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三国志演義

三国志演義・白馬の戦い~河北双星落【前編】~

作者: 霧夜シオン
掲載日:2023/08/12

はじめに:この一連の三国志台本は、故・横山光輝先生、吉川英治先生の著作した

     三国志に、蒼天航路、北方健三先生の三国志や各種ゲーム等に、作者の

     想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是非演じて

     みていただければ幸いです。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな

     い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒

     ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の

     キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、

     注意してください。



三国志演義・白馬(はくば)の戦い~河北双星落(かほくそうせいらく)【前編】~


作者:霧夜シオン


所要時間:約35分


必要演者数:9人(8:1)

        (9:0)


※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。


はじめに:この一連の三国志台本は、故・横山光輝先生、吉川英治先生の著作した

     三国志に、蒼天航路、北方健三先生の三国志や各種ゲーム等に、作者の

     想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是非演じて

     みていただければ幸いです。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな

     い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒

     ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また、決してお金の絡まない上演方法でお願いします。


     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の

     キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、

     注意してください。



●登場人物


関羽(かんう)・♂:字(あざな)は雲長(うんちょう)。

     劉備(りゅうび)、張飛(ちょうひ)と義兄弟の契りを結び、乱世を正そうと立ち上がる。

     現在は曹操(そうそう)に敗れ、3つの条件を呑んでもらう事で彼の元に留まってい

     る。智勇に優れ、重さ八十二斤(はちじゅうにきん)の青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を自在に操る。

     腹まで垂れる立派な顎髭(あごひげ)を持ち、時の皇帝の献帝(けんてい)に拝謁した際に美髯公(びぜんこう)

     とあだ名される。


曹操(そうそう)・♂:字(あざな)は孟徳(もうとく)。

     漢王朝の宰相、曹参(そうしん)の末裔を称する。現王朝の司空(しくう)の位について、自ら

     の理想とする世を築くべく、皇帝をも大義名分として利用する。人材収

     集癖があり、有能な人材を愛する事、女性を愛するかの如くである。

     現在は敵である劉備(りゅうび)の義弟、関羽(かんう)に惚れ込んで自分の手元に置いている

     。政治、軍事、文化全ての分野に名を残す”破格の英雄”。


劉備(りゅうび)・♂:字(あざな)は玄徳(げんとく)。

     中山靖王(ちゅうざんせいおう)・劉勝(りゅうしょう)の末孫(まっそん)にして漢の景帝(けいてい)の玄孫(げんそん)を自称。

     治めていた徐州(じょしゅう)の地を曹操(そうそう)に追われ、河北(かほく)の雄・袁紹(えんしょう)の元に家族や

     義兄弟、家臣たちの身を案じながらも身を寄せている。


袁紹(えんしょう)・♂:字(あざな)は本初(ほんしょ)。

     漢王朝の最高の役職である三公(さんこう)(大尉(たいい)、司徒(しと)、司空(しくう))を一族から代々輩

     出している、名門中の名門の末裔。

     優柔不断な所もあるが、基本的には優れた人物である。

     現在は河北(かほく)(青州(せいしゅう)、幽州(ゆうしゅう)、冀州(きしゅう)、ヘイ州)を手中に収めており、

     最も天下に近いと言われる存在。


顔良(がんりょう)・♂:字(あざな)は伝わっていない。

     袁紹(えんしょう)配下の猛将で、文醜(ぶんしゅう)と並んで河北(かほく)の武の双璧をなしている。

     曹操(そうそう)軍配下の猛将達を多数討ち取り、あるいは敗走させるも、突如とし

     て戦場に現れた関羽(かんう)によって一撃のもとに斬り殺されてしまう。


徐晃(じょこう)・♂:字(あざな)は公明(こうめい)。

     元は曹操(そうそう)と敵対する勢力の配下の勇将だったが、同郷の者である満寵(まんちょう)と

     いう人物に説得され、曹操(そうそう)に帰順する。

     大斧を操り、智勇に優れている人物。


夏侯惇(かこうとん)・♂:字(あざな)は元譲(げんじょう)。

      曹操(そうそう)の腹心にして、最も信頼されている隻眼(せきがん)の猛将。

      二人きりの時は互いに遠慮のない物言いをする。

      旗揚げ当時からつき従い、数々の戦いに参加し、功績を重ねていく。


張遼(ちょうりょう)・♂:字(あざな)は文遠(ぶんえん)。

     丁原(ていげん)、董卓(とうたく)、呂布と次々と自らの意思とは裏腹に主を変えざるを得なか

     ったが、ついに生涯の主君である曹操(そうそう)と出会い、忠誠を誓う。関羽(かんう)とも

     親交があり、徐州(じょしゅう)陥落の際の関羽(かんう)の降伏に一役買っている。

     後に合肥(がっぴ)を守り、呉の大軍をわずか八百の兵で退け、泣く子も黙るとし

     て大いにその勇名を馳せる。


荀攸(じゅんゆう)・♂:字(あざな)は公達(こうたつ)。

     曹操(そうそう)に仕えている荀彧(じゅんいく)の甥(おい)で謀略に優れ、軍師として活躍。

     人柄を曹操(そうそう)に絶賛されるほど終始良好な関係だったという。

     軍の機密を厳守し、その生涯で献策した奇策は12あるとされ

     るが、本人は決して語る事はなく、後に編纂(へんさん)しようとした人物

     も半ばで死去。その為ほとんどが後世に伝わらなかった。


郭嘉(かくか):字(あざな)は奉考(ほうこう)。

   野に隠れていた賢人だが曹操(そうそう)に魅力を感じ、彼に仕える。

   その洞察力、献策は非常に的確で、後年、赤壁(せきへき)で大敗北を喫した際に曹操(そうそう)は

   、彼がもし生きていたらと大いに悔やんだという。


魏続(ぎぞく)・♂:字(あざな)は伝わっていない。

     もと呂布(りょふ)配下の将で縁戚(えんせき)関係にあったことから呂布(りょふ)に重用されるも、裏

     切って曹操(そうそう)に仕える。正史では以降の出番は無いが、演義ではこの白馬(はくば)

