そうですか、そうなりますか。
最初に考えていた展開と変わったので、タイトルはその名残です。(タイトル付けるのニガテ)
「お前を愛するつもりはない。」
初夜の寝室で夫にそう言われて、言葉通りに愛されることの無い立場に転生したことに気づいたのが!結婚式が始まる直前ってどういう事ですか。
この世界は前世の記憶持ちだとか、異世界転生者とか、周知されている程度にいるって、知ってますけど?
でも、普通は中等科くらいまでに思い出すって聞いていたのに。
え?遅咲きも居るって?知らんがな。
「えー……この顔、絶対旦那に捨てられるモブだよ。」
顔と名前が、自分の知っている物語と完全一致だ。
夫となる男は、身分差で一緒になれなかった学生時代の恋人がいて、立場的には愛妾として家に引き入れて、いちゃこらする。
セオリー通りに、嫉妬した自分が愛妾をいびり倒して、切れた夫に制裁されるっていう。
「……何が面白かったんだろう。」
貴族の政略結婚なんて常識だ。
お前を愛するつもりはない(キリッ)
いや、(ドヤッ)だろうか。
「お嬢様?そろそろお時間ですが。」
鏡に張り付いて、ぶつぶつ言う花嫁はさぞかし不気味だろう。
やけくそに身を起こして、これから待ち受ける運命を呪って置こう。
初夜だよ、マジかー。
寝室に入る前に中止とかに、普通しない?
翌朝、お義母様に夫は不能でしたとか、涙ながらに訴えればいいのかな!
なかなか夫が寝室に来ないので、手持ち無沙汰だ。
テーブルに置かれたワインでも飲もうかと、グラスに手を掛けたところで、控えめなノックが響いて扉が開いた。
「……待たせてすまない。」
ギャッ、イケメン。
なんで恥じらい気味なのですか。視線が泳いでますよ?
顔が良いなぁ、これから言うことは最悪だけど。
「その……」
「はい。」
躊躇いがちなのか。てっきり、ズバッと冷たく切り捨てるのかと思った。
「……私は貴女を、」
お前って言わないのか。
まぁ、お前とか偉そうに言われたら腹立つよね、普通に。
あと、俯いているとか、もっと根性見せなさいよ。
「あぁ、いや。その……。」
どうした。
言うなら、さっさと言ってくれ。
平手打ちの準備は出来ている。
「旦那さま、何か仰りたいのですか。」
嫌がらせで旦那さま呼びをしてあげる。
君の旦那になるつもりは無い!とか、右手をこちらに向けて、左手で愛人、違った恋人の腰抱いて宣言すれば愉快なのに。
ぐっと拳を握った夫がこちらを見た。
ぱっと視線がすぐに逸れるし、顔が赤い。
「そ、その格好はいかがなものかと思うぞ。」
きょろきょろと落ち着きが無いし、右手はこちらに向いたけれど、なんだかわさわさしている。
「はぁ……、初夜ですし。」
すけすけの超絶セクシーな格好だ。
物語では綴られていなかったが、多分同じ姿だったと思う。
これで一応とはいえ、妻に手を出さなかった物語の旦那は、やっぱり不能だった説。
「しょっ、あぁ、そう…そうだったね。でも、風邪を引いてはいけないから、何か着た方が、」
羽織る物を探していたのか、きょろきょろしていた視線がベッドに止まり、慌てたようにシーツを引き剥がしてきて、素早く身体を包まれた。
「あの……?」
お前を抱くつもりはない!という意味だろうか。
それにしては、仕草が丁寧だし、表情は優しげだ。
「すまない……。」
手を引かれて、共にソファに座る。
いよいよか、と思って覚悟をすれば、柔らかく手を握られた。
「私はまだ、君を愛してはいない。」
まだ?
「それは……これからも愛するつもりはない、とか続きます?」
我慢出来なくて、自分から聞いて見れば、目をまん丸にして驚かれる。
「え、続かないよ?これから妻になる人に、そんな酷い事を誰が言うんだい?」
貴方ですけど。
いや、まぁ……今のところ言われてないけれど。
「だって、言われると思ってました。……貴方には恋人がいるのでしょう?」
「え!居ないよ。いや、まぁ学生時代はいることもあったけれど、だいぶ昔に別れているよ。」
「嘘、その恋人と一緒になりたかったのに、私がいるから、君を愛するつもりはないって言いたいのでしょう!」
それで初夜に放置されて、翌朝にお義母様に旦那は不能でしたって宣言する予定だ。
「言わない。私が言いたいのは、まだ君を愛してはいないけれど、これから一緒に過ごしていくうちに、きっと愛せるようなるから、それまで待っていて欲しいって……。」
「どうして……愛せるようになるって言えるのですか。」
そんなの分からないじゃないか。
この人は、もともと学生時代の恋人を家に招き入れる人だった筈。
こちらを見て、何故かへにゃりと笑う。
「だって、君が可愛らしいから。それにとても綺麗で……ウエディングドレスも似合っていた。この子が私のお嫁さんになるなんて、幸せだなって思ったんだ。」
ふふっと、笑う旦那さま。
そんなの、知らない。聞いていない。
結婚式当時に前世の記憶を取り戻して、絶望的しかなかったのに。
「ごめんね、何か酷い事を言ってしまったかな。」
そっと頬に触れられて、自分が泣いていることに気付く。
「違うの……愛されるなんて、思っていなかったから、」
不安だった。
すぐに捨てられるのだと、幸せになれることはなく、死んでいくのかと思うと、辛かった。
「不安にさせた、ごめんね。」
違う。そうじゃない。
自分が勝手にこれは物語と同じだと思って、夫となる人を酷い男だと思い込んでいたから。
「私……貴方を愛せそうです。」
顔がこわばっていたから、不自然な笑顔になったかも知れないけれど、そこで今日はじめて、笑えた気がした。
連載中の小説と同じ世界のお話です。
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連載は一応あと3話で終わりです。




