忌み子と試合とギルドマスター
「井戸のそこにたゆたう水よ
七色の虹を織り成す水よ……」
カルマが呪文を唱え始める。
と、チェーニの姿がパッと消えた。
ちなみにこれは呪文の効力ではない。
その証拠に、
「ぐっ」
まだ呪文を唱え終わってないうちにカルマは地面に叩き伏せられた。
その喉元にチェーニのナイフが当てられる。
「試合終了。勝者、チェーニ!」
ロートがそう言うとチェーニはカルマを放した。
「おい、どういうことだ。」
「あれでもあいつはB級冒険者だぞ!?」
「まさか瞬殺だなんて……」
ざわざわとし始める周り。
いつもの意地の悪そうな笑みを浮かべるチェーニ。
未だに何が起こったのかよくわかっていないカルマ。
そんな現状の中、注目を集めたのは
「うるさいよ!」
こんな一言を発した老婆だった。
彼女の手や顔には深く深くシワが刻まれており、
かなりの高齢であることが分かる。
髪は全て純白に染まり、キリリとした眉が意思と気の強さを感じ取れる。
また非常に背が低く、チェーニの腰ほどしかない。
が、体からにじみ出る強大な魔力により、その姿は実際よりもはるかに大きく見えた。
「あたしはノーム・カイザー。このギルドのマスターだ。
あんたの事はよく聞いているよ。
強くて実績のあるものは大歓迎だ。ようこそ、ライゼ・フォルクへ。」
優しいその微笑みを見て、チェーニは嫌悪を感じた。
似ているである、彼を幼少の頃蔑んだ者たちの表情に。
彼を忌み嫌った者たちに。
その者たちがまだ優しかった頃の笑顔に。
全く同じものに見えるほどに、酷似していたのである。
ノームは本当にチェーニを歓迎しており、
他意は全く無いし、別に似ているのは心からの微笑みのためなのだ。
チェーニの中で静かに殺意が芽生える。
それもこれも彼の性格が歪んでいるからなのだが、
彼自身はきっといつまでも気付かないであろう。
ま、何はともあれ、この日めでたくチェーニはギルドに入局したのである。