     ・延津(えんしん)において顔良(がんりょう)に斬られている。

     ちなみに横山光輝先生の三国志コミックスでは、登場からわずか14コ

     マ、3回打ち合っただけで討死にという不名誉な役回りを与えられてい

     る。


宋憲(そうけん)・♂:字(あざな)は伝わっていない。

     魏続(ぎぞく)と同じくもと呂布(りょふ)配下だったが、共に裏切って曹操(そうそう)に仕える。彼も

     以降は正史に登場しないが、演義では顔良(がんりょう)に挑み、名乗りを上げる→打

     ちかかる→一撃で斬られるという、魏続(ぎぞく)よりも不遇な扱いを受ける。

     登場からわずか10コマの間の出来事であり、顔良(がんりょう)と対峙(たいじ)してからは3

     コマという短さであるため、ネタにもされている。


ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。


曹操(そうそう)軍兵士1・♂♀不問:顔良(がんりょう)に蹴散らされる役その1。1セリフのみ。


曹操(そうそう)軍兵士2・♂♀不問:上記その2。



※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。


※キャスト割り振り例

関羽:

曹操:

顔良:

張遼:

劉備・荀攸・曹操軍兵士1:

袁紹・郭嘉・曹操軍兵士2:

徐晃・宋憲:

夏侯惇・魏続:

ナレ:



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:曹操(そうそう)に徐州(じゅしゅう)を大軍で攻められた劉備(りゅうび)は、袁紹(えんしょう)の元へ落ちのびて保護

   される。

   下(か)ヒを守っていた義弟の関羽(かんう)は、


   曹操(そうそう)ではなく漢王朝(かんおうちょう)に降伏すること、

   劉備(りゅうび)の家族を手厚く保護すること、

   劉備(りゅうび)の居所(いどころ)が分かり次第いつでも立ち去って良いこと、


   この3ヶ条を条件として出す。

   快く受けた曹操(そうそう)は関羽(かんう)を都へ連れ帰り、毎日のように宴(うたげ)を開き、

   財宝や美人を送って彼の歓心(かんしん)を得ようとするが、関羽(かんう)の心がなびく

   事はなかった。

   一方の河北(かほく)、冀州(きしゅう)の城も、いつしか春を迎える。

   そんなある日。


劉備:我が妻や子、二人の義弟(おとうと)は無事に落ちのびただろうか…。

   雲長(うんちょう)…翼徳(よくとく)…家臣の皆…、いずこにあるか…?


袁紹:やあ劉備(りゅうび)殿、空を眺めてどうなされた?


劉備:! これは袁紹(えんしょう)殿。

   家族や義弟(おとうと)たちの行方(ゆくえ)も知れぬというのに、こうして自分だけが

   日々安全に過ごせている事を歯がゆく思いまして…。


袁紹:そうであったか。

   うむ、その案じる気持ち、わしにもよく分かる。

   ところで、劉備(りゅうび)殿に相談があるのだが。


劉備:何でございましょう?


袁紹:愛する息子の病(やまい)も治り、野山(のやま)の雪も消え始めた。

   それゆえ、長年の願いであった南方攻略の軍をおこし、一挙に曹操(そうそう)

   を討ち滅ぼそうと考えたのだが、家臣の田豊(でんぽう)が反対しておってな。

   今は守りを固め、内政を充実させ、曹操(そうそう)が破たんを起こすのを待つ

   時だと申すのだ。

   これについて、忌憚(きたん)のない意見を聞かせてくれい。


劉備:なるほど…、確かに安全な考えかと思います。

   しかし田豊(でんぽう)殿は学者ゆえ、どうしても机上(きじょう)の論になりがちです。

   わたくしならばそうしませぬ。


袁紹:ふうむ…では劉備(りゅうび)殿ならば、どのような方策を取るか?


劉備:時は今であると存じます。

   確かに曹操(そうそう)の軍は強力で、彼の用兵(ようへい)や謀略(ぼうりゃく)は侮(あなど)りがたいものです。

   しかし、ようやく彼も慢心(まんしん)し始め、朝廷(ちょうてい)から疎(うと)まれているとか。

   それに陛下の舅(しゅうと)であられる董承(とうじょう)殿はじめ、数百人を皆殺しにした事

   で、民の心も離れているに違いありません。

   この機を逃(のが)せば、悔(く)いを百年に残すと思います。


袁紹:ううむ、確かに言われてみると田豊(でんぽう)は常に学識(がくしき)をひけらかし、

   自分の財産を守る事に執着しているように見える。

   今の地位に満足して余生(よせい)を無事に過ごすことしか考えておらんから、

   わしに保守的な意見を勧めるのかもしれんな。


劉備:そうでなければ、この絶好の機会を逃(のが)すような事を申し上げるはず

   がございませぬ。


袁紹:いや、よく分かった!

   劉備(りゅうび)殿の意見、わしの考えとよく一致しておる。

   ただちに軍を編成し、許昌(きょしょう)へ攻め下(くだ)ろうぞ!


劉備:ははっ、わたくしも日頃(ひごろ)のご恩をお返しするため、力を惜しみませ

   ぬ。


袁紹:うむ! よし、反対派を一喝(いっかつ)してのち、早速(さっそく)軍議(ぐんぎ)じゃ!

   曹操(そうそう)め、目にものを見せてくれようぞ! はっはっはっは!!


