ツインレイの花嫁 番外編その2「国王の育児」
愛し合った末に、可愛い男の子と女の子の双子が産まれた。
産まれたばかりの可愛い我が子たちを見て、感動して泣いてしまった。産んでくれたユリアに感謝して、子どもたちと一緒に抱きしめる。
しばらくの間、ユリアは重傷の状態に等しいので手伝えることは手伝っていく必要がある。
赤ちゃんのお世話については、既に手配していた乳母に教えてもらいある程度できるようにはなっている。
新米パパとして頑張らないと、と思っているとユリアから相談を受けた。
子どもたちの名前を決めないといけない。何個か候補があったので、その紙を見せるとひとつを指さした。
「これがいいと思う!人間の始祖の名前だけどね」
「ふふ、この世界では知られていないけど……いいと思うよ。じゃあ、男の子がアダムで女の子はイヴだね。よろしくね、アダム、イヴ」
まだ目が開いていない子たちの頬を指先で撫でると、嬉しそうに笑った。可愛い。
ふにゃふにゃとしていた子どもたちだったが、しばらくすると二人同時に大泣きし始めた。
「……おっぱいだろうなぁ……ほらほら、二人ともちゃんと飲めるかな?」
ユリアが上着をぺろ、と捲るとたわわな胸が見える。前より少し大きくなっている気がするんだけど。
俺が吸い付きたい。そうこうしている内に、泣いていた子たちを胸に近づけるとちゃんとおっぱいを吸い始めた。
赤ん坊は本能で吸い方を知っているらしい。ちゅうちゅうと一生懸命吸う姿は愛くるしい。
パパはママのおっぱい吸いたいとか思ってごめんね。
心のどこかでそう謝りながら、二人の授乳が終わるまで様子を見ていた。
アダムの方がすぐにお腹いっぱいになったらしく、おっぱいから口を離した。げっぷが出ていないから、背中をとんとんする必要がある。
「ユリア、アダムを抱っこしてもいい?げっぷをさせないと」
「うん、お願い。イヴはまだ飲んでるから……」
んうんう、と眠そうなアダムを抱っこして、優しく背中を何度かとんとんすると小さくげっぷが出る。
控えめのげっぷに小さく笑みが零れた。抱っこしたまま、撫でているとアダムはぐっすりと眠ってしまったようで寝息が聞こえてくる。
それにしても、イヴの授乳が長い気がするんだけど。ユリアを見ると、困惑しているみたい。
「……イヴ、おっぱいを飲むのが長くない……?」
「そうなのよね……もうお腹いっぱいだと思うんだけど……イヴ?イヴ、そろそろいいんじゃないのかなー?」
つんつん、とユリアが頬を突くが不機嫌そうなうめき声が聞こえる。
まだ飲みたいと言っているように見える。それからもう少し経過した頃にようやく満足したらしく、イヴがおっぱいから口を離すとすごく大きなげっぷを出していた。
「……うーん、イヴは沢山食べる子なのかな?元気だね……」
「そうだと思うわ……ふぁ……少し眠りたい……」
「いいよ、寝ていて。アダムの横に連れて行くから。ほら、イヴも寝ようね」
ユリアからイヴを渡してもらい、口を開けたまま寝そうなイヴをアダムが眠る近くのベビーベッドに寝かせた。
初日はわりと静かに終わったけど、次の日からが大変だった。
イヴは基本的にお腹いっぱいになれば大人しく眠ってくれるけど、アダムは寂しがり屋なのか突然泣き出すことがある。
たぶん、夜泣きだと思う。ユリアは疲れ切っているから起きられないし、起こすのが可哀想だ。だから俺が起きてから、アダムを抱っこして宥める。
「どうしたのかな、アダム。パパはここだよ」
「んぇ……んぅえ……」
「眠るのが怖いのかな?大丈夫だよ、パパもママも、それにイヴも一緒にいるよ」
優しく声をかけると、だんだんと落ち着いてくる。どこかの育児書で見かけたけど、赤ん坊が眠る頃に大泣きするのは、眠ることが死に直結している感覚に陥るかららしい。
確かに死ぬ時は永眠、というからその感覚は間違っていない。
小さい子は多感だから、情緒不安定にもなりやすいのだろう。まだ眠るのを嫌がっている様子を見て、小声で子守唄を歌う。
「きらきら、ひかる……よぞらの、ほしよ……」
異世界の子守唄。母様から時折聞かせてもらったきらきら星、という歌だ。
母親のように高めの声ではないけど、子どもが怖がらないように優しく、ゆっくりと歌う。あやしながら歌っていると、気づけば寝息が聞こえ始めた。
歌を止め、アダムの額にキスをする。
「……おやすみ、可愛いアダム」
