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第三話「それぞれの想い」

第三話です!

「う~ん、結構派手にやっちゃったかも?」

 顎に人差し指を当てて惚ける様子は、少し見とれそうになってしまうもので。

 この場所が吹き飛ばされた教室によって瓦礫の山になっていなければ、「大丈夫、君は何もしてないからね」とフォローを入れてしまいそうな物言いだった。

「派手も何もあるかよ……化け物が……」

 見上げながら、精一杯の文句を言う。

「わっ、ひっどーい。女の子にそんなこと言っちゃダメなんだぞ~?」

 頬をプクーッと膨らませ、軽く叱る仕草をする彼女に、俺は困惑する。

 その姿はまるで、いたずらをした子供を怒る母親のように見えた。

 だがしかし、彼女は小学校の一つの階を吹き飛ばしている。

 四階建てだったはずの建物はその姿を失い。一番上の階が完全に無くなり、そこら中に瓦礫の山を生み出している。

 深夜だと言うのに騒音に目を覚ましたのか近隣住民の叫び声や困惑する声などが聞こえ始めていた。

 ──これは、まずい。

 恐らく誰かしら通報するか様子を見に入って来るだろう。

 警察なんかにこの現場を目撃されたら、どうなるか分からない。

 住居侵入、器物損壊とかで捕まる可能性すらある。

 一週間しかないのに、こんなところで時間を失うわけにはいかない。

 どうにか……しなくては。

「どうす、るんだよ……っ!」

 拳に力が入る。

 こんなボロボロの状態で、俺に何ができる。

 寿命消費の効果も切れたからか、さっきから痛みが激しくなる一方だ。

 考えるのが辛くなってきた。

 もういっそ、このまま意識を手放して、楽になってしまおうか。

 そんな考えすら浮かび始めた時だ。

「悪い、けど……メグルは渡さない、よ」

 ガラガラと瓦礫の中から、ボロボロの格好でルナが出て来た。

 全身傷だらけで、見ているこっちが痛くなる。

 思わず目を逸らしてしまいそうだ。

「なーに? わたしを誘拐犯にしたいの? やめてよ~」

 そんなんじゃないよ~と片翼の死神──天野ヒナは少しふざけ気味に言葉を残していく。

 それに、と彼女はさらに口を開く。

「今出るつもりじゃないって言ったでしょ? ここで事を起こすつもりはないよ」

 一般人に入られちゃうのは……メンドウだからね。

 そう言いながら、ヒナはルナに向かって歩き始める。

 ……関係ないが、ヒナは俺の上にいた。ルナは俺の頭の先に。

 歩みを進めるということは、俺の眼前を通ると言うことで──

 スカートを履いているということは、下から覗く形になってしまう。

「あ、こら~乙女の中を覗くのはよくない──ぞっ」

 片足を上げたかと思えば、勢いよく振り下ろし。

「いでぇっ!」

 中身を覗きそうになった俺は、ヒナに思い切り蹴とばされた。

 二度三度地面を跳ね、学校の外に放り出されると焦るが、ルナが抱き留めてくれた。

「いくら男の子だからって……今のはダメだよ」

 呆れた顔で。

 ごみを見るような目だ……

「いや、今のは……不可抗力だ」

 ただでさえ身体中痛いのに、覗く余裕あるわけないだろ……

 ルナは俺からヒナへと視線を移す。

 その瞳には強い警戒が宿っている。

「……本当に、襲ってこないの?」

 警戒が揺れる。言葉にも戸惑いが見られる。

 あはは、と漆黒の翼を揺らしながら、お腹を抱えて笑う彼女。

「だから言ってるじゃんね。まだ今じゃないって」

 ……見逃してくれるって、ことなのか?