劉備:……。

   (これでいい。今、曹操(そうそう)に対抗できるのは袁紹(えんしょう)しかいない。

   何としてでも兵を出させねば…。

   義弟(おとうと)たちの手がかりも何かつかめるとよいのだが…。)



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:袁紹(えんしょう)は劉備(りゅうび)の口車(くちぐるま)に乗せられ、即座に出兵(しゅっぺい)を決意。

   参謀の田豊(でんぽう)は最後まで反対したが逆に袁紹(えんしょう)の怒りを買い、投獄(とうごく)され

   てしまう。

   一方それより少し前、曹操(そうそう)は黎陽(れいよう)の地にて自身の右腕たる腹心の将

   、夏侯惇(かこうとん)と黄河(こうが)の流れを見つめていた。


夏侯惇:孟徳(もうとく)、袁紹(えんしょう)の奴が俺に恋文(こいぶみ)をよこして来おったぞ。

    夏侯惇(かこうとん)将軍をぜひとも我が軍にお招きしたい、だそうだ。


曹操:天下の将と軍師を躍起(やっき)になって招聘(しょうへい)しているのは知っていたが、

   ついにお前にも来たか。

   夏侯淵(かこうえん)や曹洪(そうこう)、許(きょ)チョにもすでに来ているぞ。


夏侯惇:チッ、袁紹(えんしょう)め、無節操(むせっそう)極(きわ)まりないことこの上ない…。

    ? いま、曹仁(そうじん)の名が無かったようだが?


曹操:来ておらんそうだ。

   理由は分からん。


夏侯惇:…まぁ、まだまだ粗削(あらけず)りな部分は確かにあるがな。

    それにしても、反董卓連合軍(はんとうたくれんごうぐん)に従軍(じゅうぐん)以来、孟徳(もうとく)の手足となって

    幾多(いくた)の修羅場(しゅらば)をくぐりぬけてきた我らだぞ。

    今さら一枚の紙きれで寝返るとでも思っているのか。

    袁紹(えんしょう)も片目の俺以上に目が見えん奴だ。


曹操:ははは、お前にそうまで言われては、袁紹(えんしょう)もかたなしだな。


夏侯惇:ふん、戯(ざ)れ言(ごと)が過ぎた。

    それで孟徳(もうとく)、袁紹(えんしょう)も今度ばかりは我らと雌雄(しゆう)を決するつもりだろ

    う。

    どう戦うつもりだ?


曹操:我が方は袁紹(えんしょう)に比べて兵も少なく、兵糧物資(ひょうろうぶっし)も足らん。

   唯一勝(ゆいいつまさ)っている点は、機動力と知略(ちりゃく)だ。

   それらを縦横(じゅうおう)に駆使(くし)し、まずは局地戦(きょくちせん)で勝利を重ねていかねばなら

   ん。


夏侯惇:確かにな。

    まともにぶつかっては、こちらに勝ち目は無い。


曹操:それと、袁紹(えんしょう)軍内部には派閥(はばつ)がある。

   沮授(そじゅ)と田豊(でんぽう)を中心とする一派と、審配(しんぱい)や逢紀(ほうき)がまとめている派閥(はばつ)が

   な。


夏侯惇:ああ、聞いた事がある。

    かなり仲は悪いそうだな。


曹操:うむ、袁紹(えんしょう)はあえて派閥(はばつ)同士を競わせて軍をまとめているようだが

   …。


夏侯惇:…統率し切れているのか?


曹操:普段ならばそれで十分回る。

   だが今は乱世(らんせ)、非常の時だ。

   彼奴(きゃつ)の優柔不断な性格からして、じきに制御しきれなくなってくる

   だろう。

   そこにつけ込めば、内部崩壊も狙える。


夏侯惇:相変わらず恐ろしい所へ目をつけるわ。

    だが孟徳(もうとく)、お前にとってはそれが当たり前なのだろうな。

    今や才ある者が多くお前の下(もと)に集まってきている。

    才能に乏(とぼ)しい俺では、物足りんのではないか?


曹操:才能に乏(とぼ)しい?

   バカなことを言うな、元譲(げんじょう)。

   知らんと思っているのか?

   お前が余(よ)と仲の悪い家臣との間を取り持っている事を。

   それに領国経営(りょうごくけいえい)も見るべきものがある。

   立派な才能があるではないか。


夏侯惇:さて、何のことだ?


曹操:ははは、こやつめ…。


夏侯惇:さて、そろそろ許昌(きょしょう)へ引き上げましょう、我が君。

    我が軍の軍師どもが、首を長くして帰りを待っている頃です。


曹操:…そうだな。

   郭嘉(かくか)など、「この一刻を争う事態にどちらへ赴(おもむ)かれていたのですか

   !」などと言いそうだ。


夏侯惇:ははは、確かに。

    あのそり返った姿勢が目に浮かびますな。


曹操:よしッ、帰るぞ!

   はあッ!!


ナレ:いっぽう、袁紹(えんしょう)は家臣の陳琳(ちんりん)に命じて宣戦布告の檄文(げきぶん)を書かせると

   、居並(いなら)ぶ配下の諸将に対し声高らかに出兵を宣言していた。


袁紹:長年続いた曹操(そうそう)との因縁(いんねん)に、この戦(いくさ)をもって終止符を打つ!!

   陳琳(ちんりん)、檄文(げきぶん)の文面には曹操(そうそう)の許すべからざる罪(つみ)十ヶ条を書き連(つら)ねよ!

   各将は精鋭兵馬(せいえいへいば)を率い、白馬(はくば)の戦場へ集結するのだ!


顔良:我が君! このたびの戦いは曹操(そうそう)との雌雄(しゆう)を決する大きなものと

   心得ます!

   先鋒(せんぽう)はぜひ、この顔良(がんりょう)にお命じ下され!!


袁紹:よくぞ申した!

   先鋒(せんぽう)の大将は顔良(がんりょう)とし、副将に淳于瓊(じゅんうけい)と郭図(かくと)を付ける!

   進軍先の白馬(はくば)・東郡(とうぐん)は劉延(りゅうえん)が守っていると聞く。

   速(すみ)やかに白馬(はくば)の城を攻め落とし、黄河(こうが)を渡河(とか)するのだ!


