信じられる
・
・
・
「あの人…大丈夫かな?」
わたしの不安を払拭するようにレイラは声を張り上げた。
「大丈夫よ。セイジは強いんだから!そんなに心配しないで」
レイラはギュッとわたしの手を握ると再びセイジを見やった。涙は風に溶けたように消え、その口にはいつもの笑みが浮かんでいる。
「セイジなら信じられる…!」
レイラは強くそう言った。
あの時…
オリバは怪訝そうな表情を浮かべたものの、わたしとレイラを見るなりセイジ・スターチスとの戦闘をすんなりと了承した。
そしてオリバは準備をすると言って校舎に入って行った。それからすでに10分が経過している。何かを取りに行ったのであればそろそろ帰ってきてもいい時間帯だが…。
その時、校舎の方から長身のスーツ姿の男がこちらに歩いてくるのが見えた。間違いなくオリバだ。両手に握っているものは円盤の機械と、それと…
わたしは鋭く息をのんだ。もう片方の手に握られていたものは、刃渡りが1m以上ある超大型剣だった。アークスの持っていた剣もまた大剣だったが、流麗な細工が施されていたそれと比べると、オリバの剣は研いだ鉄がむき出しになっているような印象を受け、それがまた禍々しさを一層引き立てている。包丁をそのまま大きくしたような大剣の鋭利な切っ先が地面をこすってはその分だけ土を掘り返して、オリバが通った道筋を浮かび上がらせる。
だが、そんな様子に当のセイジは怯える様子もなく、ただ腕組みをしてオリバを真っ直ぐに見つめているだけだった。レイラのように感情を押さえ込んでいるようにも見えない。
オリバは剣を少し持ち上げてどこか余裕の表情で言った。
「僕はこの剣で戦うよ。残念ながら君の分は無かったんだが…いいよな?なんたって君は…」
「ええ、剣は自分にあったものがありますので」
全てを言い終わらぬ内に、セイジは即答した。オリバの目の端がピクリと動く。
だが「まあいい」と言って頭を振ったオリバは、次に円盤を木に立てかけた。二つの円盤は電子パネルになっていて、周りには緑色のライン。中心にはそれぞれ名前が入っている。すなわち、セイジ・スターチスとオリバ・レザルタス、と。
あの円盤は見たことがある。たしか、HP表示機とかいう体力の残量を表す機械だ。編入試験の時にわたしも使った思い出がある。
その時、オリバかセイジに向かって何かを投げた。セイジは片手でそれを受け取める。
「…あれは何?」
「黒曜石よ。ミレアは知らない?レウィシアの力を溜めておくことが出来る不思議な石で、その石を使えば誰でもその石の持つ力を使うことが出来るの。今渡したのは音の力と雷の力が溜められた黒曜石。音っていうのは振動のことだから、使うと相手の攻撃を軽減する透明のアーマーになるの。雷の方はアーマーに受けたダメージをHP表示機に電波として送るため。明日のアッサムもこの二つを使って戦うんだよ」
「…そんな石があるんだ」
そんなアッサムについての説明を受けている間に、二人の準備は終わったようだった。オリバが大剣をグッと目線まで持ち上げて、ピタリとセイジを標準する。
「ルールは特に無しだ。どちらかのHPがゼロになるまで戦い続ける。この試合…どちらが勝っても恨みっこなしでいこうじゃないか、スターチス。おっと…だからといって手は抜かないでくれよ?きみは大事なお手本なんだから」
「お手本」のところに嫌らしく力を入れ、オリバは言った。セイジは相変わらず涼しい顔で答える。
「わかっています…」
セイジの挑発的とも取れるそのそっけない答えに、ついにオリバの堪忍袋の尾も切れたのか、今度は遠目に見ていたわたしにさえ、オリバの額に青筋が何本かたったのがわかった。怒りのせいか手もプルプルと震えている。
「…始めだぁ‼︎」
怒りの感情を孕んだ開始の合図と共に、オリバは大剣を振りかざし、セイジに突進した。