 悔しいが、少しホッとしてしまった。

 死が目の前に見えているからか、そんな生への希望が眩しい。

「見逃す、か。確かに、その表現で合ってるよ~」

 手をひらひらさせながら、ヒナはくるりと身をひるがえす。

 現れた時と同じ足音を立てながら、彼女はゆっくりと去って行く。

 最後に。

「──またね、()()()()()

 声をかけた直後には、ふわっと風を残して彼女は姿を消した。



「──はぁ、なんとか……帰ってこられたな」

「えへへ、ごめんよ~」

 ヒナと名乗った死神が去った後。俺は寿命を消費して無理やり身体を動かし、ルナを担いで小学校を後にした。

 寿命を消費して気付いた事が一つ。

 捧げた歳月によって、身体強化と併せて治癒力も強化できるみたいだ。

 一年で何とか身体が動き、二年消費で身体中の傷が塞がり楽になった。

 しかしそれだけでは逃げられないと判断し、もう一年。

 計三年を消費することで、なんとか逃げることが出来た。

 家に着きルナをソファに寝かせる。

 彼女は申し訳なさそうな表情をしていた。

「ありがと~迷惑かけちゃったね」

「別にそんなことねえよ」

 あそこで警察に捕まらないようにするためなら、三年くらいどうってことない。

 それよりも知りたい。俺たちの前に現れた、片翼の死神について。

「説明したいのは山々なんだけど……疲労が、ね?」

 確かに、俺も疲れた。

 ここは一度、休眠を取るべきだな。


 ──起きたのは昼を過ぎてからだった。

「傷はもう大丈夫なのか?」

 不安に思い、ソファで横になっているルナに聞いてみれば、元気そうに大丈夫と答えてくれた。

「力を回収できたのが大きかったね〜」

 おかげで傷の治りも早くなってきたからね。と少し嬉しそうだった。

「メグルは大丈夫? 結構吹っ飛ばされてたけど……」

 逆に不安な表情をされ、少し意外だなと思った。

 ……蹴っ飛ばされた時は、心配してくれなかったのに。

「俺も大丈夫だ。寿命消費したら治った」

 そう言って彼女を見れば、ハッとし、少し焦った表情をしていた。

 どうしたんだ?

「ポンポン使わせちゃったけど、それはキミの寿命……なんだよ?」

 申し訳なさそうにしながら、おずおずと声を出す彼女は初めて見た。

 そんな一面も見せるんだなと思いながら、俺はカードを手に持って見せた。

「力の回収に失敗したら……一週間で死ぬ命だ。だったら、残った寿命がもったいないからな。使えるうちに使っとかなきゃだろ」

 どうせ俺は、彼女と出会わなければビルの屋上から飛び降りて……死んでいたかもしれない。

 それを止めてくれたルナは実質──命の恩人なのだ。

 こいつのために、できる限りのことはしたい。

 一度捨てようとした命だ。無駄になるより、誰かのために散れる方が幾分もマシだろう。

 考え事をしていると、こちらを静かに見つめていたルナが口を開く。

「キミを……メグルを選んで、よかったよ」

 急に恥ずかしいことを言われ、少し挙動不審になる。

 何がおかしいのか、笑われてしまった。

 どこに笑う要素あったんだよ……

「はぁ~ほんと、出会えてよかったよ」

 ソファから上半身だけ起こし、大きな伸びを一つ。

 くぁ~と少し可愛いあくびをしてから、ルナは俺に向き合う。

「それじゃあ、話そうか」

「昨日の奴について教えてくれるんだな?」

 コクリと頷く。

 ふわふわした雰囲気が霧散し、真剣な物に変わるのを感じた。

 まず最初に、と俺から質問をする。

「昨日の天野ヒナ……は、死神って認識で合っているんだよな?」

「うん、その認識で合ってるよ。彼女は私の元同僚だからね」

 ……は? 元仕事仲間?

 ──そうだ。ルナも死神だったな。

 人間になりたいという少し変わった願いを持つ女の子として認識したからか、すっかり忘れていた。

「彼らは、基本二人一組で動くの……まるで私たちみたいだね」

 冗談交じりに死神と同じ存在にされる俺ってなんだろう。

 と今それは関係ないな。問題なのは──

「──ヒナ以外にもう一人、障害があるってことだな?」

「うん、そうだね」

 あの片翼(ヒナ)とペアを組めている死神……一体どんな奴なのだろうか。

 一人に対して、俺たちは手足を出すどころか、不意打ちとはいえボロボロにされた。

 そこにもう一人追加だなんて……勝てるのか?

