三国志演義・白馬の戦い~河北双星落【前編】~
はじめに:この一連の三国志台本は、故・横山光輝先生、吉川英治先生の著作した
三国志に、蒼天航路、北方健三先生の三国志や各種ゲーム等に、作者の
想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是非演じて
みていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
三国志演義・白馬の戦い~河北双星落【前編】~
作者:霧夜シオン
所要時間:約35分
必要演者数:9人(8:1)
(9:0)
※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。
はじめに:この一連の三国志台本は、故・横山光輝先生、吉川英治先生の著作した
三国志に、蒼天航路、北方健三先生の三国志や各種ゲーム等に、作者の
想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是非演じて
みていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、決してお金の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
●登場人物
関羽・♂:字は雲長。
劉備、張飛と義兄弟の契りを結び、乱世を正そうと立ち上がる。
現在は曹操に敗れ、3つの条件を呑んでもらう事で彼の元に留まってい
る。智勇に優れ、重さ八十二斤の青龍偃月刀を自在に操る。
腹まで垂れる立派な顎髭を持ち、時の皇帝の献帝に拝謁した際に美髯公
とあだ名される。
曹操・♂:字は孟徳。
漢王朝の宰相、曹参の末裔を称する。現王朝の司空の位について、自ら
の理想とする世を築くべく、皇帝をも大義名分として利用する。人材収
集癖があり、有能な人材を愛する事、女性を愛するかの如くである。
現在は敵である劉備の義弟、関羽に惚れ込んで自分の手元に置いている
。政治、軍事、文化全ての分野に名を残す”破格の英雄”。
劉備・♂:字は玄徳。
中山靖王・劉勝の末孫にして漢の景帝の玄孫を自称。
治めていた徐州の地を曹操に追われ、河北の雄・袁紹の元に家族や
義兄弟、家臣たちの身を案じながらも身を寄せている。
袁紹・♂:字は本初。
漢王朝の最高の役職である三公(大尉、司徒、司空)を一族から代々輩
出している、名門中の名門の末裔。
優柔不断な所もあるが、基本的には優れた人物である。
現在は河北(青州、幽州、冀州、ヘイ州)を手中に収めており、
最も天下に近いと言われる存在。
顔良・♂:字は伝わっていない。
袁紹配下の猛将で、文醜と並んで河北の武の双璧をなしている。
曹操軍配下の猛将達を多数討ち取り、あるいは敗走させるも、突如とし
て戦場に現れた関羽によって一撃のもとに斬り殺されてしまう。
徐晃・♂:字は公明。
元は曹操と敵対する勢力の配下の勇将だったが、同郷の者である満寵と
いう人物に説得され、曹操に帰順する。
大斧を操り、智勇に優れている人物。
夏侯惇・♂:字は元譲。
曹操の腹心にして、最も信頼されている隻眼の猛将。
二人きりの時は互いに遠慮のない物言いをする。
旗揚げ当時からつき従い、数々の戦いに参加し、功績を重ねていく。
張遼・♂:字は文遠。
丁原、董卓、呂布と次々と自らの意思とは裏腹に主を変えざるを得なか
ったが、ついに生涯の主君である曹操と出会い、忠誠を誓う。関羽とも
親交があり、徐州陥落の際の関羽の降伏に一役買っている。
後に合肥を守り、呉の大軍をわずか八百の兵で退け、泣く子も黙るとし
て大いにその勇名を馳せる。
荀攸・♂:字は公達。
曹操に仕えている荀彧の甥で謀略に優れ、軍師として活躍。
人柄を曹操に絶賛されるほど終始良好な関係だったという。
軍の機密を厳守し、その生涯で献策した奇策は12あるとされ
るが、本人は決して語る事はなく、後に編纂しようとした人物
も半ばで死去。その為ほとんどが後世に伝わらなかった。
郭嘉:字は奉考。
野に隠れていた賢人だが曹操に魅力を感じ、彼に仕える。
その洞察力、献策は非常に的確で、後年、赤壁で大敗北を喫した際に曹操は
、彼がもし生きていたらと大いに悔やんだという。
魏続・♂:字は伝わっていない。
もと呂布配下の将で縁戚関係にあったことから呂布に重用されるも、裏
切って曹操に仕える。正史では以降の出番は無いが、演義ではこの白馬
・延津において顔良に斬られている。
ちなみに横山光輝先生の三国志コミックスでは、登場からわずか14コ
マ、3回打ち合っただけで討死にという不名誉な役回りを与えられてい
る。
宋憲・♂:字は伝わっていない。