顔良:お任せあれ!


袁紹:皆の働き、期待しているぞ!

   名族たる我が袁家(えんけ)の名に恥じぬよう、堂々と戦うのだ!!


袁紹・ナレ以外全員:おうッ!!【SE代用可】


ナレ:続々と大軍が白馬(はくば)の地に集まりつつあった。

   それと同時に許昌(きょしょう)の曹操(そうそう)の元にも、袁紹(えんしょう)出兵(しゅっぺい)を告げる早馬(はやうま)が駆け込

   んでいた。

   陳琳(ちんりん)の書いた宣戦布告の檄文(げきぶん)も共に。


張遼:司空(しくう)閣下、ついに袁紹(えんしょう)がみずから兵をあげたとか!

   ? 皆さま、いかがなされた?


荀攸:【声を抑えて】

   しーーッ! 張遼(ちょうりょう)殿、静かに!


郭嘉:【声を抑えて】

   うう、こ、これは…なんという過激な文章であろうか…!


荀攸:【声を抑えて】

   い、いや、過激などという言葉では片づけられません。

   これほどのもの…今まで私は見たことがない…!


郭嘉:【声を抑えて】

   確かに凄まじいばかりだ…が、同時に溢(あふ)れる才能も感じさせる…。


荀攸:【声を抑えて】

   だが…、これは司空(しくう)閣下といえど激怒なさるだろう…。

   書いた者の命は無いでしょうな。


郭嘉:【声を抑えて】

   確かに…司空(しくう)閣下の半生(はんせい)のみならず、閣下のお父君(ちちぎみ)やご祖父君(そふぎみ)まで

   をも愚弄(ぐろう)している…!


曹操:~~~~ッッッ!!!

   この檄文(げきぶん)を記した者を、余(よ)の前に連れてこいッッ!!!


張遼:え、袁紹(えんしょう)をでございますか!?


曹操:否(いな)、そうではないッ!

   この檄文(げきぶん)を読んでわからんのか!

   美しき文言(もんごん)の配列と、それを声に出して読む際に奏(かな)でられる韻律(いんりつ)、

   音調!

   そして余(よ)をこれ以上なく徹底的に批判する苛烈(かれつ)な文章、

   その間に洒脱(しゃだつ)さを潜ませながらも、文章そのものの品格は少しも

   貶(おとし)められておらん!

   お前たちもよく覚えておけ。

   人間は言葉を学ぶ事は出来ても、深く理解しない者には決して使い

   こなせんし、本当の意味で身に着かぬものなのだ!


張遼:は、はぁ…。


曹操:これほどの見事な文、よもや袁紹(えんしょう)などの言葉ではあるまい。

   この檄文(げきぶん)を書いた者はいったい誰か。


郭嘉:は、はっ。

   袁紹(えんしょう)の家臣、陳琳(ちんりん)と申す者です。


曹操:そうか…!


   ……うむ。


荀攸:(!これは…陳琳(ちんりん)とやらの命運(めいうん)、決まったな…。)


郭嘉:ッそうだ張遼(ちょうりょう)殿、袁紹(えんしょう)軍が動き出したのだったな!


張遼:はッ、すでに白馬(はくば)の地を目指して大軍が集結しつつある模様(もよう)

   です!

   その数、およそ十万!


曹操:ついに来たるべき時がきたか。

   急ぎ兵を集めよ!


荀攸:ははっ、直ちに!


関羽:司空(しくう)殿、失礼いたす。


曹操:おお、関羽(かんう)ではないか。

   いかがした?


関羽:日頃(ひごろ)のご恩に報(むく)いる為にも、それがしも此度(こたび)の大戦に先鋒(せんぽう)の一人と

   して加えていただきとう存じます。


曹操:なに、そちが加わってくれると申すか…!

   ! い、いやいや何の、この程度の戦(いくさ)にそちの手を煩(わずら)わせる事もあ

   るまい。


関羽:しかし、袁紹(えんしょう)みずからの出兵とあっては…。


曹操:はっはっは、袁紹(えんしょう)のごとき、どうせ肝心(かんじん)な局面(きょくめん)で持ち前の優柔不断(ゆうじゅうふだん)

   を発揮(はっき)するに決まっておる!

   そちにはまたの機会に働いてもらおう。

   そう、もっと重大な戦(いくさ)の時にでもな!


関羽:は…承知つかまつった…。

   では、これにて。


曹操:うむ。


   【二拍】


   いかんいかん、危うく従軍(じゅうぐん)の許可を出すところであったわ…。

   関羽(かんう)には、余(よ)の手元に少しでも長くいてもらいたいからな…。


張遼:(…まるで恋する乙女(おとめ)のごときなさり方だ…。これほどまでな寵愛(ちょうあい)

   を受けられるとは、うらやましいものよ…。)

   では、司空(しくう)閣下!


曹操:よし、出陣だ!

   時代遅れの遺物(いぶつ)に、我が軍の革新(かくしん)の息吹(いぶき)を見せてやれィ!


曹操・ナレ以外全員:おうッッ!!【SE代用可】



―――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:曹操(そうそう)は即座に主力を集め、決戦の場へとおもむく。

   その頃すでに河北(かほく)の二枚看板として名を馳(は)せている袁紹(えんしょう)軍の先鋒(せんぽう)、

   猛将顔良(もうしょうがんりょう)率いる十万の精鋭が深く攻め込んで来ていた。


顔良:はっはァ! なんだこの軽い手ごたえは!

   曹操(そうそう)の兵は軟弱(なんじゃく)で相手にならぬわ!!

   進め進めェ!!


