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尋問

「俺の名はエレメール。純血の吸血鬼だ。」


西頭に捕らえられた吸血鬼は力なくそう答えた。


「純血?それはどういうことですか?混血と何が違うのでしょうか?」


尋問を行っている西頭は淡々としながらも必要なことを聞き出すための質問をした。


「はっ。そうかそうかお前にとっては純血も混血もそう大して変わらないか。」

「申し訳ありませんが、純血であることにプライドを感じているのであれば、私はそれを尊重できませんのでご了承ください。」

「挑発のつもりか?まあいい。純血は吸血鬼同士の間に生まれた者を言う。対して混血は他種族と吸血鬼の間に生まれた者を言う。お前が伝言役にした”あいつ”は混血だ。」


エレメールと名乗る吸血鬼は西頭の挑発ともとれる言葉に対して怒りの反応を示すこともなく答える。


「挑発の意図はありませんよ。吸血鬼の間で血統が重視されているということがわかりました。ですが本来異種族間で子供が生まれる場合、親の種族のどちらかの特性のみ受け継ぐはずです。仮に吸血鬼と他種族の交配で生まれた子供であっても、吸血鬼の特性を持っていれば純血とそう変わらないのでは?」

「なぜわざわざ馬鹿の振りをする?お前なら予想はつくはずだろう?もしお前が本当に固定観念に捕らわれた馬鹿だったなら、その質問は出てこない。本当の馬鹿なら吸血鬼が無駄に血統を重視する愚かな種族と断じて終わりだろう。」

「これは尋問ですので。私の予想を語るだけでは意味がありません。」

「それもそうだな。…吸血鬼という種族の特性は知っているな?」

「ええ。他のヒト族から血液を摂取しその遺伝情報、いえその種族の能力的特性を自身の子供に反映させる生殖種であると聞いています。」

「まあ大体は合っている。お前の言う通り吸血鬼は吸血という行為を通して自分の子孫を強化していく生殖種の亜種だ。だが基本的に同種同士での交配を避ける傾向がある|生殖種《サキュバス・インキュバス》とは違って、吸血鬼は同種での交配においてのみ完全な吸血鬼が生まれる。」

「随分と協力的に話してくれるのですね。純血と混血ではどのような差が生まれるのですか?」

「ああ。純血はきちんと親の吸血で得た他種族の力も受け継いで生まれてくる。とはいっても何世代も重ねない限り一つ一つの力は、吸血元の種族の劣化コピーだがな。」


実際のところはそれでも十分驚異的である。例えば|人間《ホモ・エンデュランス》から吸血した吸血鬼の子には、|人間《ホモ・エンデュランス》のもつ魔素回復速度が早いという特性の一部が受け継がれて生まれてくる。そしてある程度の制限はあるようだが、吸血によりいくつもの種族の特性を自分の子供に付与することができるのだ。さらにその子供が新たに他種族から吸血をすれば、孫の世代はさらに別の特性を得る。あるいは自分の親が吸血した種族と同じ種族から子が吸血することで、孫世代にはさらに強くその吸血した種族の特性を受け継ぐことができるのである。


「混血は純血と比べ、親から受け継げる特性が少なく、弱くなる。さらに混血の吸血鬼が吸血鬼以外と生殖をする場合、生まれてくる子供はかなりの確率で「吸血鬼としての特性」を失うことになる。」

「我々が把握していた吸血鬼の特性は3つです。1つは自身の子供に吸血した種族の特性を受け継がせる事。2つ目は高い黄色魔素への適性を持ち、寿命が長く回復魔法に長けている事。そして3つ目は吸血鬼は独自のコミュニティを持ち、社会に対して敵対の準備を進めている事です。なぜあなたはここまで協力的に尋問に答えているのですか?」


西頭の問いに対してエレメールは沈黙で答える。そこには何か悔しさに類する感情が見えた。しかしそれは西頭に負けた事によるものではなく、もっと別の何かであるようにも見えた。


「…質問を変えましょう。"伝言を頼んだ彼女"とはどういう関係ですか?」

「ただの部下だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「そうですか。彼女は混血という話でしたが、混血は純血に仕えるといった形になっているのですか?」