魏続と同じくもと呂布配下だったが、共に裏切って曹操に仕える。彼も
以降は正史に登場しないが、演義では顔良に挑み、名乗りを上げる→打
ちかかる→一撃で斬られるという、魏続よりも不遇な扱いを受ける。
登場からわずか10コマの間の出来事であり、顔良と対峙してからは3
コマという短さであるため、ネタにもされている。
ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。
曹操軍兵士1・♂♀不問:顔良に蹴散らされる役その1。1セリフのみ。
曹操軍兵士2・♂♀不問:上記その2。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。
※キャスト割り振り例
関羽:
曹操:
顔良:
張遼:
劉備・荀攸・曹操軍兵士1:
袁紹・郭嘉・曹操軍兵士2:
徐晃・宋憲:
夏侯惇・魏続:
ナレ:
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:曹操に徐州を大軍で攻められた劉備は、袁紹の元へ落ちのびて保護
される。
下ヒを守っていた義弟の関羽は、
曹操ではなく漢王朝に降伏すること、
劉備の家族を手厚く保護すること、
劉備の居所が分かり次第いつでも立ち去って良いこと、
この3ヶ条を条件として出す。
快く受けた曹操は関羽を都へ連れ帰り、毎日のように宴を開き、
財宝や美人を送って彼の歓心を得ようとするが、関羽の心がなびく
事はなかった。
一方の河北、冀州の城も、いつしか春を迎える。
そんなある日。
劉備:我が妻や子、二人の義弟は無事に落ちのびただろうか…。
雲長…翼徳…家臣の皆…、いずこにあるか…?
袁紹:やあ劉備殿、空を眺めてどうなされた?
劉備:! これは袁紹殿。
家族や義弟たちの行方も知れぬというのに、こうして自分だけが
日々安全に過ごせている事を歯がゆく思いまして…。
袁紹:そうであったか。
うむ、その案じる気持ち、わしにもよく分かる。
ところで、劉備殿に相談があるのだが。
劉備:何でございましょう?
袁紹:愛する息子の病も治り、野山の雪も消え始めた。
それゆえ、長年の願いであった南方攻略の軍をおこし、一挙に曹操
を討ち滅ぼそうと考えたのだが、家臣の田豊が反対しておってな。
今は守りを固め、内政を充実させ、曹操が破たんを起こすのを待つ
時だと申すのだ。
これについて、忌憚のない意見を聞かせてくれい。
劉備:なるほど…、確かに安全な考えかと思います。
しかし田豊殿は学者ゆえ、どうしても机上の論になりがちです。
わたくしならばそうしませぬ。
袁紹:ふうむ…では劉備殿ならば、どのような方策を取るか?
劉備:時は今であると存じます。
確かに曹操の軍は強力で、彼の用兵や謀略は侮りがたいものです。
しかし、ようやく彼も慢心し始め、朝廷から疎まれているとか。
それに陛下の舅であられる董承殿はじめ、数百人を皆殺しにした事
で、民の心も離れているに違いありません。
この機を逃せば、悔いを百年に残すと思います。
袁紹:ううむ、確かに言われてみると田豊は常に学識をひけらかし、
自分の財産を守る事に執着しているように見える。
今の地位に満足して余生を無事に過ごすことしか考えておらんから、
わしに保守的な意見を勧めるのかもしれんな。
劉備:そうでなければ、この絶好の機会を逃すような事を申し上げるはず
がございませぬ。
袁紹:いや、よく分かった!
劉備殿の意見、わしの考えとよく一致しておる。
ただちに軍を編成し、許昌へ攻め下ろうぞ!
劉備:ははっ、わたくしも日頃のご恩をお返しするため、力を惜しみませ
ぬ。
袁紹:うむ! よし、反対派を一喝してのち、早速軍議じゃ!
曹操め、目にものを見せてくれようぞ! はっはっはっは!!
劉備:……。
(これでいい。今、曹操に対抗できるのは袁紹しかいない。
何としてでも兵を出させねば…。
義弟たちの手がかりも何かつかめるとよいのだが…。)
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:袁紹は劉備の口車に乗せられ、即座に出兵を決意。
参謀の田豊は最後まで反対したが逆に袁紹の怒りを買い、投獄され
てしまう。
一方それより少し前、曹操は黎陽の地にて自身の右腕たる腹心の将
、夏侯惇と黄河の流れを見つめていた。
夏侯惇:孟徳、袁紹の奴が俺に恋文をよこして来おったぞ。
夏侯惇将軍をぜひとも我が軍にお招きしたい、だそうだ。
曹操:天下の将と軍師を躍起になって招聘しているのは知っていたが、
ついにお前にも来たか。
夏侯淵や曹洪、許チョにもすでに来ているぞ。
夏侯惇:チッ、袁紹め、無節操極まりないことこの上ない…。
? いま、曹仁の名が無かったようだが?
