忌み子と厄介事
ここは和の国のどこにでもあるような酒場。
カウンターで獣族の男が酒を飲んでいる。
彼の名はチェーニ、報酬次第で何でもやる便利屋だ。
噂では街一つ、消したこともあるらしい。
彼を見つけるのは簡単だ。
青い縁どりのされた黒のマントを羽織っていて、
灰色の髪と金と黒の珍しい瞳。
加えていつもニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「チェーーーーニーーーー!!」
大声を出しながら、赤い髪をした男が酒場に入ってきた。
彼の名はロート・アラエル。
大型ギルドの経理・勧誘課の者だ。
チェーニの友人でもある。
「うるせぇ」
チェーニの顔が一瞬で曇る。
彼にとってロートは厄介事の種でしかないのだ。
しかも金にならない厄介事の。
「いやーこんなとこで会うなんて奇遇だなあ。」
「ここは俺の行きつけの店だ。お前は俺に用があってきたんだろう?」
「え、なんで分かったの?」
「お前は俺に用があるとき以外ここにはこない。」
「よく知ってるねぇ」
「お前がよく来る店だったら俺はここにいない。」
「えぇー」
「うざい。で、何の用だ?」
「俺たちのギルドに入って欲しい。」
「いやだ。」
即答するチェーニ、その顔にはいつもの笑みが浮かんでいる。
「ギルドに入ると手数料取られるから損するだろ、俺が。」
「じゃあ、これは俺からの依頼だ。ギルドに入ってギルドの仕事をしてくれ。」
「……分かった。」
「よし!」
「報酬は金貨3枚な。」
「え!?」
「月賦でいいからちゃんと払えよ。」
「マジスカー。」
「ほら、連れてけよ。」
「うん。」
二人は酒場を出る。
と、ロートの背中から赤い翼が出現する。
彼は少数民族の鳥人の一族のものなのだ。
本来彼らは仁義を重んじる誇り高き存在なのだが……
「おい、もっとスピード出せねえのかよ。」
「お前が飛行魔法使えばいいだけの話だろう!?」
「うるせぇ、債務者が。」
「すいませんでしたぁ!」
ロートにその誇りを感じるのは無理かもしれない……