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第五話「決戦」

第五話です!!!

そろそろクライマックス~~

 二十四時を過ぎ、俺たちは二人初めて出会った場所へと来ていた。

「いいメグル、私たちは『二人で一人』。文字通りね」

「ああ、そうだな」

 何が言いたいのかと聞いてみれば、

「絶対に勝つよ」

 と自信満々の笑みを添えて返って来た。

 ああ、もちろんだ。と言い、戦場へ足を踏み入れる。

 祖父の言葉を胸に、俺は歩みを進める。


「……あ、やっほ~ちゃんと来てくれたんだね。安心したよ~☆」

 ビルの入り口に、天野ヒナが立っていた。

 彼女一人だ。仲間はどこだろうか。

「来てくれなかったらどうしようかって心配していたんだけど、問題なかったね」

 俺たちの様子にお構いなく、彼女は声をかけて来る。

 こっちだよ。とヒナは建物の中へと入るが、俺たちはいかない。

「な~に、罠とでも思ってる?」

 心配性だね。そう来なくっちゃと指をパチンと鳴らす。

 キ──ンと耳鳴りのような音が、頭上から聞こえた。

 それも一度ではなく、二度三度四度……数えきれないくらい。

 気になり上を見上げれば、パラパラと石が降って来た。

 指の第一関節程の大きさのそれを拾い上げてみれば、コンクリートであることに気が付いた。

「これは一体──!」

 どういうことだと聞こうとした。だが、その先の言葉は出なかった。

 鼻の真上。文字通り目の前に、月明かりに照らされ銀色に光る細長い棒が、俺を捉えていたからだ。

「あっと、ルナちゃんは動いちゃだめだよ?」

 隣でルナの苦しそうな声が聞こえた。

 だが、そちらを気にかけられる余裕は今の俺にない。

 銀色に光る細長い棒──刀だ。

 上の階にいたのだろう。ヒナに呼ばれて壁を切り刻んで飛び降りて来たんだ。

 刀から(つば)へ、ゆっくり視線を送る……そこには、白髪で和服に身を包んだ老人がいた。

 白髪の髪を後頭部で纏め、手や顔は年相応のしわしわだ。

 目が合う。眼力がすさまじく、それだけで人を殺せそうで、足がすくむ。

 老人とは思えない気迫だった。

「……冗談じゃない」

 こんな化け物と、俺たちは今から戦うのか……?

「うん、冗談じゃないよ~。紹介するね、わたしの相方の誠一(せいいち)さんでっす☆」

 花びらでも飛んでいきそうな軽い紹介方法に、空気があってない。

 圧の強い空気と山頂のように薄い空気に挟まれて窒息しそうだ……

「……敵に対して、そう易々と名乗る物ではないと思うと言ったはずだが」

 老剣士──誠一と呼ばれたその男は、ゆっくりと刀を引く。

 下げ、手を軸に反回転させて鞘の上に持って行く。

 その後刀をスーッと鞘の上を走るように滑らせ、切っ先を鞘の口に当てると、ゆっくり納刀して行く。

 仕草に隙が無く、戻す姿に俺は見とれていた。

 カチッと鉄のぶつかる音がして初めて、夢中で彼を見ていたことに気付いた。

「……メグル、大丈夫?」

 ぎゅっと、柔らかい何かに左手を握られる感触。

 ルナの手だった。

 プルプルと小刻みに震え、不安が伝わって来る。

 ここまで弱弱しい彼女を見るのは初めてだ。

 俺はできるだけ優しく微笑んで見せる。

 ルナの手を強く握り返し、俺は言う。

「大丈夫。絶対勝つぞ」

 俺は必ず、彼女の力になる。

 ──物事を成し遂げるために人は、命を燃やす義務がある。

 祖父の言葉を再度思い出し、胸に秘める。状況を把握し、思考を巡らせる。

「……っ、俺は、どうしたら勝てる」

 どうやったら、ルナの力になれる。

 考えろ、使えない頭をフル回転させろ!

