表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

第六話「たましい」

第六話です!

「──遅かったね」

 真っ赤に染まる天野ヒナが言葉を零す。

 彼女のセリフと共に、全身に倦怠感が広がり始める。

 どうやら、時間がきたらしい。

「さすがに、無茶しすぎたか……」

 先ほどまでの俺は、これまで出さなかった百パーセントの力を出し、更にそこに上乗せの力を使ったことで百二十パーセントを引き出していた。

 寿命消費には、しっかりと反動があるのは分かっていたことだが、まさか立っているだけでやっととは……

 戦闘時とは打って変わって、重くなった足を引きずるようにして進み、ルナの元に向かう。

 その間、ヒナは一切攻撃をしてこなかった。

「……ルナ」

 死んでしまったのかと不安を抱く。月明かりに照らされた彼女は、ゆっくりと、非常に遅いテンポでだが、胸を上下させていた。

 ……よかった、生きてる。

 ほっと胸をなでおろしたのも束の間。

 すぐに彼女の傷を治さないと……!

 思いを行動に移そうとするも、人影が邪魔をする。

「天野……ヒナ。邪魔を、するな──」

「──邪魔をしてるのは君だよ? メグル君」

 彼女はこれまでで見た事のない武器を手にしており、その切っ先を俺に向けている。

 鎌……その形は視界に入るだけで気持ちの悪いものだった。

 人間を無理やり伸ばして溶かしたかのような、歪で気色の悪い形をしている。

「……いよいよ死神って感じだな」

 吐き捨てるように言うと、ウフフと彼女は笑った。

「これまではただの可愛い、いたいけな少女だったからね~。少しでも、分からせてあげないと……ね!☆」

 瞳をキラキラさせながら、ヒナは言う。

 本当にそこら辺の女子中学生といっても不思議ではない雰囲気は、自然と警戒心を緩めてしまう。鎌さえ持っていなければ、の話だが。

「……メ、グル……」

「──っ、ルナ!」

 咳き込みながら、ルナが目を覚ます。

 だが息は絶え絶えで、危ないことに変わりはない。

「ルナ、無茶をするな、あとは俺が──」

 俺がやると言いかけたところで、ルナがゆっくりと震えながら身体を起こした。

「これは、私の問題、だよ……キミは、巻き込まれた……『被害者』……なんだから」

 血を吐きながら、何言ってるんだよ……

 俺がじいさんと戦っている間、一体ここで何が起きていた……

 俺が彼女のために行動すると決めたのに、こんなことになって……

 言葉にし難い感情が俺を襲う。

「……おい、お前……血が」

 ルナの胸部から、血液が流れていた。

 心臓の真横……

 頭から下半身へと、血の気が引いていく。

 どうにかして治療したい……だがそれを目の前にいるヒナが許してくれない。

「わたしはね、メグル君。君を殺そうだなんて思ってないんだよ?」

 悲しそうに眉を下げながら、ヒナは語りかけてくる。

 本当なのだろう。彼女は俺を吹き飛ばしたりぼっこぼこにすれど、殺意は感じられなかった。それはルナにもだと思っていた。

「どうして、彼女を殺そうとした……!」

 俺の勘違いだったのか? そうは思いたくない。だって──

お前(ヒナ)のルナを見る目は、家族を慈しむそれだった……なのに、どうして!」

 叫ぶ──重たい身体を忘れるために、飛びそうな意識を繋ぎとめるために。

「わたしだって、できることならこんなことしたくないんだよ? 殺したくなんかないの。でもね、ルナちゃんがいうこと聞いてくれないんだ。じゃあこうするしかないよね?」

 瀕死──もしくは仮死状態にして、彼女の命が尽きるのを待つ。それがヒナの考えだった。

「させない……そんなこと、俺がっ、させるもんかッ!」

 ルナに視線を落とせば、死ぬのが()()()。死なせない。

「お前が俺に言ってくれたように、俺も、お前を死なせたりはしない……」

 初めてここで死にかけた時に、ルナにかけてもらった言葉を思い出す。

 数日前のことだっていうのに、随分と懐かしく感じた。

「な、なにを……するの?」

