第2話 ドッキリを仕掛けてみた
「いや無理だろ……」
目覚めると森の中だった。脇には俺の魂剣であるプラカードが落ちている。
こんなのでどうしろと? あのくそ女神が言った通りなら能力があるらしいが。
「テッテレー! ドッキリでしたー!」
ドッキリ番組の仕掛け人を思い出しながら、プラカードを掲げて言ってみたものの、特に何も起こらない。
「何か起こりそうな感じはするんだよなぁ」
何かしらの能力がある前提でいくと発動条件があるのだろうか? 他人に対してやらないと発動しないとか?
まさか何の能力もないただのプラカードじゃないよな?
違うよね?
「きゃあああ!」
頭を抱えていると悲鳴が森に響いた。
「異世界に来て早々かよ、しかも近いし」
どうしよう、悲鳴を上げたということはそっちは危険ってことだし逃げるべきか。しかし転移先がここだったということは、女神から俺へのチュートリアルなのかもしれない。
「行くか」
危険かもしれないが、そもそも現在の自分の状況は右も左もわからない状態だ。このまま森にいるよりは多少危険でも手がかりに近づく方がいい。
声のした方へ走ると、悲鳴の主はすぐに見つかった。
俺は草陰から様子を伺う。
貴族みたいな豪奢なドレスを着た女性が甲冑を着た男たちに囲まれている。傍には血だらけのメイドが倒れており、その背中には剣が突き立っていた。
「おとなしくなされよ王女様」
甲冑の男たちのリーダーであろう、強そうなおじさん騎士がメイドの背中から剣を引き抜いた。剣先には血がべっとりとついている。
「メイ……」
おそらくそのメイドと親しかったのだろう、王女は唇をかむと甲冑のおじさんをにらみつけた。
「兄の指示ですね……! 父が倒れた今、次の王になるのに私が邪魔だから……!」
「ええ、その通りです。国民から慕われているあなたは王子の覇道の邪魔になります」
どうやら王位継承争いらしい。俺の冒険の序章は王位継承編か、なかなかヘビーだな。
転生先がここということは、この王女様を助けろという女神からのメッセージのようだ。
助けろといってもこんなプラカードでどうやって助けりゃいいんだよ。魔法とか使えないし、筋力だって普通の一般男性くらいしかないのに、あんな完全武装の鍛え抜かれた騎士たち複数人なんて倒せる未来が思い浮かばない。
うん、ここは逃げよう。俺にはまだレベルが足りないみたいだ。
そう結論づけて踵を返そうとしたところ。
「おい、何者だ。そこで何をしている」
「え?」
いつの間にか後ろに甲冑を着た兵士がいた。
「あ、あの俺は……痛いッ!」
「隊長! 怪しい男を捕らえました!」
何とかはぐらかそうとしたものの、俺が何か言う前に首根っこを掴まれ、甲冑のおじさんの前に連れてこられた。
抵抗したが騎士さんの体はびくともしなかった。これは絶対勝てない。異世界に来たから身体能力が強化されているということはないようだ。
「ふむ、奇特な格好だな。王女様の護衛ですかな?」
「ち、違う! 知らない人よ! 離してあげなさい!」
ひげを触りながら観察してくるおじさんから王女様が庇ってくれた。自分が死にそうな状況で俺のことを考えてくれるなんて優しすぎる。
近くで見るとこの王女様めちゃくちゃ美人だ。助けた暁にはこの人と仲良くなってあわよくば恋人なんかになれるだろうか。まあ、その前に殺されそうなんだけども。
「怪しい格好をしているが戦意はまるでなし。どうやら無関係の人間のようだ。運がなかったな、見られたからには始末せねばならん」
「……ッ! おやめなさい! 罪のない人間に……あぁッ!」
俺に近づこうとした王女様が騎士の一人に取り押さえられる。
おじさんは剣を抜いた。
やばい、このままだと斬って捨てられる。
……一か八か、やるしかないか。
「て、テッテレー! ドッキリでしたー!」
俺は持っていたプラカードをおじさんに向けた。
だが、おじさんが眉を寄せただけで何も起こらなかった。
「何を言っている? 意表を突いたつもりか?」
振りかぶろうとしたのを止めておじさんは警戒した声色で聞いてきた。
あれ? 不発……? と疑問に思う間もなく、俺は袈裟がけに斬られた。
「ッぁ……!?」
全身から力が抜け、その場に倒れる。
あたたかい液体がじわりと衣服にしみこんでいく。
俺の異世界生活が早くも終わろうとしていた。