようにそう言った。そう言うことしか出来なかった。

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