 ルナが不安そうに、力なく俺を見上げる。

 安心しろ……今助けてやる。

「──っえ、な、なに!」

 ルナの胸に手を添える。

 その表情は少し赤い。

「すまない、今だけ我慢してくれ」

 直後、中心に触れた場所が発光する。

「あたた、かい……メグル、これは?」

「……なに、お前の()()だ」


 ──俺から、ルナへの『たましい』のプレゼントだよ。



 残った寿命を、全て彼女に注ぐイメージをする。

 体内にある……残存している力を感じ取る。

 もちろん。砂粒程度しか残っていないので、残りの寿命を消費する。

 命を燃やす義務……あの言葉は、今この時のためにあったんだと、俺は思う。

 ──俺の残りの寿命……すべてを使用。

 身体の中に溢れんばかりの力が湧いてくる。そのすべてを、治癒力、活性化などに回す。

「ちょ、なにしてるの! わたしがそんなことさせるとでも──っ!」

 ヒナを拘束するイメージを浮かべる。

 ヒナはその場から一歩も動けなくなった。

「な、なにこれ……っ、身体が、動かない……!」

「安心しろ、危害は加えない……だからそこで黙って見とけ」

 叫ぶヒナを無視し、俺は自分の手に集中する。

「だめ……だよ、めぐる……これじゃ、キミが、死んじゃう」

 涙目のルナ。優しく微笑み、空いている手で彼女の頬を撫でる。

 そっと引き寄せれば、彼女は力なく俺の膝に倒れた。

 こっちの方がやりやすいな。

 俺の中で暴れる寿命(ちから)を抑えながら、それらを少しずつ、胸にあてた俺の手の平からルナの胸へと流し込む。

 そのまま再生させた場合、彼女の中に雑菌が残ったままになってしまう。

 だからまずは、傷口周辺の雑菌を殺す。

 中に入ってしまったのはすべて排除できない。だからそこはルナの免疫に頼ろう。


 少しずつ、慎重に……彼女に命を吹き込む。

 全身全霊で、それこそ『たましい』を込めて。


 はるか遠く、空にあふれる星々(きせき)よ。

 彼女を、俺の大切な人を、守ってくれ……



 やがて──やがて、すべては注がれた。



     ── 月 ──



 体中に流れ込んでいた、あたたかいものが途切れるのを感じた。

 力なく倒れこんでくるメグルを優しく抱き留める。

 先ほどまでのあたたかさは……無い。

 彼を優しく地面に置く。できるだけ痛くないように。

 体中の気怠さはなく、万能感が支配する。

「な、んで……わたしの、目的が……全部──」

「……ごめんね、メグル──ありがとう」

 私は、命を貰った。

 ……奇跡を、起こしてもらった。

 心の中で、眠っているメグルへ感謝を伝える。

 ヒナと対峙していた時に聞こえた、彼の声を思い出す。

「メグル……聞こえたよ。自分のために、力を使うって。そんなことを言ったキミが、こうしたってことは……」

 残された命を消費したのは、

 私に残りの全てを捧げたのは──つまり。


「キミが、『一番』(自分のため)に、したいことなんだよね」


 問いかけるように、空中に置くように、優しく。

 自分の胸に手をあてながらそっと、零すように言う。

 返事は勿論ない。だって、彼はもう──


「……覚悟は、いい?」

 一段と落ち着いた声で、彼女へ向かう。

「……どうして、そこまで記憶が欲しいの⁉ 他の全死神を敵にまわしてまでッ?」

 はっきりと肯定する。

 だって、大切な思い出が、ある気がするから。

「……行くよ」

「分かったよ……じゃあ、何度でも潰すね☆」

 表情は笑っているのに、声は氷のように固く、冷たかった。

 覚悟を決め、私は地を踏む。

 これまで以上に力が入り、驚く。それはもう戦闘中なのに固まるくらい。

「軌道がまるわかりだよ~」

 ヒナはヒュルリと私の拳を躱す。

 メグルに傷や体力を全快してもらったとは言え、私とヒナとの間には天と地ほどの実力差がある。

 勝ち目が見えない。

 そう思い、思考を巡らせようとした時だった。

「ぐ、ぁ……」

 ヒナがよろめいた。苦痛に顔を歪めている。

 何が起きたの……?

