episode3
「んっ…、眩し………」
カーテンの隙間からキラキラと光が漏れており、思わず目を細める
「……わたしの…、家?」
昨日の記憶も曖昧で、どうやって帰ってきたのかは覚えていないが見慣れた部屋の風景が広がっており、自分はベッドにいるようだった
時間を確認しようと携帯を探すために身体を起き上がらせると
昨夜はワインを浴びるように飲んだせいか、一気に頭がズキズキと脈を打ち始める
「いたぁ〜〜、なにこれ…」
あまり味わったことのない痛みに悶絶しながらも
本当に慣れないことをしたものだと自省する
何気なく視線を下に移すと、ベッドの傍らに散乱した衣類が目につき
ふと、自分が服を着ていないことに気づく
「………えっ?」
ハッと我に返り、今まで見えてこなかったものが視界に入ってくる
長い睫毛に、整った鼻筋、綺麗な形をした唇
まるで人形のように整ったその顔立ちは
わたしの隣でスヤスヤと寝息をたてている
「え、嘘でしょ……」
震えながらも目にかかった細く柔らかい髪にそっと触れ、改めて顔を確認しようとしたその時
急に腕を掴まれ、すごい力で引き寄せられる
バランスを崩した私はその人の隣に倒れ込んだ
「きゃっ!」
「…………おはよ」
閉じていた瞼がゆっくりと開き、その瞳が真っ直ぐにこちらを見つめる
「………雪」
信じがたいことに
隣で寝ていたのは、私の弟だった
状況が理解できずに
これは夢なのかもしれない、なにかの間違いかもしれないと
ただただその顔を呆然と見つめていると
白く、でも程よく筋肉がついた腕が伸びてきて
髪を優しく撫でながら
「……昨日は、気持ちよかった?」
ふにゃりと笑いかけながら
細くて長い指が、髪先を弄んでいく
弟からの衝撃的な発言に、一瞬思考が止まるが
またも我に返り言葉を反芻しながら寝起きの頭を必死に動かし、考えを巡らせていく
昨日は気持ちよかった?ってなに
断片的な記憶を辿ると、途中でふわふわした、なんだか心地いいような気持ちよかったような記憶はある
単にお酒の飲み過ぎでふわふわした気持ちになっただけかと思っていたが
もしかして、違ったのかもしれない
チラリと横にいる弟を見るとやはり服を着ていない状況だったし、男と女でもあるから
そういうことになったとしても、おかしくはないけど
けど……
相手が大問題なのだ
現実を受け止めきれずに、やっと絞り出した言葉はさっきと同じ言葉だった
「嘘だよね…?」
「嘘じゃないよ。覚えてないならもう一回しようか?」
優しく顔を引き寄せられ
大きくて澄んだ瞳がこちらを覗き込む
整った顔立ちとは裏腹に、悪魔のように微笑むその顔を見た途端に、ピリピリと脳が痺れた
家族だからわかる、長い間一緒に過ごしてきたからわかることがあった
これは本気の目だ
雪は嘘をついていないんだと…
わたしは、とんでもない相手と一夜の過ちを犯してしまったのかもしれない