第6話 四天王がやってきた
「やっぱ夢じゃなかったかー」
宿屋のベッドで目覚めて、最初に口をついて出た言葉がそれだった。
スタッフが出てきて「ドッキリでしたー!」と言われるのを期待していたけど、そういうわけにはいかなかったようだ。
昨日の騒動の後、普通に冒険者登録を済ませギルドを出た俺は宿を確保した。王様からもらった金は結構な額だったので問題なく泊まれた。これなら数日は問題なく暮らせるが、収入は早めに確保したい。となると冒険者として魔物退治をしないといけないわけだが。
「この能力、魔物に効くのかねー」
昨日のドラゴンは仕掛け人には変わったが、ターゲットとしてはどうだろうか。そもそも言葉が通じるとは思えないし、効かない気がする。
よしんば効くとしても、確かめるのはリスクがデカすぎる。いくら能力が強力でも俺自身は生身の人間だから、失敗したら普通に殺される。この能力は人間限定と考えるべきだろう。
俺は身だしなみを整えると宿を出た。今後どうするか考えがてら散歩することにしたのだ。
「まず、最終的な目標は魔王退治だな」
とっとと倒して元の世界に帰りたいところだが、そもそもどこにいるのかすらわからないし、そもそもこの能力で倒せるものなのかね? 魔王に仕掛けたところで魔王自身には何も起こらないわけだし、魔王にゆかりのある第三者に仕掛けないといけないのだろうか。
「いや、それよりもまずはお金の問題だよな」
どうやってお金を稼いだらいいんだろうか。前世の知識を生かして商売とかやるべきか? あー、めんどくせー。
そんなことを考えながら歩いていたら中央広場に辿り着いた。人々が談笑していたり、謎の楽器を演奏している人がいた。
「あー、異世界って感じだー」
もう魔王退治とかどうでもいいや。せっかく異世界に来たわけだし、海外旅行とでも思って楽しむとしよう。そんなわけで俺は椅子に座り、落ち着いて周囲を観察してみた。日本じゃ滅多に見られない景色でなかなか新鮮だ。それに人々の喧騒や風が心地よく、昨日の疲れが抜けていく感覚がする。あー、落ち着く。
そんな風にぼーっとしていると、広場にいたうちの何人かが空を見上げていることに気づいた。
「あれはなんだ?」
「人が浮いている?」
つられて見上げてみると宙に人が浮かんでいた。黒い肌をしていて、背中からコウモリのような羽が生えている。サキュバスのような見た目だ。異世界ともなると人が魔法で空を飛ぶんだなぁ。
「この町にいる転生者に告ぐ!」
ぼんやり眺めていたら宙に浮いているサキュバスがそんなことを言ってきた。馬鹿でかい声だったので中央広場にいる全員が空を見上げることとなった。
転生者って、俺のことか━━?
「私は魔王軍四天王が一人、モニタだ! 出てきな! 街がどうなっても知らないよ!」
言い終えたサキュバスは手のひらからエネルギー弾を発射してきた。家に着弾すると爆発して木材や石材の破片があたりに飛び散った。
「ひっ━━」
破壊を目の当たりにした住民たちは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたが、すぐに何が起こったかを理解した。あたりで甲高い悲鳴が上がり、それが合図とばかりに蜘蛛の子を散らしたみたいに逃げ出す。
「なにがあったってんだよ!」
「住民を避難させろ!」
「くそ、なんだこの膨大な魔力は……!」
住民が逃げ出したのと同じタイミングで騒ぎを聞きつけた冒険者や衛兵がやってきた。最初はなんだなんだと野次馬のような態度だったが、サキュバスの姿を目にした瞬間、無言で表情を硬くした。俺にはわからないが、多分強者の空気を察知したんだろう。
「ふむ、出てこないねぇ……調査が目的なんだけど」
中央広場に降り立ったサキュバスの背後に一軒家ほどの大きさの黒いワープゲートみたいなものが出現した。とんでもなく嫌な気配がする。冒険者たちも同じように感じたらしく、各々武器を構えた。
「まあいい。しらみつぶしと行こうかい」
サキュバスが指を鳴らすと同時に、ワープゲートから姿を現したのは昨日見たのと似たようなドラゴンだった。それが何体も。
ドラゴンってこんな序盤で大盤振る舞いしていいモンスターじゃなくない?
「急にドラゴンが現れただと!?」
「くそ、俺たちは時間稼ぎをする!! 住人の避難を急がせろ!!」
それに対して冒険者や衛兵が立ち向かうが、見た感じドラゴンは強いらしく全員覚悟を決めている。
序盤からハードすぎるんだが、俺は明日を迎えることができるのだろうか?