曹操:来ておらんそうだ。
理由は分からん。
夏侯惇:…まぁ、まだまだ粗削りな部分は確かにあるがな。
それにしても、反董卓連合軍に従軍以来、孟徳の手足となって
幾多の修羅場をくぐりぬけてきた我らだぞ。
今さら一枚の紙きれで寝返るとでも思っているのか。
袁紹も片目の俺以上に目が見えん奴だ。
曹操:ははは、お前にそうまで言われては、袁紹もかたなしだな。
夏侯惇:ふん、戯れ言が過ぎた。
それで孟徳、袁紹も今度ばかりは我らと雌雄を決するつもりだろ
う。
どう戦うつもりだ?
曹操:我が方は袁紹に比べて兵も少なく、兵糧物資も足らん。
唯一勝っている点は、機動力と知略だ。
それらを縦横に駆使し、まずは局地戦で勝利を重ねていかねばなら
ん。
夏侯惇:確かにな。
まともにぶつかっては、こちらに勝ち目は無い。
曹操:それと、袁紹軍内部には派閥がある。
沮授と田豊を中心とする一派と、審配や逢紀がまとめている派閥が
な。
夏侯惇:ああ、聞いた事がある。
かなり仲は悪いそうだな。
曹操:うむ、袁紹はあえて派閥同士を競わせて軍をまとめているようだが
…。
夏侯惇:…統率し切れているのか?
曹操:普段ならばそれで十分回る。
だが今は乱世、非常の時だ。
彼奴の優柔不断な性格からして、じきに制御しきれなくなってくる
だろう。
そこにつけ込めば、内部崩壊も狙える。
夏侯惇:相変わらず恐ろしい所へ目をつけるわ。
だが孟徳、お前にとってはそれが当たり前なのだろうな。
今や才ある者が多くお前の下に集まってきている。
才能に乏しい俺では、物足りんのではないか?
曹操:才能に乏しい?
バカなことを言うな、元譲。
知らんと思っているのか?
お前が余と仲の悪い家臣との間を取り持っている事を。
それに領国経営も見るべきものがある。
立派な才能があるではないか。
夏侯惇:さて、何のことだ?
曹操:ははは、こやつめ…。
夏侯惇:さて、そろそろ許昌へ引き上げましょう、我が君。
我が軍の軍師どもが、首を長くして帰りを待っている頃です。
曹操:…そうだな。
郭嘉など、「この一刻を争う事態にどちらへ赴かれていたのですか
!」などと言いそうだ。
夏侯惇:ははは、確かに。
あのそり返った姿勢が目に浮かびますな。
曹操:よしッ、帰るぞ!
はあッ!!
ナレ:いっぽう、袁紹は家臣の陳琳に命じて宣戦布告の檄文を書かせると
、居並ぶ配下の諸将に対し声高らかに出兵を宣言していた。
袁紹:長年続いた曹操との因縁に、この戦をもって終止符を打つ!!
陳琳、檄文の文面には曹操の許すべからざる罪十ヶ条を書き連ねよ!
各将は精鋭兵馬を率い、白馬の戦場へ集結するのだ!
顔良:我が君! このたびの戦いは曹操との雌雄を決する大きなものと
心得ます!
先鋒はぜひ、この顔良にお命じ下され!!
袁紹:よくぞ申した!
先鋒の大将は顔良とし、副将に淳于瓊と郭図を付ける!
進軍先の白馬・東郡は劉延が守っていると聞く。
速やかに白馬の城を攻め落とし、黄河を渡河するのだ!
顔良:お任せあれ!
袁紹:皆の働き、期待しているぞ!
名族たる我が袁家の名に恥じぬよう、堂々と戦うのだ!!
袁紹・ナレ以外全員:おうッ!!【SE代用可】
ナレ:続々と大軍が白馬の地に集まりつつあった。
それと同時に許昌の曹操の元にも、袁紹出兵を告げる早馬が駆け込
んでいた。
陳琳の書いた宣戦布告の檄文も共に。
張遼:司空閣下、ついに袁紹がみずから兵をあげたとか!
