歯医者なダーリンvs子供なハニー
甘々カップルのじゃれあい短編小説です。
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「ほら、見せてみろって」
「やだよ、冬夜。必要ないって言ってんじゃん」
「じゃあ見せても問題ないだろう。いい加減観念しろ」
「しつこいな」
「お前がな」
言葉遊びのようなやり取りが堂々巡りをする。
どの位の時間を費やしたのか、もはやそれすらも分からない。互いに言葉がぞんざいになるのも仕方のない事だろう。
だがそうも言っていられなかった。
何故なら――。
「荘司。虫歯、あるんだろう?」
「……っ」
問われた少年がギクリと肩を震わせたのを、冬夜は見逃さなかった。そーと眼を逸らす荘司の頬に手を伸ばすと、力任せに左右に引く。
「ひたたたたっ! あにするんらよ。はにゃせっ」
「何言ってるか分からん。いいから口開けろっ」
こじ開けようとする冬夜に歯を食いしばり抵抗するも虚しく、大口を開けさせる。
口内に指を差し込まれた荘司には、唸り声を上げる事しか出来ない。
「……お前、よくもこんなになるまで俺から隠したな」
「うぅー」
「明日治療するから、学校終わったらクリニックにこい。―――いいか、逃げるんじゃないぞ? これは命令だ」
ひとしきり頬をのばすと冬夜は荘司を解放した。
威圧感たっぷりの低声に、引き腰だった荘司は頬をさすりながらボソリと抗議の声を上げる。
「……えっらそうに」
往生際悪く小さな子供のように抵抗するその様を、無言でじっと見据えていた冬夜は微笑を口元にうかべそっと顔を近づけた。
唇が触らんばかりのその距離に、端整な冬夜の顔に慣れている筈の荘司も顔を赤らめる。
「……なんだよ」
「治るまでキスはお預けだ。早く治るよう、しっかり通えよ」
「だ、誰がしてくれって言ったよ!!」
囁かれる言葉に声を詰まらせ言い返す。頬を膨らませた荘司はそのままむっつりと黙り込み、口を開く事はなかった。
――――次の日。
膨れっつらはそのままに学校帰りの荘司が冬夜のクリニックに顔を出した。不機嫌を装うその顔は耳の先まで真っ赤に染まっていた。