顔良・劉備役以外:【喚声…SE代用可】


劉備:袁紹(えんしょう)殿、敵の先鋒(せんぽう)軍はすでに黎陽(れいよう)まで進軍しているとか。

   顔良(がんりょう)殿の勇猛(ゆうもう)は大いに用いるべきですが、いささか思慮(しりょ)に欠ける面

   があります。

   あまり深入りさせてならぬかと。


袁紹:いやいや、こんなにも鮮やかに勝っているのだ。

   あの獅子奮迅(ししふんじん)の働きを見せている顔良(がんりょう)に退(ひ)けと言うのか。


劉備:いえ、退(ひ)けと申しているのではありませぬ。

   深入りしすぎてはならぬと…


袁紹:むむ、ならば劉備(りゅうび)殿に一軍を与えるゆえ、顔良(がんりょう)の後方支援として

   向かってくれ。


劉備:は…承知しました。


   【二拍】


   【つぶやくように】

   (たしかに、今は勢いに乗るべきかもしれぬ。もしもの時は袁紹(えんしょう)殿

   の命令だとして止めれば良いか…。

   だがなんだ、この不安と期待の入り混じった感情は…。)


袁紹:はっはっは、愉快愉快!

   顔良(がんりょう)よ、このまま敵を蹴散(けち)らしつつ許昌(きょしょう)まで一気に突き進めィ!


ナレ:劉備(りゅうび)を顔良(がんりょう)の後方にすえ、袁紹(えんしょう)軍は手を緩(ゆる)めることなく進撃してい

   く。

   一方、曹操(そうそう)も白馬(はくば)にほど近い地点まで進軍を終えていた。


曹操:むう…思った以上に敵本隊(てきほんたい)の進軍速度が速い。

   このままでは顔良(がんりょう)の先鋒(えんぽう)部隊と合流してしまうぞ。


郭嘉:顔良(がんりょう)の背後に袁紹(えんしょう)が控(ひか)える形になると、打ち破るには多大な犠牲を

   伴(ともな)います。


荀攸:ここはなんとしても、顔良(がんりょう)を叩いてしまわねばなりません。


曹操:うむ…荀攸(じゅんゆう)、何か良き策はあるか?


荀攸:はっ、まずは于禁(うきん)殿、楽進(がくしん)殿のお二人に兵を与えて袁紹(えんしょう)軍本隊の

   側面に展開、その動きを牽制(けんせい)させるのです。


郭嘉:なるほど、進軍速度を遅らせるわけですな。

   それで少しでも時間を稼ぐと。


荀攸:そうです、郭嘉(かくか)殿。

   その間に白馬(はくば)城の味方を救援するのです。

   できれば顔良(がんりょう)も討ちとれれば良いのですが…。


曹操:そこまでできれば最上(さいじょう)の結果だがな。

   まあよい、まずは一刻も早く敵本隊(てきほんたい)の牽制(けんせい)だ。

   于禁(うきん)! 楽進(がくしん)!

   袁紹(えんしょう)軍本隊の側面を突く様子を見せ、進軍速度を少しでも鈍(にぶ)らせる

   のだ!

   間違っても決戦は仕掛けてはならん。

   その間に我が軍本隊は白馬(はくば)城を救援、顔良(がんりょう)を倒す!

   よいな!!


曹操・ナレ以外全員:おうッ!!【SE代用可】


ナレ:曹操(そうそう)は荀攸(じゅんいく)の献策(けんさく)を用いて軍を二つに分けると、自身は急いで

   白馬(はくば)の地へ入ると西の山に沿(そ)って布陣、みずから指揮にあたった。

   だがそこで彼が目にしたものは、敵将顔良(てきしょうがんりょう)の凄まじいばかりの猛勇(もうゆう)

   ぶりだった。


顔良:はッはァ!! そらそらァ!!


曹操軍兵士1:ひいぃ、助けてくれえ!


顔良:もっと歯ごたえのある奴はおらんのか! でぇいりゃぁ!


曹操軍兵士2:だ、ダメだ、かなうわけねえ!


顔良:曹操(そうそう)ォ、出てこォい!!

   我が得物(えもの)のサビにしてくれるわァ!!


曹操:ぬうう、これほどとはな…!

   ええい、彼奴(きゃつ)一人に何たるザマか!!

   このままでは総崩(そうくず)れだ!

   宋憲(そうけん)、宋憲(そうけん)はおるか!


宋憲:はっ、宋憲(そうけん)はこれに!


曹操:そちは以前、呂布(りょふ)に仕えていた猛将、八健将(はちけんしょう)の一人であったな!

   見よ、彼奴(きゃつ)が河北(かほく)第一の武勇を誇る顔良(がんりょう)だ!

   戦場を我がもの顔に暴れ回っておるのが見えるであろう!


宋憲:はっ、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)なふるまい、しかと見えております!


曹操:そちの武勇で顔良(がんりょう)をみごと討って参れ!


宋憲:おお、それがしにお命じ下さいますか! 喜んで!

   はあッ!


   【二拍】


   待てィ、顔良(がんりょう)!!


顔良:あぁ何だ!? 雑魚(ざこ)は引っ込んでいろォ!!


宋憲:もと呂布(りょふ)配下・八健将(はちけんしょう)の宋憲(そうけん)と聞いても雑魚(ざこ)呼ばわりできるか!


顔良:ほお、あの呂布(りょふ)のか!

   いいだろう、来いッ!


宋憲:この刃、みごと受けられるか!

   うおおおお!


顔良:はッ、ごたくを並べてる暇があったら、死ねェェェィイ!!

   

宋憲:ぐげぇぁッ!!!


顔良:はっはァ! 何が八健将(はちけんしょう)だ!

   一合(いちごう)も交(まじ)えること無く斬られていては、世話ないわ!


張遼:な、何だと…宋憲(そうけん)殿がたった一撃で…!


曹操:ぬううぅぅおのれェ、なんという武勇だ…!!


魏続:司空(しくう)閣下! 宋憲(そうけん)はそれがしの友でございました。

   それがしに仇(かたき)を討たせて下され!