? 皆さま、いかがなされた?
荀攸:【声を抑えて】
しーーッ! 張遼殿、静かに!
郭嘉:【声を抑えて】
うう、こ、これは…なんという過激な文章であろうか…!
荀攸:【声を抑えて】
い、いや、過激などという言葉では片づけられません。
これほどのもの…今まで私は見たことがない…!
郭嘉:【声を抑えて】
確かに凄まじいばかりだ…が、同時に溢れる才能も感じさせる…。
荀攸:【声を抑えて】
だが…、これは司空閣下といえど激怒なさるだろう…。
書いた者の命は無いでしょうな。
郭嘉:【声を抑えて】
確かに…司空閣下の半生のみならず、閣下のお父君やご祖父君まで
をも愚弄している…!
曹操:~~~~ッッッ!!!
この檄文を記した者を、余の前に連れてこいッッ!!!
張遼:え、袁紹をでございますか!?
曹操:否、そうではないッ!
この檄文を読んでわからんのか!
美しき文言の配列と、それを声に出して読む際に奏でられる韻律、
音調!
そして余をこれ以上なく徹底的に批判する苛烈な文章、
その間に洒脱さを潜ませながらも、文章そのものの品格は少しも
貶められておらん!
お前たちもよく覚えておけ。
人間は言葉を学ぶ事は出来ても、深く理解しない者には決して使い
こなせんし、本当の意味で身に着かぬものなのだ!
張遼:は、はぁ…。
曹操:これほどの見事な文、よもや袁紹などの言葉ではあるまい。
この檄文を書いた者はいったい誰か。
郭嘉:は、はっ。
袁紹の家臣、陳琳と申す者です。
曹操:そうか…!
……うむ。
荀攸:(!これは…陳琳とやらの命運、決まったな…。)
郭嘉:ッそうだ張遼殿、袁紹軍が動き出したのだったな!
張遼:はッ、すでに白馬の地を目指して大軍が集結しつつある模様
です!
その数、およそ十万!
曹操:ついに来たるべき時がきたか。
急ぎ兵を集めよ!
荀攸:ははっ、直ちに!
関羽:司空殿、失礼いたす。
曹操:おお、関羽ではないか。
いかがした?
関羽:日頃のご恩に報いる為にも、それがしも此度の大戦に先鋒の一人と
して加えていただきとう存じます。
曹操:なに、そちが加わってくれると申すか…!
! い、いやいや何の、この程度の戦にそちの手を煩わせる事もあ
るまい。
関羽:しかし、袁紹みずからの出兵とあっては…。
曹操:はっはっは、袁紹のごとき、どうせ肝心な局面で持ち前の優柔不断
を発揮するに決まっておる!
そちにはまたの機会に働いてもらおう。
そう、もっと重大な戦の時にでもな!
関羽:は…承知つかまつった…。
では、これにて。
曹操:うむ。
【二拍】
いかんいかん、危うく従軍の許可を出すところであったわ…。
関羽には、余の手元に少しでも長くいてもらいたいからな…。
張遼:(…まるで恋する乙女のごときなさり方だ…。これほどまでな寵愛
を受けられるとは、うらやましいものよ…。)
では、司空閣下!
曹操:よし、出陣だ!
時代遅れの遺物に、我が軍の革新の息吹を見せてやれィ!
曹操・ナレ以外全員:おうッッ!!【SE代用可】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:曹操は即座に主力を集め、決戦の場へとおもむく。
その頃すでに河北の二枚看板として名を馳せている袁紹軍の先鋒、
猛将顔良率いる十万の精鋭が深く攻め込んで来ていた。
顔良:はっはァ! なんだこの軽い手ごたえは!
曹操の兵は軟弱で相手にならぬわ!!
進め進めェ!!
顔良・劉備役以外:【喚声…SE代用可】
劉備:袁紹殿、敵の先鋒軍はすでに黎陽まで進軍しているとか。
顔良殿の勇猛は大いに用いるべきですが、いささか思慮に欠ける面
があります。
あまり深入りさせてならぬかと。
袁紹:いやいや、こんなにも鮮やかに勝っているのだ。
あの獅子奮迅の働きを見せている顔良に退けと言うのか。
劉備:いえ、退けと申しているのではありませぬ。
深入りしすぎてはならぬと…
袁紹:むむ、ならば劉備殿に一軍を与えるゆえ、顔良の後方支援として
向かってくれ。
劉備:は…承知しました。
【二拍】
【つぶやくように】
(たしかに、今は勢いに乗るべきかもしれぬ。もしもの時は袁紹殿
の命令だとして止めれば良いか…。
だがなんだ、この不安と期待の入り混じった感情は…。)
袁紹:はっはっは、愉快愉快!
