不器用な親友
授業が始まる五分前、俺たちは次の実戦授業が行われる広場へと集合していた。実戦授業の先生の姿はまだ見えない。周りは見渡す限り青く茂った芝生が続いていて、俺が全力で力を使っても大丈夫そうだった。俺は実戦授業を前に少しドキドキしていた。
生徒達が思い思いに談笑する中、俺はミレアの横に立ち、何やら楽しそうに話をする一人の少女に目がいっていた。
「ん…あれレイラか?」
「ああ、そうだけど。どうかしたか?」
セイジは肩を回しながら答えた。俺も動きをマネしつつ、再びレイラを見ながら続ける。
「いや、なんか…雰囲気変わったなーって。前はもっとおどおどしてたっていうか…」
「…レイラも僕と一緒にがんばったからな。今じゃ学園の次席だ。強くなったから、自信が持てるようになったんだって言ってた」
「へー、すげぇ…」
俺はチラッとセイジを見た。一方のセイジはさっきからレイラを見ようともしない。ずっと準備体操に集中している…ふりをしている。
ポーカーフェイスを貫いているが親友の俺にはお見通しだった。セイジは頭がいいのにこういうことになると俺よりも不器用だ。そんな親友を少しいじってやろうと、俺はセイジの腕を肘でつついた。
「…なんだよ」
セイジの面倒くさそうな声。俺はニヤっと笑った。
「そっか次席か…。レイラは自慢の彼女だなセイジ」
「幼馴染だ!」
間髪入れぬ即答。そんな中でも俺はセイジの頬が少し赤くなっているのがわかった。
「別に隠さなくていいんだぜ?親友なんだし」
「隠す事なんてない!」
頑固なやつ…。さっきよりももっと顔が赤くなってるのに。…自分で気づいてないのか?
そう考えていた時だった。不意に芝生を踏みしめるザッザッという音が聞こえ、俺はそちらを振り向いた。
「おや?初めて見る顔がいるな…」
低めの錆声。黒のスーツに身を包んだ長身の男性だった。いつの間に近づいたのか、そいつはミレアの後ろにピッタリとほぼ密着状態で立っていた。ミレアはそれに驚いたのか、振り向くことも出来ずに凍りついている。男の口にはなぜかニタリと、毒がしたたってきそうな笑みが浮かんでいた。
「初めて会う大人には、まず挨拶じゃないのか?…あぁ⁉︎」
急に声に凄みが増したかと思うと、男はミレアの腕を引っ張って自身の体に引き寄せた。どうにかミレアも押しとどまったが、口からかすかな悲鳴が漏れる。
その場の空気が一瞬にして凍りついた。