曹操:おお、魏続(ぎぞく)か!

   よしッ、行けィ!!


魏続:ははっ、必ずや顔良(がんりょう)の首を御前(ごぜん)に!

   はあっ!


   【二拍】


   止まれィ、顔良(がんりょう)!

   次はこの魏続(ぎぞく)が相手だ!

   同じ八健将(はちけんしょう)の我が友、宋憲(そうけん)の仇(かたき)を討たせてもらうぞ!


顔良:ふん、雑魚(ざこ)がァ!

   また八健将(はちけんしょう)とやらか!

   あの程度の腕で選ばれるとは、呂布(りょふ)の目もたかが知れてるなァ!


魏続:おのれ言わせておけばァ!!

   でぃやぁッ!!


顔良:ほぉ、少しはできるな!

   ぬぅんッ!


魏続:ッぐぅ! お、重い…!

   ええいまだまだァ!


顔良:どうした、さっきまでの威勢はァ!

   そらそらそらァ!!


魏続:ううっ、ぐッ、こ、これは…!

   せ、せいぃッ!


顔良:なんだその槍さばきは!

   駄目だ駄目だ! 話にならん!

   おらあぁぁッッ!!


魏続:うぐはぁあッ!!!


曹操:バカな…魏続(ぎぞく)までああも簡単に…!!


張遼:むうう、何という武勇…!

   一度、矛(ほこ)を交(まじ)えてみたいが…!

   ッ、徐晃(じょこう)殿!?


徐晃:ここはそれがしが参る!

   はッ!


張遼:先を越されたか…だが、徐晃(じょこう)殿ならば…!


顔良:はっはァ! 曹操(そうそう)軍の将はこの程度の奴しかおらんのか!

   軟弱雑魚(なんじゃくざこ)にもほどがあるぞ!


徐晃:待てッ顔良(がんりょう)!

   今の言葉、聞き捨てならん!

   次はこの徐晃(じょこう)が相手だ!


顔良:ふん、次から次へとォ!

   貴様ごとき若造(わかぞう)に、この俺が討てると思っているのか!


徐晃:若造(わかぞう)と侮(あなど)ったのを後悔させてくれる!

   我が斧のサビになれ!

   おおおおッ!


顔良:ッほぉ! なかなか重いな!

   さっきの雑魚(ざこ)共と多少は違うか!

   この顔良(がんりょう)の前に立つ資格はあるようだな!


徐晃:言ったはずだ! 侮(あなど)るなと!

   はああッ!


顔良:ッ! だが、まだまだ甘い!

   少し本気を出してやろう!

   ぬぅぅおおおおッッ!!!


徐晃:ッぐぐ、急に重さが増した!?

   だがッ! まだだァああ!!


顔良:はッ、血気(けっき)にまかせて来るか!

   扱いやすいわ!

   ぬぅうんッ!!


徐晃:っぐぬぅ!

   い、いなされただと…!?

   力押しだけではないのか…!


ナレ:両雄は火花を散らして打ち合った。

   五十、七十合と得物(えもの)が砕けんばかりに激闘を繰り広げていたが、

   勝負のつく様子は見えない。

   しかし、顔良(がんりょう)は戦えば戦うほど勢いを増し、反対に徐晃(じょこう)は次第に

   疲れていった。


顔良:はっはァ! どうした、動きがだんだん鈍(にぶ)くなってきたぞ!


徐晃:ぐっ、ぐぐっ!

   こ、こいつ、化け物か!?

   まったく疲れる様子がないぞ…!


顔良:さあ遊びはそろそろ終わりだ!

   そらそらそらァッッ!!!


徐晃:ぐっ、ぐぅぅぅッッッ!!!

   く、くそっ、なんという猛勇(もうゆう)と粘(ねば)りだ…!!

   後日再戦(ごじつさいせん)!

   ッッッ!!


顔良:!ッとォ! どうした! ご自慢の大斧(おおおの)を投げ捨てて逃げるか!

   笑ってやるぞ、はっはははは!!! 

   よォし、全軍突撃だ!

   曹操(そうそう)を逃がすなァ!!


張遼:ッいかん、敵の総攻撃だ!

   我が君、ここは撤退(てったい)を!

   しんがりはそれがしが務(つと)めます!


曹操:お、おのれ…徐晃(じょこう)をも退(しりぞ)けるとはなんという奴だ…!

   頼むぞ、張遼(ちょうりょう)!

   全軍、退却せよ!


ナレ:顔良(がんりょう)の駆け抜けるところ、人も草木(くさき)もみな血に染まった。

   さすがの曹操(そうそう)軍の将兵も恐怖にかられ、総崩(そうくず)れとなってしまう。

   曹操(そうそう)自身はかろうじて難を逃れたが、魏続(ぎぞく)、宋憲(そうけん)の二大将(にだいしょう)以下、

   おびただしい損害と不名誉(ふめいよ)をこうむり、顔良(がんりょう)一人の名を上げる結果

   となってしまった。


曹操:く…兵どもはすっかり怯(おび)えている。

   今日のような調子でやってこられては、戦う以前の問題になりかね

   んぞ。


徐晃:司空(しくう)閣下、申し訳ありませぬ…。


曹操:良い、そちが無事であったことがせめてもの慰(なぐさ)めだ。


徐晃:は、ははぁっ、この雪辱(せつじょく)は必ずや…!


曹操:さて、どうしたものか…。


張遼:司空(しくう)閣下、顔良(がんりょう)と互角に戦えるのは関羽(かんう)殿しかおりますまい。

   ここにお呼びになられては…。


曹操:それは考えていないわけではなかった。…だが、しかし…。


張遼:日頃、司空(しくう)閣下が関羽(かんう)殿にご恩をお掛け遊ばすのは、このような時

   の為ではございませぬか?