顔良よ、このまま敵を蹴散らしつつ許昌まで一気に突き進めィ!
ナレ:劉備を顔良の後方にすえ、袁紹軍は手を緩めることなく進撃してい
く。
一方、曹操も白馬にほど近い地点まで進軍を終えていた。
曹操:むう…思った以上に敵本隊の進軍速度が速い。
このままでは顔良の先鋒部隊と合流してしまうぞ。
郭嘉:顔良の背後に袁紹が控える形になると、打ち破るには多大な犠牲を
伴います。
荀攸:ここはなんとしても、顔良を叩いてしまわねばなりません。
曹操:うむ…荀攸、何か良き策はあるか?
荀攸:はっ、まずは于禁殿、楽進殿のお二人に兵を与えて袁紹軍本隊の
側面に展開、その動きを牽制させるのです。
郭嘉:なるほど、進軍速度を遅らせるわけですな。
それで少しでも時間を稼ぐと。
荀攸:そうです、郭嘉殿。
その間に白馬城の味方を救援するのです。
できれば顔良も討ちとれれば良いのですが…。
曹操:そこまでできれば最上の結果だがな。
まあよい、まずは一刻も早く敵本隊の牽制だ。
于禁! 楽進!
袁紹軍本隊の側面を突く様子を見せ、進軍速度を少しでも鈍らせる
のだ!
間違っても決戦は仕掛けてはならん。
その間に我が軍本隊は白馬城を救援、顔良を倒す!
よいな!!
曹操・ナレ以外全員:おうッ!!【SE代用可】
ナレ:曹操は荀攸の献策を用いて軍を二つに分けると、自身は急いで
白馬の地へ入ると西の山に沿って布陣、みずから指揮にあたった。
だがそこで彼が目にしたものは、敵将顔良の凄まじいばかりの猛勇
ぶりだった。
顔良:はッはァ!! そらそらァ!!
曹操軍兵士1:ひいぃ、助けてくれえ!
顔良:もっと歯ごたえのある奴はおらんのか! でぇいりゃぁ!
曹操軍兵士2:だ、ダメだ、かなうわけねえ!
顔良:曹操ォ、出てこォい!!
我が得物のサビにしてくれるわァ!!
曹操:ぬうう、これほどとはな…!
ええい、彼奴一人に何たるザマか!!
このままでは総崩れだ!
宋憲、宋憲はおるか!
宋憲:はっ、宋憲はこれに!
曹操:そちは以前、呂布に仕えていた猛将、八健将の一人であったな!
見よ、彼奴が河北第一の武勇を誇る顔良だ!
戦場を我がもの顔に暴れ回っておるのが見えるであろう!
宋憲:はっ、傍若無人なふるまい、しかと見えております!
曹操:そちの武勇で顔良をみごと討って参れ!
宋憲:おお、それがしにお命じ下さいますか! 喜んで!
はあッ!
【二拍】
待てィ、顔良!!
顔良:あぁ何だ!? 雑魚は引っ込んでいろォ!!
宋憲:もと呂布配下・八健将の宋憲と聞いても雑魚呼ばわりできるか!
顔良:ほお、あの呂布のか!
いいだろう、来いッ!
宋憲:この刃、みごと受けられるか!
うおおおお!
顔良:はッ、ごたくを並べてる暇があったら、死ねェェェィイ!!
宋憲:ぐげぇぁッ!!!
顔良:はっはァ! 何が八健将だ!
一合も交えること無く斬られていては、世話ないわ!
張遼:な、何だと…宋憲殿がたった一撃で…!
曹操:ぬううぅぅおのれェ、なんという武勇だ…!!
魏続:司空閣下! 宋憲はそれがしの友でございました。
それがしに仇を討たせて下され!
曹操:おお、魏続か!
よしッ、行けィ!!
魏続:ははっ、必ずや顔良の首を御前に!
はあっ!
【二拍】
止まれィ、顔良!
次はこの魏続が相手だ!
同じ八健将の我が友、宋憲の仇を討たせてもらうぞ!
顔良:ふん、雑魚がァ!
また八健将とやらか!
