プロローグ
このプロローグを書いているのは、訳あって、この物語の主人公ではない。この物語の主人公である彼女は今、これを書いている俺の隣で昏睡している。目が覚めるかどうかは――正直わからない。二度と目覚めない可能性も否めない。
こうなってしまったのは、全て俺の所為だ。俺がああなることを未然に防ぐことができなかったから。予期することができなかったから。いや、今さっきに限ったことではない。最初からだ。俺は自惚れていた。自分なら困っている人の一人や二人、片手間で助けられると思って、本来やるべき仕事があったにも関わらず、中途半端で傲慢な正義感から彼女に手を差し伸べてしまったからだ。
その結果が、これだ。呆れる。
自分に猫を飼い育てる力がないのならば、捨て猫を拾って帰ってはいけないのと同じように、助けて、その先も面倒を見続けることができないのならば、人に手を差し伸べてはいけない。それができないのに中途半端に手を差し伸べることは、その人をより不幸へと招きかねない。言ってしまえば、罪だ。
やるならば、そう。――最後の瞬間までともにする覚悟を持たなければいけない。
彼女がこうなった全責任は、この事態を招いた張本人である俺にある。故に、俺はここに誓う――今からでも遅くはないと、そう信じて。
彼女の目が覚めたら、彼女が何者になっていようと彼女のそばに居続けることを。
そして彼女が我を失い、何者でもなくなってしまったその時は、責任を持って――始末することを。
おや。そうしているうちに、彼女に動きがあった。うーんと苦しそうに唸って身動ぎしている。
見下ろす街の奥、藍色の空が、地平線からうっすらと白色を帯び始め、飛び回る鳥たちが仲良さげに歌を歌い出した。長かったこの一夜も終わりに近づき、新しい朝が始まろうとしている。
ようやく、目が覚めるようだ。