曹操:うむ…。


張遼:関羽(かんう)殿が顔良(がんりょう)を討ったならば、前にもましてご恩をお掛け遊ばせば

   良いではありませぬか。

   仮に関羽(かんう)殿が負けるような事があれば、それこそ思い切りがつくと

   いうものです。


曹操:なるほど、そこまで惚(ほ)れ込む人物ではないということか。

   よし、わかった!

   関羽(かんう)をこれへ呼べ!


張遼:ははっ、直(ただ)ちに早馬(はやうま)を出します!


曹操:顔良(がんりょう)めは今日の勝利に味をしめて、必ず明日も突撃して来よう。

   しっかり守りを固めるのだ!


曹操・ナレ役以外:おうッッ!!【SE代用可】



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ナレ:曹操(そうそう)は決心すると、ただちに関羽(かんう)を白馬(はくば)の戦地へ呼び寄せる。

   使者を迎えた関羽(かんう)は時節到来(じせつとうらい)と喜び、すぐに赤兎馬(せきとば)を駆(か)って馳(は)せ参

   じた。


張遼:!あれは…関羽(かんう)殿か!

   これで戦局が変わるだろうか…。


関羽:さすがは赤兎馬(せきとば)、何という速さだ!

   そこら辺の馬とは比べ物にならん…!


   どぉうっ!

   張遼(ちょうりょう)殿、久しぶりでござる。


張遼:関羽(かんう)殿、よく来て下さった。

   すぐに司空(しくう)閣下へお知らせするゆえ、しばし待たれよ。


   【二拍】


   申し上げます、司空(しくう)閣下!

   関羽(かんう)殿がただいま着陣(ちゃくじん)いたしました!


曹操:おお、来たか!

   よし、迎えに出よう。


徐晃:!し、司空(しくう)閣下みずから出迎えに…!

   なんという破格の待遇(たいぐう)…。


曹操:関羽(かんう)、待っていたぞ!


関羽:これは司空(しくう)殿。

   わざわざこのような所まで出迎えられずとも…。


曹操:ははは、気にするな。


関羽:お召(め)しの使いをうけたので、さっそくこの赤兎馬(せきとば)の俊足(しゅんそく)を試してき

   ました。


曹操:うむ、来てもらったのは他(ほか)でもない。

   袁紹(えんしょう)軍にしてやられてな。

   敵先鋒(てきせんぽう)の大将、顔良(がんりょう)に散々な目にあっているのだ。

   さあ、まずは共に来て戦況を見てほしい。


関羽:はっ。  


   【三拍】


   おお、ここからなら双方の動きがよく見えますな。


曹操:うむ。

   我が方が烏雲(ううん)の陣、袁紹(えんしょう)軍は正攻法(せいこうほう)の魚鱗(ぎょりん)の陣をしいている。

   さすがは天下にもっとも近いと言われている強国(きょうこく)だ。

   装備も兵の質も段違いに優れている。


関羽:司空(しくう)殿の目にはそう映りますか。

   それがしの眼には、墓に並べて埋葬(まいそう)する犬や鶏の泥人形(どろにんぎょう)にしか見え

   ませぬ。


曹操:いやいや、敵軍の士気の高さはこちらの比ではない。

   人が虎、馬がまるで龍の如(ごと)くだ。加えて敵軍の大将旗(たいしょうき)の鮮やかさが

   見えるであろう。


関羽:はっはは、あのような虚勢(きょせい)に向かって金の弓矢をつがえて放つのは、

   むしろもったいないほどですな。


曹操:そして…あれを見るがよい。

   あの大将旗(たいしょうき)の下に馬を休めて我が方を睨(にら)みまわしている者こそ、

   いま我が軍をもっとも悩ましている猛将、顔良(がんりょう)だ。

   まさに万夫不当(ばんぷふとう)と呼ぶにふさわしいではないか。


関羽:そうでしょうか。

   顔良(がんりょう)は背中に札を立てて、自分の首を売り物にしているように見え

   ますな。


曹操:関羽(かんう)よ、今日のそちはちと大言壮語(たいげんそうご)が過ぎはしまいか?

   いつもの謙虚(けんきょ)な様子とはだいぶ違うようだが。


関羽:そのはずです。ここは戦場ですからな。


曹操:それにしても、あまりに敵を軽(かろ)んじ過ぎてはおらぬか?   


関羽:否(いな)。

   決して大言(たいげん)を吐いているわけではないことを、今すぐお目にかけま

   しょう。


曹操:! 顔良(がんりょう)を討ち取ってくる、というのか!?


関羽:陣中(じんちゅう)に戯言(ざれごと)なし、です。

   では。

   はあッ!!


ナレ:言うや否(いな)や、関羽(かんう)は赤兎馬(せきとば)を駆り、青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を引っさげて山道(やまみち)を

   下った。

   希代(きだい)の名駿(めいしゅん)は呂布(りょふ)以来の乗り手を得て一際(ひときわ)大きく嘶(いなな)く。

   赤い突風が駆け抜けるかのような勢いそのままに、関羽(かんう)は敵兵を

   左右に薙(な)ぎ始めていた。


関羽:退(の)けィ、雑魚(ざこ)共!!

   関羽雲長(かんううんちょう)の道行(みちゆ)きを阻(はば)んで命を無駄(むだ)に捨てるなッッ!!


顔良:なんだ? 味方が急に浮足立(うきあしだ)った…!?

   何が起きている!!


関羽:顔良(がんりょう)! 顔良(がんりょう)はどこだ!

   この関雲長(かんうんちょう)の前に恐れをなしたか!!


顔良:何ィ、劉備(りゅうび)の義弟(おとうと)、関羽(かんう)だとォ!?

   はっはァ! おもしろい!

   相手になってやるぞォ、はあッッ!!


関羽:いたな……一撃で決めてくれよう…!

   汝(なんじ)が顔良(がんりょう)かッ!!!


顔良:はっはァ! そうだ!