 何か、何かあるはずだ。

 俺にも何か、力になるものが……

 ただ突っ込んで殴るだけじゃ、不利に決まっている。近づいたら最後、斬られて終わりだ。

 俺の手元にあるのは、寿命を可視化したカードだけ。これだけだと、武器にはならない。

 その時、老剣士が口を開いた。

「──我は、人間の成れ果て。ただ刀を振るう事のみ覚え、実行する落ちぶれた剣士じゃ」

 俺の考えを読んでいるのか。と思った。

 剣士の成れ果て……? 今この人、覚えているって──ッ!

 老剣士の発言に違和感を覚え、その正体を探ろうとし思考を働かせようとしたその瞬間。

 剣先が俺を斬ろうと迫る。

「ッ! いきなりかよっ!」

 ダメだ、間に合わない!

 目をつぶりそうになるが、瞑れば死ぬ。首と瞳に意識を集中させろ。何がなんでも躱すんだ!

 ──死。その一言だけが脳裏を支配する。

 視界から色が消え、全てがスローモーションになる。

 ここで終わるのか、こんなにあっさりと!

 刀が俺の首を跳ねた……と思った。

 刃が首に当たることはなかった。

 目前で、止まったのだ。

「……今のは、警告だ。我と対峙していることを忘れる事は、貴様にとって死を意味する」

 次は斬る。そう言い、刀を引く老人。

 走馬灯が見えた。

「ありがとな、じいさん」

 あんたが手を抜いたから、俺が本気を出せる。

 この力を、最大限に引き出すんだ……!

 俺は三枚のカードを取り出す。

「……何をするつもりだ?」

 ぴくり、と老剣士の眉が片方上がり、鋭い瞳が俺を射抜く。

 何って、そんなの……決まっているだろ。

「イメージだよ」

 左手で頭を指さし、右手の平のカードを握り潰す。

 イメージだ。イメージしろ。

 俺は、数回とはいえ、戦闘でそれを無意識に何度もしてきた。今だってそうだ。

 刀を避ける為のイメージをした。

 集中する。さっき見た、脳内に流れた走馬灯を思い出す。

 対象を手に取るように、持つ感覚。

 右手で掴む、カードの感触が変化する。

「──できた」

 一瞬の走馬灯の中に出てきた。祖母の墓。そこに置かれた、一振の短剣。

 鞘に納められ、イタズラで抜く事を禁じられた、祖父から貰ったと言う大切な護身刀。

「これで少しは、じいさんと戦える。……いや、これで倒す」

「……貴様、今何をした? 無から武器を生み出す能力でも所有しているのか」

「ちげぇよ、じいさん。今初めてやった」

 またぴくりと、老剣士の眉が動く。

 カードを初めて使った時。

 身体に何かが流れ込んで来る感覚があった。

 俺はそれを、寿命を消費することで身体を強化する……そう思い込んでいた。

 だが、実際は違ったのかもしれない。

 俺は強くなりたかった。

 助けてくれたルナの力に、少しでもなりたいと願った。

 ()()()()したんだ。

 俺の能力の正体は、イメージを具現化する力だ!

「ばあちゃん……俺に力を貸してくれ」

 一瞬だけ意識を担当に向け、祖母を想う。

 三年消費で生み出した刀。

 威力はどれほどのものか。

「──ッ!」

 剣先に意識を込め、老剣士に向かって振るう。

 次の瞬間。彼の背後にある建物に綺麗な線が引かれる。

 だが、身体の方にダメージは無かったようで、手ごたえを感じなかった。

 刀で受けの構えをとっている。

「防がれたか」

「……貴様、それを、何処で手に入れた」

 老剣士の声が震えている。

 目は開き、信じられない物を見ているかのようだ。

 この短剣がどうかしたのだろうか。

 そんなこと、今は関係ない。

 二年を視力に、三年を身体強化に使用する!

