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異世界獣医師の聖獣カルテ!  作者: ぽぽろん


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第12話:王立工廠の偏屈者

「サラ、ここだ。……あまり離れるなよ。ここは腕は良いが、口の悪い連中が多い」


翌朝。レオンハルトに連れられてやってきたのは、聖院の静謐さとは対極にある場所――王立工廠だった。


巨大な水車が唸りを上げ、幾十もの金槌の音が大地を揺らしている。


熱気と油の匂いが立ち込める中、レオンはある一軒の、ひときわ頑丈な造りの工房の前で足を止めた。


「バルカス! 入るぞ!」


レオンが声をかけると同時に、奥から「うるせえ! 今は手が離せねえって……!」と怒声が飛んできた。


出てきたのは、レオンの背丈の半分ほどしかないが、横幅は倍ほどもある、見事な赤髭を蓄えたドワーフだった。


【ドワーフの洗礼】

バルカスと呼ばれた男は、煤まみれの顔でレオンを睨みつけた。


「……なんだ、王子様か。何の用だ。まさかまた剣を折ったんじゃねえだろうな?」


「いや、今日は客人を連れてきた。聖院の新たな聖獣医、サラ・コレットだ。彼女の道具作りを、お前の槌で手伝ってほしい」


バルカスは、レオンの背後にいた私の姿をじろりと検分した。


その目は「職人」の目だ。魔力の強さではなく、その人間の中身を値踏みするような、鋭い視線。


「……ふん。こんなひょろっとした小娘が、聖獣医だと? 笑わせるな。聖院の連中は、綺麗な指先で呪文を唱えるのが仕事だろ。ここの火花に耐えられるわけがねえ」


バルカスは鼻を鳴らし、私に背を向けて奥の炉へと戻ろうとした。


「……綺麗な指先で魔法を唱えるのは、私の仕事じゃないわ」


サラが静かに、けれどはっきりと告げると、バルカスの肩がぴくりと動いた。


「私の仕事は、救える命を見逃さないこと。魔法で聞こえない音が聞こえるように、あなたの技術を借りにきたの。……ミスリル銀の硬度と伝導率を計算して、極薄の集音板を彫り上げられる職人は、あなたしかいないって聞いたから」


バルカスがゆっくりと振り返る。


「……ミスリルの伝導率、だと? 小娘、どこでそんな言葉を覚えた」


「魔法の波形じゃなくて、『物理的な振動』を増幅させたいの。厚さ0.5ミリ以下、歪みのない完璧な真円。……できないならいいわ、別のドワーフを探すから」


「……っ、ハハッ!! 別のドワーフだと!?」


バルカスは金槌を床に叩きつけ、爆笑した。


「気に入ったぜ。このバルカスに『できない』なんて抜かしたのは、ボリスのジジイ以来だ!

王子、この小娘を借りていくぞ。おいサラ! 汚れるのが嫌なら今のうちに帰れ。これから三日三晩、寝かせねえからな!!」


「望むところよ、バルカスさん」


私は白コートをバサリと脱ぎ捨て、シャツの袖をまくり上げた。


その様子を見ていたレオンハルトは、呆れたように、けれど嬉しそうにため息をついた。


「……バルカス、言っておくが、私も手伝う。サラを独りでこの煙たい場所に置いておけるか」


「はっ! 王子様が助っ人かよ、贅沢なことだ。いいぜ、そこにあるフイゴでも吹いてな。……さあ、サラ! その『シュウオンバン』とかいう設計図を見せろ!」


前世の記憶とこの世界の知識を合わせた図面を作るために話し合いを続け


3時間後・・・


バルカスが作業台に図面を広げようとしたその時、ふと、私の肩越しに視線を止めた。


「……ああん? おい王子、そりゃあ一体何の冗談だ」


バルカスが指差したのは、私が昨夜、慣れない手つきでローブの襟元に縫い付けたばかりの「盾と獅子」の紋章だった。


「その小娘が着てるのは、王家守護の私紋しもんじゃねえか。

しかも、レオン、お前が自分の魔力を練り込んで特注したやつだろ。それをこんな若い娘さんに持たせるたぁ……。ははん、さては王子様、聖院の宝を自分だけの囲いに入れようって魂胆か?」


「なっ……! バルカス、余計なことを言うな。それは彼女の身の安全を守るための……!」


レオンハルトが珍しくうろたえ、顔を赤くして言い募る。


一方のバルカスは、私の顔とレオンの顔を交互に眺め、ニヤニヤと意地の悪い笑みを深めた。


「へえ、安全、ねえ。王立工廠のど真ん中で、これ見よがしに『手出し無用』の看板を背負わせるのがかい? 職人連中の間じゃ、そいつは『俺の女に触るな』って意味だぜ。お熱いこった」


「……っ、バルカス! 鍛錬が足りないようだな、後で相手をしてやる。今はサラの道具の話が先だ!」


レオンが強引に話を打ち切ったが、その耳の端まで赤くなっているのは隠せていない。


私は私で、紋章にそんな「独占欲」に近い意味があったなんて知らず、思わず襟元を指先でなぞってしまった。


「……レオン、そうなの?」


「……。……紛らわしい真似をしたのは認める。だが、君を守りたいという気持ちに偽りはない」


レオンは少しだけ気まずそうに視線を逸らしたが、その声には昨夜と同じ、静かで強い響きがあった。


「ケッ、ご馳走様だぜ。さあ、色ボケ王子様! フイゴを吹くなら、その余った熱を全部炉に叩き込みな! サラ、お前はこっちだ。その図面の『真円』の出し方、詳しく聞かせてもらおうじゃねえか!」


バルカスの豪快な笑い声と共に、金槌の音が再び響き始める。


レオンはしぶしぶといった様子でフイゴの前に立ったが、その視線は片時も私から離れようとしない。


魔法の輝きと、ドワーフの火花、そして背中越しに感じる王子の視線。


サラの「聴診器開発」は、想像以上に熱いスタートを切ることになった。



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