あの程度の腕で選ばれるとは、呂布の目もたかが知れてるなァ!
魏続:おのれ言わせておけばァ!!
でぃやぁッ!!
顔良:ほぉ、少しはできるな!
ぬぅんッ!
魏続:ッぐぅ! お、重い…!
ええいまだまだァ!
顔良:どうした、さっきまでの威勢はァ!
そらそらそらァ!!
魏続:ううっ、ぐッ、こ、これは…!
せ、せいぃッ!
顔良:なんだその槍さばきは!
駄目だ駄目だ! 話にならん!
おらあぁぁッッ!!
魏続:うぐはぁあッ!!!
曹操:バカな…魏続までああも簡単に…!!
張遼:むうう、何という武勇…!
一度、矛を交えてみたいが…!
ッ、徐晃殿!?
徐晃:ここはそれがしが参る!
はッ!
張遼:先を越されたか…だが、徐晃殿ならば…!
顔良:はっはァ! 曹操軍の将はこの程度の奴しかおらんのか!
軟弱雑魚にもほどがあるぞ!
徐晃:待てッ顔良!
今の言葉、聞き捨てならん!
次はこの徐晃が相手だ!
顔良:ふん、次から次へとォ!
貴様ごとき若造に、この俺が討てると思っているのか!
徐晃:若造と侮ったのを後悔させてくれる!
我が斧のサビになれ!
おおおおッ!
顔良:ッほぉ! なかなか重いな!
さっきの雑魚共と多少は違うか!
この顔良の前に立つ資格はあるようだな!
徐晃:言ったはずだ! 侮るなと!
はああッ!
顔良:ッ! だが、まだまだ甘い!
少し本気を出してやろう!
ぬぅぅおおおおッッ!!!
徐晃:ッぐぐ、急に重さが増した!?
だがッ! まだだァああ!!
顔良:はッ、血気にまかせて来るか!
扱いやすいわ!
ぬぅうんッ!!
徐晃:っぐぬぅ!
い、いなされただと…!?
力押しだけではないのか…!
ナレ:両雄は火花を散らして打ち合った。
五十、七十合と得物が砕けんばかりに激闘を繰り広げていたが、
勝負のつく様子は見えない。
しかし、顔良は戦えば戦うほど勢いを増し、反対に徐晃は次第に
疲れていった。
顔良:はっはァ! どうした、動きがだんだん鈍くなってきたぞ!
徐晃:ぐっ、ぐぐっ!
こ、こいつ、化け物か!?
まったく疲れる様子がないぞ…!
顔良:さあ遊びはそろそろ終わりだ!
そらそらそらァッッ!!!
徐晃:ぐっ、ぐぅぅぅッッッ!!!
く、くそっ、なんという猛勇と粘りだ…!!
後日再戦!
ッッッ!!
顔良:!ッとォ! どうした! ご自慢の大斧を投げ捨てて逃げるか!
笑ってやるぞ、はっはははは!!!
よォし、全軍突撃だ!
曹操を逃がすなァ!!
張遼:ッいかん、敵の総攻撃だ!
我が君、ここは撤退を!
しんがりはそれがしが務めます!
曹操:お、おのれ…徐晃をも退けるとはなんという奴だ…!
頼むぞ、張遼!
全軍、退却せよ!
ナレ:顔良の駆け抜けるところ、人も草木もみな血に染まった。
さすがの曹操軍の将兵も恐怖にかられ、総崩れとなってしまう。
曹操自身はかろうじて難を逃れたが、魏続、宋憲の二大将以下、
おびただしい損害と不名誉をこうむり、顔良一人の名を上げる結果
となってしまった。
曹操:く…兵どもはすっかり怯えている。
今日のような調子でやってこられては、戦う以前の問題になりかね
んぞ。
徐晃:司空閣下、申し訳ありませぬ…。
曹操:良い、そちが無事であったことがせめてもの慰めだ。
徐晃:は、ははぁっ、この雪辱は必ずや…!
曹操:さて、どうしたものか…。
張遼:司空閣下、顔良と互角に戦えるのは関羽殿しかおりますまい。
ここにお呼びになられては…。
曹操:それは考えていないわけではなかった。…だが、しかし…。
張遼:日頃、司空閣下が関羽殿にご恩をお掛け遊ばすのは、このような時
の為ではございませぬか?