ゆっくりとベビーベッドに寝かせ、俺もユリアがいるベッドへと入る。
ユリア自身も初めての出産と育児に疲労とストレスが高まっている。
こうして寝ている間も、眉間に皺を寄せて魘されていることがある。そういう時は、優しく抱き締めてアダムにもしたように、ユリアにも子守唄を歌う。
ユリアが熟睡した頃に、俺も一緒に眠る。
それから半年が経過し、子どもたちの両目が開くようになった。片目が緑で、片目が青のオッドアイだ。
しかも、この子たちのオッドアイは左右逆なのだから変わっている。
「オッドアイの子って初めて見たわ……綺麗なおめめだね、アダム、イヴ」
「んぅ?」
「んぁう?」
「んふふ、どっちもよくわかんないって顔してる……私が誰だかわかるかな?」
「ユリア、まだ言葉はしゃべることができないと思うよ。二人とも、今抱っこしているのはママだよ。ママ」
俺の方を向いた後、じっとユリアを見つめる。アダムは見つめるだけだったけど、イヴはもぞもぞ動き始めたと思ったらユリアの服の中に顔を突っ込み始めた。
「え?え?おっぱい飲みたいの?もう?」
「お口寂しいのかな……アダムは特に何もないみたいだし……」
アダムの頭を撫でながら、イヴの様子を見ているとしっかりとおっぱいにしがみついて自分から飲み始めていた。
食欲がすごいな、イヴは。その様子を見ていると、ふいに手を掴まれた。なんだろうと思い、視線を下げるとアダムが俺に向かって両手を伸ばしている。
「抱っこ?おいで、アダム」
ユリアの膝から抱っこすると、アダムは嬉しそうにニコニコしている。
きっと俺のことも親だと認識してくれているんだろう。そんな感じで、積極的に育児に参加していたこともあってなのか、歩けるようになるとずっと俺の傍にいるようになった。
公務の時も一緒に居たがるからとても大変だった。離乳食を俺が厨房を借りて作ったり、食べさせたりしていたことも要因かもしれない。
授乳以外のお世話をやっていたこともあるのかもしれない。困ったな、要因が多すぎる。
執務室での業務がひと段落すると、ユリアと共に子どもたちが入って来た。
「パパいたぁ!」
「パパ、あちょんでー!」
「こらこら、二人とも!パパはお仕事中だよ!」
「ふふ、そうかもう昼なんだね。遊ぶ前に、一緒にご飯食べようか。アダム、イヴ」
「「はーい!」」
「良いお返事をありがとう。二人の食事介助は俺がやるから、ユリアも一緒に食べよう」
「あはは……もう本当にパパはイクメンだよね……」
「そんな言葉、初めて聞いたな。愛するユリアとの間に産まれた子どもたちなんだよ。とても可愛いし、これからも大事にしたいと思っているから……ユリア?」
ユリアが少し横を向いて、拗ねている。もしかして、自分が一番じゃないと思っているのかもしれない。
机から離れてユリアたちに近寄る。苦笑して、耳元にキスを落とす。
「それでも、最愛はユリア以外いないから」
「ひぅッ……!も、もう意地悪しないで……!」
「可愛かったから、つい。ごめんね、機嫌を治して?」
もう、平気……と呟く姿を見て、本当に可愛い人だと思う。ふと、下から熱視線を感じてそちらに向くと子どもたちがしっかり見ている。
「なかよち……」
「パパと、ママ……なかよち……」
「そうだよ。パパはママのことを、とても愛しているからね」
二人同時に抱き上げながら、はっきりと惚気るとユリアが声なき声をあげていた。
表情豊かなユリアは見ていて楽しい。顔を真っ赤にさせたユリアだったけど、俺と顔が合って笑顔に変わる。
国王としての仕事は多忙であることに変わりはないけど、こうして愛する女性と結ばれて、愛する子どもたちに囲まれて。俺は幸せだ。
それから二人が一人で食事が出来るようになる頃には、乳母であるメイドに手伝ってもらいながら身支度や勉強ができるようになって少し寂しいと感じることがある。
けれど、これもまた育児の一環だ。見守ることも、成長のひとつだから。
この国では男性が育児に参加することが珍しい。だからこそ、真っ先に手本となるべく積極的に動いている。
一番上の人間がこうして参加することで、他の父親たちが自分たちもやらなければと考えが変わってくるらしい。
俺の本心は、ただユリアのためにと思って動いていただけなんだけどね。
子どもたちが成長した後も、俺の名前が語り継がれることになるのは俺も知らないことだ。
(終)