「……正直、難しいかな」

 俺の思考を読み取ったルナが重たそうに口を開いた。

「私は本調子じゃない……力も五割までしか戻ってないし、彼女と対峙するなら……少なくとも十割──いや、それでも足りない」

 ルナにそこまで言わせるほど、天野ヒナ──あいつは強いのか。

 そこら辺の死神なら、三割でどうにかできると言っていた彼女を相対しただけでここまで言わせてしまうだなんて……規格外すぎる。

 実際に俺も、彼女の力を身をもって体験しているから、ルナが言っている事がある程度は分かる気がする。

「あいつを避けて、奪われたもん探す……はできないのか?」

 一縷の望みにかけ、ルナに提案するも、その表情は険しいままだ。

「それが出来たら、私もその考えをとるんだけどね」

 それは無理だよ。と切り捨てられた。

 何故こうもはっきり言えるのか、それを問う前に答えが出た。


「彼女が、ヒナが私の力たちを奪った張本人だからね」


 それじゃ確かに、避けて探すのは難しい。

 張本人が黙って見ているわけもない。

 いずれ必ずぶつかる相手……

 無意識に床を見つめてしまう。そこに答えがあるわけでもないのに……

「…………」

「…………」

 二人の沈黙が、部屋を支配する。

「俺、少し外で考えてみる」

「うん、何かあったら意識で伝えて……あでも、離れすぎると、意思の疎通できなくなっちゃうから気を付けてね」

「ああ、分かったよ。ちょっと出て来る」

 ルナを見ることなく、俺は家を出た。



 家から少し離れた公園に来た。

 ルナに意志を送ってみるが返事が無い。

 彼女の言った範囲から抜けたのか。それともただ返事をしなかっただけか。

 俺には分からない……

 一体、どうすればいいんだ。

 どうすれば力を取り戻しつつ、ルナの目的を果たせる。

 このまま一週間が過ぎれば、俺は死に、ルナは消滅する。

 彼女が消えてしまうのは……嫌だ。

 そんなことを想像すれば、胸が痛い……

 穴が開いてしまったのでは、と勘違いするようだ。

「……俺も単純だな」

 いつからだろう。ビルで助けられた時からかな?