「ッく! すごい衝撃が、お腹に……? いったい、何をしたの──」

『──俺だよ』

 ヒナの探りを入れる発言に被せるように、恩人の声が聞こえる。

「──メグル?」

 私の目の前に、メグルが現れる。

 なんで? だって身体は……あそこで横に。

 私が彼を寝かせた場所を見れば、確かにメグルの身体が横たわっていた。

 幻覚……なのかな?

「どうして……メグル君が、二人いるのよ」

 どうやらヒナにも見えているらしい。幻覚ではないようだ。

『勝手に幻覚扱いするなよ。俺はルナのここ(むね)の中に入っただろ? 残り火ってやつだ』

 私の胸をつつきながら説明をしてくれた。

「それはいいんだけど、人の……乙女の胸を触るなんて、どうなのかな~?」

 私はにっこりと笑みを張り付けて彼に問う。

『わ、それは悪かったって……悪気はないんだから許してくれよ』

 おろおろしながら謝る彼を見て、私は思わず吹き出す。

 やっぱり……メグルは面白い。

 彼を選んだことは、私にとってとてもいいものだった。

「それじゃあ、メグル」

『ああ……』


『「最後の戦いといきますか!」』


「……息ぴったりだね、二人とも。わたし、妬いちゃいそうだよ」

 そういうヒナの表情はこれまでと違い、余裕が感じられなかった。

 再び血を蹴り肉薄する。

 まずは私が顔面めがけての回し蹴り。これは持っていた鎌で防がれる。

 私の攻撃を受け止めるために、ヒナは動きが止まる。そこへメグルの一撃が腹部を狙う。

「──っ」

 すれすれで躱されるが、それも持たないだろう。

 同じ動きを続けながら攻撃を続ければ、私たちの攻撃はどんどん当たり始める。

「──か、っは……」

 咳き込みながら、血を吐くヒナに、私たちは追撃を行う。

『これで──』

「──決めるよ!」

 左隣りに立ったメグルが、私に背を預けながら右手を掲げる。

 私は逆サイドで左手を掲げる。

 メグルの力が、私の左手に流れ込んでくる。と同時に、彼の想いが私の中で開花する。

「……っ」

 目が潤む。

 こんな時に泣いてはだめだ。これでは最後の攻撃を外してしまう。

「やぁ────ッ!」

 私たちの攻撃はヒナに見事命中した。

「……あーあ、わたしもここまでかぁ」

 彼女の身体が、淡く光る。

「私たちの、勝ち……だよ」

 消え行く彼女に、私は告げる。

「うん。愛の力は偉大だねっ。それがわたしの敗因かな……」

 しれっと恥ずかしいことを言われたが、反応したら負けだと思った。

 つれないな~と彼女は悲しそうな表情を作る。

 数秒もすれば表情はもとに戻り。

「ルナちゃん」

 これまでに見たことのない真顔で、呼ばれる。

「……なに」

 慎重に呼びかけに答えると、彼女はふっと笑ってみせた。

「記憶の保証、しないからね」

 望むところだ。と言ってやると。

「あはは、おもしろぃ──」

 目に涙を浮かべながら、笑って消えていった。

 最後には、静寂だけが残った。



「ありがとう、メグル……私と出会ってくれて」

『──ああ、だが、これからも一緒だぞ』

 メグルももう少しで消える。そう悟った私は、お別れの挨拶をしようと彼に話しかける。

 しかしメグルは想定外の返しをしてきた。

 彼はまた、私の胸をトントンと触る。

「ルナの『たましい』は俺のだからな」

 好き勝手しないように見張ってるわ。という彼に、私は涙を浮かべながら笑う。


 私たちは『二人で一人』、文字通り……だね。


 伝えた時、そこに彼はもういなかった。

次回エピローグになります!

短いですがよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