 胸ポケットが少し熱くなり、黒い燃えカスが空に上がる。

 寿命は俺を形成する物の一部。

 手に持っていなくても、身に着けていればそれは身体と同じようなものだ。

 いちいち手で握らなくても、使えたんだ。

 軽くなった身体を確かめるように、左手を開いたり閉じたりする。右手も問題なく力が入る。

「行くぞ、じいさん」

 その場から一歩も動かない相手に、戦闘開始の合図を送る。

 直後、相手の震えが止まる。

 ……変わったな。空気が。

「……小僧、名はなんだ」

 そんなもの、聞かれるまでもない。

「聞いた方が先に言えよ」

 フンと鼻を鳴らし、じいさんが構える。

 俺も同様、合わせて刀を胸の前に持つ。

「──我が名は誠一。押して参る」

 俺も名乗ろうとして、その前にと隣を見る。

 ルナと目があう。

「行ってくる」

「……うん」

 力強い頷きに、背中を押してもらう。

 視線を戻し、切り替える。

「俺はメグル……ただの死神だ」

 互いに名乗った、直後──

 同時に地を踏みしめ、低く飛んだ。

 軽く宙を浮くようにして、俺たちは互いの刃をぶつけた。

 火花が散り、ぐっと手に重みが乗る。

「──くぅ!」

 だが短刀に乗せた力が次の瞬間には逃げ、態勢を崩す。

 そこを逃さんばかりにじいさんは刀を大きく振るい、俺を背中側に流した。

 剣士に背中を向ける──それは自殺行為に等しい。

 思考が振り返れと命じた時、背中に強い衝撃を感じた。

 全身を鈍痛が襲い、硬い地面を転がる。

「……いってぇ」

 身体強化のおかげか、身体はそれほど痛くない。

 背中がジンジンとしている。

 起き上がり、自分の身体が繋がっていることに安堵した。

 だが刀による傷は防げないようで、立ち上がると足元に血が滴った。

「この程度か……まさか、これで終わりではないだろうな」

 じいさん……覇気が増している気がする。圧が、先程よりも重い。

 隙が無い。どこから攻撃しても、勝てる気がしない……

「貴様は……貴様は、何故戦う」

「は?」

 唐突に、じいさんが聞いてきた。

 放つ雰囲気は変わらず、気は抜けない。

「……」

 命を助けてもらったから、と言おうとして言葉が詰まる。

 なぜだろう。


 この世界に生きる意味を見出せず、命を落とそうとした俺をルナが助けてくれた。

 自分と同じような人が身近にいることが、すごく嬉しかった。

 一人で誰にも理解されない俺を、理解して、一緒にいてくれた。

 彼女のためなら、この命──消費できると思った。


 ……もし、彼女がいなくなったら?

 ズキ──と肺の奥が痛む。

 息が、上手くできなくなる。穴が開いたのかと錯覚した。

 彼女のいない世界に、俺の生きる理由はあるのか?