曹操:うむ…。
張遼:関羽殿が顔良を討ったならば、前にもましてご恩をお掛け遊ばせば
良いではありませぬか。
仮に関羽殿が負けるような事があれば、それこそ思い切りがつくと
いうものです。
曹操:なるほど、そこまで惚れ込む人物ではないということか。
よし、わかった!
関羽をこれへ呼べ!
張遼:ははっ、直ちに早馬を出します!
曹操:顔良めは今日の勝利に味をしめて、必ず明日も突撃して来よう。
しっかり守りを固めるのだ!
曹操・ナレ役以外:おうッッ!!【SE代用可】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ナレ:曹操は決心すると、ただちに関羽を白馬の戦地へ呼び寄せる。
使者を迎えた関羽は時節到来と喜び、すぐに赤兎馬を駆って馳せ参
じた。
張遼:!あれは…関羽殿か!
これで戦局が変わるだろうか…。
関羽:さすがは赤兎馬、何という速さだ!
そこら辺の馬とは比べ物にならん…!
どぉうっ!
張遼殿、久しぶりでござる。
張遼:関羽殿、よく来て下さった。
すぐに司空閣下へお知らせするゆえ、しばし待たれよ。
【二拍】
申し上げます、司空閣下!
関羽殿がただいま着陣いたしました!
曹操:おお、来たか!
よし、迎えに出よう。
徐晃:!し、司空閣下みずから出迎えに…!
なんという破格の待遇…。
曹操:関羽、待っていたぞ!
関羽:これは司空殿。
わざわざこのような所まで出迎えられずとも…。
曹操:ははは、気にするな。
関羽:お召しの使いをうけたので、さっそくこの赤兎馬の俊足を試してき
ました。
曹操:うむ、来てもらったのは他でもない。
袁紹軍にしてやられてな。
敵先鋒の大将、顔良に散々な目にあっているのだ。
さあ、まずは共に来て戦況を見てほしい。
関羽:はっ。
【三拍】
おお、ここからなら双方の動きがよく見えますな。
曹操:うむ。
我が方が烏雲の陣、袁紹軍は正攻法の魚鱗の陣をしいている。
さすがは天下にもっとも近いと言われている強国だ。
装備も兵の質も段違いに優れている。
関羽:司空殿の目にはそう映りますか。
それがしの眼には、墓に並べて埋葬する犬や鶏の泥人形にしか見え
ませぬ。
曹操:いやいや、敵軍の士気の高さはこちらの比ではない。
人が虎、馬がまるで龍の如くだ。加えて敵軍の大将旗の鮮やかさが
見えるであろう。
関羽:はっはは、あのような虚勢に向かって金の弓矢をつがえて放つのは、
むしろもったいないほどですな。
曹操:そして…あれを見るがよい。
あの大将旗の下に馬を休めて我が方を睨みまわしている者こそ、
いま我が軍をもっとも悩ましている猛将、顔良だ。
まさに万夫不当と呼ぶにふさわしいではないか。
関羽:そうでしょうか。
顔良は背中に札を立てて、自分の首を売り物にしているように見え
ますな。
曹操:関羽よ、今日のそちはちと大言壮語が過ぎはしまいか?
いつもの謙虚な様子とはだいぶ違うようだが。
関羽:そのはずです。ここは戦場ですからな。
曹操:それにしても、あまりに敵を軽んじ過ぎてはおらぬか?
関羽:否。
決して大言を吐いているわけではないことを、今すぐお目にかけま
しょう。
曹操:! 顔良を討ち取ってくる、というのか!?
関羽:陣中に戯言なし、です。
では。
はあッ!!
ナレ:言うや否や、関羽は赤兎馬を駆り、青龍偃月刀を引っさげて山道を
下った。
希代の名駿は呂布以来の乗り手を得て一際大きく嘶く。
赤い突風が駆け抜けるかのような勢いそのままに、関羽は敵兵を
左右に薙ぎ始めていた。
関羽:退けィ、雑魚共!!
関羽雲長の道行きを阻んで命を無駄に捨てるなッッ!!
顔良:なんだ? 味方が急に浮足立った…!?
何が起きている!!
関羽:顔良! 顔良はどこだ!
この関雲長の前に恐れをなしたか!!
顔良:何ィ、劉備の義弟、関羽だとォ!?
はっはァ! おもしろい!
相手になってやるぞォ、はあッッ!!
関羽:いたな……一撃で決めてくれよう…!
汝が顔良かッ!!!
顔良:はっはァ! そうだ!
聞きしに勝る赤ら顔だな!!
…一撃で決まるな、こいつァ…!
