episode6
「んっ!んんん!」
強引に触れた唇の隙間から、柔らかい舌が入りこんでくる
唇とは反対に熱を持ったその舌は
私の中を淫らに掻き乱してくる
「んぁっ……、」
悔しいけど、女慣れしている雪のキスは
とても気持ちよくて上手かった
今まで感じたことのない感覚に溺れそうになり
頭がボーッと痺れるように甘く、身体中がピリピリと浮ついていく
私の中をねっとりと這ったり吸い付いてくる舌に
抵抗することも忘れ、次第に身体の力が抜けていく
時折、シャワー上がりの髪先から雫がポタっと顔に落ちてくるが
しっかりと握られたその手にしがみつくので精一杯だった
唇が離れると、もうなにも考えられずに
ただ目の前にいる弟を霞んだ視界のなかで見つめていると、ふと視線が交わる
わたしを見下ろすその顔は艶っぽく笑みを含んでいる
「ははっ、エロい顔」
弟の、今まで見たことのない表情
まるで、知らない男の人のように思えてきて背中がゾクリとする
束の間、お互いを見つめあっていたが
ハッと我に返り身体を押し退ける
「なっ、なにして!!!」
蒸気した顔を抑え、唇をこすりながらソファから転げ落ちるように距離をとる
一瞬でも快感を覚えてしまった自分が情けなく、恥ずかしい気持ちになる
そんな私とは対照的に、余裕な笑みを含み
「でも、すごい気持ちよさそうな顔してたよ?」
小さな子供が悪戯をする時のような顔をしながら
悪魔みたいな囁きが私を追い詰めてくる
「姉貴、俺を見てよ」
姉弟として育った時間は長いはずなのに、今まで見たことのない表情が次々と見えてきて戸惑うばかり
ただ、さっきみたいに流されてはいけないと
表情を固くしてその顔を見据える
「雪、やめて。わたしたち姉弟なんだよ?」
「姉弟だけど、男と女だよ」
「なにが言いたいの?昨日のことは謝るし、無かったことにしてほしいの
恥ずかしい話だけど、酔ってて記憶がないの
だから、雪もこれ以上からかうのはやめて」
毅然とした態度で、真っ直ぐにその目を見る
雪は何を考えているのかわからない顔をしているが、余裕そうな表情がかすかに残っている
ふっ、と手が伸びてきて細くて長い指が頬に触れると反射的に肩がビクリと揺れる
「無かったことにはしないよ。あと、俺今から出掛けるから」
そう言うとサッサと着替えを済ませて、足早に玄関へと向かっていく姿に呆気にとられる
「雪!ちょっと!まだ話が終わってないのに!」
「あ、鍵かけてもいいけど大家さんから合鍵借りてるから無駄だよ」
合鍵を指先で弄びながら、こちらを一瞥し
じゃーね。と言い残す姿をただ呆然と見つめるしかできなかった
あの余裕そうな表情に加えて
やっぱり雪のペースに持っていかれてしまい、遅れて腹が立ってきたが当の本人は勝手に話を終わらせて出掛けて行ってしまった
「なんなのよ、本当に……」
まるで嵐が過ぎ去ったかのようにシン、と静まり返った部屋に取り残された私は、もう考えるのも億劫になり気持ちを切り替えるためにもシャワーを浴びに浴室へ向かった