 否、存在しないだろう。少なくとも、直ぐにはできない。

 意味が生まれる前に、元の俺に戻って終わりだ。

「俺が、戦うのは……」

 命を助けてもらったからじゃない。

 ましてや、彼女に人間になって欲しいから、そのためでもない。

「俺のために、彼女(ルナ)に生きてもらうためだ」

「──自分勝手のろくでなしだな」

 そうだな。その通りだ。だが、それでいい。

 彼女は言った。自分に特別な感情を抱くなと、死神だからと。

 なら、人間に戻してから、向けるとしようじゃないか。

 だから今はない。彼女が人間に戻ってから、外に出そうじゃないか。

「何かを成し遂げるためには、命を燃やす義務がある」

 そのために、俺は──俺の(たましい)を、燃やすんだ。

「貴様……その言葉を、どこで」

 俺の発した言葉に、じいさんが目をカッと強く開く。

 どこで……だなんて、今は関係ないだろう。

 じいさんの問いに返さず、俺は身体中にあるカードを意識する。

 総力戦になると踏んで、全て持ってきていた。

 その数……七十。

 一気に使うと、逆に力に取り込まれるかもしれない……そうアドバイスしてくれたのはルナだ。彼女の言葉を信じ、全消費はしない。


 ──十枚を、五分制限で消費。


 力が溢れる。これまでとは別次元の感覚だ。

 本来、寿命を消費したら三十分から一時間は効果が継続する。

 それを五分間だけに絞り込むことで、爆発的に身体強化を発揮できる。

「貴様、今度は何をした」

 例えるならば、陸上競技だろうか。

 これまでの使い方は、長距離走のようなものだ。

 長い距離を走る持久力。それをカードから供給していた形になる。

 だが今は違う。

 短距離走だ。

 百メートルや四百メートル。その短い距離を一気に走り抜ける感覚。

 力がものすごい速度で身体中を回る。血液が循環し、末端まで際限なく巡る。緊張がほぐれ、視界が広がる。

 ほのかな高揚感を支配する。

 イメージは完璧だ。

「こっからは、俺の独擅場だ」

 口を伝う血をぬぐい、じいさんを睨む。

 ルナの邪魔をするなら、容赦しない……!

 数秒の沈黙、互いに出方を見る。

 最初に動いたのは俺だ。

 地面を軽く蹴ると、これまでとは比べ物にならない速度でじいさんへと迫る。

 ──調整をミスれば、自滅するな。気を付けなくては……

 刀と短刀がぶつかる。

 ギギギギと嫌な音を鳴らしながら。

 押せる……いける──!

 次の瞬間、腹部を衝撃が襲う。

「が、あ……──ッ!」

 身体は九の字になり、斜め上へと飛ぶ。先には天井があったが、背中からぶち抜いていく。背中を中心に激しい鈍痛が襲う。

「……少しは、やるようになったな」

 だが、勝てんよ。とじいさんは付け足すように言った。

 勝てない……勝てない?

「……いいや、勝つさ」

 ──勝って見せる。

 体中の痛みを我慢し、すぐに立ち上がって見せる。

 口の中が鉄っぽい……切れたな。

 刀だけに意識を集中させすぎた……他も警戒しないといけない。やっぱりこのじいさん。強い。

「貴様のことは、ある程度見ていた」

 肺に空気をなんとか送りこんでいる時、ストーカー発言をされた。

 俺の様子をよそにじいさんは続ける。

「貴様は、強いのだろう。戦えば分かる。躊躇なく行動できる奴は、早々いない」

 なんでだか、急に褒められた。そんなもの、求めていないのに……

 次の言葉を聞いて、俺の認識が甘かったことが分かる。

「だが、純粋な実力では、我の方が上だ」

褒め言葉ではなかったらしい。たとえこちらが身体能力を強化しようとも、敵わないということなのだろうか。

 そんなの。

「やってみないと、分かんないだろ……」

 よろよろと立ち上がり、一年を消費する。

 治癒力にのみ振った一年消費は、身体の疲労感や傷を一瞬で癒してくれた。

 痛みも疲れも無い。

 現在の身体強化──計十三年。

 自分を客観的に見る。身体強化は強力だが、有限だ。

 寿命を消費し続ければ、いずれ無くなり、俺は死ぬ。

 そうしたらルナは目的を達成できずに死ぬことになる。

 寿命を前借りすることでの身体強化にも、限界はある。

 おそらく、十年以上は重ねても意味がないだろう。そんな気がするのだ。

 十年が限界。だが、それでは勝てない。

 残り時間は……二分ほどか。

 それ以内に倒さなければ、俺が不利になる。

 恐らく……いやきっと、ルナはヒナに勝てない。そのためにも、ある程度余力は残さなければいけない。

 これでもダメなら……と意識を集中させる。

 イメージを膨らませ、探る。

 何かが引っ掛かった。

 これは、何だろう? 真っ黒な、箱?

 イメージの中にある、その箱を手に取る。

 凄まじい力を感じた。

 これを使えば、俺は勝てる……だが、俺でなくなる気がした。

 しかもこれは、俺のイメージではない。

 ──ルナの、なのか。

「──なりふり構ってられない……よな」

「何を一人でぶつぶつと、死を覚悟しての命乞いか?」

 俺は答えない。命乞いなんてしない。

 俺は勝つんだ。何度だって心の中で叫ぶ。


 ──勝つ!


