最終話② ○○にドッキリを仕掛けてみた
完結といったな、あれは嘘だ。
おかしい。
転生者から離れるごとに増していく焦燥感が、魔王の中で腑に落ちないでいた。違和感は遅効性の毒のように、転生者から一歩離れるごとにじわじわと強くなる。
何かがおかしい。
なんだ。
そして次の一歩を踏みしめた時、魔王の足が止まる。
「……なぜ、俺は奴にとどめを刺さなかった」
魔王には敵をいたぶるような趣味はない。これまで殺すべきと判断した相手は、すぐに排除していた。あの転生者の能力は危険だ。この世界の結末のためにも、完全に息の根を止めるべきだった。そうしなければならなかった。
だというのに四肢切断のみで済ませ、中途半端に生かしてしまった。
「まさか……ッ!? ……能力はすでに発動していたッ!?」
すでに術中に嵌っていたことに気づいた魔王はすぐさま身を翻した━━今度こそ完全に転生者の息の根を止めるために。
「能力を発動したようだがもう遅いッ!!! 俺の能力で貴様の結末は決めた!!! 貴様は俺の剣に貫かれて死ぬ運命だッ!!」
すでに息も絶え絶えの転生者にトドメを刺すべく、魂剣を抜く。
「喰らええええええッ!!」
殺意のこもった剣が今後こそトドメを刺すべく転生者に振り下ろされた。
「「「「「異世界ドッキリ!!! 大成功―!!!!!」」」」」
魔王が手にしていたプラカードを転生者に見えるように掲げた。広場で談笑していた人物たちもいつのまにか魔王の背後に回り、一緒になってネタバラシをする。
ニコニコ笑顔の彼らに囲まれた俺の四肢はまるで最初からそこにあったかのように元に戻っていた。
急な出来事に俺は思わず呟いていた。
「うわっ……びっくりした」
〇
俺の能力は言ってしまえばハプニングをドッキリに変える能力だ。ここで言うハプニングというのは現在ターゲットが被っているトラブルのこと。王女の場合は王位継承戦で、十字傷の冒険者の場合は仲間が死んだこと、そして勇者の場合は四天王に追い詰められたことがそれに当たる。
これらの具体例から俺の能力について、二つの特徴が導き出せる。
一つ目はどれだけ大きなトラブルであっても、トラブルが起こった元凶にまでさかのぼってすべてをドッキリに変えてしまえるということだ。
王女の場合は王子の謀反だけでなく、王位継承戦のきっかけとなった王様の崩御もドッキリにした。
十字傷の冒険者の場合は冒険者の死だけでなく、致命傷を負わせたモンスターの襲撃をドッキリにした。
勇者の場合は四天王の襲撃だけではなく、自分が勇者に選ばれたことどころか勇者や魔王といった存在すらもドッキリに変えてしまった。
勇者が三人の中だと一番規模がでかいわけだが、勇者の例からもう一つの特徴が浮かび上がってくる。それは女神が作り出したものすらもドッキリにできてしまうということだ。魔王も言っていたが、おそらくこの能力は神にも通用するとんでもないチートスキルなのである。
そこで俺は一つの可能性に思い至った。
――俺にこの能力を使ったら、もとの世界に戻れるんじゃね?
