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苦い者同士、寄り添う。

作者: 雪野鈴竜
掲載日:2025/11/26

──少女はアパートでおじさんの帰りを待つ。心細いのを紛らすように、おじさんが畳に放り投げて放置していたシャツを掴み、少女はそれを抱き締め体を丸めて眠る。おじさんの服は煙草の苦い香りがして、苦手なはずのそれは、嗅いでいるとおじさんと一緒に居るみたいで落ち着いた。

(まだかな)

 おじさんは少女の親でもなく、親戚でもなく、……殺人を犯した指名手配犯だ。誘拐のつもりで少女を攫ったが、少女は誰からも心配はされなかった。……両親にとって少女は、邪魔で要らない存在だった。

 両親は少女を車で山へ連れて行き、さっさと二人だけで帰ってしまった……つまり、少女は捨てられたのだ。両親は警察に、「山へ一緒に行ったらはぐれた」と悲しむ演技をしながら虚言を吐き、結局そのまま行方不明扱いになってしまった。……しかし少女はそれでも良いと思っている。

 要らない存在だと両親から嫌われていた自分を、おじさんはたまた見つけて攫ってくれた。普通なら殺されているであろう状況の自分を殺さず……何を思ったのか、現在はそのままおじさんに育てられていた。

(このままで……いたい。)

 寧ろあの両親の元へは帰りたくはない……どうせ愛してはくれないのだから。シャツを握り締める力は強くなり、少女はそのまま眠りに落ちてしまった。


***


 夕方になりつつある青と紫とオレンジが混ざる空の色、その頃におじさんが帰って来た。ドアを開ける音に気づき、少女はビクリと反応をし目を覚ます。握り締めていたシャツを放り投げ、すぐに体を起こし、おじさんのところへ走って向かった。

「おじさんお帰りっ!」

「……あぁ、」

 微かに血の臭いがしたがもう慣れた。今日も無事におじさんは帰って来た。それだけで良いんだと少女は思い、にんまりと笑みを浮かべた。おじさんは靴を脱ぎ、部屋に入り畳の上にドカリと座って、ポケットから煙草を取り出した。

(また吸う……)

 少女はぷぅ、と頬を膨らませた。おじさんの体調を思うと心配になる。けれど、煙草から一本取り出すそのおじさんの慣れた指の手つきが、少女にはカッコ良く見えて好きだ。

 少女といっても、もう十三歳という歳になった身。おじさんを異性として意識し始め、いつの間にか恋情に変わっていた。おじさんはライターで煙草に火を付け深く吸い、口から白い煙をフゥ……と吐き出す。その煙は空中に蛇を描くように舞った。

 暫くその様子を眺めていると、おじさんは少女の顔を見て言った。

「今夜ここを出るぞ」

 少女はそれに頷いた。


──軽い荷物をまとめ、おじさんと少女は車に乗った。助手席に座り、シートベルトをしっかりと締める。おじさんと車で移動するこの時間は、毎度ちょっとワクワクして楽しい。

 少女はおじさんが買って来てくれたホットの缶コーヒーを空けて、一口飲む……その味はほろ苦くて、少女のような歳にはまだ苦手な味だろうが、少女はそれを毎回残さず飲み干した。

「おめぇ本当にコーヒー好きだな」

「嫌いだよ」

「じゃあ何で毎回それが欲しいって言うんだよ」

 おじさんは運転をしながら、「ミルクティーでも買ってやんのに……大人ぶってんのか?」とからかい笑う。少女は別にコーヒーが好きでも、大人振るために飲んでもいない。……ただ、おじさんも自分も、この缶コーヒーのようだと感じたからだ。

……詳しくは話してくれなかったが、おじさんは昔、両親にも知り合いにも、信じていた友人にも裏切られたらしい。おじさんも少女も、周りから要らない存在なのだと言われた一人ぼっち同士だ。

 甘味も何も無い……必要とされない苦いだけの人生。人間の体は生きている内は暖かいが、死ねば冷たくなる。おじさんも同じ……いつか死ぬ。人間だから、仲間も誰もいない……そんな人生の中死ぬのだ。少女も同じ……いつか死ぬ。人間だから、仲間も誰もいない……そんな人生の中死ぬのだ。

 コーヒーも同じ、今は温かくてもいつかは冷めたくなる。

(だから、だから私は──私達は、同じ一人ぼっち者同士、一緒にいるのかもしれない。)

──二人寄り添えば、少しは温かさも長持ちするでしょ? いつか冷たくなる……その日まで……。

だいぶ前に書いた短編の一つです。

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