episode9
シャワーから上がると身も心もサッパリした気分になり、いくらか気持ちが落ち着いてきたので
その日は温かいミルクティーを飲みながらゆっくり読書をして寛いでいた
ふと携帯から通知音が鳴り、何気なく視線を移すと
晃からの連絡だった
ーーー真白の部屋にある俺の荷物は処分してくれて構わないから。本当にごめんな。
そう手短に要件が添えられており
本当に私たちは終わってしまったんだな…と少し胸が痛んだが思ったよりも心の整理がついていたことに気づき自分でも驚いた
それもこれも、きっと雪のせいだ
マイペースで知らずに人を振り回すくせがある弟には困ったものだけど、実際連絡が来るまでそのことをすっかり忘れていたのも事実で、今回ばかりは感謝の気持ちが大きかった
「物、捨てないとな」
読書を続けるが迷ったが、気分が逸れてしまったのもあり重い腰をあげてゴミ袋を取り出し、晃が置いていった物をひとつひとつ処分していると私へのプレゼントも目についた
デートした時にUFOキャッチャーで取ってくれた可愛いクマのぬいぐるみ
初めてクリスマスを過ごした時に貰ったお揃いのパーカー
誕生日には私好みのパステルカラーでワンポイントが入った財布
記念日には二人で何軒も回って見て決めたペアリング
大学に合格した時には落ち着いたデザインだけど使い勝手が良いバッグをくれた
四年という長い期間を一緒に過ごしたことを実感させるほどに晃から私への贈り物は多かった
どれも思い出の詰まったものではあったけれども、もう振り返ることはない
「さようなら、晃」
今までありがとう
そして、幸せになって
人生で初めて好きなった人と結ばれ、そして別れを告げた
私も晃みたく、また人を好きになることがあるのだろうか…
そんなことをぼんやりと考えながらゴミ袋をまとめ終えると、色々と疲れていたせいか早々とベッドへと潜り込み、その日は深い眠りについた
ーーーーーーピピピピピピ…
「ん、朝……」
携帯のアラームで目が覚め、もそもそと起き上がりカーテンを開けると清々しい朝の光が部屋の中を照らす
「よく寝たぁ〜〜」
よく眠れたおかげか天井に手を向け思い切り伸びをすると、身体がほぐれて一気に目が覚める
なんだか身体も軽くて気持ちがよかった
すると背後から玄関から扉が開く音がすると
前日嵐のように去っていった問題児が帰ってきた
「姉貴、ただいま」
「雪……。今帰ってきたの」
昨日の今日で顔を合わせるのは気まずいと思いながらも眠そうな顔で私の横を通り過ぎた時に、ふわっと甘い香水の匂いが鼻を掠める
……コイツ、本当にいい度胸してる
朝帰りで女物の香水の匂いが染みついてるということは、そういうことだろうと私の何か言いたげそうな雰囲気を背中で察したのか、こちらをチラリと振り返り
「……やきもち?」
余裕そうな笑みに鼻でクスリと笑われたことに、思わず声を荒げて反論する
「馬鹿じゃないの!アンタがどこで何しようとわたしには関係ないもの」
「安心してよ、昨日は友達と飲んでたら終電逃して始発までカラオケで時間潰してただけ
香水は友達の彼女の匂いがうつっただけだよ」
「だから!聞いてないって!」
「えー、嫉妬してる顔してたよ」
「んなっ!」
ハッと我に帰り、雪の挑発にまんまと釣られてムキになっていることに気づいた私は喉元まで出かけていた言葉をグッと堪えて存在を無視するように大学へ行く準備を済ませると、足早に家から出て行った
先ほどまでの清々しい気分とは一変し複雑な気持ちを抱えながらも、相手にしなければそのうち飽きてふらっと出ていくだろうと、その時の私は軽く考えていた