   聞きしに勝る赤(あか)ら顔(がお)だな!!

   …一撃で決まるな、こいつァ…!


関羽:覚悟ォォォォォォォォ!!!!!


顔良:でぇぇぇぇええええいいい!!!!


【金属が断ち割られるようなSEあれば】


ナレ:勝負は刹那(せつな)の一瞬だった。

   紅い電(いなずま)の如(ごと)く駆けてきた赤兎馬(せきとば)、馬上から振り下ろした関羽(かんう)の青龍(せいりゅう)

   偃月刀(えんげつとう)。

   異様な圧力、速さをまとったそれは、迎え撃(う)とうとした顔良(がんりょう)よりも

   先にその頭上に落ちた。

   凄まじい金属音と共に兜(かぶと)も鎧も真(ま)っ二(ぷた)つに断(た)ち割られ、顔良(がんりょう)の骸(むくろ)

   は地上へ叩きつけられる。

   その光景は、山の上から戦況を見守っていた曹操(そうそう)にも見えていた。


曹操:おお…あの顔良(がんりょう)が、ただの一撃で関羽(かんう)に討ち取られたぞ!

   見ろ、敵は動揺しておる! この機(き)を外(はず)すな!

   張遼(ちょうりょう)! 追撃の指揮はそちに任す!


張遼:はッ!

   全軍、敵を掃討(そうとう)するぞ! それがしも出る!

   はあっ!


   【二拍】



   !おお、関羽(かんう)殿!


関羽:む、張遼(ちょうりょう)殿か。


張遼:見事な武勇でござる。それがしも負けてはおれぬ。

   では!


   【二拍】


   これよりこの張遼(ちょうりょう)が指揮をとる!

   敵のことごとくを黄河(こうが)に追い込んで討ち落とせィ!!


張遼&荀攸役以外全員:おおーーッッ!!!【SE代用可】


荀攸:うむむ…さすがは張遼(ちょうりょう)殿だ。


郭嘉:関羽(かんう)は一個の武を見せつけましたが、張遼(ちょうりょう)殿は集団の、

   軍の武を示しておられる!


荀攸:あの呂布(りょふ)のもとで騎兵を率いていただけはありますな!


郭嘉:今や無くてはならぬ、我が軍の武の要(かなめ)と申せましょう!


曹操:うむ! 郭嘉(かくか)の申す通りよ!


張遼:さあ弓隊! 前へ出ろ!!

   ある限りの矢を放ち、この白馬(はくば)の渡(わた)しを屍(しかばね)で埋めつくせィ!

   放てェーーーーーッッ!!


【弓を大量に射るSEあれば】


劉備:い、いかん!

   曹操(そうそう)軍の追撃か!


張遼:さあ射よ! もっと射よッ! 一兵たりとて逃がすなッ!!


【弓を大量に射るSEあれば】


   【大きく息をつく】

   あの呂布(りょふ)軍の騎馬隊を率いてきたこの張遼(ちょうりょう)が、

   今日初めて率いるこの軍の戦いぶりに酔うとはな…

   武人としての性(さが)…心も奮(ふる)い立とうというものだ。


劉備:顔良(がんりょう)殿が討たれては軍を維持(いじ)できん!

   退(ひ)け! 袁紹(えんしょう)殿の本隊へ合流するのだ!


ナレ:顔良(がんりょう)軍の後方にいた劉備(りゅうび)は、急いで部隊をまとめて撤退(てったい)する。

   しかし、逃げ遅れた兵達はすべて黄河(こうが)の畔(ほとり)で矢の雨に倒れる。

   流れる血で河は紅く染まり、数多(あまた)の死骸は袁紹(えんしょう)軍の船の渡河(とか)を

   阻(はば)む。

   その頃、関羽(かんう)は顔良(がんりょう)の首を引っさげ、曹操(そうそう)の元へと戻っていた。


関羽:司空(しくう)殿、ただ今戻りました。

   …顔良(がんりょう)の首でござる。


曹操:うむ!! 関羽(かんう)よ、見事だ!

   あの顔良(がんりょう)をただの一撃で…そちの武勇はまさに、神威(しんい)というべきも

   のだ!


関羽:いや、それがしの義弟張飛(おとうとちょうひ)ならば、大軍の中へ突撃して敵将の首を

   取ってくる事など、木に登って桃を取るより易(やさ)しいことでしょう。

   顔良(がんりょう)の首など、袋の中の物を取り出すようなものです。


曹操:むう、そ、そうか。


   お前達もよく覚えておけ。張飛(ちょうひ)という名を帯(おび)の端(はし)、襟(えり)の裏にでも

   書いておいて、もし出会った時は軽々しく戦わぬことだ。

   よいな。


ナレ:曹操(そうそう)は半分冗談混じりに左右の者に忠告した。

   しかし後年、実際に張飛(ちょうひ)の凄まじさを目(ま)の当たりにすることになる

   とは、さすがの彼でも予想はできなかった。

   顔良(がんりょう)を撃破後、曹操(そうそう)軍は当初の作戦通りに白馬(はくば)から撤退、延津(えんしん)へ陣

   を移し、引き続き局地戦(きょくちせん)を袁紹(えんしょう)軍に強(し)いていく。

   兵数に劣(おと)り、物資は足らず、人材の質のみわずかに袁紹(えんしょう)を上回る

   曹操(そうそう)。

   彼が勝つ為には、奇策戦略(きさくせんりゃく)を縦横(じゅうおう)に駆使(くし)するほかなかったのである

   。



三国志演義・延津の戦い~河北双星落【後編】~へ続く



袁紹軍の看板をしょって立つほどの猛将なのに、なぜか文醜と同様、字が伝わっていない不思議。

そんな顔良の見せ場にして最期の戦場となる白馬の戦いを書きました。

本当は延津の戦いと一本にしようかとも思いましたが、文醜とは分けて書こうと考えたのであえて前後編に分けました。


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