 この気持ちは、知られたくないな……ルナも自分以外の子にって、言っていたし。

「そ~んな暗い顔しちゃって、どうしたのかな?☆」

 はぁ~とため息をついていると、目の前──正確には地面を見ている俺の視界に、細い足が映り込んだ。

 黒いタイツを履いているその足は軽やかに俺の方を向いている。

「……いや、俺としてもこんな感情を抱く年なんだなとちょっと驚いていて──!」

「そうなんだ。君にも可愛い所があるんだね~わたし、びっくりだよ」

 深夜の記憶と、目の前で喋っている人物の声が、一致する。

 急に何事もなく現れたかと思えば、小学校の一フロアだけを綺麗に更地にした人物(死神)。

「……──天野、ヒナ……」

 震える身体を抑え、声を絞り出す。その人物の名を、口にする。

 ゆっくり顔を上げると、場違いに明るい表情が目に映る。

「やっほ~、一人でいるなんて、警戒心が無いのかな? そんなんでいると、直ぐに襲われちゃうぞ~」

 手をガオーッと顔の前で牙のように表現しながら、子供に言い聞かせるように注意される。

 張本人が……何を言っているんだ。

 俺は困惑した。

 死神は、ルナ以外爺さんのペアみたいに血の気が多いのだと思っていたのだが、こいつは違う。

 敵意を全く感じない……気配さえも……

「お前は、いったい……なんなんだ」

 自分でも、訳の分からない質問をしたと思う。

 だが、彼女は答えてくれた。

「自己紹介……はしたから違うよね? 私はあなた達になるけど、今はまだ違うよ。今の君相手にしても、ぜんぜん面白そうじゃないもん♪」

 楽しいかそうじゃないかで、判断しているのかこいつは……

 呆れて口が開いてしまう。

 そんな空気を破ったのは、彼女自身だった。

「君ってさ、面白い()、持ってるよね?」

 ドキリとした。つい先程までの明るく、柔らかいテンションはどこへやら。

 唐突に発せられた言葉は、水風呂の中に落ちたように冷たかった。

 全身が震えそうになる。

「安心して、何度も言っているけど、ここで殺したりはしないよ。面白くないもん」

 顎を撫でられ、くいっとあげられる。

 彼女と嫌でも目が合う。

 そして気付いた。

「お前──死ぬのか?」

 俺の口から出た言葉に、彼女はにやりと笑みを浮かべた。

「あは、あはは、あははははは! やっぱり君面白いよ!」

 平日の真昼間に、公園の真ん中で高らかに笑う天野ヒナ。

 周りに人がいなくて良かったと思う反面。

 何がおかしいのか、気にはなる。が、聞く方向に割く気力は無い。

 今なら逃げられるかもしれない……いや無理だろう。

 おとなしく笑いが収まるのを待った。

「──はあ~久しぶりに笑ったよ、ありがと~」

「俺を殺さないのか?」

「今はまだ殺さないよ。相方にも止められているしね」

「──っ!」

 ヒナの口から、仲間の存在を確定させる発言が飛び出し、俺は目を見開く。

 だがそれも彼女の策略のようで。

「あはは、わっかりやす~い。これじゃあルナちゃんも苦労してそうだね」

 掌の上で転がされている気分だ……

 未だに笑いをこらえる仕草をするヒナに対し、一発殴りたい感情が湧く。

 だが、どうせ今やったところで俺はここで死ぬことになるのだろう。

 なんとか抑える。

「君は……さ」

 ヒナが口を開いた。

「……家族、いる?」

 その瞳からは感情が抜け、その言葉には希望など何もない。

 そう感じてしまう。

「家族は、いる……いや、いた──の方が正しいかもしれない」

 俺に家族と呼べる存在は、もういない。


「ふーん。なんで?」

 お前のことは何でも知ってるぞ。とでもいいたそうな視線を感じたが、本当のことだ。

 俺の家族は、ばあちゃんだけだった。

 両親はいつも仕事ばかりで、授業参観も運動会も、最初から最後までいてくれたことは無い。

 今は東京の方で忙しくしているのだろう。

 毎月しっかり金だけ送られてくる。

「なかなかに面白い家庭環境だったんだね」

「露骨に思考読んでくるな……まあ、そうだな」

 共働きで面倒の見られない俺を引き取ってくれたのが、祖母だった。

 いつも笑顔で、俺の話を何でも聞いてくれて、必ず「巡は物知りなんだねぇ」と言ってくれていた。

「先月亡くなったけどな」

 この会話に一体何の意味があるのか、俺には分からない。

 こいつにも分からないかもしれない。

「おばあちゃんの死期も視えた?」

 まあな、とぶっきらぼうに答えた。

 こいつにこんな話して、何になるんだろうか。

「君が視た通り……わたし、もうそんなに長くないの」

 俺の話が終わるや否や、自分の話を始める彼女。

 俺は少し困惑しつつ、別に脅威は無いと思い聞くことにした。

「なんでか気になる? え、気にならないの?」

「しれっと思考読むな! なんで敵になるかもしれないやつのこと気にならなくちゃいけないんだよ……」

 まあいいじゃん~と、翼をバシバシと俺に当てて来るヒナ。

 羽が抜け落ち、そこら中に散る。

「──禁忌を、犯したの」

 何となく羽に手を伸ばした手がピクリと止まる。

 人間としての記憶を……取り戻すこと。

 ルナが言っていた。自分は禁忌に触れようとした。だから力を奪われた……と。

「彼女の──ルナちゃんの記憶を、取り戻させたくない」

 だからわたしは、彼女の邪魔をするの。

 そして次に、天野ヒナは俺にとんでもないことを言ってきた。


「お願い──わたしのために、ルナちゃんのために……死んでくれないかな?」

ありがとうございました!

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