俺自身に仕掛けられるのなら、今まさに起こっていることだけでなく、異世界転生したことすらもドッキリだったことにできるのではないだろうか、というのが俺の考えだ。
しかし普通に考えて自分にドッキリを仕掛けるとか意味不明すぎるので、さすがにこれは発動しないだろうと俺はすぐに諦めた。自分にドッキリを仕掛けるって、もはやドッキリじゃないだろ。
とはいえ、せっかく思いついたし一回試してみるかと思い、とりあえず自分にプラカードを向けようとしたところで魔王から襲撃にあった。
あまりの激痛に死を覚悟したし、実際死んだと思うが、魔王がプラカードを掲げてくれたおかげで蘇生した。目が覚めたら五体満足の状態で、さっきまで敵対していた魔王が満面の笑みを浮かべてたからびっくりした。
なんでこんなことになってしまったのか、これは推測だが、ターゲットを俺自身にした場合、発動条件は「自分自身をターゲットにしてドッキリを試そうとすること」なのだと思う。発動した場合、ネタバラシする役はその時俺の近くにいた人になるのではないだろうか。
自分で自分にプラカードを掲げるのはおかしいから、他人にやってもらう必要があったのだろう。そんな理由で近くにいた魔王が「ドッキリ大成功!!」してくれたわけである。マジで死ぬかと思ったから、マジでびっくりした。この点に関してはドッキリ大成功だ。ふざけんな。
そんなわけで能力をまとめると以下の通りである。
【通常】
仕掛け人 そのハプニングに関係のある人物
種明かしする人 俺
ターゲット ハプニングが起こった人
発動方法 プラカードを掲げて『テッテレー! ドッキリ大成功ー!』
【ターゲットを自分自身にした場合】
仕掛け人 ハプニングに関係のある人物というか世界
種明かしする人 近くにいた人
ターゲット 俺
発動方法 自分自身をターゲットにしてドッキリを試すこと
で、ドッキリ成功後の今の状況だが、異世界転生がドッキリになったというか、異世界そのものがなかったことになっていた。というか、見た感じ異世界と元の世界が融合した世界に変わっていた。
「どーもー!! 『異世界ドッキリ!!』でーす!! あっはっはっはっは!! いやー見事な驚きっぷりでしたね! いかがでしたか異世界転生ドッキリは!」
「え、あ、びっくりです、はい」
王女様がマイクを向けてきたので俺は答える。周囲ではテレビの取材みたいな機材を抱えたスタッフたちが俺に照明やらカメラやらを向けていた。なるほど、これまでのことはドッキリ番組の収録だったって設定になってるのね。
「さすがのリアクションでしたね! いやー、この役演技するのすごい大変でしたよー。あ、ちなみに裏設定で勇者は女でーす。気づかれましたか?」
「え? 全く気づきませんでした」
「ガーン! ショックですー! この設定気づいて欲しかったー!」
陽気になった勇者がどうでもいい秘密を暴露してきた。たしかによく見たら胸があるけども。というか父親から息子って言われてなかった? いや、どうでもいいな。
「ちなみにこのドッキリの中だと誰が一番印象に残りましたか?」
「え? ……あ、魔王、ですかね」
勇者がマイクを向けて尋ねてきたので答えると、魔王が笑みを浮かべた。
「お、僕ですかー! ラスボスということだったので、気合入れて役を演じたので嬉しいです!」
「そ、そうですか……」
みんなすごい変わりようだな。
街の人たちも今は俺のインタビューを楽しんで見ている。なるほど、ドッキリを仕掛けられた王女様たちの心境がよくわかる。これは人間不信になるのも頷ける。狐につままれた気分だ。
「ちなみに異世界は女神が作った箱庭の世界で、その世界の人々の営みを見るのが女神の趣味だった、という設定だったんですよね」
いつの間にやら魔王の隣にいた女神がマイクを持ってぶっちゃけてきた。
「平穏だとつまらないんで、数年おきに強力な力を持つ邪悪な存在を生み出しました。これが魔王です。そんな魔王への対抗馬として女神は才能のある者に勇者という称号と祝福を与えていたんです。そんな勇者と魔王の戦いを楽しんで見ていたんですが、ある時女神の想像を超える強い魔王が現れてその時の勇者では太刀打ちできなかったので、異世界から転生者を召喚して魔王を倒してもらったんです。それがこの中二病の魔王さんですね」
「魔王でーす」
「彼はめっちゃ強い魂剣で魔王を倒したんですけど、この世界が女神の箱庭世界で永遠に平和が訪れない世界だと気づいてしまったんですね。まあ、女神がつい口を滑らせてしまったのが元凶なんですけども。なので、魔王を倒した彼は新たな魔王の座に居座り、世界の結末を『魔王が君臨する平穏な世界が永遠に続く』にしてしまったというわけなんです。これが異世界の設定です」
「そんな凝った設定いらねえだろ!」
最初の三行で訊くのやめたよ。どうせその設定全部無に帰したから聞く意味ないしな。
「それではキリさん、スタジオの皆さんに向けて最後に一言お願いします!」
王女様が俺にマイクを、周囲のスタッフが俺にカメラを向けてきた。
わかった、いいだろう。この場は道化を演じてやるさ。これもドッキリの演出の一つだからな。
俺は飛び切りの笑顔で言った。
「やっぱドッキリって最低っすね!」