「まあそのとおりだ。」

「話を聞く限り純血の吸血鬼は少ないと推測できますが、違いますか?」

「ああ。純血の吸血鬼同士で番を作れるのは随分と珍しい。俺も純血の同族とはまだお目に掛かれていないな。」

「純血と混血の吸血鬼が生殖をおこなった場合はどうなるのですか?」

「なぜかはわからないが、混血の血が優先されちまう。つまり生まれてくる子供は吸血鬼ではない場合が多い。これは混血同士でも同じだ。」

「なるほど。吸血鬼の寿命はエルフと同様に約400〜500年と長い。その間に純血の同族を見つけなければいけないという事ですね。」

「その通りだな。俺の両親はある意味で幸運だった。吸血鬼がまだ種を保てているのはある意味で両親が俺を含め7人も子供を産んだからかもしれないな。」

「なるほど。貴方を含め純血はコミュニティの中で血の繋がった9人とどれくらいいるのですか?」

「いや、コミュニティ内で純血は5人だけだ。血を分けた兄と姉、その間にできた2人と俺だけだ。あとは|他の人族|《お前ら》に殺されたようなものだ。」

「混血の吸血鬼は何人いるのですか?」

「ざっと70人程だ。だが内40人は俺達の親が増やした混血だな。あとはほとんど俺の兄と姉が増やした。」

「貴方の直系の混血はいないのですか?」

「ああ。」

「コミュニティ内のリーダーは誰ですか?」

「兄と姉が共同で指揮をとっている。言い忘れたがコミュニティ内にはサキュバスやインキュバス、グールもいる。」

「確かに|捕食型生殖種《グール》はヒトの死肉を食う事で子に食らった種族の特性を付与できるという点で吸血鬼に似ていますね。ただ|通常生殖種《サキュバス・インキュバス》までもコミュニティに加わっているとは…。」

「|他の人族|《お前ら》が作ってきた歪みは、|他の人族|《お前ら》が想像しているよりも大きい。特にお前ら|人間《ホモ・エンデュランス》が主体的に始めた種族のグローバル化は特にその歪みを大きくした。だが皮肉にもその歪みは今までそれを引き受けていた者達を引き合わせた。それが俺の兄の主張だ。」

「拠点は何処ですか?」

「コミュニティ構成員は各々社会に溶け込んでいるが、新聞やインターネットを使って連絡を取り合っている。新聞は書評の部分が暗号になっている。しっかり探せば集会所になっている兄と姉の根城も見つかるだろう。」

「貴方の兄と姉の名前はなんですか?」

「悪いがそれは言えないな。こっちにも事情がある。」

「自分が関与したと疑われずにコミュニティを破壊したいという事情ですか?」

「…何?」

「あまりにも情報を吐きすぎです。もちろん致命的な情報はある程度避けているようですが、それでも不自然です。そしてこれは無意識的なものかもしれませんが、コミュニティ内にグールがいると発言した時の貴方は少し様子がおかしかった。」

「…」

「おかしかった点は他にもあります。貴方は"部下"についての情報を執拗に避けていた。正直私はこれはなぜかはわかりません。ですがそれに対して自分よりもコミュニティにおいて力を握っているだろう"兄"や"姉"の情報はある程度出していた。それだけなら邪魔者を排除し、コミュニティの中での力を増したいとも捉えられますか、貴方は拠点の情報や混血の吸血鬼の大まかな数の情報まで吐いた。何よりこの場から逃げ出そうという意識がまるで感じられない。」

「はっ!こんな|逃げ出せない場所《デッドスポット》に連れて来て拘束しているのはお前だろう?お前は一体何を探っている?仮に俺の目的がお前のいう通りだとして、そんな事指摘せず利用すればいいだけの話だ。」

「…私が探っているのは貴方を味方につけるための情報です。」

「何だと?」


西頭は頷き、エレメールを見据える。


「腕を一生治らない形で斬っておいて、拘束した上で俺を味方につけたいと?」

「貴方の事について調べました。エレメール・ブランチ、医師免許を正規の手段で取得。裏社会のマフィアとも繋がりを持っていますが、繋がりの内容はどれも胎児への魔素供給に関する薬の提供もしくは薬物の購入。いずれも母体や胎児に悪影響を及ぼすものではなく、むしろ安定した出産の為のものです。原料は違法なものですが、効果自体は副作用まで考慮されている。もしも貴方が求めているのが吸血鬼の種としての安定であるならば、社会との折り合いはつける事ができるはずです。」

「……俺は兄や姉とは違う。知らないだろうが、混血の吸血鬼を産む母体は妊娠出産でとてつもないダメージを受ける。母体が死に至るケース自体は少ないが、万全の状態で出産を迎えられず、胎児が死ぬケースは約9割だ。コミュニティ内の混血の吸血鬼はそんな9割の胎児の犠牲の上で生まれて来ている。言ってみりゃ吸血鬼はグールの劣化版みたいなもんだ。グールは確かに子に受け継げる特性が一種類しかないが、どの種族との間にも安定して出産可能だ。羨ましくてたまらないよ。」

「貴方は犠牲になった子供達に心を痛めているのですか。」

「ああそうだ。兄や姉もそうだ!だがあの2人は大義の為と言い、混血を増やし続けている!犠牲と共にな!だからいっそのことお前のような強い者が吸血鬼という種を止めてくれ!こんな呪われた血とっとと根絶やしにしてくれ!」


エレメールは西頭にそう叫んだ。


「…"彼女"は貴方とどういう関係なのですか?」

「…あの子は俺の娘だ。混血という呪いから唯一生き残ってくれた、俺の大切な子だ。」

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