関羽:覚悟ォォォォォォォォ!!!!!
顔良:でぇぇぇぇええええいいい!!!!
【金属が断ち割られるようなSEあれば】
ナレ:勝負は刹那の一瞬だった。
紅い電の如く駆けてきた赤兎馬、馬上から振り下ろした関羽の青龍
偃月刀。
異様な圧力、速さをまとったそれは、迎え撃とうとした顔良よりも
先にその頭上に落ちた。
凄まじい金属音と共に兜も鎧も真っ二つに断ち割られ、顔良の骸
は地上へ叩きつけられる。
その光景は、山の上から戦況を見守っていた曹操にも見えていた。
曹操:おお…あの顔良が、ただの一撃で関羽に討ち取られたぞ!
見ろ、敵は動揺しておる! この機を外すな!
張遼! 追撃の指揮はそちに任す!
張遼:はッ!
全軍、敵を掃討するぞ! それがしも出る!
はあっ!
【二拍】
!おお、関羽殿!
関羽:む、張遼殿か。
張遼:見事な武勇でござる。それがしも負けてはおれぬ。
では!
【二拍】
これよりこの張遼が指揮をとる!
敵のことごとくを黄河に追い込んで討ち落とせィ!!
張遼&荀攸役以外全員:おおーーッッ!!!【SE代用可】
荀攸:うむむ…さすがは張遼殿だ。
郭嘉:関羽は一個の武を見せつけましたが、張遼殿は集団の、
軍の武を示しておられる!
荀攸:あの呂布のもとで騎兵を率いていただけはありますな!
郭嘉:今や無くてはならぬ、我が軍の武の要と申せましょう!
曹操:うむ! 郭嘉の申す通りよ!
張遼:さあ弓隊! 前へ出ろ!!
ある限りの矢を放ち、この白馬の渡しを屍で埋めつくせィ!
放てェーーーーーッッ!!
【弓を大量に射るSEあれば】
劉備:い、いかん!
曹操軍の追撃か!
張遼:さあ射よ! もっと射よッ! 一兵たりとて逃がすなッ!!
【弓を大量に射るSEあれば】
【大きく息をつく】
あの呂布軍の騎馬隊を率いてきたこの張遼が、
今日初めて率いるこの軍の戦いぶりに酔うとはな…
武人としての性…心も奮い立とうというものだ。
劉備:顔良殿が討たれては軍を維持できん!
退け! 袁紹殿の本隊へ合流するのだ!
ナレ:顔良軍の後方にいた劉備は、急いで部隊をまとめて撤退する。
しかし、逃げ遅れた兵達はすべて黄河の畔で矢の雨に倒れる。
流れる血で河は紅く染まり、数多の死骸は袁紹軍の船の渡河を
阻む。
その頃、関羽は顔良の首を引っさげ、曹操の元へと戻っていた。
関羽:司空殿、ただ今戻りました。
…顔良の首でござる。
曹操:うむ!! 関羽よ、見事だ!
あの顔良をただの一撃で…そちの武勇はまさに、神威というべきも
のだ!
関羽:いや、それがしの義弟張飛ならば、大軍の中へ突撃して敵将の首を
取ってくる事など、木に登って桃を取るより易しいことでしょう。
顔良の首など、袋の中の物を取り出すようなものです。
曹操:むう、そ、そうか。
お前達もよく覚えておけ。張飛という名を帯の端、襟の裏にでも
書いておいて、もし出会った時は軽々しく戦わぬことだ。
よいな。
ナレ:曹操は半分冗談混じりに左右の者に忠告した。
しかし後年、実際に張飛の凄まじさを目の当たりにすることになる
とは、さすがの彼でも予想はできなかった。
顔良を撃破後、曹操軍は当初の作戦通りに白馬から撤退、延津へ陣
を移し、引き続き局地戦を袁紹軍に強いていく。
兵数に劣り、物資は足らず、人材の質のみわずかに袁紹を上回る
曹操。
彼が勝つ為には、奇策戦略を縦横に駆使するほかなかったのである
。
三国志演義・延津の戦い~河北双星落【後編】~へ続く
袁紹軍の看板をしょって立つほどの猛将なのに、なぜか文醜と同様、字が伝わっていない不思議。
そんな顔良の見せ場にして最期の戦場となる白馬の戦いを書きました。
本当は延津の戦いと一本にしようかとも思いましたが、文醜とは分けて書こうと考えたのであえて前後編に分けました。