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最終話 俺死す

「貴様の能力は神をも超える規格外の代物だ。女神が作り上げた勇者と魔王による争いの構造を、いともたやすく存在ごと消してしまった。だが——こうしてプラカードさえ奪ってしまえば無力な一般人だな」


 自らを魔王と名乗った男は、プラカードを手に取ると、くっついていた俺の手をこともなげに剥がした。


 俺の元いた世界でいうところの学生服を着ており、見た目は冴えないメガネの高校生。その姿に加え言動も相まって中学二年生あたりで発症する精神的な病気にかかった人のように見える。だが、その少年から放たれている化け物じみたプレッシャーは本物だった。


 事実、俺は何をされたのかわからないままに腕を切られてプラカードを奪われた。


 能力も実力も未知数だが、一つだけなんとなく直感でわかることがある。こいつの能力は俺と同じ、世界を書き換える系の能力だ。

 なぜそんなことがわかるのか……おそらく似たような能力を持っていれば察知できるのだろう。


 激しい痛みに悶えながらも、なぜか俺の頭はこの男の話を聞くことと思考に費やされた。そうやってこの男の話で気を紛らわせていないと、痛みでどうにかなりそうだった。戦争映画で負傷者が自らの意識を保つために、ドクターから投げかけられた話題に耳を傾ける場面が思い出されるが、それと同じような感じだろうか。


「貴様の「全てを嘘だったことにする能力」はこの世に存在してはならない力だ。その力で幸せになる者も中にはいるだろう。だが、先ほどの勇者はどうだ? 積み重ねてきたすべてをなかったことにされることは、人によっては死よりも恐ろしいことだは思わないか?」


 そう言うと魔王は俺に剣を向けた。よく見ればそれは剣というよりは大きなペンだった。武器らしい形をしていないそれは、俺の眼には剣などよりもよっぽどおそろしく映り、身震いがした。同じ魂剣を持つ者特有の察知能力なのだろうか。




「だれかたすけてくれえッ!」


 崖の淵に立つような恐怖から逃れるために助けを求めるが、周囲の人々はまるで俺の姿など見えていないかのように変わらず談笑をしていた。焦りつつも思考を続ける俺の頭の中には「やっぱり」という諦観があった。これで気づくようなら俺の腕が飛んだ時に気づいていないとおかしい。


 おそらくは魔王の能力で周囲の人間の認識をゆがめたのだろう。


「俺が頂点に君臨し続ける、それがこの世界の結末だ。貴様の能力は結末を変えてしまう可能性がある。可能性の芽は摘んでおかねばならない」


 そう言って魔王はペン先を俺に向けた。






 ━━瞬間、地面が消えた。 





「━━へ?」


 何が起こったのか理解できないまま、俺は受け身すら取れずに地面に打ち付けられる。


「ぐ、何、が……」


 体の自由が利かない状態で、何とか首を動かして自分の身に何が起こったかを見た。





「うあああああああッッ!!!??」





 足を見た瞬間、自分の体に何が起こったか理解するよりも先に俺の口から悲鳴が出た。




 残っていた方の腕と両足が消失していたのだ。




「魂剣を向けたものの結末を決めることができる。それが俺の能力『一巻の終わり(ジ・エンド)』。人間だろうがモノだろうが、俺のペンから逃れられるものはいない。四肢をもがれた末の失血死、それが貴様に定められた結末——」


 魔王はおそらく顔を手で覆いながらそう言った。推量になるのは視界がかすんで相手がよく見えないからだ。


 やがて痛みが消えて、全身から力が抜けていく。

 泥の中に深く沈んだような心地で、もはや叫ぶ気力すら湧かない。

























「貴様の物語は、一巻にも満たなかったようだな」




 そう言い残すと魔王は振り向き、その場を立ち去る。彼の後ろ姿を見て俺は悟った━━この結末は絶対に変わらないのだと。






 やがて、俺の意識は完全に途切れた。


これにて完結となります。嫌な終わり方してしまってすみません、ネタ切れしました……

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