「────ッッッ!」

 黒い箱を力いっぱいに()()した。

 開けようとしても、びくともしないのだ。なら、壊すしかない。

 ポテトチップスの袋を開けようとして開かなかったからハサミで切るのと同じだ。

 直後、黒い何かが意識を身体ごと覆う。

 それはブラックホールのようで、意識が離せなくなる。

 同時に意識を詰めたい何かが支配し、肺が潰されるような感覚に襲われる。

 だがそれは一瞬で、すぐに解放された。

 身体の中の何かが変化するような違和感があったが、それもすぐに無くなった。


「貴様──その姿は……!」

 じいさん、さっきから驚いてばかりじゃないか。

 目をこれでもかと見開き、身体は震えている。

 手に力が入らないのか、刀を落とした。

 身体が……軽い。いや──何も感じない、が正しいのかもしれない。

 まるで浮いているようで……

「……お?」

 地面に視線を落とすと、足が地面から離れていた。

 ……え、本当に浮いているの?

「なぜだ……なぜなんだ──貴様は人間じゃなかったのか……?」

 は? 何を言っている。俺は正真正銘の人間だ。

 ルナと〈同化〉したことで余命一週間宣言されているがな。

「これは……翼?」

 俺の左側に、羽が生えていた。それも、ヒナと同じような。

 色は真っ白で、見ていて惚れ惚れするような美しさを持つ。

 力が溢れてくる。

 背中から全身にかけて、駆け巡るように。

 十年消費した寿命を短時間のみに限定し爆発的な力を出していた。それ以上は出力しても身体に変化は見られなかった。

 だが、これは違う。

 爆発的に強化している身体に、力が上乗せされている。

 身に流れる力を意識し、構える。


「行くぞ──ッ!」


 今度はじいさんの方から来た。

 気配を感じさせないその動きは、反応のタイミングが計りずらいので困惑する。

 だが、今はそれほど関係ないのかもしれない。

「──なにっ」

 音も無く振るわれた攻撃。

 先ほどの俺なら、斬られはせずとも吹き飛ぶなりしていただろう。

 だが、刀は短刀に受け止められ、その勢いをなくしていた。

「さっきのお返しだ──」

 短刀に乗った力を逃し、相手の体制を崩す。刹那で背面に回り込み、その勢いのまま回し蹴りを放つ。

 空気が逃げる暇などなく、それごとじいさんを吹き飛ばした。

「う、がぁ──っ」

 初めてじいさんが血を吐く。

 やっと入った。だが、これだけでは勝てない。そんなこと分かりきっているので、俺は一歩で肉薄する。

 じいさんは刀では間に合わないと思ったのか、そばに落ちている瓦礫の中から鋭利なものを拾いこちらに向けてきた。

 何もしなければそのまま俺の目に刺さるだろう。

 だがそんなもの、脅威になどなりはしない。

 口を開き、瓦礫を噛み砕く。じいさんの呆けた面が見えて笑いそうになるが、それは後だ。

 顔面に最高の一撃をお見舞いする。

 顔から全身へ衝撃が走り、それでも止まらない衝撃の塊は逃げるように背後にある壁へと亀裂を走らせる。

 まるで空気が割れるような音を生み出しながら、部屋全体に響き渡る。

 壁は吹き飛び、床も砕けた。

 ……このビルは、もう持たないな。

 そんなことを思いながら、じいさんを見る。

「────」

 白目をむいて気絶していた。

 顔面には先程までの貫禄はなく、だれか分からないくらいぐちゃぐちゃになっている。


 背を向け、ビルの入口へと歩く。

 パラパラと部屋にコンクリートの粉が降り、限界を教えてくれる。

「俺は出る。じいさんもそろそろ起きないとまずいぞ~」

 じゃあな。と言い残し、俺はビルを後にした。

 まるで俺が出るのを待っていましたとでも言うかのように、外へ足を踏み出した瞬間にビルは完全に倒壊した。


「……──どう、して」

 あとはヒナを倒すだけだと思っていた。

「──あは、すこし……遅かったね」

 外には、胸から血を流して横になっているルナと、返り血を浴びたのであろう。

ふくよかな主張を助長させている白いノースリーブを真っ赤に染める、ヒナの姿がそこにはあった。


ありがとうございました!!

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